おきたとお志保

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月30日〜05月05日

リプレイ公開日:2006年05月11日

●オープニング

 その日、ギルドに3人の男が顔を出したのは、暖かくなった夕刻のことでした。
「おきたさんの、護衛?」
「ちと違うな‥‥なんて言ったらいいのか‥‥おきたはちょいと前問題が起きて休みを貰うこととなってな‥‥まぁ、それに関しては色々と思うところはあるが――」
「あー、おにーさんおにーさん、それ今回関係ないっすから落ち着いて落ち着いて」
 一人は腕っ節が強そうな傾いた感じの若者で、依頼内容を話しかけてキーッと怒るのに、のんびりした様子の青年が宥めます。
 後一人は気の弱そうな若めの商人で、二人のやりとりを窺いつつ、受付の青年へと声を落として口を開き。
「実は、ちょっとそれもあっておきたちゃん、落ち込んでいても仕方がないからと近くの温泉などで疲れを取ったり‥‥あれですな、異国の方風に言うと、家族さぁびす?」
「いや、井筒屋さん、それも違うから」
 おきたの兄を止めつつ口を挟む青年は、とりあえずおきたの兄を座らせると言います。
「つまりなんです、復帰したおきたちゃんを嫌がらせから守ってください」
「‥‥あの、端折りすぎて話が見えないんですが‥‥」
 疲れたように深く溜息をつく受付の青年が3人にもう少し詳しい事情を確認すれば、起きたが水茶屋・難波屋から暫く暇を出されていた間、お仕事として入ってきたお志保という女性、これが悉くおきた贔屓の客に媚びを売って上手く取り入ったとか。
 おきたが看板娘としてくるくる素直に立ち働いているのとは対照に、こちらのお志保は水茶屋のもう一つの顔、連れ出し料を払えば遊びに連れ出せ、同意があれば‥‥という方にも積極的なため、何人かは実際にお志保と関係を持ったり、一緒に外に遊びに出たりと、なかなかの売りようとか。
「ただまぁ、おきたちゃんが戻ったら、贔屓の人たちは大半が喜んでおきたちゃんを指名して、一緒に茶をしたり話したり、お酌をして貰ったりと‥‥普段に戻ったわけなんでねすよねぇ‥‥」
 手拭いで額の汗を拭いながら溜息をつく気弱な商人は井筒屋と言い、おきたを贔屓にしている一人。
「あとはとにかく扱いや見せる顔が違うんですよね、ああいえばこういうと、ぺらぺら嘘ばかりついて何でも都合の良い方へと話を持って行ったり‥‥」
 その上で、戻ってきたら結局大半がおきたの復帰を喜んで、今まで通りに戻ってしまった為、大いに不満のようで、その上、おきたは妙に近頃怪我などが多く、良く腕の辺りなどに痣を作って帰ってきては、それを冷やしているのを兄が何度も目撃しているそう。
「どうにもおきたは近頃いつも人に見られているような気がして落ち着かないとも零してやがったし、ここいらで護衛でも一つと思ってな」
 腕組みをして妙に偉そうなおきたの兄が言うに、受付の青年はなるほど、戸頷いて依頼書へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea0046 志羽 武流(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0112 ジョシュア・アンキセス(27歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb4673 風魔 隠(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4947 朱 楊月(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5083 シュシュラム(31歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●難波屋の現状
「何か、嫌がらせを受ける心当たりはあるのか?」
「いいえ、お店の方は皆よくしてくれますし、お客さんも優しい方ばかりですし‥‥」
 志羽武流(ea0046)が尋ねる言葉に、おきたは首を傾げてそういいます。
 おきたの住む長屋から難波屋への道筋、おきたは3人の男達に囲まれる形でのんびりと話しながら歩いていました。
「何にせよ、早く何とかしないとな」
 そう言いながらちらりとおきたの手に残る赤い跡を見つつ言う朱楊月(eb4947)。
 聞けばお膳の用意をしているときに、手に持ったお椀が急にぱっかり割れてお吸い物がかかったとの事、お膳も台無しになり、心当たりがないにも関わらず失敗がここのところ多すぎるとお給金から色々と引かれているとか。
「身に覚えのない事だらけですし、お椀も綺麗に二つに割れたりと気にはなっているんですが‥‥」
 困ったように眉を寄せるおきた、やがて難波屋へと着き楊月と志羽が店の方へと向かうと、ひょいとおきたの前で開いた手をきゅっと握ってみせるジョシュア・アンキセス(eb0112)。
「?」
 不思議そうに首を傾げるおきたに目の前でひょいと手を開けばそこには可愛らしい布で出来た花が。
「信じろとは言えねぇけど‥‥でも、信じてくれるように尽くす」
「‥‥あ‥‥はい、ありがとうございます」
 そう言ってにっと笑うジョシュアに、はじめは吃驚という表情を浮かべていたおきたは嬉しそうににっこりと笑って頷くのでした。
 難波屋内、風魔隠(eb4673)は指示された着物に前掛け、襷がけをして店内の様子を女中さんの一人に説明して貰っていました。
 口入れ屋から経由で入り込んだ形の隠が顔を合わせた難波屋の女将さんは気が強そうなふくよかなおばさん、主人もこれまたふくよかな、こちらは少し気分屋な雰囲気を持つおじさんという印象を受けます。
「なんなんだい、いい加減にしておくれ!」
「で、でも、私本当に知らないん‥‥」
「嘘をお言いじゃないよっ!」
 そこに聞こえてくる女将さんの甲高い叱りつける声と、戸惑う様子おきたの様子が聞こえてきて隠と案内していた女中さんが見れば、目に涙を溜めたおきたが女将さんに怒鳴られながら、床に散ったお皿のかけらを寄せ、ぞうきんで綺麗に拭っているところです。
「休んでいる間に怠け癖が付いたんじゃないかい!? さっさと片づけてこれ以上仕事を増やすんじゃないよっ!」
 余程怒った様子の女将さんの剣幕に、ぐっと我慢をして片づけをしているおきた、それを見て、女中さんは何か言いたげにお銚子ののった盆を持って出て行くお志保を見るのでした。
「大丈夫か?」
「あ、はい、皆さん良くしてくださいますし、女将さんも本当は良い方ですから、誤解さえ解ければ‥‥」
 志羽に聞かれ困ったように笑って頷くおきた、店内の座敷はそれぞれ周りにはあまり気を遣わず女達に酒を注いで貰って呑む客で埋まっており、お志保はあっちの客こっちの客と忙しく動き回ってはべったりと身を寄せて媚びを売っています。
 ですが、お志保が相手をしているうちの幾人かは、おきたへと声をかけたり微笑ましく見ている様子で、おきたへと声をかける機会を窺っているよう。
「おきたちゃん、久し振りだねぇ。居ない間寂しかったよ〜」
「おきたちゃんを見ると、なんだかほっとするんだよねぇ」
 鋤簾らしき男達に声をかけられにこやかに応対するおきた、そこへお志保がやってきて女将さんが呼んでいると猫なで声で追っ払ってしまいます。
「さぁさおお客さん、どんどん呑んでいってくださいな」
「お志保さんも良いんだが、おきたちゃんと話したいのになぁ」
 冗談交じりの口調ながら言うお客さん相手に、おきたは忙しいからと言うお志保の顔は、目が笑っていないのでした。

