【凶賊盗賊改方】寝取られ熊八
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:02月28日〜03月05日
リプレイ公開日:2006年03月10日
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●オープニング
「自慢ではないが私はあまり腕が立たなくてなぁ」
悪びれる様子も無く笑いながら言うのは、凶賊盗賊改方の同心、木下忠次。
凶賊盗賊改方とは、相次ぐ凶悪な事件への対策として月替わりで事件を担当する町方と違い、継続して探索を続ける昨年後期に発足された盗賊追捕を主目的とした組織です。
旗本・長谷川平蔵と配下の御先手組からなる盗賊・凶賊に対する特殊な組織で、このご時勢、改方の長谷川平蔵以下、事務方勘定方も含めても継続して捜査を続けるには‥‥とのことで、冒険者の手を借りることが有ります。
中には昵懇にしていたり、密偵となっている冒険者もいるとの噂。
それはさておき、大抵の同心たちは腕に心得がある、算術、帳面に優れているなどといったものがありますが、この忠次、どうにもなかなか剣をやっても上達は遅く、酒と白粉の匂いを嗅ぎにいく事が大好きな独身男です。
唯一秀でていることといえば、何故か周りに憎まれない、愛嬌たっぷりなことぐらいでしょうか、改方で忠次のことを嫌っているものはいないそう。
「でだ、最近物騒だからと役宅に詰めているか長屋でおとなしくしているか、厳しい伊勢さんと二人で見回っているかのどれかで、いい加減息が詰まってなぁ」
のんきに言う忠次、浪人姿で門番にごねて出かけ、馴染みの酒場で良い心持で飲んでいたところ、『あいつら纏めてぶち殺してやる』などという物騒な呟きに目を瞬かせて見ていると、これまた馴染みで顔見知りの大工、熊八が暗い顔して酒を呷っているのに気が付いたそう。
「悪い奴ではないのだが、私と違って口下手で要領が悪い男でなぁ」
もっと飲ませて聞いたところ、どうやら女房が浮気をしていて、問い詰めようとしても口下手で上手くいかないそう、挙句に女房にしらをきられて自棄になって酒を飲んでいた、と。
「熊八の女房の器量良しは前から聞いていたから、こいつはどんなのがと思って、熊八を宥めてこっそり窺うとこれがびっくり、密偵の口述で作られた、人相書きの男がいるじゃないか」
流れ勤めで腕っ節だけならば熊八は負けないでしょうが、潜った修羅場が多いと噂のその男、当然忠次では話にならないどころか。
「膾切りにされて川へと投げ込まれてしまうだろうが、見てしまったものは仕方が無い、かといって、こっそり呑みに出ていることが知られてもこれまた面白くない」
そういって頬を掻く忠次、にまっと笑って受付の青年を見ます。
「つまり、一人歩きでは無理でも、冒険者と一緒ならば同心仲間と出ないで済むし、腕が立つ人がいれば捕らえられるし、一石二鳥と?」
「分かっているではないか♪ 捕らえれば褒美も出るし、それで報酬の元も取れる、な、頼む」
このとおり、と手を合わせて笑う忠次に、深く溜息をつくと、受付の青年は依頼を纏めるのでした。
●リプレイ本文
●器
「浮気は男の甲斐性と開き直る方がいますが逆は駄目と‥‥」
ふぅ、と小さく溜息をついて言う嵯峨野夕紀(ea2724)はちらりと忠次を見ると、少々居心地が悪いのか、忠次はもぞもぞと座り直して頭を掻いています。
「いや、熊八は真面目で浮気なんか出来るような男じゃないですよ。だが女房殿はそれを面白みがないと思っているのかも知れませんなぁ」
場所は改方の協力をしている元一人働きの盗賊、亥兵衛の煙草屋にある2階で、忠次は狸穴の皆蔵の人相書きと、熊八の女房の人相書きをこっそり絵師に書いて貰ったものをそれぞれに渡します。
「確かに目を惹く女ではあるが‥‥男を見る目はないようだな‥‥」
人相書きを受け取りさらりと言うレイナス・フォルスティン(ea9885)に小さく笑う忠次。
