【凶賊盗賊改方】血の乾き

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月03日〜03月08日

リプレイ公開日:2006年03月15日

●オープニング

「女性の周りにいる人の護衛、ですか‥‥?」
 そう受付の青年が聞き返すのに、眉を寄せて頷くのは、凶賊盗賊改方・筆頭与力、津村武兵衛です。
 時刻は既に夕刻、既にすっかり冷えた茶を前に微妙な間の流れ、受付の青年は眉を寄せて先程から武兵衛の手元を見ています。
「どうにも、改方を付け狙う者か『その男』かがはっきりせず、少々、手間取ってしまってな」
 見れば、裾の辺りに僅かに見えるのは血の跡、手当はしてもう問題はないというものの、かなりの深手を負ったそうで、武兵衛の後ろには改方でも腕の確かな蓑井同心が控え、ぴりぴりした雰囲気が漂っています。
「でも、何で武兵衛さんまで狙われたんですか?」
「深い訳は知らぬのだが、どうやら昼に受けた相談事が原因だったようでな」
 そう言う武兵衛の話では、事件は始め奉行所の管轄であったのですが、その事件の中心にいつもいる女性が酷く怯えながら手紙を人に託し、武兵衛を呼んだそう。
「昔、奉行所にいた頃に賄いなどを作っていた女でな、名をお索といい、当時はまだ14か、大人しい気性の優しい娘で、困ったことがあると小父さん小父さんと泣きながら来て、よう相談に乗ってやったのだが‥‥」
 年頃になってから、小さな茶店の男と一緒になり幸せに暮らしているとは聞いていたのですが、突然寄越した便りは意味も分からず、ただ助けて欲しいと繰り返し書かれていたそう。
「出向いてみれば、つい先日あった、茶屋の主が惨殺され、次々その茶屋に来ていた者達が斬られ、在る者は二度と目を覚まさず、在る者は正気を失い二度と所から離れ無くされたというあの件の、残された女将がお索で有ることを知ってな」
 錯乱するお索から何とか話を聞けば、その男が現れたのは二月ほど前、厳つい身体に暗く陰気な表情に、お索を見るぞっとするような目つき‥‥。
「なるほど、お客だからと関わらないように気を付けつつ、当たり障りのない対応をしていたんですね」
「ただ、一月ほど前から、何度もお索が襲われかけたそうでな‥‥もの凄い形相で亭主が飛びかかって出刃で追い返したことがあり、その夜‥‥亭主は見るも無惨な様で河原で見つかった‥‥」
「‥‥なんて酷い‥‥」
「それが引き金となったか、お索の周りに現れる者、お索に親しくする者、お索の相談に乗ってやった者‥‥」
「まさか、それがその‥‥」
「既に3人殺され、命を取り留めるも、もう仕舞いであろうという者が2人、そして、儂がお索に呼ばれたその帰りにこうして‥‥」
「‥‥」
「お索に近付く者はあまりいないとは思うが、この件でお索はなくなった者の身内に恨みも買っていようし、また、お索に関わった者が片端から狙われておる。儂も手傷を負い、この件が改方へと移ることとなってな‥‥」
 そう言うと、頭を下げる武兵衛。
「何とか、手を貸しては貰えぬだろうか」
 武兵衛の様子に言葉にならず、ただ受付の青年は頷いて依頼を纏め始めるのでした。

●今回の参加者

 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea5388 彼岸 ころり(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9916 結城 夕貴(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0370 レンティス・シルハーノ(33歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3273 雷秦公 迦陵(42歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3867 アシュレイ・カーティス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

フィニィ・フォルテン(ea9114)/ ユナ・クランティ(eb2898)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ シターレ・オレアリス(eb3933

