夜の花

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:9〜15lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月05日〜05月10日

リプレイ公開日:2006年05月19日

●オープニング

 その日、津村武兵衛が暗い表情でギルドへとやって来たのは、少々だらしない姿をした女性が酒の匂いをさせながらギルドへやって来た、その次の日のことでした。
 武兵衛は平蔵の用事で少々江戸付近の村で色々と動いていたらしく、その女がいた時間帯にも受付の青年と幾つか相談する話があったために顔を出していました。
「あの女‥‥夜鷹のおすえが殺された‥‥滅多刺しの酷い有様だったそうだ‥‥」
 言われて受付の青年も表情を暗くします。
 直接話を聞いたのは受付の青年ではなく、またおすえは病気の亭主と乳飲み子を抱えていたため、依頼を出せるほどのお金も持ち合わせていなかったためでした。
「江戸に戻りすぐにこちらへ寄ったのでしらなんだが‥‥夜鷹殺しが出ているようだな」
 夜鷹とは隠れて夜に道々へ立ち、客の相手をして日銭を稼ぐ女性達で、ここ数日、おすえも含めれば既に3人の夜鷹が無惨な様で殺されていることになります。
「まだ数日、しかも改方の管轄ではないためいかんとも出来ぬが、役宅でお末も殺されたことを聞き、お頭‥‥長谷川様はそれこそ酷くお怒りのご様子。しかし‥‥」
 認められていない夜鷹が殺されたからといって、そこまで重要視して操作がされるわけでもなく、その扱いに改方内では怒りの声があちこちで上がっているそう。
「我々は盗賊に探りを入れるため、時には色々な者を装っている‥‥なればこそ、お頭が言われる、罪のない者達の苦労が、分かるようになってきたのであろうが‥‥」
 そう言うと、武兵衛は紙に包まれたお金を受付の青年へと渡します。
「改方としては動けぬが‥‥これは津村武兵衛、個人としての頼みだ‥‥これで、夜鷹殺しの下手人を挙げて欲しい‥‥既に奴は人を3人殺めておる。手に余るようなれば‥‥」
 言う武兵衛に書き付けながらも心配そうに見る受付の青年。
「なぁに、何とでもなる、それでは、宜しく頼む」
 武兵衛はそう言うと、笠を手にゆっくりとギルドを後にするのでした。

●今回の参加者

 ea0210 アリエス・アリア(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8167 多嘉村 華宵(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2244 クーリア・デルファ(34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