●女中さんは見た!?
「む、むむむ?」
 お膳の前で首を傾げる隠。
 家事など今のところあまり得意といえないか、はたまた慣れていないためか、難波屋でのお仕事、お膳の仕度に少々手間取っているようで、隣のお膳を見ながらお皿へ煮つけを装う隠。
「この愚図、何のろのろしてんだい」
 そこへぴしゃりと叩きつけるかのような口調で叱り付けるのは、つんと釣り目気味の女性で、おきたより年上、二十半ばの良く言えば気が強そう、悪く言えばきつめの雰囲気を持ったお姉さん。
「ほら、さっさとしなっ、あたしに恥をかかすんじゃないよっ」
 叱り飛ばしてお調子の仕度をさせると、その女はそれをひったくるかのように取っていそいそと店のほうへ足を進めます。
「まったく、お志保は何様のつもりかしら。大丈夫かい? 入ったばっかなんだから、だんだんなれて行けばいいよ」
 見かねたのか、お膳の仕度等をてきぱきと片付けるおばさんやお姉さんが気の毒そうに見れば、なるほど、とばかりに隠は頷きます。
「ではあれがお志保殿でござるか?」
「あらあら、あんたなんだかお武家さんみたいな口調だねぇ」
「む、これは失礼したでござる、至らぬ身ではあるがよろしくでござる」
 隠のその様子に可笑しそうに笑うおばさん達。
「お前っ! どういうつもりだいっ!」
 そこへ上がる声、見ればおきたを叱り付けるお志保に、何で怒鳴りつけられたか分からずに首を傾げているおきたの姿が。
「どういうって‥‥早坂様にはご贔屓にして頂いていましたし、久し振りと声をかけられて挨拶し‥‥」
「うるさいっ!」
「暴力はいけないでござるよ」
 きっと声を上げて手を振り上げるお志保ですが、その手を隠に止められ不機嫌そうにそこを去るお志保。
「あ、ありがとうございます」
「いやいや‥‥しかし、凄いでござるなー」
 話には聞いていたが、と口の中で小さく呟くとおきたは頬に手を当てて困ったように溜息をつくのでした。
 そんな様子のまま2日経ち、三日目の昼下がり、お志保がちらりと辺りを見回してからこっそりと裏口を通り出て行くのに気が付いた隠が尾けていくと、そこで浪人者と話をするお志保は、なにやら巾着のようなものを浪人へと握らせると、顎でしゃくってその場を離れさせるのでした。

