心中志願

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月06日〜05月11日

リプレイ公開日:2006年05月21日

●オープニング

「あぁ、参ったことになったね、こりゃ‥‥こうなれば、心中しかない」
 ひょろりと細い優男がめそめそしながらギルドへと入ってきたのは、まだ日の高いある日のこと。
「ということで、寝ても覚めても忘れられないあのお人と、一緒になるには心中より他はないと、こう思い詰めて参りました、ですので、何とかその女性と会う手筈を‥‥」
 どうやら思いこみが激しい様子のその男性、とある御店のお嬢さんに懸想して、一緒になるにはと悩んでギルドへ来た様子。
「いや、流石にギルドだってその、死ぬために手筈を整えてといわれてもどうにもなりませんよ?」
 困った顔で応対していた受付の青年、そろそろお昼でもと思っていたところに来られて困り顔。
「第一、そのお相手だって、いきなり心中と行かずとも‥‥相手も方も承知で心中を?」
 合う手筈といっているのに承知も何も無いのですが、宥めすかしても説明を聞いてもあの人と心中したいのみで、どうにもこうにも困ってしまった様子の受付の青年。
「おい、お絹さん待ちくたびれてるぞ?」
 昼の約束をしていた様子の受付の青年の恋人である娘さんが、いつまで経っても来ないので心配したのか尋ねてきていたようなのですが、お絹、と聞いてがばと顔を上げる若者。
「あぁ、私に会いに来てくだすったんだね、こんな所にいるなんて、そこまで分かって下さるだなんて‥‥」
 案内されて入ってきたお絹さん、その男性を見ると真っ青になって怯えた様子でギルドを後にします。
「あぁ、あんな風につれない仕打ち‥‥私しかいないって言うのが分かっているのに、何でこんなに焦らすんでしょう。やっぱり、私たちは一緒に死ぬしかないんですよう」
 おいおい泣き出す男に、自分と恋仲の娘さんに付き纏っているようすの男に引きつった表情で、目が怒っている受付の青年。
 見かねて同僚が代わり、受付の青年がお絹さんを追っていけば、どうも自意識過剰のあの男性にここのところしつこく付き纏われているので、相談しようとお昼に何とか時間を取って欲しいとやって来たのだそう。
「役者さんらしいのですけれど、気味が悪くて‥‥」
 涙ぐむお絹さんに何とかしてみようと引き受けて受付の青年が戻れば、連絡先を念のため控えるが、内容が内容だから受けられない、と断ったと伝える同僚。
「‥‥ちょうど良かった、依頼を一つだそうと思いたったんだが」
 そう言ってごそごそと財布を漁る受付の青年の目の据わった様子に腰が引け気味の同僚。
 その日のうちに、女性に付き纏う迷惑な男を何とかしてくれ、という依頼が張り出されることになるのでした。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5557 志乃守 乱雪(39歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

逢莉笛 舞(ea6780

●リプレイ本文

●役者の青年
「しかし、心中とは極論まで行ったものですね」
 瀬戸喪(ea0443)は、溜息混じりに言うと、舞台へと目を向けます。
 その舞台、主人公は馴染みの女の元に顔を出し、別の男に馬鹿にされてかっとしてしまい、その時持ち合わせた主人の金の封を切り、叩き付けて身請けをしてきてしまい、追いつめられて心中する、と言うもの。
 ちなみに、迷惑な若者の役は女の店の客引き及び、主人公の御店の下男です。
 舞台の袖で、娘に縋り付かれ、突き放すも縋るその姿を眺めて、まるで夢でも見るかのようなうっとりとした表情で心中場面を眺めていは深く溜息。
「‥‥あぁ、こんなきつい稽古に、私のことをさっぱり分かっちゃくれない周りの人達‥‥なんて不幸なのか‥‥」
「‥‥」
 聞こえてくる男の泣き言に、元から駄目な奴なんですね、と妙に納得をしながら見る喪。
 そんな駄目駄目な男の様子にむずむずとしてくる喪ですが、とりあえずの所は男の仕事っぷりを確認するだけで我慢して、一座の練習場所を後にするのでした。
「‥‥でも、お絹だって死なずに済むことならば‥‥」
「私達が一緒になるにはそれしかないって、分からないんですか?」
 練習が引けた様子の男に丁寧な口調、物腰で話しかける超美人(ea2831)、それを先程から、身分が違うからと表向きは相手にしてくれない、本当は私のことが好きなのに、などが延々と続き会話が成り立たず、これっぽっちも迷惑なのではとは考えない様子に段々イライラが募ってくる美人。
「それでは、お絹のことは‥‥」
「お絹さんは私のことが好きで好きで堪らないのに、家のこととかで逢ってくれないんですよぅ、酷い話じゃあありませんか」
 ここまで来て、いい加減に美人の堪忍袋限界、ぷっつりと切れてしまったよう。
「お絹について、本気でそう思っておるのか? 何でも自分の思い通りになる訳が無いであろう。お主の返答次第では容赦せぬぞ!」
「なっ、何で急に怒るんですよぅ‥‥まさか、貴方焼き餅でも? 私にはお絹が‥‥」
 あまりの頭の構造に既に言葉もない美人、お絹に近付いたらただでは済まない旨と、死んでも願い下げだという旨と伝えると、足早にお絹の元へと立ち去っていくのでした。