フォーレ・ネーヴ(eb2093

●リプレイ本文

●改方での一幕
「は、長谷川様が重体‥‥」
その言葉に流石に唖然とした様子を見せるのは小鳥遊美琴(ea0392)。
 同道した闇目幻十郎(ea0548)とクーリア・デルファ(eb2244)も、予想外のことに一瞬言葉を失います。
 凶賊盗賊改方の役宅内、本来平蔵がいるべきその場所に座り苦い顔をしているのは彦坂昭衛といい、つい先日、病弱との届出で当主の座を降りた兄に代わり、若年ながら平蔵の口添えによってお目見えを終えたばかりの旗本です。
 その側に津村武兵衛、そして平蔵と縁の壮年男性が難しい顔をして座っていました。
 聞けば凶賊の捕縛に向かった筈の平蔵が、冒険者へと対処を依頼した筈の浪人の手により深手を負ったそう。
「幸い長谷川殿を見た医者は助かる、否、助けて見せるとの事。若い頃に剣術に打ち込んだお陰か、その身体と体力で回復すると踏んだそうだが‥‥ただあまりに血を失い過ぎ、付き切りの介護の他何人たりとも会う事は許されぬ状況だ」
 昭衛すらほんの僅かに意識のない平蔵へと代理の報告をすることを許されたのみで、改方内部でも、一部、冒険者と特に組んで親しく捜査を続けていた者以外では、冒険者への不信を公言してはばからない者まで出ている始末だとか。
「突発的なこと、そして事が事だけに、公に広める訳にも行かぬ、そこで臨時に私が出向き暫くの間改方、そして石川島の人足寄場を請け負うこととなったのだが‥‥」
 そう言って深く溜息をつく昭衛。
「済まぬな、儂とお頭が頼んだというのにもしやすれば不快な思いをさせるやも知れぬ。申し訳ない限りだが宜しく頼む」
 そういって頭を下げる武兵衛。
「過去の事件を当たるなら荻田に手伝わせよう。文献に関しては最適な人物、それに冒険者の協力者、長谷川殿の信頼する者に対して寄せる信頼から言っても適任だと思うが」
 昭衛が言うと、立ち上がるのは壮年男性。
「平蔵さんの代わりに顔役へ声をかけておこう。なぁに、これでも昔は平藏さんと一緒に悪さをしたものだ」
 そう笑いながら出て行く壮年男性を見送り、呼ばれた荻田同心について部屋を出ようとしてから、クーリアは不意に振り返り武兵衛へと問いかけます。
「犯人についての見立てだが‥‥あたいは殺人快楽者か刀の試し斬りの類と思うのだが専門家としてはどう思う?」
「‥‥確たる証がないゆえ言い切れぬが、試し斬り、ではなかろう」
「ん‥‥そうか、わかった」
 武兵衛の言葉に頷くと、クーリアは3人を追って部屋を出て行くのでした。
「夜鷹の客を取る時間帯ですからな、目撃者は居ないか、居たとしても出てこないでしょう。‥‥あとは‥‥殺した後にどの部位を、と言うのはないようですから‥‥」
「‥‥交渉が成立して人気に付かないところへと移った、だから見られていないということですか?」
「ええ。それに、夜鷹は本来認められた存在ではありませんからね、夜鷹同士が親しく行き来をと言うものはありませんからな、個人的に親しい者同士でない限りは商売敵ですから‥‥」
 考える様子見せて言う荻田同心に首を傾げる幻十郎。
「では‥‥夜鷹という職種に恨みが? 何か他に共通点はないのでしょうか?」
「夜鷹を殺したいのか、夜鷹だから殺したいのか‥‥それとも‥‥」
 幻十郎の言葉に呟くように言う美琴、ふとよぎったことに眉を寄せます。
「どうかしたのか?」
 クーリアが聞けば一瞬言葉に詰まり、小さく美琴は続けます。
「もしくは、夜鷹なら、なのか‥‥」
 重くなる気持ちを抑え、現場や状況を纏めたもの荻田から受け取ると、3人は改方役宅を後にするのでした。

