【拐】狐狸の医者
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月30日〜04月06日
リプレイ公開日:2006年04月11日
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●オープニング
その日ギルドへと連れだってやって来たのは比良屋の主人と気の弱そうな立派な身なりの商人、そしてまるで保護者のように2人の後について入ってくる丁稚の少年・荘吉君の3人です。
よく見れば、気の弱そうに見えるその様は、顔を真っ青にし悩んだ末での衰弱とわかり、お茶を入れてとりあえずは座って落ち着くことを促す受付の青年。
「ここのところ世間様を騒がせている、若い娘の拐かしについてはお聞き及びと思いますが‥‥」
そう口を開く商人に目を瞬かせる受付の青年は頷いて見せます。
「身分の良い娘さん方が、出かけた先で行方知れずになっているという、あの?」
「‥‥家の娘も、つい3日前‥‥」
そこまで言ってわっと泣き伏す商人を、比良屋が宥めている間に、荘吉君が口を開きます。
「実は、それに関して家で働いているお弓さんが気になる話を聞いたそうで‥‥」
荘吉が説明するところに寄れば、お弓はお休みを貰ったつい先日、煙草屋へ御店のいつもの煙草を買いに行きがてら、そこの文吉という青年と飯屋で談笑していたそうで、そこで聞こえてきた会話に思わず耳を欹てたそう。
「では、どうやら娘さん達を攫った者達らしいと?」
「はい、どうやら浪人者達でお弓さんが話を聞いている事に気付きかけたらしいので、気にはなったものの文吉さんにも後を尾けるのをやめさせて急ぎ戻り旦那様に伝えまして、盗賊とも違うし‥‥」
「奉行所は私ども夫婦、もう‥‥」
どうやら拐かしかどうかもわからない、遊び回っていたふしだらな娘だったのでは、と話を聞いた役人に言われてすっかり奉行所への苦手意識を持ってしまったよう。
「かといって、改方とも管轄が違うかと思い‥‥」
そう言う比良屋主人、相談を受けて冒険者に頼むことを思い立ったようで、こうして連れ立ってやって来たとのこと。
「そこで、冒険者を二組、頼みたいと思いまして‥‥どうか、お願いできないでしょうか?」
「まず一組目には、娘さん達を助けだして欲しいんですよ」
そう言うのは比良屋主人。
「探索と救出は一緒じゃ無いんですか?」
「一緒は一緒なのですが、こちら急がなければ娘さん達は売られていってしまうんですよ。なので、娘さん達の救出をまず最優先にお願いしたいんです。
詳しい話を促すと荘吉が話し始め、その話の中でお弓が聞いた娘さん達をどこぞの医者に引き渡したような話をしていたこと、その辺りに当てはまるような金持ちの医者と言えば、2人思い当たるそうで、1人は出原涼雲といって抜け目ないまだ若い医者で、狐のような涼やかな顔つきで金持ちの武家を相手にすることが多いそう。
もう1人は初老の穴守升庵と言って食えない性格から狸と呼ばれることも多々ある、金持ち商家相手の医者です。
「じゃあ、そのどちらに娘さん達がいるかを調べて‥‥」
「助け出して頂けますと‥‥こちらは売られてしまう可能性がありますので急ぎでお願いしたく。証拠があれば役人へと突き出すことも出来ますし」
そう言うと、荘吉はまずは一つ、お願いしますと頭を下げるのでした。
●リプレイ本文
●原出の狐
「あたいはこれでも一応女性だからな。腕の良い医者に頼んだほうが治りも早いし、痕も残らないと思ってね」
「女性であることは見れば分かるのだが」
涼やかな狐の表で少々嫌みを込めた言い方をする出原涼雲を前にして、わざと火傷して見せた左腕を見せるのはクーリア・デルファ(eb2244)。
「それで出原先生が良い医者だと噂を聞いたのだが、お願いできないか?」
