【船宿綾藤】春の宴

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月11日〜04月16日

リプレイ公開日:2006年04月20日

●オープニング

 その日、ギルド受付の青年は船宿綾藤のお藤の呼ばれて訪ねてきていました。
「どう、うちの桜は‥‥」
 にこりと笑ってお茶を出すお藤に庭へ目を向けて頷く受付の青年。
「あと少しで満開ですね。お客さん方も喜ばれているんじゃないですか?」
「そうなんですけどねぇ、実は船から見る桜の方が近頃じゃぁ評判が良いんですよ」
「ほう?」
 聞けば、川の両岸に一面桜並木が並び、あと少しで桜の花びらが降りしきる中を船でのんびり、と言うことが出来るそう。
「そこでですね、今年こそは、満開の桜の中を、私も船でのんびりしてみたいと思うんですよ」
 そう言うと、ほうと溜息をつくお藤。
「ですけど、こういう事を一人で楽しんでも意味のないこと、いろいろとお付き合いのある方を呼ぼうとも思うのですが、どなたを呼べばと迷ってもしまいますし」
「‥‥あぁ、なるほど」
 何とはなしに頷く受付の青年。
「つまりあれですね、賑やかにまた静かに、どちらでも構わないのでお花見を沢山の人と楽しみたい、そうお考えですか」
「話が早くて助かりますわ」
 嬉しそうに笑って頷くと、受付の青年のお茶のお代わりを淹れるお藤。
「では、お花見を一緒に楽しんでくれる人を募集かけますね」
「はい、お願いしますね」
 そう言って、お藤はどこか楽しそうなそわそわとした様子で頷くのでした。

●今回の参加者

 ea1011 アゲハ・キサラギ(28歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1415 一條 北嵩(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

白銀 剣次郎(ea3667)/ ジェームス・モンド(ea3731)/ レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)/ 逢莉笛 舞(ea6780

●リプレイ本文

●友と賑やかに
「女将さん、久し振りなんである」
「まぁ、ユリースト様、いらっしゃいまし」
 リデト・ユリースト(ea5913)が声をかければ、ぱっと笑顔を浮かべて迎え入れる女将お藤。
 一同が揃う頃には、既に料理や船、部屋の準備はすっかり出来ているようで、お藤に呼ばれたのか船へと向かえば着流し姿の長谷川平蔵が、連れて来て貰えて上機嫌の木下忠次相手に煙管を燻らせながら川を眺めていたようで、一同の姿が見えると軽く手を挙げます。
「木下さんはあれから真面目に仕事をしているんであるか?」
「し、失敬な、真面目にやっていますよ、私は、うん」
 と言いながらも視線を彷徨わせる忠次は、何かやましいことがあるのかも知れません。
「長谷川様、鶴吉は‥‥」
 リデトに呼ばれてきた逢莉笛 舞が平蔵へと声をかければ、秘蔵のシードルを手ににんまりとリデトへと振ってみせるレヴィ・ネコノミロクン。
「いやはや、浴びる程呑めるのが羨ましいというのは同意‥‥」
 レヴィに同意しかけた忠次が見れば、当のリデトはあっちふらふらこっちふらふら、酔っぱらって赤い顔で、積み込まれていた樽酒の方へと飛んでいきます。
「おーい、リデトど‥‥」
「ごばっ‥‥ごぼごぼごぼ‥‥」
「わーっ!?」
 樽に引っかかったかと思うと中へ宙を転がるように突っ込むと、がぼがぼじたじたと動く姿に慌てて近づいて引っ張り上げる忠次とレヴィに、それを眺めて可笑しそうに笑いながら舞と酒を交わす平蔵。
「はいは〜い! 一番! 一條北嵩、歌います! 夜桜熱風せれなーで♪」
 程良く酒が入ったところでざっと名乗りを上げる一條北嵩(eb1415)、扇子を握り口元へ、小指をピンと立てて片袖脱ぎのその様子に、岸で花見の客からも聞こえたか、やんやと囃し立てられて盛り上がる一條。
 その傍では所所楽林檎(eb1555)が料理人へと魚を外したお料理をお願いし、春の恵みの揚げ物やお吸い物など、を用意して貰ったりしています。
 そんな様子を見ながら火乃瀬紅葉(ea8917)も白銀 剣次郎と料理を楽しみ男らしくなってないとからかわれたりしつつ花見を楽しんでいるよう。
「そ、そうにございまするか? お呼ばれですので失礼の無いようにと装束を整えて参りましたのですが‥‥」
 赤い顔で自身の装いを見ながら首を傾げる紅葉に剣次郎も笑いながら酒を飲んでいるのでした。

