【拐】狂犬

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月30日〜04月06日

リプレイ公開日:2006年04月11日

●オープニング

 その日ギルドへと連れだってやって来たのは比良屋の主人と気の弱そうな立派な身なりの商人、そしてまるで保護者のように2人の後について入ってくる丁稚の少年・荘吉君の3人です。
 よく見れば、気の弱そうに見えるその様は、顔を真っ青にし悩んだ末での衰弱とわかり、お茶を入れてとりあえずは座って落ち着くことを促す受付の青年。
「ここのところ世間様を騒がせている、若い娘の拐かしについてはお聞き及びと思いますが‥‥」
 そう口を開く商人に目を瞬かせる受付の青年は頷いて見せます。
「身分の良い娘さん方が、出かけた先で行方知れずになっているという、あの?」
「‥‥家の娘も、つい3日前‥‥」
 そこまで言ってわっと泣き伏す商人を、比良屋が宥めている間に、荘吉君が口を開きます。
「実は、それに関して家で働いているお弓さんが気になる話を聞いたそうで‥‥」
 荘吉が説明するところに寄れば、お弓はお休みを貰ったつい先日、煙草屋へ御店のいつもの煙草を買いに行きがてら、そこの文吉という青年と飯屋で談笑していたそうで、そこで聞こえてきた会話に思わず耳を欹てたそう。
「では、どうやら娘さん達を攫った者達らしいと?」
「はい、どうやら浪人者達でお弓さんが話を聞いている事に気付きかけたらしいので、気にはなったものの文吉さんにも後を尾けるのをやめさせて急ぎ戻り旦那様に伝えまして、盗賊とも違うし‥‥」
「奉行所は私ども夫婦、もう‥‥」
 どうやら拐かしかどうかもわからない、遊び回っていたふしだらな娘だったのでは、と話を聞いた役人に言われてすっかり奉行所への苦手意識を持ってしまったよう。
「かといって、改方とも管轄が違うかと思い‥‥」
 そう言う比良屋主人、相談を受けて冒険者に頼むことを思い立ったようで、こうして連れ立ってやって来たとのこと。
「そこで、冒険者を二組、頼みたいと思いまして‥‥どうか、お願いできないでしょうか?」

「娘さん達の救出と、あともう一組は?」
 そう言うと、何とも言えない表情をする比良屋主人。
「出来れば、その人攫い達を、何とか捕らえてくれませんでしょうか?」
 どうやら江戸の郊外にある荒れ寺を根城にしている様子のこの浪人者達、お弓の話では他にも悪事を働いているようなのですが、まだ娘さんを攫って引き渡すつもりらしかったり、あちこちで強請をかけているらしいようなことも聞いたとのこと。
「実は改方には何度かお世話になりまして、そちらの方に伝えた方がとも思ったのですが、もし強請などがあった場合、表沙汰にされると困る人々もいるでしょうし、改方とちょっと、違ってお奉行所のお仕事の気もしますが、今この時期に取り扱って貰えるかどうかという不安が‥‥」
 そう言う比良屋主人に頷く受付の青年。
「では、新たな凶行に出られないようにも兼ねて、その浪人達の捕縛、と言うことですね?」
 確認する受付の青年に頷く3人。
「でも、噂では狂犬とも言われるような、危険な者達だそうです、くれぐれも気をつけてくださいね」
 そう言う荘吉に頷いてその旨を書き付けると、受付の青年は小さく息をつくのでした。

●今回の参加者

 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8586 音無 影音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

九竜 鋼斗(ea2127)/ シルフィリア・ユピオーク(eb3525

●リプレイ本文

●荒れ寺の男達
 焼け焦げた臭い立ち上る中、呻き床を這う数名の男達の所へと踏み入れて行く仲間達に続いてその現場へと入り、するりとスクロールを広げるのはクレア・エルスハイマー(ea2884)。
 辛うじて直撃を避けた男は、きりもみ状態で吹き飛ばされる直前に見た、手に炎を作り上げ打ち込んできたクレアに、無意識と言っていい様子で手探りに刀を探しては小さく呻きます。
「こ‥‥この‥‥っ!?」
 手に握った物で起きあがり殴ろうとする男は不意に壁へとしこたま打ち付けられ、逆さになったまま見ればレイナス・フォルスティン(ea9885)が巨大な両刃刀を手に、一歩一歩ずしっずしっと音を立てながら近づいて、それに蹴り倒されたことに気が付く男。
「なっ‥‥なんなんだ、お前らはっ!」
「義父さんは言っていた、噛み付くことしか出来なくなった狂犬は始末されるしかない、てね」
 わらわらと出てくる男達に目をやり口斬馬刀を構え開くケイン・クロード(eb0062)。
 ちょうど表でも戸をぶち破り突入してきた者がいます。
「改方が一人、鬼道衆拾漆席リーゼ。大人しくお縄につきなさい!」
 凛と響く声とは裏腹に刀に手をかけた男へと問答無用で一撃を叩き込むリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)に続き、間髪入れずに雪崩れ込むのは天風誠志郎(ea8191)。
「つまらん事をする。つまらんが故に、捨て置けぬか」
 誠志郎が言い男達に睨み付け。
 ぬと奥から巨躯を持った人間の男が現れると口を開きます。
「お前ら‥‥生きては返さんぞ‥‥」
 その言葉と共に、襲撃された浪人達もそれぞれ目に殺気を帯びて刀を抜き放つのでした。

