行き摺り

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月01日〜05月06日

リプレイ公開日:2006年05月14日

●オープニング

 その日、受付の青年は呼びつけられた屋敷の前不安げに辺りを見渡してから、そっと門の所にある潜り戸を叩きました。
 入れ替わりに出て行く町方の同心に睨め付けられ首を引っ込めると、案内される部屋では、その家の主が飄々とした様子で綴り閉じられた冊子を捲っていました。
「おお、よういらした。早速だが本題に入ろうかえ」
 受付の青年へそう言って冊子を閉じるのは出原涼雲、腕の立つと武家の間でなかなか評判の医者で、どこか見透かされている気にさせる男なので狐の医者、と呼ばれることも。
「本日はどのようなご依頼で‥‥?」
「あぁ、先程町方が出て行ったであろう? あれと関わり合う話なのだが、ちと、行き摺りの女に死なれてな」
「‥‥は?」
 言われた言葉に目を瞬かせてみる青年に肩を竦める涼雲。
「行き摺り、ですか?」
「あぁ、家の診療所の直ぐ側で血まみれで向こう側からふらふら来るものでな、状態が状態故放って置くことも出来ぬ、診療所に上げたが手遅れでの」
「‥‥はぁ‥‥」
 あまりの事に思わず気の抜けた返事をする受付の青年ですが、ぱちんと鋭い音を立てて閉じられる扇子にはっと我に返ると依頼書に書き付けていきます。
「では、その女を殺した犯人を?」
「いや、依頼人はその死んだ女よ」
「? どういう事ですか?」
 怪訝そうに聞き返せば、涼雲は血の付いた巾着を見せて口を開きます。
「死ぬ間際にこれを押しつけられてな、聞いたことを纏めれば、つまるはこういうことよ」
 涼雲が女から何とか聞き取ったところに寄ると、女は夫と子供を流行病で亡くし、お骨と位牌を携え、故郷である江戸に戻ってきたところだったらしいとのこと。
 そして、江戸に入って直ぐ、通り雨で行き摺りにあった小屋へと雨宿りに入ったところ、裏口から入ってきた男達がどうやら盗賊らしく、恐ろしくなって命からがら逃げ出したものの、位牌とお骨を後ろから斬られ置いてきてしまったとのこと。
「それが未練で死んでも死にきれぬ、とな。こうしてこの巾着を押しつけられてしまった。これでそれを取り返すのを依頼し、余ったもので‥‥まぁ、供養ぐらいは頼めよう」
「‥‥では‥‥」
「うむ、道沿いのその小屋というのを探し出し、位牌とお骨を持ってきて貰いたい。斬りつける程だ、なんぞやましいこともあるであろう、それを男達が手元に残しておく可能性はあると思うが?」
 涼雲の言葉に頷くと、受付の青年は依頼書へと何とも言えない表情で目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2480 グラス・ライン(13歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea2724 嵯峨野 夕紀(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

壬生 桜耶(ea0517)/ セラフィン・ブリュンヒルデ(ea4152)/ アウレリア・リュジィス(eb0573)/ レアル・トラヴァース(eb3361)/ 鷹司 龍嗣(eb3582

●リプレイ本文

●探索
「狐さんいわれてるんか」
「まぁ、面と向かって言われることは少ないが」
 微笑を浮かべて言うグラス・ライン(ea2480)に小さく口の端を持ち上げて答える出原涼雲は、続く言葉に少し考える様子を見せます。
「あのな、女性の身元はわかったんやろうか? 出来れば家に返して上げたいんよ。そしてお経を唱えたいんよ、宗教は違うんやろうけどな気持ちが大事やから関係ないんよ」
「無事に見つけることが出来ましたら、依頼人共々供養をしてあげたいですね」
 アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)も頷き言うと、ふむとばかりに頷く涼雲。
「身元は女が言い残した通りわからんだろうな。一応はしかるべき筋と顔の利く者に探って貰ってはいるが‥‥寺はこんな商売柄馴染みの場所もあるので融通は利くであろうがね」
 涼雲の言葉にほっとしたように笑うグラス、アンジェリーヌはの両名。
「行きずりの女に問答無用で斬りつけるたぁ、余程探られたくねェ腹でもあったんだろ。‥‥ま、賊の事情なんざ知ったこっちゃねぇけどよ」
「本当に酷い話だわ‥‥被害者の女性の大切な家族の遺品、ぜったい取り戻すんだから!」
 モードレッド・サージェイ(ea7310)が軽く肩を竦めて言えば、起きた事柄に沸き上がる怒りを依頼達成への決意に変えるイシュルーナ・エステルハージ(eb3483)。
「その女性もこのままだと成仏することもできないかもしれませんしね」
「だが、その雨宿りの小屋が盗賊の棲家だったか待合せ場所だったのか知らぬが‥‥迂闊に行くのは危険だな。用心せねば」
 嵯峨野夕紀(ea2724)がイシュルーナに同意を込めて頷くと、難しい顔をして逢莉笛舞(ea6780)が言います。
「二手に分かれてと言うのは先程相談した面子で良いとして‥‥昼を主体に動いた方が良いようですね」
「最悪下っ端を痛めつけて‥‥それでも聞き出せなければ揃って乗り込めばいい」
 瀬戸喪(ea0443)が確認を取れば、九竜鋼斗(ea2127)が頷いて答え、舞は涼雲へ向かって口を開くのでした。
「それで、涼雲先生、女性を拾ったときの状況をもう一度詳しくお願いできないか」

