人足寄場で火の用心?

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月21日〜03月26日

リプレイ公開日:2006年04月02日

●オープニング

 その日、凶賊盗賊改方の与力、津村武兵衛の屋敷を訪ねなにやら難しい顔で考え込んでいる受付の青年は、おずおずと言った様子でなにやら相談をしているよう。
「では、それを受付殿は聞かれた、と言うことで‥‥」
「ええ、こう、記憶が朧気で、自身はないんですが、確かに聞いたと‥‥思うんです」
 どうやら受付の青年、風邪を引いて一日寝込んだのですが、急に熱が上がって寝込んでいたときに遭遇した事柄に自信が持てずやってきたそう。
 事の発端はその日、ギルドに来た顧客の一人に風邪をうつされて寝込んでいたときに起こったそう。
 突然のことで恋人に差し入れをして貰うなどといった余裕もなく、夜中に空腹から来る気持ち悪さでふらふらあたりの屋台で蕎麦でも啜ろうかと何とか出てきたときに耳に入ってきた事柄に、受付の青年もぎょっとしたよう。
「おら達、もうたらふく食わせて貰っちまっただよう‥‥」
「それに、なんか思い出してもおっかねぇ人だったすな、言うこと聞かなかったら、なんばされるかわかんねす」
「うー‥‥だんど、なんもくわねでいたすから、あのまんまだど行き倒れったしょ」
 なにやらひそひそと話す男達は偉く困った様子だったよう。
「そんにほんに火ぃつけねども小火で十分っつったっしょ」
「だいたいおめぇが腹減った腹減った泣くから、目ぇ付けられたんでねぇすか?」
「どっちさしろ、おら達金貰っちまっただよ、言うこと聞かねばおら達きっと川に浮かぶだよ、ちょっと、何とか寄場とかいうだんれもいない島っさ火ぃ付けてびびらすば済むんだよう」
 聞こえてきた言葉に火付けの話をしていると分かって立ち去る男達を追おうとした受付の青年ですが、そこでぱったり。
「お恥ずかしながら、目が覚めたのは蕎麦売りの家で、どうにも、帰り道に倒れていたらしくて拾われたみたいで‥‥」
 頭を掻く受付の青年、どうにも目が覚め熱い蕎麦に薬で回復し、熱が下がってみればなんだか熱にうなされて見た夢だったような気がしてしまったよう。
「でも、本当に火付けだったら大変ですし‥‥」
「調べ夢現だったと分かればそれに越したことはない。が‥‥なんとも手が足りぬな‥‥」
 少し考え込む様子の武兵衛は、頷いて口を開きます。
「この件、改方に預けてもらえぬかな。改方より、ギルドへと手を借りるように依頼として出して欲しい」
 ただ漠然と調べるよりも、そちらの方が調べやすかろう、と武兵衛は微笑を浮かべて言うのでした。

●今回の参加者

 ea2352 ヴァルテル・スボウラス(16歳・♂・レンジャー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9564 ティア・プレスコット(20歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0112 ジョシュア・アンキセス(27歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb3283 室川 風太(43歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4554 レヴィアス・カイザーリング(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4673 風魔 隠(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

陸堂 明士郎(eb0712)/ 大江 晴信(eb3385

●リプレイ本文

●再確認
「それじゃあやはり自分が聞いたことに自信がない、と?」
「はぁ、熱にうなされていたんで、ちょっと自信がないんですよ」
 申し訳なさそうにギルドの受付で、受付の青年が小さくなって答えます。
 受付の青年へと尋ねかけたのはレヴィアス・カイザーリング(eb4554)、異母妹のフォルナリーナ・シャナイア(eb4462)と共にそれを受付の青年へと確認に来ていたのですが、答えを聞くと頷いて蕎麦屋の屋台の出る場所を聞きます。
 連れだってギルドを出るとレヴィアスに軽く首を傾げて口を開くフォルナリーナ。
「お兄様は夢だったと思いますか?」
「しかし、聞いた内容が内容だ、そのような事を思いつくかと言われると、難しいだろう」
 そう言いながら、程良く暖かくなった道を暫く二人で歩いていくと、やがて小さな屋台が辻に出ているのに気が付いて足を止めます。
「もしかして、蕎麦屋の良造さんですか?」
「おや、これは異国のお嬢さんに異国の旦那、どうかなさったんで?」
 フォルナリーナが声をかけると気が付いた蕎麦屋台の良造は手拭いで額を拭って笑顔で返しました。
「少々尋ねたい事がある。つい先日、ギルドの受付をしている青年が熱で倒れているのを拾ったそうだな?」
「へぇ、それがどうかしやしたか?」
「その前後、田舎の訛りの強い3人組の男達はここへ来たか?」
 言われる言葉に顎をさすりながら考える良造。
「いや、うちの屋台にゃ顔を出しやせんでしたが、向かいの通りのあそこの飯屋に、立派な感じの御武家さんと入っていくなぁ見ましたね、3人組の男ってぇ言うならば」
 訛りは分かりませんが、と付け足す良造に頷くレヴィアス。
「その武家というのは‥‥」
「武家についちゃ俺ぁあんまし詳しくはないんですがね、3人組なら入っていくときと同じようによたよたしながら店を出て来たんで、何となく印象に残ってたんで」
 言う良造に礼を言うと、フォルナリーナはレヴィアスを促して寄場への船着き場へ足を向けるのでした。

