珍道中

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月04日〜08月11日

リプレイ公開日:2004年08月13日

●オープニング

 涼やかな風の吹く夕暮れ時、長身の青年に手を引かれてその異国の少年はやって来ました。夕日を映して輝く銀色の髪に、きらきら金色に輝く瞳で興味深げにギルドの中を見渡す、10代半ばの小柄で愛くるしい少年です。
「申し訳ない、ここで、酔狂に付き合ってくれるような‥‥いや、その、護衛として雇われてくれるような人間は居るだろうか、その、物凄く些細なお出掛けで、なのだが‥‥」
 少年の手を引いた青年がギルドの人間に、歯切れ悪くそう聞いています。話を聞くと、2日ほど行ったところにある村に、薬草を摘みに行きたいのだそうです。
「どうしても、この子が私と一緒では嫌だと言ってな‥‥」
「少し調子悪いおとーさんの看病、おにーさん、一緒に行ったら出来ませんですよ」
 まるで抗議するかのように頬を膨らませる少年。近頃の暑さでバテている、義理のお父さんが元気になるように薬草を摘みに行きたいというのがこの少年の希望のようです。
「あぁ、この子は私の年の離れた兄‥‥冒険者だったのだが、数年間異国に冒険に出かけていて、その先の国で1人になってしまったこの子を引き取ってきたのだ。‥‥先日、数年ぶりに戻ってきたのだが‥‥あの月道というのだったか? あれを使って。‥‥とても高価では有るが、それだけこの子を向こうで可愛がっていたらしく、少々無理をして連れてきたと‥‥そのためか、この子はこの国のこととか、言葉以外は良く分かっていない。なので、この国に慣れる為にも、あちこちを見ながら薬草を採りに行くのは賛成なんだ。賛成なんだが‥‥」
 そう言いながらも、青年は手を握っている異国の少年を心配そうに見ています。
「はいっ! おとーさんとおにーさんに甘えないで、頑張ってこの国に慣れていきたいですよ。なのでなので、おとーさんの為にも薬草を摘みに行きたいですし、一緒にジャパンのお勉強をしに行きたいのですよ! 一緒に行って下さる方、歓迎中なのですよ♪」
「‥‥‥その、少し変わっているから、それが心配で‥‥知らない人にもついて行ってしまいそうで‥‥申し訳ないが、誰かついていってくれないか? 費用はこちらで負担するから‥‥」
 にこにこと嬉しそうに言う少年の横で、胃の辺りを空いている手で押さえながら、青年はそう頼むのでした。

●今回の参加者

 ea1171 平 白龍(44歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea1947 王牙 黒龍(30歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4387 神埼 紫苑(34歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea4811 江田島 平八(33歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea5040 蒼真 静(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5737 形刃 月華(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発なのです!
 一行は出発日を一日ずらして、万端の準備を整えて出かけることにしたようでした。
形刃月華(ea5737)は少年を連れて、ジャパンについての調べ物をしています。
「僕の国では、この薬草とかはごく普通にお湯でぐつぐつして飲まれていたなのです♪」
 嬉しそうに金色の目をきらきらさせながら、ジャパンにある薬草についての文献を探している少年と、それを見守る月華。義父に教わった文字で、何とか時間をかけて読みながら、取りに行く薬草の他にも、煎じての飲めば良いと言う薬草を確認して、少年は嬉しそうです。
「ジャパンってなんだか面白いなのです♪」
 ついでにとジャパンの歴史などが書かれた文献にも目を通して、難しくて読めないところは、絵図で見て興味津々で眺めています。
 一通り読んでから少年を一旦家へと帰す月華。研ぎ直しに出していた日本刀と短刀を受けとって家へと戻ると、荷物を確認してから、万が一に備えての鍛錬をするのでした。
 次の日、少年とギルド前で落ち合います。少年は依頼しに来たときに一緒だった青年に付き添われてくると、一行にぺこっと頭を下げて、嬉しそうににこにこと笑います。
「皆様、宜しくお願いしますなのです♪」
「‥‥宜しくお願いします、だ‥‥。ですますの後に更に『なのです』は付けなくて良い‥‥」
「はいっ♪」
 蒼真静(ea5040)の言葉に、元気よく頷く少年。
「では、数日の間、この子を宜しくお願い致します」
 そう心配そうに言う青年に見送られながら、一行は出発しました。