●宿の盗賊達
 1日目の数刻後、辺りが茜色に染まる頃、一同は付近の簡単な聞き取りと場その確認を済ませていました。
 遅い時間に出歩くのはとのこともあり情報を整理したのですが、この御時世、街道沿いの空き家らしき小屋というのは意外と在る物、その上そこに得体の知れない人間が住み着くのもままあるようです。
「あくまで目的は位牌とお骨を取り戻すこと‥‥あくまで、盗賊がその障害になる場合は裁きを。ですが、無益な殺生は必要ありませんし」
「そやね。けど場合によっては危ないかもしれへんし判別付き次第合流やな」
 アンジェリーヌの言葉に頷いて言うグラン。
「私は先行して幾つかの小屋の内部を調べようかと思っている」
「何にせよ、血の気の多そうな連中だ、気を付けろよ」
 舞が絵図で小屋の位置を確認しながら言えば、声をかけるモードレッド。
 そして、次の日の早くから、一同は手分けをして聞き込みや探索を再開しました。
「ここ最近、なんか変わった話でもないん?」
 グラスが聞いているのは酒屋などが多い様子の参拝道。
「あぁ、こっちの方は平和だけどねぇ‥‥神社を挟んでの向こう側はちょっと物騒らしいよぅ、なんでも、茶屋に入って強請を働く浪人達がいるとかいないとか‥‥」
「はっきりしない話ですねぇ‥‥」
「ま、噂なんてそんなもんだよ。でもね、頻発している訳じゃないけど、結構そう言う目に遭うお店があるって言う話は本当らしいね」
 喪が言うのに苦笑していた酒屋のおばさんは声を潜めてそう言うと、質が悪いのがこの辺りに住み着いているらしいから、といいます。
「‥‥今のところ見あたらねぇ、か‥‥」
 モードレッドが肩を竦めるのは、参拝道を少し行ったところ。
 この辺りは昼の人通りはまばらですが絶えることが無く、空き家に人の気配を感じて様子を窺うも、旅人が休憩というものから、酔った参拝客が上がり込んでいることも。
「こっちは江戸と近隣を行き来する街道があるからかも知れねぇな」
 言って来た道を戻りながら夕紀と合流するモードレッド。
「この辺りを窺っている様子の男がいるのですけれど‥‥」
 モードレッドと合流するとそう告げる夕紀、どうやら診療所付近でうろうろとしていた若い男がいたそうなのですが、参拝道の人の波に紛れて撒かれてしまったことを告げます。
「でも、診療所を張っていたと言うよりは、何か捜していた様子でしたが」
 夕紀の言葉に考える様子を見せるモードレッド、2人は辺りの様子を窺いつつグラスや喪と合流するのでした。
 同じ頃、もう一方の組も手分けして聞き込みに回っていたりしました。
「この辺ではお茶でも酒でも三杯目まで薦められるそうだ‥‥参拝道? ‥‥とな」
 参拝道と三杯どう? をかけた様子の九竜ですが、言い終わるとほぼ同時に炸裂する、分厚い神罰、もとい豪華な聖書の角が頭上に降ってくると、茶屋の椅子に沈み込む九竜。
「こんな時に何をおっしゃっているのですかっ☆」
 にっこりと笑顔を浮かべて言うのはアンジェリーヌ。
 痛そうーとばかりに自分の頭を押さえてみるイシュルーナですが、ふと視線を感じて目を上げてきょろきょろと辺りを見回します。
「? どうされたんですか?」
「うん、なんか、誰かに見られているような――」
 言いながらちらりと目を落とす先には、元は着物だったのか藤色の地に丁寧な細工で花が描かれた巾着が。
 涼雲に女性の身に付けていた巾着を借りていたイシュルーナは、どうやらこの巾着に見覚えがある人間が見ていると言うことに気が付いて小さく笑みを浮かべます。
「もしかしたら食いついてきたのかも♪」
「置いてきてしまった荷物の中に同じ柄の物があったのかもな」
 それに聞き込みしているから嫌でも目に付くだろうし、そう付け足しながら涙目で頭を撫でて身体を起こす九竜。
「こちらの方であっているという事は、もしかしたら小屋も直に逢莉笛が割り出してくださるかも知れませんね」
 そう言うと、3人は店を出て再び聞き込みへ。
「おい、お前等、聞きたいことがある‥‥」
 そう痩せぎすの男が声をかけてくるのに待っていましたとばかりに見る3人。
「お前等、何をこそこそ嗅ぎ回っている‥‥その巾着‥‥それを持った女はどこにいる? 隠すと為にならんぞ?」
 お堂の裏へと呼び精一杯凄んでみせる男ですが、ぬっと九竜に掴み掛かられると懐の匕首へと手を伸ばし。
 すぐに聖書の痛みの鬱憤とばかりに問答無用に叩き込まれる一撃に倒れる男、それを抱え上げると、3人は情報を聞き出すために男を運びつつ場所を移すのでした。

