莫迦な奴

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月30日〜05月05日

リプレイ公開日:2006年05月09日

●オープニング

 その日、ギルドの入口に立った奇妙な大男ががなり声を上げていました。
「‥‥‥何です、あれは?」
「‥‥知らねぇよ、俺が知りてぇぐれぇだ」
 珍しいことにどこかうんざりとした様子で受付の青年に言うのは、長谷川平蔵。
 凶賊盗賊改方の長官で、人足寄場の責任者もしている御仁です。
『ここに入ったのは分かっておるっ! 尋常に手合わせをせい! せぬかこの臆病者めが!!』
 そう喚く男の様子を、通りかかる者達が気味悪げに見ていますが、男は気にするでもなく、むしろ見られて余計に嬉しいかのように、ますます声を張り上げます。
「見回りの時に、ちぃと小悪党を捕まえたのよ。それを見ていたらしくてな」
 腕に覚えがあるのか、表でがなるあの調子でしつこく平蔵に手合わせしろと挑んできたため、辺りの見回りや張り込みどころではなくなった平蔵は引き上げて役宅へと戻ろうとするものの、あの様子で追ってくるため戻るに戻れず。
 人を頼んで綱宿の綾藤へと落ち着くことにしたらしいのですが、綾藤でもあの調子、店に迷惑をかけるからと再び出てきたそう。
「事情を説明しよういにも聞く耳持たず、あの調子で刀に手をかけ追っかけて来おる‥‥まったく、莫迦な奴も居た者よ」
 流石の平蔵も呆れてしまっているようですが、いついきなり刀を抜いて実力行使に出ないとも限らない、と緩やかに息を付きます。
「そう言う目をしておった。しかし、それだけの理由で引っ捕らえるわけにも斬るわけにもいくまい」
 勿論、刀を抜いて暴れ回ればそれなりの対処も出来るでしょう、大分沢山の血を見ている人間だろうとも思えます、しかし、それが全く分かっていない人間をいきなり斬って捕らえるのも微妙なところ。
「そこでだ、あの男調べて、危険な者であったと分かったらば捕らえ、また、刀を抜いて暴れるような暴挙に出れば刃向かった者として斬るも止む得ぬ。頼まれてはくれねぇか?」
 平蔵が言うのに、受付の青年は未だに大声を上げて騒ぎ立てる浪人者を想像してか、気味が悪いような、そんな表情を浮かべるのでした。

●今回の参加者

 ea3853 ドナトゥース・フォーリア(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1817 山城 美雪(31歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●サポート参加者

カイザード・フォーリア(ea3693)/ 神楽 香(ea8104)/ 真音 樹希(eb4016

●リプレイ本文

●受け入れ不可の提案
「相手が向ってきたら殺害許可は出てるけど‥‥その人が今まで決闘以外でたいした罪を犯して無かったら、更生の機会を与えて上げられないかな?」
 酷く慌ただしい様子の改方役宅へ、件の浪人を何とか撒いて戻ってきた平蔵を訪ねて来てそう言うのはドナトゥース・フォーリア(ea3853)。
 何事かの大詰めらしく寝る間も惜しみ動き回っている凶賊盗賊改方長官、長谷川平蔵へわざわざ事前に承諾を得に来たようですが、それに対する平蔵の反応はじろりつきつく睨め付けるというものでした。
「あの状態で既に尋常ならざる者とはっきりしておる、その上で、更正の機会をと言うからには、その発言にそれなりの責任を持てると言うことであろうな」
 このご時世、何かがあれば連帯責任というものが発生します。
「つまり、更正すると請合い何事かに推薦した場合、推薦された者が罪を犯せばそれは推した者の責任となる。悪さぁすりゃ、推した人間、つまりお前さんも同等の罰を受けることになる。その覚悟があるってぇことか?」
 言いながら普段から身に帯びる刀ではなく、床の間に置かれた大刀に手をかけ、廊下からちらり顔を出し膝をつき、平蔵が来るのを待つ同心へと一つ頷いて見せる平蔵。
「へ? 機会を与えるゆーのは平蔵さんでしょ」
 責任を持つのも当然平蔵だと言わんばかりのドナトゥースに、じろりと見る平蔵。
「ならば答えは否だ。このこと、ギルドにきちんと申し伝えておこう。仲介をしたギルドの信用に関わることであろうからな」
 言うと平蔵は同心の報告を受け、急ぎ足で退出していきます。
 どうやら聞こえて来る限りでは、凶賊一味の一つを特定しかけ、その捜査が大詰めの段階に来ており、平蔵のみならず役宅内も捕縛へ向けてぴりぴりとした空気が流れていました。
 もともと、浪人の相手をしない理由は、今事件の大詰めのため、構っているような暇はありません。
 その上冒険者から『依頼』という形で受けたものの『解決』を放棄するとも取れる発言を聞いたためでしょう、部屋を出て行くときの平蔵は呆れと失望のない交ぜになった表情を浮かべていたのでした。

