人足寄場の怪?
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:7〜11lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:9人
冒険期間:03月23日〜03月28日
リプレイ公開日:2006年04月04日
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●オープニング
「この季節はずれの時期に、とは思うのだが‥‥」
そう言って幾分か大人しい様子でギルドの入口を潜って入ってきたのは木下忠次といい、凶賊盗賊改方の同心で、腕は立たぬが愛嬌で渡っているともっぱらの噂の御仁。
どうも長官である長谷川平蔵に懐いてはいるのだが、つい先日こっぴどく叱られることがあってから、盗賊探索から外されて平蔵の手伝いを、平蔵の目につかないようにとびくびくしつつしているそう。
「その、お頭が人足寄場とかいう大きな仕事をされておられるのだが、どうにもこうにもその寄場の周りに、出る、というのだ」
これが、と手首をだらんと垂らし縦に並べて青い顔をする忠次。
「それをこう、外出の際に一緒に行動をしていた伊勢さんに言ったら、忙しかったどうか知らぬが笑いおってな、『お前、気になるならその噂を解決すればいいじゃないか』とか何とか、そのまま仕事に戻ってしまってな」
どうにも普通の探索へと戻して貰いたくともこっぴどく叱られた手前、ただお伺いを立てることも出来ず、もしかしたらそれを解決すれば声をかけて貰えるかも知れない、忠次なりに考えた結論のよう。
「かといって、忙しく走り回る伊勢さんに手を借りるわけにもいかぬし、困ってしまってなぁ」
「それでギルドへといらした訳ですね」
依頼を纏めながら言う受付の青年にがばっと頭を下げる忠次。
「頼むっ! 何とかお頭のお怒りを解きたいのだよ、この通りっ!」
別にもう怒ってないんじゃないかと言いかけつつも、珍しく必死の様子の忠次に言葉を飲み込むと、頷く受付の青年。
「で、具体的にはどんな噂が?」
「ふむ、こう、夜間に島の周りを人魂が、とか‥‥」
「そう言えば、船着き場の舟が夜になくなって朝に戻るとか言うのがありましたねぇ、私も近くの飯屋で聞いた気が」
「なんというか、お頭が恨みを買いすぎているから、寄場の長官は不吉だのという噂まで有るようで、全くけしからん話ではないか」
「‥‥‥‥なんか、妙な感じの噂ですねぇ」
「そこが気になるんだよなぁ‥‥まだ、船頭達とかの間で出て居るぐらいだから良いものの、人魂や舟が無くなると言った話から何故お頭へと話が飛び火するかが‥‥」
そう言ってから、受付の青年を伺うように見る忠次。
「その、何とか、頼めないか?」
ちょっと青ざめたその表情から、ちょっとだけ人魂のことを信じている様子が窺えるのに小さく笑うと、受け助の青年は依頼書へと目を落とすのでした。
●リプレイ本文
●春先の怪談話?
「夜に現れる人魂と、消える舟‥‥ただの悪戯ならいいんだけど」
エレオノール・ブラキリア(ea0221)が言うと、ぞくっとしたように身体を震わす改方同心・木下忠次。
「忠次様がなにやら困っているようですね何かの縁ですしお手伝いを思いましたが‥‥それにしても殿方がそのように臆病なことでどうしますか」
青ざめて引きつった笑いを浮かべた忠次にぴしゃりと活を入れる嵯峨野夕紀(ea2724)も、顔見知りだからこそ言える部分もあるわけで。
「人為的な臭いがしまくりだと思うがね‥‥夜に船が無くなっているのは人が使っているからで、人魂は松明の明かりか何か‥‥」
ふむ、とばかりに考える様子を見せながら言う浦部椿(ea2011)に縋るような視線を向ける忠次、椿は忠次へと目を向けるとにやりと笑います。
「‥‥そも、人魂とは赤く光らず青く光るモノだ‥‥」
想像してかげんなりとした表情の忠次に、ふと首を巡らしてアルバート・オズボーン(eb2284)は口を開きました。
「忠次は飯屋で噂を聞いたと言っていたがどの辺りでそれを聞いたか聞かせて貰えないか?」
言いながら立ち上がるアルバート。
「? どちらへ?」
「手分けして聞き込んだ方が早いだろう。それにもうそろそろ昼時、噂を流すにはもってこいの時刻だろう」