「‥‥ほう、良い医者、とな‥‥とすれば勧めた人間は、さぞ、私におべっかを使えば機嫌良く見てくれると言ったと思える‥‥」
すと目を細めると席を立ち、幾つかの薬草を擂り合わせ少々匂いの強い液体へと浸した薬草を取り出すとそれを合わせながらも可笑しげに低く笑う涼雲。
「ま、世辞と分かっていても悪い気はせぬが、わざと手を焼いて楽しいかえ?」
一瞬顔色の変わるクーリアにさも可笑しいとばかりに笑うと火傷をした手に先程の薬草を張り付け包帯を巻く涼雲。
「ま、商売敵かそれ以外か、ようは知らんが大概無茶をするお嬢さんだ」
「涼雲先生、足を捻ったという異国のお客様が‥‥」
「今日は異国の方が多いようだな。存外、冒険者達の客が増えることになると良いが、あっさりと寺などで治してしまわれるそうだからなぁ」
リフィーティア・レリス(ea4927)を連れた涼雲の弟子の青年が声をかければ2人に聞こえる声で言う涼雲。
「舞の稽古をしておりましたら足を挫いてしまいまして‥‥‥」
涼雲の言葉にそしらぬ様子でそう告げれば、患部をといわれ見せられた足首に軽く首を捻り手で幾つか触って痛みを確認する涼雲。
「ははぁ、先程のお嬢さんと同じですかえ?」
そう言ってくすりと笑う涼雲、リフィーリアに向かって口を開きます。
「うちは仕事柄、どこぞの医者と違い高価な傷の手当てなどに使う薬が多く、どうしても護衛が必要なんですよ。何か疑われているというのならば、うちの用心棒なり、役人なり付きで、いつでも屋敷内をご案内しましょ」
そう言うと、足は大丈夫ですよ、と言って、次に来ていた武家を呼びに行かせるのでした。
「しっかし、どうすりゃこんな‥‥医者ってのぁそんなに稼げるもんなのか?」
長里雲水(ea9968)が聞けば、荷は付きそう青年へと持たせ、診療道具の入った容れ物は自身で抱えている涼雲は軽く振り返ります。
「高価な薬を仕入れ保存するにはそれなりに金はいるもの。金を持ち実益を重んじる武家を主としてやっていけば私の名も売れようというもの。詰まるところ、持っているところからはたんと貰えばちょうど良いと言ったところか」
飄々とした様子で言う涼雲は、金より何より名が欲しいのさ、とあっさりと言います。
「‥‥元は武家か?」
ふと足運びなどから長里が聞けば、涼雲はただにやりと笑って返します。
「屋敷内の評判も悪くはない、蔵の中身も殆どが薬品か金箱で、地下も薬品が保存できるように手を加えられていただけ?」
あの性格で狐と言われて疑われたのだろうな、と長里は何となく納得をして苦笑するのでした。
●穴すむ狸
石動悠一郎(ea8417)は穴守升庵というこの初老の医者に対して、不快感を感じるのをぐっと押さえ込んでいました。
升庵の人となりは、表では人徳ぶっている物の、何人も酷い目に遭い嫁に行けない状態でお里に帰された娘もいるとか、とにかく酷い物でした。
「ほっほっ‥‥精が出ますの」
空き時間に木を削れば顔をだす升庵に頷き手元の飾りへと目を落とす石動に満足げに頷き立ち去る升庵は、金持ちの商家から呼び出しが来るまでは家でこうしてだらだらと暮らしているそうで、呼び出しがあれば、金を積ませて駕籠の迎えを寄越させて出るという傲慢なもの。
「‥‥あの者達は?」
「用心棒先生達と同じ、お金を守ってるんじゃないかね」
やだやだ、とばかりに首を振って言う下働きのおばさんは、石動へと言うと、ああはなっちゃいけないからね、と言います。
「お給金がいいし代わりも居着かないからどうしても辞められないんだけど、あたしゃもうこんな屋敷は嫌だよ」
そう言うと、おばさんは厳つい男が来客を告げるのにぱたぱたとかけていくのでした。
「絵というものは良い物じゃ、後で価値が出る、ほっほ、つまりおぜぜになるんですよの」