●化けの皮
「あ、ちょっとそこのおねーちゃん♪ ちょっとお願いしたいんだけど〜」
 そうお志保に声をかけたのはシュシュラム(eb5083)。
 志羽、楊月、そしてジョシュアの3名もばらばらに店内へ散っており、あちこちで常連さんと話してみたりしていると、良いところの旦那だと分かっている男の元では愛想良く話しかけてきますが、それ以外では見向きもしないお志保。
「ねぇ、そこのおねえちゃんってば」
 再びちょこんと首を傾げて声をかけるシュシュラムに、やれやれとばかりに溜息をつくと少し近づいてくるお志保、面倒そうに近づいたお志保はシュシュラムの側へと来ると忌々しげに睨め付けます。
「なんだい、この餓鬼は。ここはあんたみたいな餓鬼の来る所じゃないんだよ、さっさと帰りな」
 あくまで表情は笑顔で、他に聞こえないように小さな声でシュシュラムへと言うと、さっさと踵を返して他の客の元へと言ってしまうお志保に、直ぐ側を通りかかった女へと声をかけるシュシュラム。
「何あの子? 感じ悪ーい!」
「あぁ、お志保さんは‥‥彼女はちょっと、ね」
 困った笑顔で答える女性、シュシュラムへとお茶のお代わりを持ってきながら隣へと腰を下ろすと小さく溜息をつきます。
「皆、あの子のコト嫌がってるのかな?」
「見ての通りの人だから、ねぇ‥‥私もだいぶお客さん取られたりして嫌な思いをしたけど、いまはおきたちゃんを特にいびって居るみたいで、可哀相でねぇ‥‥」
「だったら、店主さんに掛け合って何とかしてもらうしかないよぉ」
 そう言うシュシュラムに、そうなんだけどね、と溜息をつく女性、こういう仕事では店内からの声ではどうしてもひがみや足の引っ張り合いがないとはいえない環境から、言っても聞いて貰えないと小さく零します。
「じゃあさ、もし旦那さんから聞かれたら、そのこと言って貰える? 他のお姉ちゃん達にも伝えてくれると嬉しいんだけど♪」
「言う機会があったら、そりゃ言いたいことはたくさんあるんだもん、頼まなくったってみんな言ってくれますよ」
 女の人を見送ってから、おきたに声をかけるシュシュラム、直ぐに笑顔で歩み寄るおきたに、お兄さんや常連さんから頼まれたと告げて、暫く2人は話し合うのでした。
 その日の帰り道、既に暗い道ですが、男性陣に加えて隠と大所帯でおきたの長屋へと向かえば、おきた以外、ひたひたと尾けてくる足音複数に気が付きます。
 そして、小さな船付き場の前で浪人2人に破落戸が3名程駆けつけてくると、回り込むようにして行く手を阻みました。
「貴様等、誰に頼まれてこのようなことをした。お志保殿から、と言うのではあるまいな?」
 志羽が言えば、にやにやと嫌な笑みを浮かべる浪人。
「お前らには関わりないこと。そこの娘、貰い受けるぞ」
「‥‥大丈夫だから離れるなよ?」
「はい」
 おきたを庇うように立ち言うジョシュアに、しっかりと頷くおきた、浪人達はそれぞれ得物を抜き放ちます。
「うらあっ!」
「ほら、いい加減にするでござるよっと」
 匕首を手に突きかかる破落戸に、小さく息をついて真正面から顔面へと思い切り振りかぶってから銀のトレイで振り抜く隠。
 顔を真っ赤にして昏倒する破落戸、楊月はナックルを斬りかかる破落戸を軽く交わして叩き込めば、もんどり打って倒れる破落戸。
「‥‥」
 そして睨み合う浪人とジョシュア、おきたの背後から襲いかかろうとしたもう一人の浪人を、刀を突きつけ牽制する志羽。
 そして、楊月と隠に見られてまごまごしている破落戸の残り一人。
 斬りかかろう大上段に構え直す浪人ですが、そこへ手裏剣を撃ち込むジョシュア、見ればそれは左手に突き刺さり、刀を取り落とす浪人。
「わざわざ肩を狙ったんだ。この意味、分かるよな?」
 一瞬、凄まじい形相で見る浪人ですが、ゆっくりと片膝をつき手裏剣を抜いて過多な煮えをのばします。
「‥‥さっさと手を引け」
 言われる言葉に忌々しそうに睨むと、目配せをしてもう一人の浪人とさる男。
「‥‥では、おぬしには少々役に立って貰おう」
「‥‥」
 浪人に置いていかれぽつんと取り残された破落戸の最後の一人は、半分泣きそうな顔で自分を捕まえている隠と楊月に懇願するかのような目で見るのでした。