「まぁ、姿だけで言うならば、熊八はごつい厳つい口下手男だ、ちょいと見た目に良い男だとなれば、派手好きな女だそうだから他に目がいくのであろう」
言う忠次の話では、熊八はなかなか良い稼ぎのためか、女房は家の金をこっそり持ち出してはやれ着物だやれ簪だと好きにしているので、別れたがらないとも聞いているそう。
「まぁ、女房殿としても貢ぐ金が無くなるのは惜しいようだなぁ」
「仕事中にお酒を飲むのはいけない事であるが、酒場は情報の宝庫である。‥‥でも本当に盗賊の情報を得るとは忠次も運が良いであるな」
したり顔で言う忠次にリデト・ユリースト(ea5913)が言うと、考えるように口元に手を当てるサラ・ディアーナ(ea0285)。
「相手が盗賊なのでしたら、もしかしたら脅されている可能性が無いとも言えませんし、気を付けておいた方が良いかもしれませんね」
サラの言葉に頷く一同。
その頃、一人船宿綾藤に赴いている者がいました。
「実は木下さんのお手伝いをしているときにひょんな事から狸穴の皆蔵を見つけまして‥‥」
日向大輝(ea3597)が言えば上座に座るその男、長谷川平蔵はどこか笑いを含んだ顔で煙管を蒸かしていましたが、口を開きます。
「そのひょんな事とは、さぞかし寒い夜には暖まることであろうな」
そう言ってにやりと笑う平蔵は、大輝へ改方では探索中の事件により単独行動を禁じていた結果、相方の伊勢同心が浪人姿で離れたところからついていき、全く気にしていなかった様子の忠次の身辺を警戒していたとのこと。
「お前さん方がついていてくれるとなれば、伊勢も自身を危険に晒す余分な警護をせずに済む」
「その、その話は伊勢さんから?」
「ま、責めるな、伊勢も大事があってはならんと悩んだ末だ」
そう言って笑うと煙管盆を引き寄せ灰を捨て、袂の煙管入れに銀煙管を仕舞いながらゆったりと息を吐く平蔵。
「しかし兎め、しょうがねぇ奴だ‥‥手がかかろうが、済まぬが、宜しく頼む」
「は、はいっ」
すと真面目な顔で言う平蔵に頷く大輝は、いざ捕り物の時の手配の約束を取り付けて戻るのでした。
●仕事? 観光?
『わ〜‥‥本当にみんな着物で、チョンマゲにしている人ばっかりだね〜』
賑やかな通り、参拝道を補助の湯田 鎖雷・鷹碕 渉の両名と歩いているのはジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)。
ジェシュファは江戸になれていないようでなんでも興味津々に見ています。
『ね、ね、あれ何かな? 建物の造りとか、僕の国ともイギリスとも全然違って面白い』
くるくると辺りを見ているジェシュファは、目的の茶屋付近の地理を調べる以前に、暫くは観光気分が抜けないのでした。
「熊さんも可哀相にねぇ‥‥熊さんがいない時なんて、時折家にまで上げているんだから、お吹さんったら‥‥」
サラが聞くのに声を潜めるよう言うおかみさんですが、どうにも少々声が大きく、辺りの人達が何事かと見ています。
「えっと、何か、脅されていたりとかそう言ったことは‥‥」
「いんやぁ、もういそいそと着飾っていて、どう見ても浮かれているのはお吹さんの方で‥‥」
それを聞いてサラは小さく溜息をつきます。
誰に聞いても熊八のことを悪く言う人はいないのですが、どうも奥さんの方のお吹さんは浮気のことも有り余りよく思われていないよう。
「それにねぇ、確かに良い男だけど、なんて言うか、ちょっと嫌な感じなのよねぇ、男の方も」
「嫌な感じ?」
「ここに来るときは妙にじろじろと睨み付けるもんだから、子供達も怖がっちゃってさぁ」
真っ当な盗賊ならば溶け込んでしまうでしょうが、何分血を見ることも厭わないような男とも忠次から聞いているため、サラもおかみさんの言いたいことを何とはなしに肌で感じ取ることが出来るのでした。
「む〜‥‥なかなか骨が折れるのであるよ」