嵐山虎彦(ea3269)が甲斐さくや(ea2482)を伴って現れたとき、広い屋敷に驚くほど少ない手の人間があくせく立ち働くのを見て怪訝な思いをしていましたが、それもこの升庵という人間を見ていると分かる気がしてきます。
『何でござるか、この妙な狸の置物はっ!?』
『‥‥凄ぇ同感だがまぁ突っ込むな』
ひそひそと思わず囁きを交わす嵐山とさくや。
「ん? なにかの」
「あぁ、こいつが後架をお借りしたいと‥‥」
「‥‥‥‥さよか、誰か、新入りの先生に案内してもらいなされ」
言って早速絵の値段の交渉に入る升庵と嵐山、これが怪しまれないように程良い値段で提示すれば、ごねるごねる、何かと理由をつけて値段を引こうと粘るもので、さくやが戻らないのにも気がつかず、根負けしたように嵐山が値段を引けばさよかさよかと上機嫌で頷きます。
さて、さくやが部屋を出ると、呼ばれたのは石動。
とりあえずは下働きの女性に呼ばれたので辿り着いたようですが、呼ばれて道を逸れていきかけたのは秘密のようで。
「あそこだ、ここで雇われているとも思えないような者達が出入りしている蔵って言うのは」
「‥‥露骨に怪しいでござるな‥‥」
「中心になっている様子の奴が、何人も殺していそうな面構えだからな。実際、昼間は近付かない方が良さそうだ」
騒ぎが起きる可能性もさることながら、その男の様子が気にかかったのかそう言う石動に頷くさくや。
「後で分かったことは‥‥」
「分かっている、例の宿で」
さくやは間取りと裏口の位置などを確認して戻ると、なにやら珍しく疲れた様子の嵐山と、値引き交渉が成立してほくほく顔の升庵の部屋へと戻ってくるのでした。
「一度あの辺りで若い娘の姿が見られているらしいな」
アザート・イヲ・マズナ(eb2628)が言うと、何かを思い出したのか小さく息を吐きます。
「それにしてもあの出原涼雲とか言う医者は食えないな。尾行もずっと気づかれていて、それでいてそ知らぬ振りをされていたのだからな」
その言葉に頷くのはクライフ・デニーロ(ea2606)。
「所の評判が悪いわけではないようですしね。ただ、得体が知れないというか‥‥」
「見透かされている気がしたな、あたいは」
喜ぶこととか分かりやすいんだけどなと付け足しながら入ってくるクーリアに、次いでリフィーティアも戻ると溜息をつきます。
「物事に無関心に見えて、細かいところまで見られている。出原はどうもそんな感じの人間らしい」
「穴守先生が怪しいって言ったら急に妙にからかうのをやめてきたな」
リフィーティアが言うのにクーリアは不思議そうな表情でそういいます。
その後でクライフも尋ねて行き、人身売買にまで関わっている事に涼雲は珍しく怒りをあらわにしたとか。
「涼雲さんは救出した際の、役人が来るまでの間の保護など、協力を約束してくれました」
役人たちが必要な場合には用心棒に呼ばせてくることなども快く引き受けてくれたそう。
「まぁ、それでなくともあの医者たちの相性は最悪だったようで」
「狸は確実に効果のある武家を瞬く間に客に取り込んでしまったわけだし、狐は実がないのに名のそこそこ売れている狸が気に食わないと」
笑いながら戻ってくる嵐山とさくやに顔を上げる一同。
「異常なまでに屋敷に泊めるのを嫌がったので戻ってきたが‥‥石動が用心棒として入り込んでいるからな」
「間取りも大体覚えたでござるよ」
嵐山とさくやが言うには、奉公人が寄り付かないため、口入屋に口を利いて貰ったところ、二つ返事で石動は雇われたとか。
「遅くなって済まん」
そして、当の本人があちこち迷いながら漸くその宿へと屋敷の見取り図を持ってきたのは、既に夜も深けた頃だったのでした。
●救出
3日目の夜半、一行は辺りが寝静まるまで出原涼雲の屋敷で約束の刻限が来るのを待っていました。
「ふむ、火傷はそちらが治されたのかえ」
