比良屋の一大事

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:02月24日〜03月01日

リプレイ公開日:2006年03月04日

●オープニング

「ええと、その、ちょっと大変なことになっておりまして‥‥」
 そう言うのはふっくらとしのんびりな風貌をした薬種問屋・比良屋の主人。
 それは徐々に暖かくなりつつあるある朝のことでした。
「おや、今日は荘吉君はいないのですか?」
「それなんですが、実は荘吉は少々質の悪い風邪を引いて休んでいるんですが、その、少々忙しい上に荘吉が寝込んでいますので、子供達へと手が回らなく‥‥」
 そう言って、この寒いのに額に浮かぶ汗を拭う商人、どうやら急いでギルドへとやって来たようで、まだ息が上がっているのが窺えます。
 丁稚の少年が1人寝込んだだけで手が回らなくなる御店というのも色々と問題ですが、比良屋が近頃頼りにしている荘吉とは違った意味合いで、引き取った大火で身寄りを亡くした元武家の幼い子供達を可愛がっているのは比較的有名な話です。
「あらら、お雪ちゃん達元気ですか?」
「荘吉が、移ってはいけないからと入れてくれないと拗ねて泣いています」
 特に幼いお雪はみんなを笑顔にさせるような、少し人見知りではありますが人懐っこくもある、御店中からもお得意様からも可愛がられる女の子。
「あー‥‥‥なんだかお兄さんの清之輔やら貴方がおろおろされているのが容易に想像できます‥‥」
 苦笑しながら言う受付の青年は、寝込んでいる荘吉が熱でくらくらしながら頭を抱えている様を思い浮かべているよう。
「で、出来れば荘吉に精のつく物を食べさせてやりたいですし、子供達の面倒も見て貰いたいですし‥‥今の時期なら鰤・河豚・真鯛から始まって、手に入るものなら用意しましょう!」
「え、えっと、比良屋さん?」
「とにかく、頼みましたよ? では、御店に戻らないと‥‥」
 いそいそと帰っていく商人を見送り、頬を掻く受付の青年。
「えーっと‥‥荘吉君がいないと、暴走しやすいのか? あの人‥‥」
 見送りながら、渡された報酬を見やりつつ、受付の青年は依頼を纏めるのでした。

●今回の参加者

 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2722 琴宮 茜(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb0985 ギーヴ・リュース(39歳・♂・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4542 クロウ・ディメルタス(48歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イスパニア王国)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009)/ 田原 右之助(ea6144)/ ラーフ・レムレス(eb0371)/ 秋沢 信乃(eb3982)/ フォウ・リュース(eb3986)/ 東郷 多紀(eb4481

●リプレイ本文

●まずはしっかり栄養を
「葱を暖めたものを手拭で包んだものだ、首に巻くと良い」
 言って差し出す風斬乱(ea7394)に、手拭いで口元を押さえてごほごほと咳き込んでから、荘吉は声がしっかり出ないのか頭を下げて受け取ります。
 部屋は火鉢にラーフ・レムレスが炭を沢山用意しておいたため程良く暖まり、来たとき程ずっしりと重い布団で寝る必要もなくなった荘吉はだいぶ楽になったよう。
「この国では、風邪の人にオカユってのを出すんだってね! 僕も作ってみたんだ」
 レイジュ・カザミ(ea0448)が七輪と膳を手に入ってくると、沖鷹又三郎(ea5927)も後から小振りな鍋が2つ乗った盆を手に入って襖を閉めます。
「芹は解熱効果があるからね。あ、大丈夫、僕は葉っぱ男だけど、その葉っぱじゃないよ? あとそれから生姜湯も作ったんだ」
「他にもうどんなども消化に良く暖まるでござるし、辛くなければ作るので少しずつ食べるでござるよ」
 膳には取り分ける小鉢と木匙、そして鍋の片方には梅干しと細かく刻まれた葱が入った粥に卵が落とされており、もう片方は芹の入ったあっさりとした味付けのレイジュの粥、七輪は少しでも食欲がわいたときに暖めて食べられるようにとの配慮のようです。
「‥‥ぅ、‥‥みませ‥‥」
「何、困った時はお互い様だ、気にするな」
 済みません、と言いかけたようで声が出ずに先程受け取った手拭い越しに喉へと手を当てて顔をしかめる荘吉に、無理をしなくて良いと言いながら身体を起こすのに手を貸す風斬。
 喉が痛いらしく少しずつではありますが小鉢に盛って貰った分を美味しいらしく黙々と食べる荘吉を見てほっと安心したように子供達の世話に戻るレイジュと、沖鷹は改めて食事の支度へと戻っていきます。
「お前が元気がないと、上も下も困るらしい。困ったものだな」
 苦笑混じりにいう風斬は、廊下へ面した襖を少し開けたままにして言うと、微かに聞こえてくる子供達の声に、荘吉も少しほっとしたような表情で布団へと潜るのでした。

