山寺で肝試しを‥‥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜07月30日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

「山寺で場所を借りてちょくちょく肝試しをするんですよ」
 部屋の日陰でも蒸し暑いお昼時、ぱたぱたと扇子を使って涼みながら、ふくよかな商人はそう切り出しました。
「えぇもう、実際には手前共が用意する肝試しなんて大したことはありません。最初にやる百物語だって、そんなに怖い話を知っちゃいませんから、毎回頑張って話を仕入れて十かそこら、肝心の肝試しだって、逃げずに来たって証拠の印を結わえる祟り岩も、実際には何のいわれもないただの岩を使っています。まぁ、仲間内での楽しみと言ったところでしょうか」
 そう言って、出された熱いお茶を啜りながら商人は溜息をつきます。
「友人知人と楽しむ物ですから、それになりに費用がかかろうと気にしていませんでしたし、今回はちょっと趣向を変えて、人を雇って途中で驚かせようと‥‥」
 そう言ってから、またも深々と溜息をついて顔を上げます。
「いえ、脅かす役をやって貰いたいんじゃなく‥‥あぁ、いえ、その役も必要になってしまったのですが。雇った人たちが誰かは知りませんが、怪我をさせられまして。どうやら山寺のすぐ近くにある廃屋に居着いた者が居るらしくて、その日人達に怪我をさせられてしまったんですよ。その時の予定は中止になりまして、日を改めて、再び肝試しをしたいのですが‥‥」
 どうやら、脅かす役の人が何もしていないのに『うろちょろするな、目障りだ』と斬りつけられたらしいのです。その廃屋は、山寺の敷地内に有るもので、寺の方でも使う許可を与えた覚えはないそうです。
「商売上の疲れを忘れて楽しむ、数少ない手前の娯楽なんです。安心して楽しめるように、その人達を追い払って貰えないでしょうか? そしてその‥‥もし宜しかったら、お化け役なども‥‥」
 お茶を飲み終わり卓へと湯飲みを置くと、商人は伺うようにそう聞くのでした。