●凶暴な男
「‥‥二本差しのジャイアント‥‥あぁ、巨人かい、あのろくでなしの‥‥」
 山城美雪(eb1817)が幾つかの道場付近の茶屋や酒場に聞いて歩けば、一人のおばちゃんが眉を潜めました。
「ここのところ、立派な様子の御浪人を追い掛け回していたようですね」
「なら間違いない、この通りを言ったところ、道の外れに偉く寂れた家があるんだが、どうもここのところそこで寝泊りしているようだね」
「その家とは?」
「そこの主人である老人が亡くなって空き家になっていたんだけど、手ごろだからと勝手に使っているのかもね」
 浪人は平蔵に撒かれてから、見かけた付近をうろうろとしてあちこちで迷惑をかけているようで、今はねぐらにでも帰ったのでしょうか、姿が見えません。
 ジャイアントの浪人は一時期問題を起こしてから暫く江戸から離れていたようで、再び舞い戻ってきたのか、と付近の人々は口々に言います。
「なんにしても迷惑なお方ですね‥‥」
 美雪は小さく溜息をつくと聞き込みを続けるのでした。
 同じく、ウェンディ・ナイツ(eb1133)も付近の道場などを回り、その風体の怪しい浪人者について話を聞いていました。
「いくら相手の同意は得ているとはいえ、人斬りは褒められたものではありませんね」
 ウェンディは話を聞いて表情を曇らせます。
 被害があった道場は、既に幾つかは潰れ、せめて一太刀と思った門人が殺されたところも少なくなく、中にはおそらく件の浪人であろうと思われていても、本当に小さなところでは既に道場の人間すべてが浪人の手にかかり息絶えてしまったところなどもちらほら。
 今まで腕の立つ門弟を殺されたのは大抵があまり大きくない道場ですが一人二人とても腕の立つものがいるところで、悪い評判が立てば道場も立ち行かなくなるでしょうし、立ち会うのを了承した瞬間には斬り掛かられ問答無用でその身体に任せた力業、強靭な身体は深い傷を与えられず済み。
 問題となった頃には、江戸の付近の町道場を気まぐれに荒らしつつ去って行ってしまったので捕らえられていないだけ、その間に大事件などの頻発により忘れ去られていたようで、当然その間に形となった改方へとは管轄は移ってきていない為知らないのも無理はないことでしょう。
「‥‥それでも、戦って勝てるか‥‥その場凌ぎにしかならないでしょうが‥‥」
 そう小さく呟き、ウェンディは根城にしているのではと言われる空き家へと足を進めるのでした。