●探り
「異国のお嬢さん、悪いこた言わねぇから宿なり済んでいるとこなりに戻って大人しくしていた方が良い」
 クレアが恋人の浪人を捜しているというと、そう言って首を振る男性。
 依頼を受けて直ぐに情報を探しに出れば、狂犬扱いの男達についてはちびちび話を聞くことは出来ますが、どうにも関わり合いになりたくない人たちが大多数のようで、なかなかはかどりません。
「ええ、そこの飯屋です。文吉さん曰く、その、亥兵衛さんと懇意にしていて、忙しいときなど膳を持ってきて貰ったりする程だとか‥‥」
 一方、お弓に飯屋の場所を聞き、お弓に事情と亥兵衛とも見知った人たちだと紹介して頼んで貰えば二つ返事、飯屋の方でも例の浪人達に迷惑駆けられることも少なくないとかで協力を申し出てくれます。
「あいつらぁいっつもここに来るが、始めに席が隣り合ったときには酷いモンだった、酒のお銚子を当たり前に持って行きやがり、ちょっとでも不満を漏らせば殴られかねない様子で睨み付けられてなぁ」
 常連客の男性に鋼蒼牙(ea3167)が聞けばそう帰ってきて、実際に男達が通い始めたのはお弓がここに来た日の少し前と言うこと、このまま続けば飯屋としてもやって行かれなくなるだろうと溜息。
「おかげさまで、常連の方は少し時間をずらして来られるように‥‥」
「なるほど、厄介な話だねぇ」
 溜息混じりに言う蒼牙。
「そう言えば、荘吉君はなんだか久々にお顔を拝見できて嬉しそうでしたよ」
 客として様子を窺っているケインに、初日だけはと男達の人相確認のために付き合っていたお弓が食事がてらにケインに話しかけて笑います。
「ああしてみると、しっかり者でもまだ子供ですねぇ」
「旦那さんも荘吉君も、御店の皆さん元気そうで安心しましたよ。荘吉君も子供達も‥‥」
 どことなくはしゃいでいて、と笑って言うケインに頷くお弓は、つと入り口から目を逸らして自然な様子で料理に目を落として箸を進めながらケインに男達が来たと告げると、ケインも頷き店員であるリゼに注文を頼む振りをし合図を送ります。
『‥‥だから、さいきんでは娘達も遊びに出歩かねぇ。何で今度のぁ問答無用で家に押し入って娘達を頂くのよ』
『なぁに、簡単な仕事よ、次の仕事を終えてごっそり貰えば上方に出て一年や二元は遊んで暮らせる』
 ひそひそという囁きを耳にし、厨房付近で静かに怒りながらお盆を握りしめるリーゼに、それを宥めるように蒼牙が頭に手を当てて溜息と付いています。
 やがて酒と飯を取り終えた男達が賃銭も払わずに出て行くと、それを少し離れたところから付いて行く誠志郎と音無影音(ea8586)。
 幸い来たのが浪人達の下っ端と言うことと、通い慣れた飯屋への道行き、警戒されなかったためか無事に見えてくる荒れ寺の周りは板塀に囲まれ、庭は荒れ放題で潜むのは容易そう。
「では、直ぐに繋ぎを入れる」
「‥‥わかった‥‥」
 そっと立ち去る誠志郎に頷いて送り出す影音。
「狂犬、ね‥‥クスッ‥‥少し親近感感じるかな‥‥血に飢えてるのはあたしも同じ‥‥」
 どこか恍惚とした様子で呟く影音は他の者が来るまでそこで様子を窺いつつ待っているのでした。
「‥‥多い、ですね‥‥」
 廃寺へとステラ・シアフィールド(ea9191)がやって来て伺っても、あの後はあまり人自体も出入りをしていないので交代で彼らの様子を窺い、誠志郎はステラへと目を落とします。
 そして、それから2日後、ちらほらと浪人達が集まり始めたころ、協力した医者の身柄を秘密裏に捕らえたと連絡が入るのでした。