●子供達のお相手
「‥‥」
 どこか恨めしげな表情で補助に来ていた東郷 多紀を見るのはクロウ・ディメルタス(eb4542)。
 無言のままにそこに立つクロウにはよじよじとよじ登る清之輔と、クロウの髪を赤い可愛らしい紐で束ねて結んで気に入って貰えたかとどきどきした様子で見上げているお雪の姿があります。
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥ふぇ‥‥」
 無言で返すクロウにじっと目を向けていたお雪ですが、反応がないことにじわっと目に涙を浮かべ、そこへやって来た九紋竜桃化(ea8553)がひょいとだっこして撫で撫で。
「泣かなくても良いのですわ、とても上手に出来てますもの」
 涙目で見上げるお雪ににっこりと笑う桃化、縁側でそんな風にしていると、部屋へと包みを背負って現れるのはレヴィン・グリーン(eb0939)、そしてギーヴ・リュース(eb0985)もついで顔を出します。
「きぐるみのおじちゃん‥‥」
「出来ればお兄さんにしていただきたいのですが‥‥お雪さんも清之輔君もお風邪をひいては大変ですからお好きなのを着られては?」
「ん‥‥僕、犬が良い‥‥かな‥‥」
 クロウの上から廊下へととんと飛び降りて言う清之輔は少し恥ずかしそうですが、既にねずみーを着てもふもふしているレヴィンに行って受け取ると、お雪はきらきらとした目できぐるみを見ています。
「お雪殿は猫がお好みと見た‥‥宜しければこのギーヴめがお手伝いしよう」
 視線の先を判断してギーヴがまるごと猫かぶりを手にすると、軽く首を傾げて受け取ってにこりと笑うお雪。
「お雪殿も大きくなればさぞや美しき女性になることだろう‥‥」
「そうですわ、来る途中に見かけたのですけれど、外には梅が美しく咲いている場所もございましたし、少し出てみません?」
 桃化が言えばぞろぞろ連れ立ち梅見へと出かけるのでした。
「この国は冬はとても天気がいいんだね。イギリスは、すぐ天気が変わるから」
 まるごとウサギさんを身に付けたレイジュが弁当を手に合流し、てくてく歩けば見えてくる花盛りの神社に吸い込まれそうなほどの青い空。
 風は冷たいですがきぐるみを着てぬくぬくとしながら行くの一行は、間違いなく目立ってはいますが暖かく楽しそうに見えていることでしょう。
「わ、ねずみさんがふたりになったの」
 レヴィンが木の陰に隠れると、御店から持ってきた灰で鼠姿の自分の人形を作り出すとぱちぱち手を叩いて喜ぶお雪。
 ギーヴも気持ちをもり立てるような明るい曲を奏でます。
「ね、ジャパンの遊びを僕に教えて」
「かくれんぼとか鬼ごっこ‥‥かな、草履けんじょで鬼を決めるんです」
 等と清之輔に説明を受けるも靴を脱ぐのが大変な者もいるためか結局じゃんけんとなり、かくれんぼを始める一行。
「‥‥おっきなおじさん、みつけたの‥‥」
 境内にある小さな社の後ろに回って隠れていたクロウですが、どうにも屈んでも陰に隠れても必ずどこかが見えているようで、鬼となったお雪がちょんちょんと突いて首を傾げます。
「‥‥」
 数度繰り返し、必ず別の人間を見つけてもすぐに鬼へと戻るクロウ、そこへギーヴが何かを思いついたかゴースト変装セット一式ですっぽりとシーツを被ると鬼を申し出るのですが‥‥。
 物珍しさか側でじっと見上げてくる兄妹に対応に困るギーヴ、そしてお弁当を食べましょうと桃化が言うと、一行は日当たりの良い草の上に布を敷いて沖鷹とレイジュが作ったお弁当を美味しく頂くのでした。