●依頼放棄の果て
「‥‥‥‥その改方長官という男は、なぜ申し出を受けない? それが最も早く、手間のかからない手段だと思うが」
 分からない、そんな表情で首を傾げるアザート・イヲ・マズナ(eb2628)。
 アザートは情報収集を他の者に任せ、美雪に聞いた浪人の様子を伺いながらもなにやら疑問に思っている様子。
 凶賊盗賊改方という組織自体、まだ町奉行などに比べれば、盗賊相手に華々しい戦果を上げることが多くとも江戸へ浸透しきっているわけではなく、異国から江戸へと渡ってきてそんなに長いわけではないアザートが良く分からないのも無理はないことなのですが。
 ちなみに改方は『彦根の湯吉』という凶賊一味を見張り、この日、一味を一網打尽にする計画となっているのですが、当然の事ながら極秘に進められている捜査、役目により忙しく動いているという話しか聞いてはいません。
 空き家をずっと張っていたアザートですが、一人で見張るのは少々無理が合ったようで、微かに草を踏みしめる音が聞こえた気がして
 空き家へと向かうウェンディは、厳つくぎらぎらと凶暴さを押し込めたような、そんなぞっとする目付きのジャイアントの浪人が何かを追ってひたひたと歩いていくのを着かけ、後を追いました。
 男の視線の先には編み笠を被った立派な身なりの浪人姿。
 その浪人姿の男は何事かを歩み寄る男へ指示し酒場へと入っていき、ウェンディはその姿からそれが平蔵であることに気がつきジャイアントの浪人を見れば、酒場から少し離れた路地で立ち止まり襷がけをし、立会いを承諾してもしなくても関係なしに斬るつもりであることに気がつき小さく息を呑みました。
「‥‥あのっ‥‥」
 血走った目のその様子の浪人を見れば、自身の実力では太刀打ちできない――少なくとも、一人ではどうにもならない相手と感じ取りながらも声をかけます。
「貴方が、平蔵さんと立会いをしたいという方ですね?」
「‥‥ならなんだというんだ、女」
 威圧するようながらがらの声、どうやら武器を身に着けていても女性は戦わない者と決め付けている部類の男のようで、あからさまに不機嫌そうに鼻を鳴らす浪人。
「平蔵さんは忙しい様子、それに平蔵さんより強い方が今日の都には沢山いらっしゃいますよ、その、新撰組とか‥‥」
 ほうとばかりにまゆが動く浪人。
「新撰組とは何だ? 殺り甲斐のある男か?」
「その、少なくともお強い方が沢山いらっしゃると聞きます」
 ウェンディの言葉が気になるのか、尊大に話せとばかりに顎をしゃくる男を相手に、ウェンディは京への行き方などを簡単に説明し、男もそちらへ興味を引かれた様子。
 ですが、まだどこか平蔵との手合わせにも執着しているよう。
 そこへ、やって来たのはドナトゥース。
 ドナトゥースは男の過去の行状やこうなった経緯などを聞いて回ってみたものの江戸出身の者ではない為、江戸に現れた頃にはこうであったことぐらいしか分からず、口入屋にいたっては、男のことなど知らない様子です。
 そこで平蔵がこの酒場に来ていることを聞いてやってきたときにウェンディと話しているのを見かけたのでした。
 そこで平蔵の下についてはどうか、と提案してみるドナトゥースですが、京都へと関心が移りかけていた男、なにやらそれが偉くお気に召さなかったよう。
「俺にあの男の下に付けだと? 何故俺より劣る者に従わなければならん!」
「いや、そう言うことを言っているんじゃなくて、凶盗は侍身分相手も捕縛したりするからねー。しかも、相手は犯罪を犯した重罪人と来れば、普通にそこらで喧嘩を売るよりはスリルのある相手と会えるんじゃない? ってこと」
 予想以上に男自身の反発に遭い、苦笑混じりに言うドナトゥースですが、浪人の様子に沸々と湧き上がってくる殺気にじりと一歩退きます。
 その後、平蔵の入っていった酒場からは同心たちが数人駆け込んでは出て行くというのを繰り返しています。
「そう言う犯罪者なら、平蔵さんより強い人も当然居るだろうしね」
 言うドナトゥースですが、浪人は面と刀を抜き放ち睨めつけます。
「己の相手は己が決めるわっ!」
 繰り出される一撃をカウンターしようとするドナトゥースですが、返す刃はその身体に浅い傷を与えるにとどまり、逆に男の連撃は‥‥。
「っ!」
 どんどん、と鈍い音と共に叩き込まれるの野太刀と刀はドナトゥースの意識をそのまま刈り取るには十分でした。
 咄嗟に退き様に剣と短剣を構えるウェンディですが、自身では致命傷となるのを感じ冷たい汗を流すウェンディ。
 ですが、浪人は既にウェンディを見てはおらず、またドナトゥースの血を見たことで興奮し高酔いしてか、今出てきた、捕り物姿に身を包んだ平蔵へと一直線に駆け出します。
「覚悟ぉっ!!」
「ぬっ!?」
 突如向けられる殺気と怒声に咄嗟に大刀を引き抜くと野太刀を受ける平蔵ですが、その身体に刀が叩き込まれ、辛うじて身体をひねり致命傷を免れた平蔵の肩へと刀が深々と突き刺さります。
 ちょうどその時、浪人を見失ったアザートが美雪と合流して平蔵の元へとやってこようというその時、泣き叫ぶかのような町人たちの悲鳴が上がり駆けつけ。
 するとそこに広がるのは切り伏せられたドナトゥースと、夥しい血を流し膝を突きながらジャイアントの浪人と対峙しようとする平蔵、その平蔵の前で嬲るかのような浪人の刀を必死で受け流すウェンディの姿が。
 平蔵はこれから盗賊宿へ乗り込むところで不意を打たれての一撃、実力差で言えば平蔵に敵わない筈、故に咄嗟に反応できたのが不幸中の幸いでしょう。
 しかし、その光景はアザートには十二分に惨劇として映りました。
 ぱっと実は死んでいるように見えるドナトゥース、深手を負い今にも崩れ落ちそうな依頼人、嬲られ所々に浅い傷を負いながら耐えるウェンディ。
 髪を逆立て、目を赤く染め飛び込むアザート。
 浪人は女性であるウェンディから標的を飛び込んできたアザートへと移し刀を繰り、アザートはそれをかわしながら、数度スタンアタックを試み、聞かずともそれを何度も何度も、怒声を上げて撃ち込みます。
 幾度目かに撃ち込まれたアザートの一撃、目の前の浪人が崩れ落ち見れば、浪人の向こう側には印を結び浪人を眠りへと誘った美雪の姿があるのでした。

●堕ちた信
 結局、平蔵はすぐさま戸板に乗せられ医者の元へと運び込まれ、その数日後、一命を取り留めたこと、現在改方の指揮を執ることが不可能な状態とのことで、平蔵親派であるとある旗本が寄場・改方共に平蔵が職務に復帰できる迄の間預かることになったそう。
 そして、事件のあったあの日、騒ぎに乗じて彦根の湯吉一味は散り散りに逃げ去り、情報をろくに持たぬ下っ端数名を捕らえたに留まったそうです。
 そして‥‥改方内部では、一部において冒険者に対して強い不信感を表す者が続出、今まで築いてきた信頼関係に、暗い影を落とすこととなったのでした。