●夜鷹たち
「なんだい、お客じゃあないのかい」
 肩を竦めてやれやれといった様子で敷いた茣蓙を丸め始める女性に、とりあえずそのままで良いと止めるのは鋼蒼牙(ea3167)。
「それよりも少し聞きたいことがあるんだが‥‥」
「なんです? 旦那」
 いくばくかを握らせて聞く蒼牙に眉を上げてちらりと窺うように見る女。
「近頃の事件は聞いていると思う‥‥それについて、なんでも良い、知っていることを話して欲しい」
 正面から低く声を落として言う蒼牙に、一瞬警戒するような色を浮かべた女は小さく溜息をつくと頷きました。
「あたしは直接見ちゃいませんが‥‥おすえっていう、気っぷの良い夜鷹がいたんですよぅ‥‥右も左も分からないあたしに、顔役と引き合わせてくれてねぇ‥‥」
 そう話し出す女はうっすらと涙ぐむと話し始めますが、あまり役に立たないことだと思うよ、と念を押しながら話す女の言葉に小さく首を傾げます。
 大まかに聞けば、おすえが死ぬ前に女と顔見知りの客が、町方らしき人間と話ながら歩いていたのを見たとのこと。
 おすえはその日に殺されたのを思えば、最後に言葉を交わしたのは役人だったということになるのですが、どうにも女はおすえが犯人を捕まえたがっていたからではないかという思いが消えないよう。
「その奉行所の男、誰かまでは聞いていないか?」
「いいえぇ、私が見たんじゃないし、よく分からなかったと‥‥あぁでも、もしかしたら他の者が見てたかも知れないね、この辺りは酔っぱらい達の帰り道だからねぇ」
 女が言うのに頷くと立ち上がる蒼牙。
「何、さっき払った金は情報料としてとっといてくれ」
「でも旦那‥‥」
「時間も無いし、そういう事にはあまり興味ないのでな」
「‥‥そうですか? じゃあ今夜はこれで家に帰れますわぁ」
 決して多いというわけではない金額ですが、女にとっては今夜得るつもりだった稼ぎよりもずっと多かったようで茣蓙を手早く丸めて抱え直すと例を言いながら戻りかける女を、一度だけ蒼牙は呼び止めます。
「例の事件で物騒だ。今日は客が捕まりそうだったとしても、まっすぐ帰れよ。あと、もし出来ることならばだが、数日間は仕事をしないでいた方が良い」
「あたしもおすえさんと同じで養わなきゃいけないのがいますからね。旦那にこれだけ貰ったんじゃなければ冗談じゃないと蹴ったところですが‥‥」
 保つだけはやってみましょ、どこか気楽な口調で言うと、女は急ぎ足で立ち去っていくのでした。
 多嘉村華宵(ea8167)は女物の着物の裾へ気を払いながら、側に寄って来て声をかけた男を艶を帯びた笑みを浮かべながらあしらっていました。
「色男で残念だけど先約があって」
「でも姐さん、あんた見てりゃ待ちぼうけって様子じゃねぇか。ちぃとばっか稼ぎを増やしたって先約の旦那も怒りゃしねえだろうに」
 あしらわれているのが分かったのか少し不満げに言うものの、男は肩を竦めて言います。
「まぁ、しゃぁねぇ、馴染みの店で一杯引っかけてから帰るか‥‥姐さんも、なんか物騒らしいから気をつけなな?」
 寒そうに背を丸めて帰って行く男を見送りゆっくりと息を吐く華宵。
 既に4人ばかりを追い払って見ますが、大体が先程の職人のように悪意はなさそうな男達ばかり。
 顔役に幾らか払ったのか昔の付き合いだからか、数日の我慢が耐えられる立場の者だけではありますが道へ立つ夜鷹の数は実際に減っていて、それだけ華宵やもう一人の囮、所所楽石榴(eb1098)へと自然と目は集まるようです。
「あー、もう、僕ちょっと気乗りがしないんだから〜ね、あっちのお姉さんにしようよ♪」
 しつこい客を何とか追っ払い小さく溜息をつく石榴。
「夜鷹の人たちは協力して貰えて減っても、お客さんが減る訳じゃないからなぁ」
 実際、物騒な事件だからと言って夜鷹の人たち以外にとっては嫌な事件があっても、直接関わる者以外は驚く程興味がなかったり、事件を知らなかったり‥‥。
「あちこちで事件が多発してるからなのかな?」
 そう呟きかけて、奉行所などでもそこまで聞き込みなどに力を入れているという話を耳にしていないことを石榴はふと思い出します。
「そう言えば‥‥殺された人の所や近くでも、あまり事件を知らない人の方が多かったかな?」
 そう呟き眉を寄せる石榴。
 この様子では町方が捜査らしき捜査を始めるとすれば、被害者がもっと出てからのことだろうと思ったからでしょう。
「‥‥さってと、もう一回りしてこようっと♪」
 石榴はそう言うと、気を取り直して再び歩き始めるのでした。
「‥‥その同心が他の殺された女とも会っていたと?」
 眉を顰めて言う石動悠一郎(ea8417)に、その女は頷きました。
 夜鷹の一人で、殺された女達と面識のあるこの女は明らかに怯えていて、長屋に閉じ籠もっていると聞いたため、案内をして貰ってやってくると、女は暫く迷った様子でしたが、やがてぽつりぽつりと話し始めます。
「うん‥‥あたし、米さんも同心らしい男と歩いていて、お役人をお客に取るなんて、なんて思っていたんだけど‥‥おすえさん、絶対犯人をって意気込んでギルドに出かけていったって言う日に、同心とやっぱり会っていたって聞いちゃって、あたし、なんだか怖くって‥‥」
 おすえが事件について頼み込んでいたのでは、という他の夜鷹にも、もし自分が言ったと分かれば、と思い怖くなって何も言えず籠もっていたそう。
「‥‥見たと言うこと、相手には気が付かれたか?」
「分からない、けど‥‥見られてはいないと思う‥‥」
 直ぐに通り過ぎたし、こちらをちらりとも見ていないし、少し離れていたので、と付け足して俯く女性に、石動はもう少しだけ出歩くのを控えるようにと告げるのでした。
「あぁ、町方の旦那と、あと浪人者が研ぎに出してきたなぁ」
 伝手を辿り研ぎ師へと訪ねるクーリアに、その研ぎ師は頷きながら帳面を捲り言いました。
「どんな様子の男だった?」
「どんなって言われても‥‥あぁ、浪人は仕官の口を求めて剣を見せたとか言ってたけど‥‥お役人は悪質な賊と戦ったときにとか言ってたけど」
 クーリアは、研ぎ師に2人のと苦労を聞いて、それを仲間へと伝えることにするのでした。

