嬉しい? 雛祭り
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:03月01日〜03月06日
リプレイ公開日:2006年03月12日
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●オープニング
「やなのじゃーっ! 一緒の雛祭りをやるのじゃーーっ!」
ギルドの入口で母親を引っ張って中へ入ろうと大泣きしている少女がいます。
「どうかしましたか? っと‥‥あれ? 君は‥‥」
「まはらなのじゃーっ!」
「あぁ、まはらちゃん、久しぶりだねぇ」
「うむ、久しいのじゃ、受付とやら、元気だったかや?」
受付の青年が声をかければ、それに気が付いた八つほどの少女がぱっと顔を輝かせ、目元をぐしぐし拭うとえっへんとばかりに胸を張って笑いかけます。
その横では困った顔の若い母親が頬に手を当て溜息をついています。
「駄目よ、まはら。近頃では冒険者さんだって忙しいし、まはらの相手をしてくれたような冒険者さんはもう江戸にはいないでしょうし‥‥あの頃ほどは‥‥」
そう言いかけて受付の青年を気にする様子を見せるまはらの母親。
近頃では殺気だった話も多く、また無宿者達が色々と問題を起こすことが多い昨今、素性の分からない人間を家に呼びたくはないという気持ちも分からないではないので、受付の青年は小さく溜息をつきます。
「前回は気持ちの良い方ばかりと思ったのですが、近頃の世情を見ていますと、申し訳ないですがあまり安心できるとも‥‥」
「まぁ、気持ちは分かりますが‥‥」
「駄目なのじゃ、まはらは来年もまた一緒に雛祭りやると言ったのじゃ! 皆忙しゅうて来られぬと分かっていても、まはらは冒険者達と雛祭りやるって言ったのじゃーっ!」
みるみる目に涙を溜めてびーっと泣き出すまはらにすっかり困った様子の母親を見かねてか、少し考える様子を見せる受付の青年。
「屋敷へと入れるのが不安でしたら、その、座敷を借りられるところに雛を運んで飾り、そこで雛祭りをするというのは如何でしょう?」
「‥‥そう、ですわね、この子は言い出したら聞きませんし‥‥」
ふう、と深い息を吐くと母親は困ったように微笑んで頷くのでした。
●リプレイ本文
●再会と初めまして
雛祭りの間を過ごす船宿綾藤へと向かう一行の中で、なにやら対極な人間がいました。
「あれからもう一年もたちまするか‥‥紅葉、まはらちゃんに会えるのがとても楽しみにございます」
頬を嬉しそうに染めて微笑むのは火乃瀬紅葉(ea8917)、昨年まはらと雛祭りを一緒に過ごした一人で、なにやら大切そうに包みを抱えていたりします。
「えっと‥‥まはらちゃんって、どんな子‥‥です、か‥‥?」
「元気でとても良い子でございまする」
エスナ・ウォルター(eb0752)がおずおずと紅葉に聞けば、紅葉は包みをぎゅっと抱えて懐かしそうに言います。
「異国のお菓子とか、まはらちゃん気に入ってくれると良いんだけどね」
並んで歩くケイン・クロード(eb0062)が言うと頷くエスナ。
「約束を守りたいという気持ちは大事にしたい所、心から楽しめるようにしてやるのが俺達の役目だな」
そう言うフィル・クラウゼン(ea5456)は微笑を浮かべ見る恋人、フォウ・リュース(eb3986)に、笑みを浮かべて付け足します。
「もちろん俺達も一緒に楽しもう」
そんな横で、既に綾藤へと辿り着いてもどんよりとした様子の御仁が一人‥‥。
「今年も娘と雛祭を祝ってやる事が出来ず‥‥」
郷里に妻子を残して江戸へと出てきている松浦誉(ea5908)は、おさとの娘を思ってはらはら。
と、綾藤の廊下をぱたぱたぱたぱた、元気良く駆けてくる足音が。
「くれはかや!?」
「まはらちゃん!」
入ってくる一同にまっしぐらに駆け寄った、まはらは紅葉に気が付くと嬉しそうに飛びつきます。
「まはらちゃん、お久しぶりにございます。紅葉にございまする。今年も共に雛祭りを祝いたくて、参らせて貰いました」
「うむ、久しいのじゃ」
ぎゅっと紅葉に抱きついてから目元をごしごしと擦って一同へと目を向けるまはら。
「みな、まはらと一緒に雛祭りなのじゃ♪」
「おう、まはら嬢ちゃん、宜しく頼むな」
だっこされたままで目の位置は高くなっているのですが、それでも大きい嵐山虎彦(ea3269)がぬと顔を出すと目をまん丸くしてみるまはら。