●今回の参加者

 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1318 屠 遠(25歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3187 山田 菊之助(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3663 ミヅキ・ユウナギ(34歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4445 鴨乃 鞠絵(21歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4763 ユウキ・タカムラ(40歳・♂・ウィザード・ドワーフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●強制排除
 目的の廃屋は鬱蒼と茂った木々の中に埋もれるように、細い山道の側に立っていました。蒸し暑い中で、山の中は切り離された空間のように、ひんやりと涼しく、木漏れ日の差す以外は、薄暗い様子です。
 鴨乃鞠絵(ea4445)、美芳野ひなた(ea1856)、屠遠(ea1318)の3名は、連れだって廃屋へと近づいていきます。ひなたは先ほどから鞠絵の着物の袖を掴みながら辺りを見渡していて、平静を装いながらもびくついているのは誰の目から見ても明かです。
 既に仲間達はそれぞれの配置についていて、廃屋の見張りを誘き出す為、囮役の彼女達は、廃屋の側までやってくると鞠絵が泣き真似をし始めました。
「うっ‥‥ひっく‥‥ひっく‥‥」
 迫真の演技といえますが、むしろその様子はまるで肝試しを受けているかのような不気味さで、一緒にいるひなたのほうが、本気で泣きそうな顔をして鞠絵を見て、言葉の通じない遠へと目を移します。
「ぅー‥‥ぁ、ぁ‥‥」
「ううううっ!?」
 遠が見せる怪しい様子にびくっとするひなた。その声を聞きつけて、廃屋側にいた2人の男が様子を見に近づいてきます。
「何だっ!? 今の声はっ!?」
「なんだこの餓鬼共は‥‥」
「‥‥ぐすっ‥‥兄上はどこじゃ‥‥私の兄上を探してたも‥‥」
 泣き真似を続けながら鞠絵が男達の様子を盗み見ます。彼らは鞠絵の風下にいて、徐々に近づいてきます。
 その隙に山田菊之助(ea3187)と風御凪(ea3546)がミヅキ・ユウナギ(ea3663)を伴って廃屋へ近づき、凪がブレスセンサーを使って中の様子を窺い、それを伝えます。
「思った以上にいるようですね」
 人数を聞いた菊之助がそう僅かに眉を顰めます。と、その時、絞め殺される鶏のような声が響き渡りました。
 ほんの少しだけ、前のことです。囮の娘達の方に話は戻ります。
「構わなねぇ、近づいたこいつらが悪ぃんだ、さっさと始末しろ」
 そう言いながら刀を抜く男。鞠絵はすっと手を男達に翳しますと、ほのかに甘く香りが男を襲い、その場に昏倒させます。
「えうっ、グスっ‥‥ごお、ちゃっぴい!」
 それに耐えきった様子の1人の男に、べそをかきながらひなたは大蝦蟇を呼び出してけしかけます。絞め殺されるかのような叫びと共に、蝦蟇に踏みつけられ悶絶する男。
「な、何だっ!? お前ら、見てこいっ!!」
 慌ただしくなる廃屋内。飛び出してくる男達に見つからないように、思わずびったりと廃屋の壁に張り付いて息を潜める菊之助達。男達は彼らに気がつかず、バタバタと囮の方へと向かうのを見送り、改めて中を窺うと、5人がまだ残っているのが分かります。
 意を決して中へと飛び込む3人。
「御用検めである! 手向かい致さば切り捨てる!」
 そう勇ましく言いながら飛び込んだ菊之助は、慌てて向こうとした男の1人の死角へと回り込んで後ろからダガーで急所をつきます。その横で凪が手近の男を力一杯振り下ろした刀で斬り伏せます。ミヅキは残る男の1人にウォーターボムを撃ち込み、吹き飛ばします。
「ち、ちいっ!」
 舌打ちをしながら隙を見て外へと逃げ出す2人。と、短い悲鳴が上がり、続けて何かが倒れこむ音が聞こえてきます。
「全く、あたい待ちくたびれちゃったよ」
 外に出てみると、そこには足を押さえて悶絶する男と、簡単に斬り伏せられ苦しそうに呻く男を足元に転がし、あっけらかんと道の真ん中で言う御藤美衣(ea1151)の姿がありました。
 囮の娘達は、バラバラと出てくる男達を前に上手く逃げながらとある地点へと誘い込んでいきます。そこに仁王立ちしていたのは、ユウキ・タカムラ(ea4763)です。
「あ、ユウキさんっ、お願いします〜」
 泣きながら言うひなたに、重々しい様子で頷くユウキ。
「任務了解、ターゲットロックオン。‥‥超重力加農発射である!!」
 一直線に放たれる衝撃波に、バタバタとなぎ払われる男達。ズカズカ近づいて、男の1人の腕を掴むユウキ。その男の目は物語っています。『もう勘弁してくれ』と。どうやら、掴まれた男は、大蝦蟇に踏まれた上に衝撃波を叩き付けられたようです。
 倒れた男達をしばいて、囮組が廃屋へと戻ると、そこには地獄絵図が展開されていました。どこか優しげな微笑みを浮かべながら、怪我をした男達を擽り続ける菊之助と、それで苦しげに呻く男を、凪が手当を施して、そして再び喋るまで擽り続けるという、それはそれは恐ろしい光景でした。