●寄場の人々
「莫迦親父、世話を焼かせるんじゃねー!」
 ジョシュア・アンキセス(eb0112)は寄場で手伝いをしている父親を見つけると、お弁当の包みを抱えながらていとばかりに背後から蹴りを入れます。
 一通りやり合った後でぜはぜはとラテン語で口を開くジョシュア。
『江戸に来たばっかりって雰囲気たっぷりの若い三人組、見てねぇか?』
『まだ見ておらんが見かけたら伝えるようにしよう』
 端から見ていれば分からないその言葉で、親子喧嘩の際つい自国語が出たか、とでも言う様子でほのぼのとお茶を啜って休憩に入る周りの職人達。
「もういい、じゃあな」
 言いながらそこを離れるジョシュアは、簡単な道具運びを手伝いながら居れば、何やら救護班の方で騒ぎが起きています。
「おいっ、こいつを早くどっかへ連れてってくれ!」
「突然暴れ出したんだっ!」
「何でよ!?」
「知るかっ、何言ってるか聞き取れねぇんだよっ!?」
 聞こえてくる言葉に様子を覗きに行けば、仮設の治療所で髪を逆立て瞳を赤く染め上げてユキ・ヤツシロ(ea9342)が何やらぶつぶつと呟きながら暴れているよう。
 現場を見れば大喧嘩が高じ、血の気の多い男達は作業中の者を巻き込んで、なかなかの大騒ぎとなっていたようで、救護班の面々は血を流しつつも血の気の多い男達の対処に追われる形となったようで、現場には血溜まりが出来たりしています。
「‥‥くな‥‥死な‥‥い‥‥」
 ぶつぶつと言うユキは、とりあえずジョシュアとすぐ近くでちょうど聞き込みをしていた室川風太(eb3283)が、現場指揮で詰め所として使われている建物へと連行していくのでした。
「何事?」
 そこで宥められるユキを見やりつつ、絵図面でヴァルテル・スボウラス(ea2352)と注意すべき地点を確認していた津村武兵衛が顔を上げば、布に何やら書き付けていたヴァルテルも目を瞬かせてみています。
「どうも多量の血が駄目だったようで‥‥」
 身内にハーフエルフが居るジョシュアは話に聞いている偏見などが頭を過ぎり小さくそれだけ言えば、事情を察したか頷く武兵衛。
「では、奥に有る部屋で少し落ち着くまで休み、その後は血のあまり見えないところでの聞き込みに回っていただこう」
 武兵衛の言葉は比較的あっさりとしたもので一瞬拍子抜けしたようなジョシュアと室川。
 一歩間違えば依頼自体を危険に晒す可能性もある狂化、ハーフでなくともそもそもの信用問題に発展する事も有り得たためなのですが、改方でそれを理由にどうこう言う人間はそうはおらぬよ、と絵図面から顔を上げて言う武兵衛。
「異種族に関しての偏見は知らぬが、ちと人とは違う特徴があるだけ、そればかりはいかんとも出来ぬ」
 そう言って暫くの間、ユキは詰め所で暫くの間休む事を余儀なくされ、一同は見回りに戻るのでした。
 室川がティア・プレスコット(ea9564)と寄場内をヴァルテルの書き付けを手に見て回っているときの事です。
「おう、さっきのお嬢ちゃんは大丈夫かね」
 厳つい男が腕に包帯を巻き室川に尋ねるのに頷く室川。
「血が苦手な人間もいるわな。作業もしねぇで喧嘩なんてと親方にも叱りつけられちまった」
 頭を掻く男にくすっと笑うティア。
「そうだ、御国訛りの三人組を見かけなかったか」
「御国訛りの者はそこそこ居るんだが、3人組はわからねぇな。見かけたら教えるよ」
「頼む」
 作業へと戻る男を見送ると、室川とティアは再び巡回に戻るのでした。