「すごや、大きやのう」
感心していうまはらのそばにてこてこと顔を出す真っ黒な毛並みの猫がみゃおんと鳴くと、ディーネ・ノート(ea1542)は屈み込んで抱き上げるのでした。
●楽しい準備
「‥‥あの、まはら‥‥ちゃん」
「うむ、それは反対側に置くのじゃ」
そう楽しそうに言うまはらに、エスナもこくんと頷いてお雛様を並べるお手伝いをしています。
「娘のお雛様をこうして飾ってあげられれば‥‥」
お雛様を見てはがっくりと肩を落とす松浦に首を傾げるまはら。
「そんな訳なのでまはらさん。おじさんと一緒に雛祭を楽しんで下さいますか? おじさんは誉といいます」
「ほまれは女の子がいるのかや?」
「ええ。まはらさんは、おじさんの娘より少しお姉さんですね。――って、あぁっ!?」
一見すると微笑ましい父娘の様子なのですが、そこへ松浦の補助に来ていた冴刃 歌響がまはらを呼んで、着物の丈を直しに入り、それはもう清々しい笑顔でお仕事に行ってらっしゃいとてを振ります。
「歌響さん、そんな『さっさと海へお行きなさい』と言わんばかりの妙に爽やかな笑顔でまはらさんから引き離さなくても良いじゃないですかっ」
泣きそうな顔で言う松浦ですが、しっかりと用意されたお仕事道具に気が付くと、それはもう涙ながらにすっくと立ち上がります。
「くっ‥‥行ってきますとも! まはらさんの為に新鮮な蛤や魚介を獲ってきてみせます!」
何やら自棄ともとれる様子で出かけていく松浦、黒猫の青龍と嵐山のねこひこ2匹と戯れるディーネと、猫の絵姿を描いていた嵐山が頑張れよーとばかりに送り出すのでした。
「船宿って言っても船のお宿じゃないのね」
「船で出入りできたり、船を貸して貰って川遊びをしたり出来るらしいのじゃ♪」
「そうなんだ。あ、まはらちゃん、招いてくれてありがとね♪」
まはらの髪を撫でつつ言うディーネに、嬉しそうににこにこと笑うまはら。
「あの‥‥おひな様‥‥結婚式の様子‥‥なんですよね? ‥‥すてき、ですよね‥‥」
頬を染めるエスナは、まはらの母のと聞く淡い桜色の着物を羽織って、それをケインと冴刃が位置を確認して着物に手を加えています。
「うむ、えすなもお雛様みたいぞ♪」
言われる言葉にかあっと赤くなるエスナと、釣られたかのように照れたように頬を染めるケイン。
「はぅぅ、まはらちゃん、たら‥‥」
真っ赤になりながら言うエスナは、きょとんとした表情で見上げてくるまはらに赤い顔のままそっと頭を撫でるのでした。
「ほれ、まはらの嬢ちゃん。うちの猫と青龍の絵を描いてみたんだが‥‥」
嵐山の巨体に並ぶととてもちんまりと見えるまはらは、ほれ、と渡される掛け軸に目を瞬かせます。
「すごや、まるで生きているようじゃ」
大きな目をくるくると動かしてその掛け軸を見てはしゃぐまはら、躍動でいて緻密な書き込みのその猫の図は、大層気に入ったようなのでした。
●等身大のお雛様
「甘い匂いがするのじゃ」
その一室の卓に並べられた華やかな料理と菓子などに目を輝かせるまはらは、ディーネに袴の帯を締めて貰ってご嬉しそうにはしゃぎます。
「くれはも同じの着るのかや?」
「そっ、その、紅葉今年は男の格好がしとうございます‥‥」
恥ずかしそうに言う紅葉に首を傾げつつ頷くまはら。
ケインに手を借りて装束を調えるため隣へと行く紅葉を見ているまはらに、自身の紺の装束をきちんと着、冠を手にまはらへと近付く松浦。
「宜しければお内裏様役、私にさせて頂けませんか、まはらお雛様?」
「ほまれもお内裏様なのじゃ♪」
「は?」
「くれはもほまれもお内裏様なのじゃ〜」
「あぁ、なるほど」
隣の部屋からひょっこり恥ずかしそうに顔を覗かせている紅葉に笑いかけると手招きをして。
緋色の装束の紅葉と紺の装束の松浦の間で嬉しそうにはしゃぐまはらに、ふたりとも思わず笑みを零します。
そして、もう一つ向こう側の部屋では、ディーネが淡い緑の着物を手に、ぐっと気合いを入れていました。
「何事も挑戦ってゆーし。一度は知人に着せてもらった事もあるし、さっきまはらちゃんが着るのも手伝ったし」
とは言え袴を着けるのを手伝っただけ、そして手には手順の多そうな一揃いの着物達‥‥。
「大丈夫よ。多分。恐らく‥‥‥‥‥自信ないけど」
綾藤の女将に赤の着物を着せて貰っているフォウをじっと凝視して手順を確認するディーネ。