●僕の言葉、可笑しいなのですか?
 江田島平八(ea4811)の提案で、少しゆっくりに旅の行程を楽しみながら進む一行。
 江戸を出てのんびりと歩いていると、少年は辺りを見渡してきょとんとした顔で道の両脇を眺めています。
「ね、あれはなになのですか?」
 少年はすぐ隣を歩く島津影虎(ea3210)の服の裾をきゅっと握っておずおずと小さく聞きます。少年が指す方向には、一面田んぼが広がっています。
「あぁ、あれは田んぼと言って、お米をお百姓さんが作っているんですよ」
「お米って、あの、白くてほかほかの食べ物なのですよね?」
 そうですよ、と頷く影虎。少年はちょこちょこと道の脇へと寄っては田んぼを眺めたりして、嬉しそうににこにこと振り返ります。
 ちょこちょこと先に進んだ少年は、ふと通りかかった林にある小さなお社の前で目を瞬かせました。
「‥‥それはお稲荷様だ‥‥」
「お稲荷様って一体なになのですか?」
「この場合は『なんですか』のほうが良いと思うぞ‥‥」
「お稲荷さんというのは、五穀を司る神様を祭ってあるんですよ。そのお使いが狐と言われているから、ほら、狐の彫り物が置いてあるでしょう?」
 蒼真が言うのに影虎がそう言ってお稲荷さんの補足説明を行います。少年は、大きな目をきらきらさせながらお稲荷さんを見てにっこりを笑います。
「神様には、手を合わせるのだと、おとーさん言ってたです♪」
「‥‥お父さんが言っていました、だ‥‥」
「はい、言っていました〜♪」
 万事この調子で意気の行程は進みます。
「僕の言葉、可笑しいなのですか?」
「‥‥あぁ、もっときちんとした言葉を覚えた方が良い‥‥」
「そうですね、言葉がと言うより、言葉遣いが少し違いますから、これから慣れていきましょうね」
 一日目の晩、着いた宿場町で取った旅籠の部屋に荷物を置きながらちょっと心配そうに聞く少年に蒼真と影虎が答えます。
「はい、頑張るのです!」
「‥‥‥‥‥‥‥頑張ります、だ」
 ぼそっと、だめ押しのように蒼真が訂正をしました。

●薬草め〜っけ!
 村につくと、村長宅へと手紙を持って尋ねます。
 どうやら薬草は村に隣接する森の中にある野原にあるらしく、次の日にすぐに薬草を摘みに行く事になります。
「頂きますなのです〜♪」
「‥‥頂きます。なのですは付けない‥‥」
 遅い夕食を用意されると、白米に白菜の漬け物、お芋のお味噌などを前に少年は嬉しそうに笑いながら手を合わせます。蒼真がいちいち訂正するのに可笑しそうに村長である初老の男性は笑います。
「いや、しかし、儂などはてっきり、あの、少し無愛想な青年が尋ねてくると思っていたのじゃが」
「子供の、たっての希望のだからな。だからワシらが雇われたのだ」
 どっかりと腰を下ろして酒を少々頂きながら、平八は老人へと答えます。少年は箸を使うのに悪戦苦闘しながらも、嬉しそうにご飯を食べています。
「裏の森に薬草の生えるところがありますでな。ただ、ちょっと河原へと出る道の辺りは見にくくなっておりますので、足を滑られる可能性があります。足元には十分気を付けて下され」
 老人の言葉に頷く一同。少年は、きょとんとしながらこそこそと隣へ座る月華に河原とは何かを聞いたりしていました。
 朝、食事を終えると早速薬草を採りに向かいます。
 森へとはいると、すぐに薬草の生えている辺りの場所に辿り着き、異国の言葉ではしゃぎながら何種類かの薬草を見つけたらしく、中から何事か謝るように草に話しかけながら、少しずつ摘んでいきます。
 一通り摘みたい物を見つけると、嬉しそうに笑って大事そうに包んで、バックパックへと収めます。
「ほぇ? はわわわわっ!?」
 ご機嫌で一歩を踏み出そうとしたときにふっと少年の身体がずっと沈み込むのに、咄嗟に2本の手が少年を掴みます。
「怪我はないか?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
 そう聞く平八と無言で見る蒼真に掴まれて少年は吃驚したような顔で2人を見ると、コクコクと頷きました。
「ご、ごめんなさい、足を着いたら地面が無くなったのです‥‥」
 心底驚いた様子でそう言って謝ると、改めて少年は自分が落ちかかった場所を見ます。そこは草で見えにくくなっていますが、ちょうど河原へと降りていく細い道のようでした。