●想い人と穏やかに
「暫く海の向こうに居たので、かなり久しぶりですよ〜。やっぱりこうしてみると良いですね〜」
 そんな賑やかな様子を眺めながら料理を頂きつつお藤とのんびりするのは酒井貴次(eb3367)。
 その側では船縁に凭れてはらりはらりと舞い散る花びらを見上げて僅かに表情を和ませている西園寺更紗(ea4734)の姿も。
「ほんに綺麗やねぇ、心があらわれるというんはまさにこのことなんやろねぇ‥‥」
 しみじみと言った様子でお茶と手の込んだ見た目にも美しい料理を目の前のお膳に並べ、先程からゆったりと休んでいるようで、のんびりとした時間を取りたい様子を見て取ってか、お藤と酒井は気を利かせてか静かに楽しめるように気を配りながら、桜と会話を楽しんでいます。
「異国の様子は存じ上げないのですけれど‥‥どんな様子だったんです?」
「はい、異国には学術都市といったものがありましたり‥‥皆で勉学に励むところですね〜」
 そこから別の国へ、また、こちらへといろいろと回りました〜、と言う酒井に感心した様子で異国の習慣などを訪ねるお藤に、酒井もいろいろな話をして聞かせるのでした。
 だいぶお酒も入ったか、茜色に輝く川に、幾重にも舞い散る桜を眺めながら、船の前方で、一條と林檎は並んで腰を下ろしていました。
 林檎の肩には一條の羽織が掛けられており、手にはお抹茶茶碗が、一條はだいぶ盛り上がったのか扇で緩やかに自身を仰ぎながら風を受けて目を細めます。
「お酒、お注ぎしましょうか‥‥?」
「あ、有り難う。‥‥林檎さん、着物‥‥着てくれて有難う。宵闇に映えて綺麗だよ」
 空の杯に気が付きお茶碗からお銚子へと持ち直しのに、礼を言って笑みを浮かべると一條が告げる言葉に頬を染める林檎。
「あはは、酔っ払いの戯言――じゃない、からね」
 そう言って空の杯にそっと花びらを掬い上げると目と落とす一條。
「来年も一緒に――俺と一緒に桜を見よう」
 言われた言葉に珍しく驚いたように一條を見上げる林檎に、一條は穏やかな笑みを浮かべて続けます。
「俺の隣に居てくれませんか、林檎さん。‥‥――好きだよ」
「‥‥」
 赤らめた頬のまま目を伏せる林檎。
「‥‥素直になるには、まだ早い‥‥そう思っていたのですが‥‥」
「‥‥」
 せかすでもなく、ゆっくりと流れる時間。
「‥‥お慕いしています‥‥」
 目を伏せたままそれでいてどこかはにかむ様子を滲ませ、小さな声で答える林檎、2人はゆっくりと穏やかな時間を過ごしているようなのでした。