●肝試し
 夜も更けてきた頃、山寺の一室には依頼人とその仲間の商人が5人ほど、幾つもの蝋燭に火を点けて丸くなって座っていました。その中に混じって、菊之助と鞠絵の姿が見えます。
「‥‥そうして、振り返り足元を見ると‥‥」
 だいぶ蝋燭も数が減り、白装束に薄化粧をした菊之助が、蝋燭の揺らめく灯りに照らされて声を途切れさせるのに、商人達がごくっと息を呑みます。にたぁっと笑ってすっと手を蝋燭へと伸ばします。
「‥‥くいっと裾を引っ張る、血まみれの子供の手が‥‥」
 そう言って、パチンと芯を弾いて火を消す菊之助。部屋が一段と暗くなって行きます。鞠絵もくすくす笑いながら、怖い話を話していきますが、その様子から商人達の表情が、恐怖で引きつっていきます。
 いよいよ残りの蝋燭が3本ほどに減ったとき、そっと菊之助と鞠絵は百物語の輪から抜け出して各々の配置へと着きます。
 最初の2人がやって来ます。
 がさがさと足音を立てて歩く商人の後ろを、ひたひた、ひたひた、とついて回る者が居ます。顔が引きつる商人は、怖くて振り返れない様子です。引きつった笑顔を浮かべて、1人が意を決して振り返ると、そこには白い死に装束の少女がにぃっと笑っています。遠は眼帯を外して、灰色の右目を見せつつそこに立っています。
 絶叫をしながら駆け出す商人達。1人は怖くて振り向けないまま、先へと進んでいきます。少し進むと、廃屋の側へとやって来た2人は、鞠絵がにっこりと笑って廃屋の陰から手招きしているのに気がつきます。
「あぁ、さっきのお嬢ちゃん‥‥」
 そう言いながら近づく男達。暫くついて回っていると、ふと、鞠絵の姿が見えなくなります。暫く辺りを探していた2人でしたが、やがて真っ青な顔で慌てて山寺へと引き返していきました。
 逃げ帰った者に替わり、2番目の2人の男がやってきます。そうっと濡れた手拭いを紐でつってぺたりと片方の男に首筋に当てるのに、声にならない悲鳴が上がります。その様子を見た相方が、恐る恐る見渡すと、少し先に、ぶらぶらと揺れている灯りがあるのに気がついて、相手を促し近づいていきます。
 そこに有ったのは火の玉でした。
 ゆらゆらと怪しく揺れる火の玉に、息が止まらんばかりに驚いた2人は、一目散に先へと駆けだしていきます。火の玉をぶら下げながら、にんまりと笑って美衣は見送りました。
 順路にある池の近くへと必死で逃げてきた2人がやってくると、そこには、しゃがみ込んですすり泣きをするミヅキの姿が。
「き、君‥‥?」
 恐る恐る声をかける商人。その言葉にすうっと立ち上がり、池へ向かい、そのまま水面を歩いていくミヅキに、口をぱくぱくさせながら見る2人。ミヅキが先ほどまでいたところには、水溜まりが出来ていて、みるみる商人達の顔から血の気が引いていきます。
 声にならない悲鳴を上げて走り去る様子に、ミヅキはクスと笑いました。
 3組目の2人がやって来たとき、そこには半べそをかいたひなたが居ました。
「ど、どうしたんだい? 迷子か? その、肝試しに祟り石まで行くので構わないなら、連れて行ってあげようか?」
 片方の男が聞く言葉に頷くと、ひなたは男の着物をぎっちりと掴みながら、男達と一緒に順路を回ります。ふと、例の廃屋が見えてきました。ここに置かれているはずの印であるお守りを取りにそうっと中を覗く3人組。お守りがぼうっと提灯の灯りに照らされているのに、ほっとした様子で歩み寄って手に取ると、ふとひなたは、ずるっずるっと言う小さな引きずるような音に気がつきます。視線を上げた先には、赤黒い包帯を全身に巻いた凪が、這って近づく姿が。
「たぁすけて、くれぇ‥‥」
「!!!!!」
 ひなたが固まっているのに気がつき、消え入りそうな、恨めしげな声のする方に目を向けた男達はひなたの手を引いて、一目散に廃屋を後にします。
しっかりとお守りを握りしめながら走り続けると、ふと、背後に気配を感じました。なにやら付け回されている様子です。ひなたと2人の男は、互いにそれを気にしながらも、なかなか振り返ることが出来ません。
 意を決した様子で1人の男が振り返るのに、釣られてひなたともう1人の男も振り返ります。
 振り返ると、褌一丁で無言で花を銜えて立っているユウキの姿が、ぼんやりと灯りに照らされて浮かび上がりました。

●さあ宴会だ
 肝試しが終わって、和やかな雰囲気で宴席が設けられました。
 最後の一組が、ユウキの強烈さに目を回して、お化け役の一行に回収されて、肝試しは終わったようです。今回は、祟り石まで辿り着いた組は出ませんでした。依頼人は大満足です。
「いやぁ、生きた心地がしなかったですよ〜あの、這い寄る様子とか。最後が一番怖かったですけどね」
 そう笑いながら、最後の組の男がぐいのみを空けて笑います。菊之助や凪からその話を聞いて遠が頷いたりしている横で、ひなたがぐじゅぐじゅと泣いています。
「‥‥ふんどし、後でお洗濯しなきゃ‥‥」
 廃屋の屋根に小さな旗を取り付けようとしたのも 見つかって来られたひなたには、踏んだり蹴ったりだったようです。
「いやぁ、今回は大成功でしたな。また機会が有れば、宜しくお願いします」
 上機嫌で依頼人はそう言い、一行に酒や食事を振る舞います。
 肝試しの夜は、最後は賑やかな宴席で幕を閉じるのでした。