●血に酔う者
 アリエス・アリア(ea0210)は黒尽くめめ、露出する肌の部分も黒く染めて闇にとけ込みながら石榴の後を追いながら見ていました。
 既に巡回と囮を初めて4日目、進展が無いのに苛立ちも覚え始めたところで、アリエスは夜に最大限に動けるようにと、昼を休んでいたため必死でした。
「どんな理由があろうとも、大切な人の為に頑張って生きて来た人を襲うなんて事…私は絶対に許せません‥‥」
 沸々とわき上がる思いがあるのでしょう、小さく呟いて先方を行く石榴を追っていくと、人通りも絶えた夜道で、やがて石榴に歩み寄り声をかける男が。
「このような時刻、今がどんなときか分かっていてのことであろうな?」
 そう告げる男は年の頃40頭、がっちりした体格の男で、帯にさしてある奉行所の十手が目を引きます。
「奉行所で話を聞く、先に行け」
 そう前を歩くように指示する男に、言うことを聞くかのように歩き出す石榴、真後ろで抜き放たれ、音も無く振り上げられる刀。
素早く振り下ろされるそれを数歩、軽やかな足運びで舞うようにかわす石榴に、響く男の絶叫。
「さあ、血染まりの罪科、私が攫い、昼光の下に出して差し上げましょう‥‥!」
 見れば男が左目を押さえて膝をつき呻いていて、呻き声に凛と言い放たれる言葉。
「もう、アナタも返せないモノを奪ったのですから‥‥その眼も、還さなくて良いでしょう?」
 そこへ、付近を回っていた華宵達の組も駆けつけ、クーリアは改方から借り入れていた呼び子笛を使い、他の仲間へと伝えます。
「どのような目にあっても‥‥文句は言えんぞ!」
 叩き付けられる蒼牙のオーラショットによろめくと刀を手によろよろと身体を起こし立ち上がる男は、駆けつけた華宵に呻きながら残った右目で睨み付けます。
「こそこそと嗅ぎ回っていた、あの、夜鷹だな‥‥夜鷹ごときが‥‥」
「命の重みは同じ‥‥武士も夜鷹も‥‥そして貴方も。‥‥なんですけど、貴方のことは気に入らないのでお仕置きです」
 艶やかに月の光の中、笑みを浮かべて言う華宵。
「お前のような輩のせいで武器の罪が増えるのだ」
 男の様子にきっと鋭い目で見ながら言うクーリアに、男は低く笑います。
「刀など、使われるだけの道具‥‥虫けら一つ二つ斬ったところで道具がだ罪だと片腹痛いわっ!!」
 男がクーリアに斬りかかるのに、小さく息をもらしかろうじて避けるクーリア。
「我、武の理をもて斬を放つ‥‥飛斬!」
 もう一撃、そうクーリアへと向かった男に石動が叩き付ける真空波が男の身体を切り裂き、そこへアリエスのダーツが男の足に突き刺さります。
「同じ苦しみ味わって下さいな。大丈夫、きっと辻斬りの被害になりますから」
 そう微笑んで少し居短い刀を握った華宵の姿、それが男が見た最後のものでした。

●逞しい女たち
 夜鷹を殺した犯人の正体は、世間としては分からないままでしたが、顔役からの連絡で、また夜鷹たちは夜の町に立つようになったとか。
「これで、漸く表を歩くことが出来ます」
 石動が片が付いたことを告げると、思ったよりもしゃんとした様子で言うのはあの怯えていた女性。
「やっぱり、おぜぜがないと暮らしていけませんからねぇ」
 そう言って笑いながら、思った以上に逞しく、夜鷹の女達は普段の生活へと戻ります。
「おすえさんのご家族、改方から幾らかのお見舞い金が出たのだそうですねぇ」
 女の言葉に石動は頷くとその女は嬉しそうな様子で笑って仕事へと出て行くのでした。