●たまにはこんな規格外
「身重で踊るなんてとんでもないことですよ!」
 夜、お座敷で庭の見事な桜の中、一芸をと申し出たアゲハ・キサラギ(ea1011)ですが、一緒に来ていた陸堂明士郎(eb0712)がそわそわするのに理由を聞けば、照れたり心配したりと忙しく表情を変えながら言った言葉にお藤はとんでもない、と首を振って断ります。
「有名な方かなどは関係ありません、何かあっては大変なんですよ。大切な時期、もし何かあった場合、誰も責任は取れないのです」
 珍しく少し怒った様子で言うお藤にしぶしぶといった様子で衝立で分けられた向こう側で陸堂の酌を始めるアゲハ。
「冒険者と違って一般庶民はな、高い薬や高名な医者に見てもらったり生き返らせてもらったりなどはできねぇ。だからな、なんだかんだと言って子供が無事に育つ率は、悲しいことだが低いのよ」
 遊びに来たのに叱られて納得が行かない様子のアゲハに衝立の向こう側から低く、しょうのねぇ、といった様子の声で言う平蔵は、小さく息を吐いて続けます。
「ましてや、もう十年か、亭主に先立たれて子供を諦めたお藤にしてみりゃ、思うところがあるんだろうよ」
 言って平蔵がその場を離れれば、陸堂とアゲハは顔を見合わせるのでした。
 そして、日も変わり、まだ朝早い船宿綾藤では元気な声が上がります。
「くれはかやーっ!? くれはなのじゃ! また会えたのじゃ♪」
 調えられた部屋から起きだして顔を洗っていた紅葉にていっとばかりに飛びつく少女が。
「まはらちゃん? それに青龍も、奇遇にございまする」
 見れば黒猫の青龍と共に部屋から出てきた様子の少女、まはらが嬉しそうにはしゃぎ回っています。
「またくれはと会えたのじゃうれしやの♪」
「お雛祭りだけでなく、お花見でも会えるとは、紅葉もとても嬉しゅうございます。今年は本当によい年にございますね」
 見れば部屋から顔を出し、紅葉に気が付くと歩み寄って頭を下げるまはらの母上に紅葉もぺこりと頭を下げ。
「今日は母上と一緒にございまするか」
「本当にもう、この子ったらこの間からずっと冒険者さん達のことばかり‥‥紅葉さん、でしたかしら? 宜しければまた、この子と遊んでくださいませ」
 この前まで少し冒険者への不信を感じさせていたまはらの母上ですが、どうやら娘と雛祭りをした冒険者の話を聞いて、見方が少し変わったよう。
「くれは、いっしょに花見をするのじゃ♪」
 そう言ってぐいぐい紅葉を引っ張って屋根裏へと昇る階段へと連れて行くまはら。
「見るのじゃ、きれいじゃぞ♪」
 屋根裏の小窓から見下ろすと、朝日に照らされた川を後ろに、満開の桜、そしてはらはら散る花びらに、紅葉はまはらと並んでその様子を楽しげに眺めているのでした。

●しっとり夜桜と‥‥
 すっかりと夜も更け、宿の灯りと庭に用意された小さな篝火が、夜桜を照らし、それぞれが思い思いの場所で語り合い、笑い、話をしています。
 紅葉の袖をしっかりと握って隣で嬉しそうにお菓子を摘んでいたまはらも、こっくりこっくりとうたた寝を始め、直ぐ側でお酒に懲りたかお菓子を食べていたリデトもすっかり満腹でまはらと一緒に夢うつつ。
「そうですか、今お式の最中‥‥それは何よりですわ」
 つい怒って御免なさいね、と舟の宴で怒った事を詫びたお藤と、陸堂・アゲハは現在行っている合同の祝言について話していました。
「もう一組はあそこにいる林檎さんのお姉さんなんだよ」
 アゲハが言えば、あちらはいつになるのかしら、等と本人達をそっちのけで盛り上がるお藤とアゲハ。
「あの二人、いい加減にもう一歩踏み出せないものかな」
「あ、でもでも昨日はイイ雰囲気だったから、何か進展があったのかも♪」
 一條と林檎が茶屋お酒などを置いて桜を眺めているのににやり、何か思いついた様子のアゲハが後で追求する気満々といった様子で笑うと、ふと顔を上げるお藤。
「今時分は、庭に出て見上げる桜がまた綺麗なんですよ。宜しければ見ていってくださいねぇ」
 そう笑って、他の者の所にも顔を出すお藤。
「風にあたろうか? あそこの桜は綺麗だよ」
 縁側に出て2人で桜を見上げる陸堂とアゲハの2人は、幸せそうに寄り添っているのでした。
「あらあら、お持ち帰りいただけるほど、気に入って貰えました?」
 ジェームス・モンドに持たされたお重をごそごそと取り出す紅葉に微笑んで話しかけるお藤。
「あ、は、はい、その、せっかくのお料理でございまするし‥‥」
「料理人も喜びますわ」
 そう言って部屋を見れば、窓辺で桜が舞い散るのを、穏やかな表情で見上げる更紗やお酒を飲まされてひっくり返る酒井、どこか初々しい様子でお酌をする林檎に受けて嬉しそうな笑みを浮かべる一條。
「宜しければ、また皆様、来て下さいましね‥‥お仕事としてでも、遊びにでも‥‥」
 そう笑みを浮かべて呟くお藤に、紅葉は灯りに浮かび上がる桜の切なさを思ってか、しんみりとしながら頷くのでした。