●狂犬
 怒声響く中、再び画面戻ればあちこち切り傷を負いながら薄く笑みを浮かべる影音の姿が。
「‥‥ふふ、斬られるのは好きだしね‥‥痛みほど心地よい感覚は無いよ‥‥」
 敵の刃をあえて受けながら懐へと潜り込んで打ち倒していく影音に浪人達も殺気立ち、血の臭いに興奮しているようなのですが、どことなくあしらわれている様子。
 その横では鋭い太刀筋をかわして一人一人落としていく誠志郎、オーラで作り上げた盾で受け流しなぎ倒すリーゼ。
「役目の終えた役者が登る舞台はない。ご退場願おう」
 刀を弾き飛ばされ匕首を抜く男を一撃の下に昏倒させて言う誠志郎。
「人の道に外れる行いを恥じなさい!!」
 クレアが声を上げて逃れようとした男をスクロールで打ち出した稲妻で止め、蒼牙が逃さないように取り押さえます。
 その奥で、レイナスとケインを相手に渡り合う巨躯の男の姿が。
 ステラのクエイクでよろめく三人ですが、そこで踏みこたえ剣を振り抜くレイナス。
「身分の良い娘さんをさらっている、許せんな」
「はんっ、そんな物に興味はねぇ! それが金になるからやっている事よ」
「くっ! 今だ! 翔けろ‥‥斬馬刀・飛燕!」
 レイナスに意識が向いた男へケインが撃ち込む衝撃波が確実に傷を与えますが、大上段に構えたそれが思いの外に素早く、咄嗟に刀で受けようとし、目の前で両断される刀。
「っ!? ‥‥だけど、ここからが飛燕剣の真髄っ!」
 ぎりぎりで逸れた男の刀に至近距離から拳の衝撃波を叩き付け下がらせたところへ、レイナスの重い一撃が入り。
「ぐぉおぁっ!」
 辛うじて立っている男へと蒼牙の飛ばすオーラショット。がくんと大きく身体をのけぞらせ、そこへ渾身の力を込めて振り下ろされるレイナスの一撃に地を揺るがせて倒れ込む男。
「自業自得、因果応報‥‥。まぁ、悪い事は程々にという事で」
 互いに小さな傷などを負いつつも見れば、雑魚やそこそこの腕の物を含め、20程の男が転がっているのに、小さく溜息混じりに呟くと蒼牙は肩を竦めるのでした。

●助かった娘達
「はは、リーゼさんが改方を名乗りましたので、そちらに引き渡すことになりまして‥‥」
 そう言って頭を掻く比良屋主人は、思いの外多かった男達に改方に相談すべきでしたかね、と申し訳なさそうに言いながら、傷の手当てなどのことを是非ともさせてくれ、と言います。
「救助の方は上手くいったんですね?」
 ケインが確認すれば、満足そうに頷く主人。
「ええ、ギルドにお伺いした時一緒だった、あの方の娘さんも無事に戻られましたよ。もっとも、もっと前に被害に遭われた娘さんは改方の方で締め上げて聞き出し、必ず、と言うことになったのですが‥‥」
「人を攫い売り買いしていいるとするなら‥‥」
 自身の肩を抱き囁くように小さく言って俯くステラに目を伏せて頷く比良屋主人。
「救いとすれば、助け出された娘さん達は10人にも及び、その、一番最初の頃に連れ去られた2人の娘さんを除けば、ほとんどの娘さん達は無事に親元へと戻ることが出来たと言うことでしょう」
「それに、人攫いも許せないですけど、今回は押し込みで娘さん以外の人たちはどうなっていたかと思うと‥‥」
 そう言いながらよたよたとそれを抱えて入ってくるのは丁稚の荘吉。
「大切な物を壊してしまう結果になりまして‥‥こちらの方のは経費と言うことで‥‥」
 主人が言う横では、荘吉がケインへとその斬馬刀を差し出しています。
「本当に有り難うございました」
 そう言って頭を下げる主人。
 助け出された娘さん達は怪我もなく、やつれてはいましたが元気だったそう。
 狂犬と呼ばれた男達は、主格と医者とで締め上げられた後、あまりの非道な行いとのことで、刑場の露と消えました。
 後日、親元へと残りの2人も助け出され帰ってきたとの話が伝わってくるのでした。