●リプレイ本文

●お索
「お策さん、かわいそう‥‥」
 お索の家が確認できる、側の寺にある倉の二階の小さな窓から茶屋を見て小さく呟くのはイシュルーナ・エステルハージ(eb3483)。
 付近の店は皆この件を知っているらしく協力を拒んだことと、この寺の二階ならば、お索の茶屋の様子が確認でいることから住職へと話をすれば、快く協力を約束してくれたからです。
 遠目から見てもひっそりと暮らすお索の様子は窶れ痩せ、酷く儚げで消え入りそう。
「ようはストーカー野郎を何とかすればいいんだろ」
 小坊主に畳を運ぶのを手伝って貰い倉に持ち込み布団を敷くゴールド・ストーム(ea3785)が、事も無げな様子でそう言うとイシュルーナは目を瞬かせます。
「え、えっと‥‥?」
「こちらではその女性に集中する形を取りたい、なので彼女に関わりを持っている方々は改方の皆様にお任せしても良いだろうか?」
「無論、話はしておこう。しかし、一人一人を張っていられるというわけでもないゆえ、行動を完全に押さえられるかは保証できぬが」
 雷秦公迦陵(eb3273)の言葉に頷く武兵衛は貴重な紙で綴られた調書きらしき紙の束を取り出します。
「女性の敵は許しちゃおけないが‥‥とはいえ一撃で人の身体を切断出来る腕前の持ち主だ、油断は出来ないな‥‥」
 レンティス・シルハーノ(eb0370)はそう言うと武兵衛へと男の特徴などを聞きます。
「お索の話では、三十半ばの厳つい男だったそうだ。‥‥わしが見たところ、わしよりは大柄であるが、シルハーノ殿の用にジャイアントなどであった様子はなかった。暗がりゆえ良くは見えなんだが‥‥」
「なかなかいいご趣味をお持ちの人斬りみたいだけど‥‥正直言ってキモいから、排除決定」
 武兵衛の言葉を聞きながら紙の束を手に取る彼岸ころり(ea5388)にイシュルーナは目を向ければ、倉の二階に上がるはしごを登って窓へと近づきながら、イシュルーナにその束を渡すころり。
「どれもこれも見事なモンだね、問答無用に一太刀。しかも、中には近づかれたのさえ気が付かずに斬られたって言う人もいるみたいだね〜」
「それって、気配を消したり出来るっていうこと!?」
 目を瞬かせるイシュルーナにもう一つ気になることがあるのか手に持つ紙を見ながら武兵衛へと口を開く雷秦公。
「これは断ち斬られているが、津村は深手を負った際、どんな具合だったのだ?」
「それが、わしへは一撃で決めようと言うのではなく確実に当ててきおった‥‥並々ならぬ力量であったと思われる」
 挙句、武兵衛が気力を振り絞り反撃に転じたとき、即座に身を翻して去ったとのこと。
「さて‥‥襲われるのは夜だけじゃないみたいだが、圧倒的に夜が多いみたいだしな」
 言いながら欠伸を噛み殺すゴールドは蔵の隅に引いた布団へと潜り込み。
「いざって時に眠くて動けなかったら意味がねえだろ」
 見張り、先に頼むな、と言って休憩に入るゴールドに頷いて再び窓から覗くイシュルーナ。
 ころりは窓から何かが目にとまったか、そっと出て行くのでした。