地図を手に人様のお家の屋根で休憩中なのはリデト。
どうやら色々と辺りの地理と地図を照らし合わせて、いざというときの捕縛場所を確認しているようですが、意外と人通りが多いか、人気がないいけれど細い道、等なかなか辺りは入り組んでいるよう。
「しかし、まるで夫婦のようだったのであるな」
既に皆蔵の飯屋で食事を取り、顔見知りとなった皆蔵と熊八の妻お福が待ち合わせて堂々と参拝道を歩く姿を思い出し息を付くリデト。
「さて、もう一踏ん張りであるよ」
立ち上がって裾をぱたぱたと軽くはたくと、リデトは再び地図を手に道を確認しにくのでした。
「ふぅ、有難う、助かりました」
そう言ってその水茶屋の表で茶を飲み店の人間と話すのは夕紀。
上手く口入屋の方の手回しが上手く行かず、参拝客として茶と菓子を出して貰い話す夕紀は、店員の娘さんにそれとなく探りを入れています。
「良い男っぷりの人と婀娜っぽい方が並んで出て行かれましたね。まるで絵姿のようだけど、なにをされている方なのでしょうね?」
「あらやだ、見た目はどちらも素敵ですけど、締まり屋でてんで駄目ですよぅ。しかも、あの女の人、前にも同じように男の人を連れ込んで、旦那さんがかんかんに怒って乗り込んできて大変だったんですから」
くすくすと笑う娘さんは、男の人はこの辺りで見ない人だというのでした。
「あ、ああっ、ほらほら忠次さん、熊っさんを!」
「あ、熊八さん、まぁまぁ落ち着かれよ」
ティアラ・クライス(ea6147)が物凄まじい形相で参拝道を歩く皆蔵とお吹を見ている熊八に気が付いて忠次に言えば、わたわたと宥めに行く忠次。
「奥方も騙されているだけだ、さ、さ、目を覚まして貰えるように、知り合いに頼んで手伝って貰っているから落ち着‥‥」
「じゃ、私も行ってくるわね〜♪」
「あ、お、おい私一人で止めるのかっ!?」
「止めねぇで下せぇ忠次さんっ!」
必死で熊八を宥めている忠次を後にして、颯爽と飛び出したティアラは皆蔵とお吹が参拝道の茶屋の前で親しげに語り合った後別れるのを見て皆蔵を追うことに。
「あれ?」
そこで気が付けば同じように皆蔵の後を付ける石動悠一郎(ea8417)の姿を見いだせるのですが‥‥。
「‥‥誰かに見られてないか確認してる? あ‥‥ど、どこに行くのかしら?」
気が付けば一つ隣の細い道へと歩いていく石動に目を瞬かせるティアラですが、皆蔵の尾行を優先すれば、やがて石動の姿は見えなくなるのでした。
時は少し戻ります。
「忠次殿、良ければちと稽古をつけてやろうか? ‥‥何時も何時も冒険者に頼りきっている訳にもいかぬであろう?」
「かか、勘弁してください、お頭の勧める道場だけで手一杯ですし、私はどうにも筋が悪い」
慌てて言う忠次に笑うと、石動は皆蔵が普段は賭場に入り浸るか茶屋から出ずにいるかのどちらかが多いと聞いてから皆蔵の姿に気が付き尾行を始めます。
「ふむ、誰にも怪しまれてはいないようだな‥‥」
きょろきょろと後ろを確認してから細い路地に入っていく石動。
「普段から賭場ぐらいで近頃逢い引きに出るようになったぐらい‥‥何処に誰と繋がりがあるかなどを掘り下げるべきか‥‥? 単独行動を取ることが多いならばやはり人気のない道で‥‥」
そこまで言うと、既にとっぷりと暮れる竹林の中、はたと立ち止まる石動。
「‥‥お、此処は何処だったかな?」
それに答えるのは葉の擦れる音だけなのでした。
●盗賊宿
「先回りして天井裏に入ったけど‥‥何か、ここのお店‥‥」
言いかけて首を傾げるティアラは、妙に店の人の動きに違和感を感じて首を傾げます。
「あ、戻ってきたわ‥‥」
息を潜めて耳を澄ませば、皆蔵に店の物が膳を運んで入ってきます。
「皆蔵さん、この大事な時期だ、少しは自重しちゃくれませんか? 何かあったらあたしがお頭に怒られちまう」
「なぁに、そろそろあの女にも厭いた。何かと金を持ち出して来ては恩着せがましくていけねぇ。纏まった金が入り次第、江戸を一緒に出て暮らそうなんてぬかしゃがった」
