人足寄場・現場手伝

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:03月21日〜03月26日

リプレイ公開日:2006年03月31日

●オープニング

「いや、とにもかくにも手が足りねぇんだよ」
 受付の青年にそう話すのは、ちょっと年のいった大工の棟梁。
 その日、徐々に日差しも暖かく、風も穏やかなとある日で、棟梁は困ったように頭を掻きます。
「いやはや、お役人がそこまで動いてくれるたぁ思っても見なかったことなんだが、なんつーか‥‥鬼の平蔵? とかいう近頃名前を聞くようになった、そのお人の指揮の下で、無宿者やら何やらを受け入れて社会に返すって言う、なんでも大それた仕事があってなぁ」
 その平蔵が出入りしているとも知らない為か暢気に茶なんぞを飲みつつがーがー捲くし立てる棟梁はもう少しで二棟、寝泊りできる宿舎が出来上がるとのことを言うと、溜息をつきます。
「どうしたんですか? 工事は順調なんですよね?」
 そう聞く受付の青年に頷く棟梁。
「いや、実はな、これで焼け出されて職を失った者達のためにも今暫くの間は同じように開放されるってんでぇ張り切って皆働いているンだが‥‥」
 そもそもの江戸の町の復興がまだ万全ではない為、どうしてもそちらに手を取られる為、こまごまとしたことにまで手が回らなかったり、賄いを自分たちで作るよりも誰かに作ってもらった方が、とか、内装に手を加えたり必要な物の輸送とか、とにもかくにも手伝いが欲しいよう。
「いや、とにかく、変なのに邪魔されて完成しねぇとかは避けてぇし、宿舎が出来れば実際にそこに入る者達が作業場やらなにやら作るのに、早速技術を教えながら手を増やすことも出来るが、それまではもう、とにかく‥‥」
「手が足りないんですね?」
 どうも口数が多くはかはかせっかちな様子のこの棟梁に笑いながら言う受付の青年。
「おう、兄さん話が早ぇじゃねぇか」
「で、結局具体的に何を手伝えばいいんですか?」
「おー‥‥とりあえず、来てもらって、各自出来ることを手伝って貰えりゃいいんだ。じゃあ、儂ぁ仕事を抜けてきてるんで、これで戻る、宜しく頼むぞ」
「え、あ、ちょっと‥‥」
 受付の青年が止める間も無く依頼料の入った巾着を押し付けて出て行ってしまう棟梁を見送ると、受付の小さく息をつきます。
「ほんと、せっかちだなぁ‥‥」
 言いながらも、受付の青年は目を落として依頼を纏め始めるのでした。

●今回の参加者

 ea2929 大隈 えれーな(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3264 コルセスカ・ジェニアスレイ(21歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8921 ルイ・アンキセス(49歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb2244 クーリア・デルファ(34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb3559 シルビア・アークライト(24歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

七神 斗織(ea3225)/ 十六夜 桜花(ea4173)/ マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)/ ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)/ ナラン・チャロ(ea8537)/ イリーナ・リピンスキー(ea9740)/ 天楼 静香(eb2251)/ 凍扇 雪(eb2962

●リプレイ本文

●建設現場は大忙し
「はい、焦らないでもありますから並んでください★」
 そう言いながら炊きたての飯をどんぶりに装って渡しているのは大隈えれーな(ea2929)。
 その横で新しく炊きあがった浅蜊の炊き込み御飯のおひつをえれーなの元に運ぶ香月八雲(ea8432)は、それを置くとふぅとばかりに額の汗を手拭いで拭います。
「活気があって良いですけど、思った以上に忙しいですね」
 お味噌汁の追加を作るために豆腐へと向き直り、慣れた手つきで豆腐を手の上でとんとんと切るとそれを鍋に入れながら言う八雲。
 始めは4人で始めた賄い準備ですが、コルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)とシルビア・アークライト(eb3559)は、どこぞの現場で起きた喧嘩を止めていたルイ・アンキセス(ea8921)に呼ばれて治療へと向かってしまいちょっぴり人手不足です。
「八雲、手伝うよ」
 そう言って顔を出すのは同じく寄場の依頼を別口で受けた様子のリーゼ・ヴォルケイトスで、お握りの配達を手伝ってくれるとか。
「あ、助かります♪」
 仕事で何度か顔を合わせている2人、えれーなと手分けして作業に当たりますが、ようやく一段落付いたのは既に夕刻、空が茜色に染まる頃、お茶を飲みながら漸く互いに耳にしたことを話し合うのでした。
「じゃあ、これ頼めるかい?」
 船着場で水から上げた木材を台車に載せていた青年が、九十九嵐童(ea3220)と鑪純直(ea7179)に頼むと、力強く頷く純直に愛馬と愛驢馬の首筋を軽く撫でる嵐童。
「‥‥土那土那、出仁露。今回は俺に力を貸してくれ」
「ど、どなど‥‥? で、でにぃろ? なんだか知らないが哀愁漂ってたり妙に渋そうな名前だな」
 目を瞬かせる青年は台車を繋げている嵐童にいうと、純直に向き直る青年。
「済みませんね、うちの親方がこんなこと手伝わせた上に、そんな立派な馬に木材を引かせるなんて‥‥」
「何、某も不動も江戸の復興、日ノ本国の将来の為にと思うは当然の事ゆえ」
 言うと戦闘馬の不動の鼻先を撫で、繋がれている荷を運んで歩き出す驢馬と馬たち、そしてその飼い主はいまさらながらに人足寄場の活気に感心しつつ木材を運搬しているのでした。