●流される血
「うるせぇっ! 指図されるいわれはねぇ!!」
「あの、話を‥‥」
 言いかけ、目の前で戸をぴしゃりと閉められて言葉を失うのは結城夕貴(ea9916)。
 遺族の者へと説得にと向かった夕貴でしたが、思った以上に遺族の怒りは強く、お索の名を出しただけで切り付けられんばかりに猛り狂って追い出され、またある家では戸を開けてすら貰えず、夕貴は深く溜息をつきます。
「はぁ‥‥とりあえずはお索さんのところへ行こう‥‥」
 そう言って歩き出し、参拝道を曲がり寺の塀沿いに歩くこと数歩。
「もうし‥‥」
 低い野太い声に冷やりとするような感覚、咄嗟に刀の柄に手を伸ばし振り返りかけた夕貴の視界が赤く染まります。
「っ‥‥ぁ‥‥っ!!」
 声にならない声を上げて崩れ落ちる夕貴の耳に微かな砂利音以外を立てずにすべるように駆け去る厳つい男の後姿が見え、そこで意識を手放す夕貴。
 甲高い女性の悲鳴に、付近の様子を浪人を装った同心と話しつつ犯人のねぐらを捜していたアシュレイ・カーティス(eb3867)が駆けつければ、そこの血だまりにぐったりと倒れ付した夕貴の姿が。
「‥‥息はある‥‥っ!」
 人通りのある参拝道に近い道だったからか、それとも女と思って止めを刺さずとも持たないと思ったか、なんにせよ細い息ではありますが生きている夕貴に手拭いを取り出してアシュレイへ傷口を押さえるように言って運べる場所を探すかのように辺りを見渡す同心。
 悲鳴で遠巻きに見る野次馬たちの目が『またか』と言う恐怖と怒りとに彩られるのに唇を噛むアシュレイ。
「そこの方、直ぐにこちらへ!」
 塀の中の寺に住むと思われる者の誘導で、同心と共に夕貴を中へと運び入れるアシュレイ。
 運良く、傷を癒す力を持つ僧がそこに居た為、手当てを申し出る寺に頼んで夕貴を任せて立ち上がると気の重い知らせを持ってアシュレイは皆の詰める寺へと足を向けるのでした。
「そこのあなた」
 ころりに声をかけられて、びくっと身体を震わせる女性は、何かを手に包んで持っていました。
「あなたも、あの人のせいで身内を殺されたクチ?」
 視線の先には草臥れ窶れたお索が泥を投げつけられた様子の店の壁をのろのろと洗い流している姿があり、ころりが声をかけた女の包みからは僅かに銀色の鋭い切っ先が見えています。
「くっ‥‥口を挟まないでおくれっ!」
「ん〜‥‥残念だけど、恨みが完全に明後日の方向行っちゃってるねぇ。‥‥かといって、本来恨むべき相手も分からない。そうでしょ?」
「あっ、あの女が大変な思いしてるからって、ただ、旦那の葬式を出す手伝いをしてやっただけなのに‥‥っ!」
「でもさ、あの人相手に恨み晴らしてもどうしようもないんじゃない?」
 逆にあなたも斬られるよ、とも過ぎったころりですが、それは言うのを辞めたよう。
「だったらさ、一つボクに任せてくれないかな? あなたの身内を殺した男を始末するのがボクの仕事だからね。この際、あなたの恨みを引き受けるよ♪」
「あの男を‥‥始末‥‥」
「うん、だから、それ、しまっといてよ?」
 言われて女はしっかりと握りしめた包みの中身、鋭い包丁を取り落として顔を覆って泣くのでした。