言われて慌てたように立ち上がる忠次を連れて、アルバートは聞き込みへと出かけていくことになるのでした。
そのころ、不破斬(eb1568)は補助の湯田と共に子供達相手にお菓子を配って話を聞いているのですが、なかなか芳しくない様子。
「おいら達、夜中に船を勝手に使ってもどうにもならないしな」
時折船に潜り込んで眠ってしまう、家のない子供達もいるにはいるそうなのですが、わざわざ船を出す理由はないとのこと。
「噂の真相が子供であれば、真に解決すべきは尾ひれを付けた者の調査と思ったのだが‥‥」
不和は考え込むように呟くのでした。
●噂の現場
「やっぱりあの噂は長谷川平蔵さんへの恨みがあるよね」
プリム・リアーナ(ea8202)がそう言いながら長谷川平蔵への恨みを調べていくと、ほぼ9割方が盗賊で、残りは妬んだ旗本などが陰口を叩いているというのはありそうとのこと。
「具体的には2人程、旗本の名が挙がっているらしいけど」
忠次に聞けばそう帰ってくる平蔵への妬みの話、そちらに絞って聞けば、ここのところこの付近でそのうち片方の旗本の兄弟が揉めていたのを見られていたなどと言ったことが聞くことが出来るのでした。
「船を漕ぐ音とか小さな足音などか‥‥実は子供の仕業とも考えられるが‥‥」
言いながらもフィル・クラウゼン(ea5456)は首を捻りつつ、船着き場付近の河原などを見て回れば、草の陰に幾つかの大人の足跡が、長時間そこにいたのを伺わせるように残っているのに首を傾げます。
それと同じ頃、一緒に現場を見に来たルーロ・ルロロ(ea7504)は飛行箒で上空から見て回れば、ちょうど噂の人魂が浮いていたという辺りは石川島と陸の中心当たりか、少し石川島よりらしく、特に石川島に上陸するにも乗り付け口は少ないためルーロは首を傾げます。
「はて、なんぢゃろうの?」
島の周りを船はうろちょろするだけだったというのがわかり、戻ってきてフィルと話すルーロ。
「長谷川様が外された場合、後を引き取るのは‥‥難しいところですね、継ぎたいと考えている人間ならば心当たりはあるのですが」
改方の同心にエレオノールが尋ねれば返ってくるのはそう言う答。
寄場に出向いて話を聞いていたエレオノールと夕紀は、平蔵が責任者だから、と言う噂の元を辿っていくと、とある武家の家人へと辿り付くこととなり、確認の意味も込めて尋ねていたのでした
「それは‥‥吉溝か彦坂とかいう旗本のことかしら?」
「吉溝様の方は、申し訳ないですがそれほどのことは出来ないでしょう」
「その場合は、彦坂?」
「そこが難しいのです、少なくとも彦坂の当主は納得できるのですが、あそこは次男が事件が発覚した場合などと言った計算をして当主を止めるとお聞きしていましたから」
言う同心に首を傾げる夕紀。
「では、そのお二方のどちらかになる可能性はどうなのですか?」
「恐らく、上のことはわかりませんが、いろいろと働きかけているそうですから、ほぼこのお二方のどちらかで決まりだと思われますね」
そろそろ夕刻、同心へと礼を言って仲間の方へと戻れば、妙に改方の動向を尋ねるルーロをとりあえず置いておいて、一同で情報の確認を行うのでした。
「先だって武家の者が田舎より出てきた者を脅して火付けをさせようとしていた件があったらしいな」
椿が言ってその人間が現在改方与力の津村武兵衛の預かりになっていることも話すと、ほぼ平蔵失脚を狙ったのは彦坂であることが濃厚だと判断する一行。
「しかし、飯屋で聞き込んだところ、逆に噂は噂として、彦坂家当主の弟が邪魔をすると当主の家来が話していたと言うのを聞いたのだが‥‥」
そう言うのはアルバート。
アルバートの話では、偉く酔って豪勢に飲み食いをしていた武家の家人が人足に紛れ入り込めないからと船を盗んで石川島へと近づこうとしたのに船がなかった、などと言った話が上がっているそう。
「ちなみに、俺の昼食はかけ蕎麦だったが‥‥」
「ほ、本当に、これ‥‥」
手をだらりと胸の前でたらして言う忠次に、凍えるような目つきを投げかけてから、夕紀は口を開きます。
「では、人を使っての火付けが失敗した場合、自ら動く可能性はあるんじゃないでしょうか?」
夕紀の言葉に頷く椿。