●気になる噂と妨害工作
 活気があれば江戸ならば当然起こる喧嘩騒ぎ。
 普段ならばそこまで大事無いのでしょうが場所が拙かった、建築現場のど真ん中。
「おお、凄い痛みが消えたと思ったら傷がなくなってら」
「いでで、嬢ちゃん痛いよ〜!」
 仮設の診療所であちこち入れ替わりに回りつつ人足たちの手当てに走り回っているのはコルセスカとシルビア。
 あまりの忙しさに手近な応急手当がやっと出来ると言う現場の担当に聞けば、いつもに輪をかけて忙しいとの答えが。
「? いつもは怪我人がいないと言うことですか?」
「あぁ、違う違う、今日は何でか喧嘩が多くてね。華と言っても時によりけりだな」
 道具でちょっと怪我をしたという男の止血をしながらコルセスカが問えば、応急手当をしているおじさんの話ではここ2、3日喧嘩で怪我した奴らがちょっと増えていて困っているそう。
「それまでは喧嘩とかはあまりなかったんですか?」
 シルビアが不思議そうに首を傾げれば、ちょうど腕に包帯を巻いてもらった男が頷きます。
「今日のもそうだし、みんな血の気が多いが仕事だってそれぞれ誇り持ってやってる筈だ、普段ならそうそう喧嘩はしねぇよ、現場では」
「でも、喧嘩になっちゃったんですよね?」
「あぁ、誰かが後で仕事にけち付きゃがって、言えばそいつの方が俺にけち付けられたってもう大喧嘩」
 ここのところの喧嘩もどれも同じような理由らしく、流石に可笑しいなとも思ったらしいのですが、何分喧嘩っ早い職人さんたち、ついつい大事になってしまったよう。
「小さな怪我が大きな事故を起こすこともあるんですから無理は禁物ですよ」
 言われて頷き笑って帰っていく男達。
 殺伐とした現場では異国の少女たちの手当てがどうやら励みになったようなのでした。
「当人たちに心当たりのない原因での争いが増えているらしいことと、責任者が代わらなければもっと悪いことが起こるという噂が流されているらしいな」
 2日目の夕刻、忙しく立ち働いていたルイは、島の引き上げ時に息子であり夜間の島内に警備として残る息子へと伝えてから、お手伝いの冒険者はその日最後の船へと乗り込みます。
「それにしても‥‥これで本当に小火でも出たら拙い流れだ」
「小火では済まないだろうな、この風では‥‥」
 嵐童が言えばルイは表情を曇らせて日も落ちた空を見上げ呟くように言います。
「なんだか、寄場に送る前の木材とかを折られたりっていう嫌がらせがあったみたいなのですよ」
「寄場の木材を海へと放り出した輩もいた模様‥‥」
 えれーなが船頭をしていたレンディスに言えば、そう言いながら寄場に残る友人・美琴に愛馬不動を預けた純直が少々心配そうな面持ちで石川島を振り返ります。
 一同がそれぞれ宿へと戻る中、一人宿とは違う道を行く嵐童がそっと辺りを窺い入り裏から込んだのは凶賊盗賊改方の役宅。
「引き上げてくるのが遅かったみたいね」
 そこには既に平蔵と与力の津村、そして寄場について探索している改方面々の姿があるのでした。