クーリアの火傷のあった場所を見て言うと、刻限が来たのに立ち上がる一同。
穴守の所へと入り込んでいるのは石動だけでなく、既にさくやも入り込んで刻限まで身を潜めています。
既に夜も更け、この季節にしては冷え込みが厳しくなったその日、その刻限、さくやはそっと蔵へと寄れば、見張りの男達が蔵の見える縁側で酒盛りをしてます。
主格の男は別室で休んでいるのをさくやは既に確認しており、そっと忍び寄ると風上からそっと眠りへと誘う香を使えば、たちまち酒もあってか眠りに落ちる男達。
「‥‥さ、こっちだ‥‥」
同じ頃、裏口の閂を開けて一同を中へと入れると、見取り図で確認しながら蔵へと向かう嵐山とクーリア。
と、正面入口の方が俄に慌ただしくなってきます。
「なっ、何奴っ!」
屋敷内を徘徊していた浪人が気が付き入口へと駆けつけると、そこでは正面の門を守っていた一人が氷付けになって佇んでいるのが見えます。
見れば直ぐ側にはクライフの姿が。
「はっ!」
そこへ躍りかかるように現れるリフィーリア。
すかさず中へと入り込む長里に、どたどたと起きだしてくる主格の浪人と取り巻きらしき男、そして、穴守升庵の姿が。
「きっ、貴様等、何者だっ!」
耳障りな声を発し駄々っ子のように浪人達をけしかける升庵に、長里はにやりと笑い刀を構えるのでした。
「大丈夫でござるか‥‥? 助けに来でござるよ」
囁くように言うさくやに、蔵の地下室に閉じこめられていた娘達がびくりと震えて片隅にうずくまりながら見上げます。
「おい、甲斐いるか?」
と、入口からは嵐山の声が。
「ここで来ざる、ここの鍵がちぃと、錆び付いていて開きにくいでござるよ」
さくやが答えれば、問答無用に地下室への鍵を打ち壊すクーリアと嵐山。
むしろ粉々になる地下室への扉。
「そんなに派手な音を立てては‥‥」
「外にいるやつぁふん縛ったし、今頃表で大騒ぎよ」
「さ、今のうちに、お嬢さん方」
石動が声をかけ、粉砕された戸に唖然とする娘さん達に手を貸して次々と外へと誘導する一同。
「すぐそちらに行けば出原先生の屋敷だ、それまで頑張ってくれよ」
娘さん達を励まし、クーリア、嵐山、さくやに後を任せて屋敷へと戻る石動。
「こっちは済んだ、早く片を付けてくれ」
戻り言いかける石動の前には打ちのめされ、憐れに震える穴守升庵と、アザートの前に転がる取り巻きの浪人達、そして、手傷を負いながらリフィーリアと睨み合う主格の浪人。
「き、きさま、わ、わ、わ、儂を騙したのっ!」
「あ? 騙した? じゃあ俺らは狢だったって事だな」
からからと楽しそうに笑う長里は、浪人相手に持ちこたえているリフィーリアへ助勢に入り、鋭い一撃が主格の男の手を落とすと、男は刀を落とし倒れ伏します。
「男なら良い意味でお嬢さん方の注目集めなきゃ、男が廃るってもんだ。ま、お嬢さん方をこんな風に扱う、お前らにゃ分からんか」
じろりと睨み付ける長里にひぃ、とみっともない声を発して意識を失う升庵。
アザートは何度も呼吸を繰り返すと、目を伏せるのでした。
●その後
助けられた娘さん達は10人にも及びました。
それぞれが裕福な商家の娘さん達で、彼女らが拐かされる前に、既に2人の犠牲が出てしまっていたよう。
その娘さん達の行き先は、比良屋が昵懇にしている凶賊盗賊改方へと話が行ったそうで、升庵も主格の男も、そして、拐かしを実行していた者達もそれぞれきつい責めを受け全て吐いたそう。
すっかりとやつれ果てた娘さん達は、親元に戻り、暫くの間涼雲が往診に行って様子を見、次第に少しずつ日常へと戻りつつあるそうです。
「いやいや、本当に助かりました。これで少しはほっと安心できるんでは無いでしょうかねぇ‥‥」
そう礼を言う比良屋主人。
風の噂では、さらに暫くして、売られて行ってしまった娘さんも親元へ、涼雲医師に治療を受けながら暮らしているそうなのでした。