●難波屋の看板娘
「‥‥いや、私の不徳とするところ‥‥」
 しきりに手拭いで額を拭う難波屋主人に、あまりのことにあんぐりと口を開けている女将さん。
 シュシュラムが主人と女将さんを呼んでお志保のことについてと切り出すと、上手く誤魔化されていたり居ない頃合いを見計らっていたお志保を夢にも疑わなかったよう。
「いや、ほんと、こんな話は冗談じゃしませんよ、女将さんにご亭主」
 証言を頼まれ言う気弱な青年こと伊丹。
 難波屋主人の焦りようは、もしかしたらお志保に色目を使われて良い気分だったのかも知れません。
「ごめんよ、おきたに皆、あのお志保がねぇ‥‥」
 そのお志保はと言うと、雲行きが怪しくなったらお使いを頼まれたと店を出てそれっきり、御店の幾ばくか直ぐに取り出せるところの金を持って逃げたようで、そこで初めてそれまでも何度かお金を抜き出していたことに気が付きます。
「お志保が‥‥」
 まだうちひしがれた様子の主人、ジョシュアの閻魔帳をこれでもかと言うくらい読み返すご主人に言い募る女中さんや女達の様子を見れば、余程皆腹に据えかねていたのでしょう。
「本当にごめんよ、おきた」
「おきたちゃん誤解が解けて良かったね♪」
 女将さんが申し訳なさそうに謝るのにおきたが首を振ると、シュシュラムが言う言葉には嬉しそうに笑って頷きます。
 難波屋の庭の隅っこで小さくなっている、証言を取られた破落戸は居心地悪そうに隠、楊月両名を見ますが、離して貰えなさそうな雰囲気になんだかがっくり。
「良かったな、これで元通り、か?」
「はい、本当に皆さん有り難うございました」
 そして嬉しそうに微笑むおきたは、ジョシュアの言葉に頷いて改めてお礼を言うのでした。