「そらみなせぇ、あんたぁいつもそうだ」
「まぁ、そう言うな、また明日逢うことになってるが、そん時に夢うつつのまんまこいつで‥‥」
低く笑う声に店の者の苦笑。
「っ‥‥!?」
聞き耳を立てているため何かは分かりませんが、内容は大体予想がつくティアラは屋根裏を抜けて、一目散に飛び出していくのでした。
「言伝なのである」
「まぁ、何だぇ、お前さん、あの人の茶屋の客じゃないかぇ」
「うむ、今日は船宿で会おうとの言伝なのである。これがその場所の地図なのであるよ」
そう言って差し出される布に首を傾げつつも進路を変えるお吹を見送ると、リデトはぱたぱたと仲間の元へと向かうのでした。
かわぞいのみちを、へろへろと歩く皆蔵、それを追いつつ飛ぶティアラは、道を曲がるのを確認してテレパシーのスクロールを広げます。
「‥‥なんでぇ、てめぇは」
そこへ立ちはだかるサラに睨め付けて懐へと手を突っ込むと、皆蔵はじりっと足を踏み出します。
『植物たちよ!』
ジェシュファが先陣を切ると声に呼応し道脇の植物が皆蔵を捕まえに飛びついてきますが、皆蔵はこれを避けてさがると懐から引き抜いた匕首を構え。
『避けられたっ!?』
「くっ!?」
囲まれたのに気が付いた皆蔵は一番手薄に見えたのでしょう、大輝の素早く寄り懐へと入り込むと匕首を繰り出します。
ぎりぎりで避けきれず腕に匕首で傷を付けるもすぐに小太刀ではじき返すのに皆蔵はぎりっと忌々しげに睨み付け。
「熊八には悪いが‥‥」
言いながら太刀を繰り出すレイナスに、それをかわしつつ突破口を探す皆蔵ですが、自然自然と薄くなる場所へと回り込む大輝に舌打ちをし、身体ごと道を塞いでいたサラにぶつかっていき諸共に転がると、素早く立ち上がり駆け出します。
「はっ!」
夕紀の放つ手裏剣に飛び退った皆蔵、と。
「我、武の理を持て斬を飛ばす‥‥飛斬!」
「ぐあぁっ!?」
背後から叩き付けられる衝撃波を叩き付けられて倒れ伏す皆蔵は、そのまま捉えられるのでした。
●二度目までは仏の顔?
船宿綾藤の一室。
「よう遣ってくれたな、皆、礼を言う」
そう言って微笑を浮かべて各人へと報酬を渡す平蔵に、自分だけ貰えずに首を傾げる忠次。
「盗賊宿の方は手の者に張らせておる。何やら大きな魚がかかるやも知れぬからな」
リデトのリカバーで傷を癒して貰っている大輝へと言う平蔵に、おずおずと口を開く忠次。
「あのぅ、私めには‥‥」
「馬鹿者っ! 己はまだ分からぬかっ!?」
腹に響くような一喝にすくみ上がる忠次、腕を組み深く息をつくと、平蔵は口を開きます。
「何故、単独で動くなと言ったか分からぬような奴は改方にはいらん。己の勝手に、伊勢は自身の背を留守にしてまで守っておった、それも知らなんだろう。それ、とっとと行け」
すごすごと部屋から出て行くと忠次の啜り泣きが聞こえてきます。
緩く息を吐いて煙管盆を引き寄せる平蔵は、固唾を呑んで見ている一行へとにと笑うと一服、低く笑います。
「まぁ、あれほど言っても、痛い目を見ねば分からぬ。まったく、しょうのない奴よの」
親が子を叱ったかのように言う平蔵は、改めて一同の働きを労うのでした。
そして、熊八の長屋、リデトは夫婦の様子を覗きに行けば、家の金をかなりの額貢いでいたこともあってか、怒り背を向ける熊八に膨れっ面でお吹も背を向けて酒を飲んでいました。
「狸穴の皆蔵は捕まえたであるよ」
報告を兼ねて言うリデトは二人に事情を説明し、忠次の身分は伏せておいたものの、お尋ね者の盗賊であったことを言えば、真っ青になるお吹。
「奥さんは気をつけなければいけないんである。熊八さんみたいに良い旦那は滅多にいないんであるからして」
「‥‥」
「‥‥あの、あんた‥‥」
その後、無言で背を向けたままの熊八にお吹がどう泣いて謝ったか、次はないと酷く怒られたものの、どうやら元の鞘へと収まったと、後に忠次から聞くことが出来るのでした。