「きつくないかしらねぇ? 袖をこう持ち上げて‥‥」
「こ、こうかしら?」
袖を持ち上げるフォウに袴をきちんと締めて胸の下できゅと結ぶ女将は、満足そうに微笑みます。
「後はこの着物に袖を‥‥何枚も有るから、少し重いかも知れないですけど。‥‥それにしても、よく似合っていますよ」
どうやら着付けた着物が良く合っているのが満足だったようで、上機嫌の女将・お藤。
「あ、ああやるのか‥‥」
真似るように袴を着けるディーネは、少し苦労はしましたが、何とか自身で着付けることが出来たようです。
「おう、揃うと華やかじゃねぇか」
そう笑う嵐山は既に紙と筆の支度を調え待っていました。
「‥‥どう‥‥?」
顔を赤く染めながらおずおずとケインに着物姿を見せると隣に来るエスナは恥ずかしさからか最後まで言葉にせずにケインを見れば、ケインも顔を赤らめながら笑い、エスナの頭を撫でます。
「よく似合ってるよ」
花がほころぶように微笑むエスナ。
「可笑しくないかしら?」
「そんなことはない、よく似合っている」
こちらも恋人同士の楽しげな語らいの姿が。
頬を染めておずおずと手を繋ぐフォウにフィルも目元を和らげてその手を握り替えします。
「さて、並んだ並んだ、ちぃと絵を描かせて貰うぜ、今日の記念にな」
筆を握って笑う嵐山にまはらをだっこしてお雛様の側へと歩み寄る松浦と、裾を踏みそうになるディーネに手を貸してお雛様の所へと並ぶ紅葉。
右隣ではおずおずとした様子で並んで座るエスナとその隣に腰を下ろすケイン。
左隣には頬を染めて寄り添うフォウにフォウへと笑みを浮かべるフィルの姿が。
それを見ながら、嵐山は絵筆を走らせるのでした。
●嬉しい! 雛祭り♪
「旨いのじゃ♪」
松浦の採ってきた蛤を使って綾藤の料理人がふっくらと炊きあげた蛤御飯、それを松浦の膝によじ登って座ると、よそって貰って口へと運び、満面の笑みを浮かべるまはら。
「ん、まはらちゃん、これも‥‥美味しいですよ」
そう言ってエスナがケインの作った蛤のワイン蒸しを小皿にとってまはらに渡してあげています。
「にゃぅん」
ディーネが御飯を食べているとディーネの仔猫ゼロスとじゃれて遊ぶ青龍にねこひこ。
遊び疲れると猫たちはもぐもぐと抹茶のショートブレットを食べるディーネにぺったりくっついて夢うつつ。
「さて、おまちどおさま」
そう言ってお盆を手に入ってくるケイン。
ケインのお盆には華やかな黄や桃色が上を飾り、そして白身魚の刺身が白い花を咲かせているような、何とも可愛らしい押し寿司です。
「わぁ、可愛や」
膝の上ではしゃぐまはらに松浦は自身の娘を思い起こしてか少しじんわりと来ている様子。
「去年一緒にお雛様を祝った響さんから、まはらちゃんに贈り物を頼まれておりまする‥‥そして、これは紅葉から‥‥」
そう言って紅葉が馬原へと差し出すのは、白と黒のやぎのお人形。
「二つ揃えば幸せを招くという噂にございまするゆえ。友達の幸せを、願わせてくださいませね」
そう言う紅葉に受け取ってぎゅうっと人形を抱きしめて笑うまはら。
「きくかわもまはらのこと覚えててくれたのかや?」
嬉しそうに言うまはらに、紅葉は微笑んで頷くとその頭を撫でてやるのでした。
「こういう着物を着て踊ったことはないけれど‥‥」
言いながらも扇を借りて踊るフォウには流石のまはらも御飯を食べる手を止めてきらきら目を輝かせて見入っています。
「みな凄いのじゃ」
「ふふ、嬉しいわ。そうだわ、まはらちゃん、一つ占ってあげましょう」
踊り終わったフォウにぱちぱちと手を叩きながら言うまはら、フォウはカードを取り出してにっこりと笑いました。
「まはらちゃん、すごくいい未来が待ってるみたい。ほら、このカードはお日様を現していてね、とっても幸せにすごせるっていう意味なの」
ほんとかや? と嬉しそうに聞くまはらに笑って頷くと、恋人の元へ。
カードを手に占うと、どうやら良いカードが出たよう。
「フィルさん、こうして毎年ずっと年を重ねて‥‥ずっとずっと楽しい思い出を一緒に紡いで行けるといいな‥‥って思うわ‥‥」
赤くなって言うフォウに笑みを浮かべるフィル。
「‥‥我侭かしら?」
「そんなことはない‥‥」
フィルがくしゃりと髪を撫でて言うと、嬉しそうに微笑むフォウ。
そして、窓辺で酒を手に筆を動かす嵐山。
もう少しで完成するその絵の中で、まはらはこれ以上ないほど幸せそうに笑っているのでした。