●可哀相な男達
「器用な‥‥」
 そう感心するのは純直。
 純直はちょうど親方の指導で板の間の床張りと畳の所を手伝っているところで、得手不得手で一緒に働き口を探しに来た友人と離された様子の、いかにも田舎から出てきたような純朴そうな青年が顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振ります。
「そったらことねす、おらぁお里でちぃとばっか、手伝ったことがあるだけだす」
 照れたように小さく笑って言う青年ですが、直ぐにしゅんとした様子で黙々と作業に戻ってしまう青年に、それぞれとのやりとりで耳に入ってきていた訛りの話が思い当たって口を開こうとした純直ですが、追加の材料がどっさりと届くと作業に忙殺されてしまい、青年を見失うのでした。
「はい、たっぷりありますから、どんどん召し上がってくださいね」
 八雲が楽しそうに立ち働いているのは、修羅場真っ只中の食事場です。
 作業が加速すれば慎重を期していても細かな怪我が出てくるようで、仮設の診療所も賄い処も大変な忙しさです。
 そんな中、賄い処へと人が行っているお陰で比較的すいている木材を加工する場所でかんながけででたかすや木材の切れ端などをルイと嵐童が手分けをして行っていますと、ちらちらと2人組が様子を窺っていて、気が付かれたと見るやそそくさとその場を離れ。
「お、おらたいしだことしてねすし‥‥」
 一緒に仕事をしたらしき人間に賄いの場所に連れてこられ言う青年は、八雲がにっこりと笑顔で声をかけるのにびっくっと身体を震わせると、ふるふると震えてその場から逃げ出します。
「どうかしたのでしょうか?」
 不思議そうに八雲は首を傾げますと、走り去る青年を見送っているのでした。

●完成間近の建築現場で
「あの人、脅されて小火騒ぎを起こさないと酷い目に遭うって言われてたんだそうですよ」
 えれーなが言うと、なるほど、とその日の準備をしながら頷く八雲。
 今日はお手伝い最終日、おおよそ宿舎の二棟が今日で完成するとのことで、まだまだ寄場の建設は終わっては居ないのですが、漸く計画の一つが実現したことになります。
「明日には寄場の建設を手伝いながら手に職を付けるって言う、焼け出された人達が入ってくるそうですよ」
「賄い処の人も、仮設の診療所に入ってくれる方も手配が出来たそうで、一つめの山は越えたみたいですね」
 シルビアとコルセスカも鬼のように忙しい期間が過ぎて漸く一息ついたよう。
「今日こそはこっちのお家の事を見て回ろうかなと‥‥木造建築は珍しいですし」
 少し楽しみな様子で、シルビアは言うのでした。
「落ち着いてお茶でも飲んで落ち着いてから話し合おう」
 そう言って今まさに喧嘩が勃発しようというところに割って入ったのはルイ。
 どうやら作業開始前、ちょっとした雑談から起きたもののようで、割って入られると気まずそうに見る男達。
「しかし、正直頼む人間が少ねぇかと冷や冷やしてたんだが、えれぇ助かったなぁ」
 棟梁も上機嫌に屋根に座って寄場を見渡し、嵐童が屋根に配達してきたお握りを頬張り満足げに言います。
「後は障子と襖を入れれば完成か?」
 既に畳を入れ小さな箪笥などが備え付けられた宿舎は、その側にも長屋の様な住居群が増やされるそうで、純直の言葉に頷く職人さん。
「今日の午後には寝具やら衣服が運び込まれることになってるそうすよ」
 職人さんが言うのに頷くと、ふと海へと目を向ける純直。
 ふと見れば人足達を乗せた舟とは別に、船をゆっくりと漕がせ煙管を燻らせながら寄場へとやってくる長谷川平蔵の姿が見えます。
 見られていることに気が付いたか、軽く塗り笠を上げてみせる平蔵に一礼をする純直。
「ようやっとここまで漕ぎ着けられた。まだまだ先は長いが、皆、宜しく頼む」
 船着き場に着いた平蔵が言えば、職人達も一同も揃って頷き、寄場全体に心地好い活気が広がっていくのが感じられます。
「さて、今日も一日、頑張りますよ★」
 えれーなが言うと、各々も最終日の手伝いの為、再び寄場のあちこちへと散っていくのでした。