「しかも、寄場は既に宿舎が二棟開放され、今後次々と施設が出来上がる。やるならばそれこそ、今日明日‥‥」
椿の言葉に一同は、夜間の見張りの打ち合わせをするのでした。
●船泥棒の正体は
夜も更けた頃、船着き場の近くで身を潜めているのは椿と不破。
アルバートとルーロと交代し、2人は直ぐ側にある小屋で仮眠を取っています。
「‥‥だいぶ張り込むのに楽な季節となった」
微笑を浮かべて言う椿に頷くと、不破は辺りを確認しながら口を開きます。
「船に乗り込もうという者の方を優先するぞ。場合によっては二組来る可能性があるからな」
「‥‥噂をすれば、と言う奴だな」
見れば微かに聞こえるか聞こえないかの足音共に滑るようにやってくる黒衣の男が3名程、船へと歩み寄り、船を纏めて引けるようにと綱に手をかけます。
「はっ!」
そこへ一閃、船の上に立つ男へと衝撃波を叩き付ける椿にもんどり打って倒れる男と、一瞬にして駆け寄る不破に得物へと手をかけようとして間に合わず打ち込まれる二人目の男。
「ま、待て、なんだお前達は‥‥」
言いかける男に、船着き場へとわさわさと近づいてきた足音もぴたりと止まり、こちらは頭巾を被り顔を隠したいかにも武家と言った男達が立ち止まると蜘蛛の子を散らすようにばらばらに逃げ出します。
「‥‥目的は達したが、折角の所を‥‥」
悔しそうに言う男にぎっときつく睨め付けると、不破と椿は唯一無事な男を促し、近くの小屋へと3人を引っ張り込むのでした。
●人足寄場とお家騒動
「‥‥そこまでわかっているならば話は早い、私はその彦坂家の次男に仕える者達です」
一同で取り囲み調べた事柄を突きつけると、微妙に態度を和らげながら言う男。
男の話では、家を守るために長兄の暴走を、差し障りがない程度に止めることをするようにと指令を受けていたとのこと。
「この度のようにしびれを切らして火付けを、などと大それた事をされれば、それこそお家自体が大変なことになります。それを我が儘に育ったせいか、現当主は理解せず‥‥」
微妙に口っぽくなる男は、最初の時の船がなくなるというの時も先手を打って石川島に近寄り火を放つのを妨害するために動いていたとか。
「まさか、噂になっているとも思わず」
ちょっぴり隠密が得意な部下達というわけで、普段から町人達が好む店に直近寄らないためか、考えも及ばなかったそう。
「当主の行動が公になればお家は取りつぶされ、大勢の者が路頭に迷います。なので、どうか穏便に‥‥主人と相談して、近日中に主人が凶賊盗賊改方に事情を説明させて頂きますので、どうか、何卒!」
そうやって必死に頭を下げる男に顔を見合わせる一同。
必死な様子の男達に、忠次は一同に付いてきて貰えるように頼むと男達を連れてそっと裏口から役宅へと入ります。
「伊勢さん、お化けの正体を突き止めましたよ」
少し誇らしげに言う忠次にほう、と目を細め一同に目礼をする同心の伊勢ですが、ルーロが役宅内を伺うように目を彷徨わせるのに軽く刀を鳴らし。
「お頭はまだ起きておられる、直接中庭の方へ連れて行くと良いだろう」
言いながらもルーロを警戒して中庭へと少しはずんだ足取りで行く忠次は、中庭まで来るとそれまでの元気がしゅんと萎んだよう。
「お、御頭はまだ怒られておるだろうか‥‥それとも、わたくしのことなど見向きもされないのでは‥‥」
「殿方が泣き言を言うものではありません。しゃんとしなさい」
夕紀に言われれば情けない顔をする忠次に、低く聞こえる笑い声。
「こいつがまぁた、厄介をかけたなぁ」
ゆったりと廊下を歩いて姿を現す平蔵に、慌てたようにはいつくばる忠次。
「奥が今茶を用意しておる、上がられよ」
そう一同を促すと夕紀へと向き直る平蔵。
「こやつには良い薬だ、もっとぴしゃりと言ってやれ」
そう笑い、一同の報告を茶と酒を出して聞くと、ゆっくりと頷く平蔵。
「ふむ、ようしてくだされた。寄場は責任者が誰であろうと構わぬ。が、あれを必要とする者はいる、燃やされてはかなわん」
そう言って煙管に手を伸ばしゆっくりと火を入れ燻らせると、平蔵は一言だけ、忠次に言います。
「兎、明日からまた伊勢と組んで市中を見回るようにな」
その言葉に忠次はみるみる顔を涙でくしゃくしゃにし、また、夕紀や椿にしゃんとするようにと言われるのでした。