●3人組
「寄場の入口で訛りがある3人組が島内へと入ったって、気が付いた職人さんが伝えに来たんだって」
 ヴァルテルが『その後、一人は器用らしくて建具などの方に回されたとか何とか』と言うのに手がかりと見てジョシュアが顔を上げると武兵衛は頷きます。
「そういえば、今回止めなきゃいけない人たちですけど、人足寄場作りに参加させてあげちゃ駄目なんですか?」
 ふと思ったのか武兵衛へと首を傾げて言うティアに、武兵衛もふと考える様子を見せながら笑みを浮かべます。
「その者等が希望すれば、手は多い方が良い。それに、寄場とはそう言う者達も受け入れるためのものであろう」
「じゃあ、その人達が悪い事をしなければ、ここで暮らせるんですね?」
「まぁ、手に職を付ければ、江戸できちんと仕事に就く事も出来ようし、必要に迫られ道を外す者が減るはお頭の望むところ」
 武兵衛の言葉にティアはほっとしたように笑みを浮かべます。
 その日、それぞれが3人を探しつつなかなか見つからないのに焦りを覚え始めたお昼時、ちょっとした騒ぎがあります。
「全く、半刻毎に作業中断されたんじゃ堪ったもんじゃねぇぞ?」
「むむ、申し訳ないでござる」
 風魔隠(eb4673)が賄い処でここ数日の仕事仲間と談笑していたときでした。
「お、おらたいしだことしてねすし‥‥」
 聞こえてくる言葉にふと目を向ければ、何やら賄いのお手伝いに来ていた八雲がにこりと笑いかけ、それにふるふる震えると脱兎の如く逃げ出す青年の姿が。
「? もしかして今のは‥‥」
 はたと気が付いて隠は慌てて後を追うのでした。
「連日の夜の見回りは、なかなかに身体にくるな」
「大丈夫ですか? お兄様‥‥」
 心配そうに聞くフォルナリーナに頷くレヴィアス。
「お、おら達のこっ捜すでる奴さ‥‥」
 ひそひそと話す言葉にフォルナリーナへと応えようとしたレヴィアスは言葉を止め静かにするよう促します。
「追われてるからとかなんとか‥‥」
 どうやら探し回るときの聞き込みで、『御国言葉の人捜し』で済ませず、追われていて挙動不審でと尋ね回った者がいるらしく、既に二人共追いつめられた様子になってきています。
 聞こえる言葉に、二人で道を塞げば逃げられないと判断したレヴィアスとフォルナリーナはそっと二人組へと近付きます。
「逃げないで、捕まえに来たわけじゃないの。話をちゃんと聞いてくれたら、何にもしないわ」
 話しかけられ真っ青になってふるふる震える二人、手には布と石が握られてい、僅かに油の匂いもします。
「お前達、火付けは大罪、極刑だぞ」
「きょ、極刑‥‥?」
「ほぼ確実に刑場へと引き出され、即刻裁かれる」
「でも火付けをしなければ大丈夫。依頼人はどんな人だったか教えてくれる? 教えてくれたら、凶賊盗賊改方の人がその犯人を捕まえてくれるから、あなたたちが狙われることもなくなるし、安心よ」
「だ、だどもおら達‥‥」
 レヴィアスの鞭とフォルナリーナの飴にびくびくしながら見る二人は身柄の心配もあるのでしょう、目を見合わせます。
「それまでは、津村さん‥‥改方の人が身柄を守ってくれるわ」
 二人は不安げな表情を浮かべ迷っているようでしたが、おずおずと布と石を地面に置いて投降するのでした。

●これから先も
「いや、海にどぼんといったときには焦ったでござるよ」
 隠がそう言うのに温かな粥を賄い処から受け取ってきたジョシュアは布団にくるまって真っ青になって震えている青年へとそれを差し出します。
 にっこりと向けられた笑顔に罪悪感でそこにいられなくなり逃げ出した青年は、追っかけてくる人間が居る事に混乱してしまったのでしょう、裏の船着き場を突破して海へと飛び込んでしまい、お手伝いに来ていたレイナスの舟を呼んで慌てて引き上げたのでした。
 青年は泳げなかったらしく、危うく死なせてしまう所だったのでこちらの青年へのお説教は少し控えられたのですが、残りの二人はいま火を付ければ小火じゃ済まない事などを教えられ真っ青になって項垂れています。
「それにしても、どうするつもりだったのだ?」
 室川が聞けば今日どこか顰める場所を探して、夜に小火を起こすつもりだった事を告げる3人。
「手分けして、3カ所、小火を起こす場所を決めていたす」
「そりゃ、警戒して巡回していない限り、火災は避けられなかったって事じゃねぇか」
 ほっと胸をなで下ろすジョシュアに、申し訳なさそうに小さくなる3人組。
 協力を求めると一も二もなく了承する3人は、武兵衛に寄場に入れる様に平蔵へと掛け合った事を告げ、こってりと絞られた3人組は、ほっとしたように泣き笑いを浮かべるのでした。