●楽しい準備
「あとは‥‥こちらのお魚ですね」
 そう言うと琴宮茜(ea2722)小さな桶にぎっしり入れられた魚を受け取り、大きな水の張った桶へと移します。
 丁度旬のお魚を運んで来て貰ったところで、沖鷹とレイジュは中を覗き込みます。
 あれから数日、大分荘吉も持ち直してきたようで、鶏肉で作ったおうどんも今朝方はぺろりと平らげて、後は熱がもう少しだけ下がり、咳き込んで少し痛みの残る喉が収まればすっかりと元通りと、診察に来たお医者さんも太鼓判、なので夕食はみんなで一緒に食べよう、ということになったのです。
「さて‥‥こちらも取りかかるでござるか」
 そう言って襷を掛け包丁を握る沖鷹、見れば既に鮟鱇は鉤に吊され捌かれるのを待つのみとなっています。
「こっちの魚は? えっと、ふぐ、だっけ?」
 ひょいとレイジュが河豚の尾を盛って持ち上げれば、茜が慌てたように手から河豚を取って桶に戻します。
『これはジャパンにしかいない魚で猛毒をもっていて捌き方を知ってる人ではないと捌けない物なのです』
「あぁ、いやわざわざイギリス語で言わなくても‥‥猛毒かぁ」
 言われてしげしげと桶を覗き込めば、妙に愛嬌有る姿に小さく笑い、レイジュは海老を漁師から預かってきたおじさんに気が付いてそれを受け取りに行くのでした。
「海老や烏賊は天麩羅や和え物が良うござるな」
「和え物‥‥たとえば?」
「大根をそちらの、それですり下ろして味付けをして‥‥それで、海老の皮を剥いて‥‥先程味を調えたものと和えれば‥‥」
 鮟鱇を捌いて下拵えをしている沖鷹にちびちびと聞きながら海老や烏賊を調理するレイジュは、なるほど、とばかりに頷きます。
「ジャパンの料理は健康的な物が多いね。イギリスでもこういうさっぱりした料理を出せばいいかもしれない」
 烏賊の皮を剥いで細く切ったりと楽しそうにする横では、琴宮が御飯を炊き始めています。
「鍋の方はもう少ししたら煮込むでござるよ。後は鯛と河豚でござるな」
 手際よく日本の料理を作り上げていく沖鷹に、レイジュは興味深そうに見つめているのでした。

●みんな揃って晩ご飯
「いや、もうすぐ床から離れられるとは、目出度い、本当に目出度いですねぇ」
 ここ数日激務だったようで心なしか痩せたような気がしなくもない商人が、しっかりと着込んでもこもこしながら顔を出した荘吉に言うと、おずおずといった様子でお雪と清之輔も近付いてはほっとした旨を伝えます。
「さて、みんな揃ったことですし、頂きましょう?」
 桃化が言えばすぐに運び込まれる料理の数々、暖かい室内に鍋の蓋が開けられればほこほこと白い湯気が上がり、鍋は鮟鱇と河豚が中心に、たっぷりの野菜が煮込まれています。
「‥‥このお皿、綺麗なの‥‥」
「どれどれ? ほう、これは魚? 花びらみたいに薄く切ってあるな」
 お雪に釣られるように河豚の刺身に目を細めるギーヴ、そして、既に日も暮れ、昼間子供達に振りまわされていたときよりもきびきびした動きで良く焼かれた鶏肉を皿に取って貰うクロウ。
「‥‥これは何ですか?」
「海老と烏賊を僕の国で食べる味付けにしてみたんだけど。あ、熱いから気を付けてね」
 見れば皿に盛られているのはこんがりと焼かれたパイ生地、中は海老と烏賊、それにチーズが包まれていてほくほくと暖かそうに湯気を立てています。
「不思議な味わいですね、美味しいです」
「あらあら、お口に粉がついてますわ」
 一口食べて気に入ったのかもぐもぐと食べる清之輔に笑いながら膝に手拭いを引いてやる桃化。
「わ‥‥凄いですね、胆がたっぷり入っていて」
 そして取り分けられたお皿を見て鮟鱇鍋に目を細めてはふはふ食べる荘吉。
「早くしっかりと直して坊主達を安心させてやらないとな」
 鍋を魚に酒を飲んでいた風斬は、そんな荘吉の様子にぽんと軽く頭を撫でるとゆっくりと杯に残った酒を飲み干します。
「そうだ、お雪殿、レイジュ殿に教わってこの様なものを作ってみたでござるが‥‥」
 そう言って見せられるのは蜜柑を甘く煮たものが載せられたパイとビスケットの一種。
「甘くて美味しいの‥‥」
 ほわっと幸せそうに微笑むお雪。
 久々に人の揃った夕食は、こうして賑やかに続くのでした。