●血の乾き
「‥‥何かあれば直ぐに逃げろよ」
 そう駕籠かきに声をかけてお索の茶屋へと向かうアレーナ・オレアリス(eb3532)。
 駕籠かきになりすますだけならば同心でも出来ますが、重装備のアレーナを運ぶとなれば流石に本職でなければ無理のよう、おまけに改方もあちこちに人が出払っていて駕籠かきまでは手が回らなかった様子。
 やがて辿り着くお索の小さな店は、周りから疎まれ嫌がらせもあったようで、寂れて酷い様子です。
「津村殿に頼まれ来た。必ずこの苦しみから救ってみせる」
 西欧風に抱擁で挨拶をするアレーナに青い顔で小さく謝るお索。
「本当に‥‥小父さんや冒険者の方でも私の所為で酷い怪我を‥‥申し訳ありません‥‥」
 生気無く頭を下げるお索の痛々しい様にアレーナも暫し言葉を失ったよう。
「お索‥‥良人の仇を討つので協力して貰いたい。それに、苦しみを貯め込めば貯め込むほど辛くもなるし、良い事も巡ってこない」
 力強く言うアレーナに見る見るその目に涙を溜めるお索は、寂しさや苦しみを吐露し、アレーナは優しくそれを聞いてやるのでした。
「すっかり遅く‥‥申し訳ありません」
「なに、好都合というものだ」
 表へと見送りに出るお索に笑って言うと駕籠へと乗り込むアレーナ。
 辺りは既にすっかり暗くなり、駕籠かきたちは直ぐ側の店で一杯引っかけつつ待っていたようで、アレーナが出て来るとすぐに飛んできて駕籠を用意しています。
 進む駕籠に不安げな表情を浮かべて見送ると、お索は吹き抜ける風に身体を震わせて店の中へ戻るのでした。
 駕籠かきが暗い林道へと足を踏み入れた瞬間でした。
「ひっ、ひぃいっ! で、でたっ!」
 声を上げて逃げる駕籠かきと、駕籠かきの上げる声にいち早く反応して駕籠から転がり降りるアレーナはその男の刀が鎧の隙間に差し込まれているのも信じられないものを見るかのように凝視します。
 アレーナが崩れ落ちるのとほぼ同時に駆けつける一同は、その気配に壁を背にし、刀を鞘に収めてじり、と構える男の姿を初めて目にする事に。
「自分じゃもう止まらなくなってんだろあんた。俺が止めてみせるぜ!」
 レンティスの言葉と共に放たれるその金槌を引いて交わす浪人に、アレーナを庇うように回り込むアシュレイとイシュルーナ。
 雷秦公の手に持つ灯りでぼんやり浮かび上がるその姿は、血を吸い狂気を帯びた目でにたにたと笑う気味の悪い大男。
「――っ!?」
 一瞬のうちに間合いを詰められ抜き打たれる刃が雷秦公を二つに切り飛ばし‥‥。
 そこに転がるのは落ちて燃え上がる提灯に、真っ二つに切り落とされた丸太。
「何っ!?」
 低く唸るのと、ゴールドの矢が深々と男の左肩に突き立てられるのはほぼ同時でした。
「うぬぅっ!」
 上がる声、咄嗟に右手で肩に触れる男へと叩き込まれるのはイシュルーナの振るうホーリーメイスによる衝撃波。
 そして畳み掛ける様に男へと向かっていくアシュレイとレンティス。
「くっ」
 男へと確実に手傷を負わせながらも鈍ったとは言えまだ勢いを残す太刀筋に、盾で受け流して一歩下がるアシュレイ。
「ぬおぉおぉおっ!」
 吠えてレンティスに斬り掛かる男に、その渾身の一撃に一瞬、レンティスが息を飲み固まったその時です。
 突如ぴたりと動きを止め、目を見開く男。
「きゃはは、後ろがお留守だよ」
 くすくすと笑って言うころり、その手にしっかりと握られた小太刀が男に深々と突き刺さっています。
「ちょーっと殺りすぎたね‥‥残念♪」
 犠牲が増える前に叩き込まれた小太刀の傷に、対に男は地に伏せ、まるで渇きを癒すかの如く刀を振るった男は息絶えるのでした。

●静かな道を‥‥
「‥‥ぅ‥‥‥っく‥‥」
 しゃくり上げる様なか細い泣き声に、アレーナはうっすらと目を開けると、明るい日差しの中お索が泣きながらアレーナを覗き込んでいました。
「よか‥‥良かっ‥‥」
 しゃくり上げつつ身体を起こすアレーナの手をぎゅっと握るお索に、アレーナはおぼろげに男が倒れ伏す姿の思い起こしてあたりを見れば、結城が運ばれた寺で目が覚めた様子のアレーナに、お索は何度も礼を言い、助かったことを喜び泣いていました。
「お索さん、武兵衛さんがね、江戸から五日ほど行ったところの宿場にお友達がいて、その人の道場で手が足りないから是非って‥‥」
 そこへ息を弾ませて入ってくるのはイシュルーナ。
「本当に‥‥何から何まで‥‥有難うございます‥‥」
 そう言って頭を下げるお索。
 次の日の明け方、お索は痩せて弱々しくはありますが、街道をゆっくりと踏みしめるように進んでいきます。
 大分離れたところで一度振り返って、深々と頭を下げて再び歩き出すお索。
 やがて、お索は朝靄の中に消えていくのでした。