●お土産
 次の日、少年は村の人間と、なにやら薬草について話していたようでした。村人が気がついていなかった薬草などについて話している様子です。その日一日、ゆっくりと身体を休めると、帰りの行程に入りました。
「薬草の他にも、何か父親に土産を買っていくと良いのではないか?」
 宿場町へと着いて皆で寿司などの、ジャパン独特の食事を取りながら平八が言う言葉に、少年は少し考え込みます。
「何をかっていけば、良いでしょうか? おとーさん、何を喜ぶのでしょう?」
 蒼真の教育の賜物か、だいぶジャパン語も様になってきたようです。
「それはおぬしが選ぶのが一番良いであろうな。むしろ、おぬしが選んだ物なら大抵は喜ぶのではないか?」
「‥‥はい、何か見てきます〜」
 そう言って、食べ終わった様子の月華に付き添って貰って買い物に出かけて行きました。
 土産などを売る店では、買いに来た2人に、お店の人は少し引き気味です。にこにこと、兎に角嬉しそうで人懐っこそう内国の少年と、その少年に手を引かれてやってくる女性が無表情なのだから、戸惑ったのかもしれません。
「おとーさんにお土産を買うのです♪ 何かお勧め有りませんか?」
 少年の様子に、店員は考える様子を見せると、薄い緑の徳利などを取り出します。その隅には小さく宿場町の名が書かれていて、いかにもお土産と言った風情の物です。
「‥‥これを買うのか?」
 微妙な様子のお土産に、店員はおまけと同じ色合いのぐい飲みを付けます。
「わ、おまけして貰いました〜」
 嬉しそうに笑う少年に、月華は小さく溜息をつくのでした。

●旅の終わりに‥‥
 江戸へと戻ってくると、一行は真っ直ぐに少年の家へと向かいます。なかなか良い構えの家で、すぐに少年の義父の部屋へと通されると、そこには布団の上で身体を起こしている、長い黒髪の優しそうな男性が待っていました。少年は嬉しそうに父親へと駆け寄って、ぎゅうっと抱きつきます。
「ただいま帰りました、おとーさん♪」
「お帰り、初めてのジャパンの旅はどうでしたか?」
 そう優しく微笑みつつ少年に聞くと、父親は一行へと向き直り、丁寧に頭を下げました。
「お見苦しい姿で申し訳ないです。少しここのところの暑さで体調を崩しまして‥‥この度は本当に有り難うございました」
 一行が部屋を出ようとすると、父親は少年にきちんとお見送りをするようにと言いつけ、皆さんを送り出します。
「この数日間、とても楽しかったです♪ 本当に有り難うございました」
 ぺこりと頭を下げる少年。
 そんな少年に、平八が荷物から風車を取り出して、少年に持たせます。
 ぽんぽんと頭を撫でるとその場を後にする一行に、少年は嬉しそうに風車を見てから、ぶんぶんと、大きく手を振って見送るのでした