●奪還
「どうにも、怪しいところが2カ所有って戸惑ったのだが‥‥一カ所はどうも改方が張っている物のようだった」
 そう伝えるのは舞。
 舞が報告している奥では痛めつけられ、男達の小屋の様子を洗いざらい吐かされている男の姿があります。
 どうもこの男達、そこを根城に付近の茶屋などから金を巻き上げては遊んでいた鼻つまみ者達らしいのですが、この度盗賊だという男に唆されて押し込みをする事にしたそう。
 ちょうどその相談をしていたときに女に気が付き、詳しい話を聞かれたと思い斬り付けたとか。
「骨も位牌も適当にあの小屋ん中転がしてある、ほんとだよっ!」
 助けて貰いたい一身からか、痛めつけられるのに耐える根性がないのか、泣きながら言う痩せぎすの男。
「一番手薄な時間帯はいつだ?」
「ゆ、夕方だ‥‥昼間は寝ているが、大抵みな揃ってるから、もぞもぞ起きだして出かけるのはその辺りで‥‥」
「嘘じゃねぇだろうな?」
「う、嘘じゃない!」
 モードレッドが凄めば、青い顔でぶんぶん首を振る男。
 既に辺りも暗くなりかけているので、男を括って逃げられないように猿ぐつわを噛ませて納屋へと放り込む一同。
 その日や次の日に向けてしっかり休みを取り、次の日のそろそろ日も傾きかけた頃、揃ってやって来ると見えてくる、街道沿いの小屋。
「‥‥そろそろ時間か‥‥」
 呟くように言うと、小屋の偵察を行う舞。
 密かに床下から窺うと、既に数人が呑みに出かけていっているようで、中にはせいぜい4人ほどが酒を飲んでくだをまいているよう。
「そういや、あいつ帰ってこなかったな」
「知るか、どうせ女の所にでもしけ込んでやがんのさ」
 けっとばかりに酒を呷る男達、舞は息を潜めて様子を窺いますと、別に男達がいる様子もなく、どうやらこの男達が留守番のよう。
「鬼道衆が一人、『抜刀孤狼』‥‥参る!」
 小屋をぶち破って飛び込んでくる九竜に吃驚してか土間へと転がり落ちたり慌てて匕首などを捜す男達と、九竜が開け放した戸からその男達に向かって一直線に突っ込むのはイシュルーナ。
「貴方達がしたことは許せないっ! お仕置きなんだからっ!」
 既に勢いよく助走まで付けて突き込まれた一撃にもんどり打って倒れる男。
「なっ、何なんだてめえらはっ!?」
 半ば悲鳴に近い叫びを上げる男にはモードレッドが思い切り剣を振り下ろし比良で殴りつけるとばったりと倒れる男。
「‥‥夜の闇も、お前らの罪を覆い隠しちゃくれねえんだよ。罪を隠す為に更なる罪を重ねるのは、最低だぜ」
 その間に裏口を舞に開けて貰い、入って捜す夕紀にグラス、そしてアンジェリーヌ。
 暫くすれば、あちこちから脅し取った様子の物と一緒に転がされているのに気が付き、それを拾い上げると、どうやら骨壷を包んでいた布が巾着の布と同じ物のようで、これに反応して昨日の男が話しかけてきたことが分かります。
「この辺を持っていけば、十分に証拠になりそうやな」
 グラスはその物の中から幾つか、明らかに盗まれたであろう様子の装飾品を2つ3つ見繕って取り上げると満足そうに頷き。
「そろそろ引いた方が良いようですよ」
 戸口から喪がそう声をかけ、見れば倒れている浪人らしき男が見えます。
「どうも早く帰ってきた男がいるようですし、他の者が戻ってこないとも限りませんし」
「まぁ、とりあえずこいつ等を引っ括って連れてって、役所に届けねぇとな」
 ぐいと引っ括った縄を引っ張って立ち上がらせると、モードレッドは言うのでした。

●安らかな眠りへ
 お骨と位牌を取りして戻ると、涼雲は急に入った重症患者のために診療所へと出向いているとのことで、家人に持て成され、役人を呼んで貰って男達を突き出すと、手続きを経た後に彼等を取り締まるとのこと。
 次の日の朝早く、お寺からお坊さんに来て貰い簡単な葬儀を済ませると引き取られ、墓を用意されると、舞は手伝いに来ていたアウレリア・リュジィスが摘んできておいてくれた花を手向け。
「主よ、願わくばあなたの下僕の魂を解き放ちたまえ‥‥そして、死者に安らかな憩いを」
 アンジェが祈りを捧げる横では、お墓の前に屈んで笑みを浮かべるグラス。
「でも、これでようやく家族とゆっくり休めるんやな‥‥良かったなぁ」
「うん、そだね‥‥」
 頷いてイシュルーナは供養を良くしてやってくれとお坊さんへと頼み、静かな眠りへとついた女性と家族の眠るお墓へと目を落とすのでした。