●お絹さんといっしょ♪
「リン、はい、伏せ♪」
「わぅん♪」
「あらら、お利口さんですね」
 ユリア・ミフィーラル(ea6337)が愛犬リンを伏せさせると、お絹はそのふさふさの首元を撫でて笑みを浮かべます。
 ここはお絹の自宅、小間物の、特に京から仕入れている白扇が人気の小さいながらもしっかりとした御店で、父親だけの片親ではありますが、事情を聞くと礼を言って迎え、持て成してくれます。
「やれやれ、思い込みの激しすぎる奴というのも恐ろしいもんだね‥‥お絹さん、しばらくは俺達で護衛も務めるから、安心してくれて大丈夫だ」
「はい、何とお礼を言って良いか‥‥本当に有難うございます」
 先程まで強張っていたお絹の表情が和らぐのを見て微笑を浮かべながら請け負うランティス・ニュートン(eb3272)。
「彼は要するに根性なしであるからして怖がるコトはないである」
 きっぱりはっきりというリデト・ユリースト(ea5913)は愛犬りんごともふもふ畳の上でじゃれつきながら続けます。
「仲間が彼について調べて追い払うであるからお絹さんは普段通りにしていれば良いであるよ。私達が守るである」
 約束される言葉に嬉しそうに笑って頷くお絹、ぱっと立ち上がって出て行くユリアを見送れば、やがて甘い良い香りがして、ちょうど焼き上がったわ、と笑いながら戻ってくるユリア。
「美味しそうなんである♪」
「蜂蜜を手に入れて貰えたから、ある材料で、ハニーパイみたいなのを作ってみたんだけど‥‥」
「甘い匂いで美味しそうですね」
「良かったら食べてね♪」
 ほのぼのと蜂蜜菓子を切り分けてお茶会となる一同。
「良かったら、この後は買い物に行くのである、良い天気、きっと楽しいであるよ〜」
 そう言うリデトに頷いて、お茶会の後、少し散歩に出ることに。
 と、早速向こうに見えてくるのは少し派手な着物の、例の優男。
「あんたが、お絹さんを付け回してる役者ね。よ〜く覚えておくわ」
 護衛として付いてきていたマクファーソン・パトリシア(ea2832)がお絹との間に立ちはだかると、リンもううと唸りながらぐるぐる男の周りを歩いて匂いを覚えているよう。
「つけ回すなんて人聞きの悪い‥‥私はわざわざ、お絹さんに会いに来たんじゃありませんかぁ、思い合う2人、当然のことでしょう」
「物語の心中物に心酔しての心中志願らしいが、君は甚だしい勘違いをしている。それは物語だからこそ美しく、人々の共感を得られるものだ」
 びしっとマクファーソンに加勢して指を突きつけるランティス、怯えたように一歩下がるお絹には、リデトが大丈夫である、と慰めています。
「逢莉笛さんが聞いてきてくれたとおり、周りが見えていない男であるな〜」
「余りしつこいと、体中ずぶ濡れになるわよ」
 リデトが呆れたように上げる声に、マクファーソンはじろっと睨んで男は首を引っ込めます。
「そいつには何を言っても無駄‥‥痛い目を見て貰うしかないようだ」
 そこへやってくる美人。
 どうやら御店へと戻ったところ、一同出かけていたので、道を聞いて追いついてきたよう。
 と、そのぎすぎすした空間へ、ひょっこりと顔を出す人間がいます。
「人がお仕事場に挨拶しにいっている間に勝手に出て行くなんて、駄目だと思うけどなぁ」
「そこで2人とばったり鉢合わせをしまして‥‥」
 菊川響(ea0639)が志乃守乱雪(ea5557)、そして喪と共に連れ立ってやってくるのに目を取られれば、溜息混じりに言った菊川、にっと笑ってがっちりと優男の腕を取り。
「さて‥‥貴殿、先日はギルドに心中の依頼にいらした方だな! 依頼としては通らなかったわけだが、役者として心中に至る心境をつきつめて理解しようというその熱意に感銘して協力したいと思ってな!」
 え、とばかりに視線が集中すると、菊川はにっこりと笑い続けます。
「あ、俺は素晴らしい芝居が見たいと思っているだけの一有志だ、気にせんでくれ」
「あぁ、私の気持ちが分かって心中のお手伝いを‥‥」
「ということで、心中物の舞台の為に、是非とも、完全に、しっかりと予行練習を使用じゃないか」
「予行練習って‥‥いや、芝居の為では‥‥」
「何をご謙遜を。志乃守殿も瀬戸殿も行きましょう、ということで、この方を借りていくので〜」
 にっこり笑顔のまま、ろくに反論も許さずに強制的に連行していく菊川を、一同は見送ると、お菊の気分転換の為に、あちこちその日はそのまま楽しく過ごすのでした。

●心中こわい
「さて‥‥心中、でしたね」
 気が付けばとある廃寺の一室、膳を届けて貰い、食事をしながらという形になりますが、3人に囲まれる居心地悪そうにもじもじと座る青年、乱雪が口を開けば恐る恐るというように目を上げます。
「曾根崎のあれはどうしたんでしたか‥‥そうそう、刺殺でしたね」
 そういって眉を寄せる乱雪、青年は痛いのは嫌だなーとばかりに眉を潜め。
「これは慣れないと痛いですよ。刺せばいつかは死ぬでしょうけど、すぐに死ぬところを刺すにはコツがいります」
「それに、し損じて二度三度と繰り返して貰えるならばいいですけれど、そうも行かなければ痛みに耐えていなければ‥‥まぁ、段々と意識が遠くなって、気持ち良くなるかも知れないですが」
「あぁ、うんうん、刀傷はこれが結構痛いんだよね」
 乱雪が言えば、喪も菊川も口々に、しかも他愛のないことのように同意します。
「次に飛び降り。死ねるほど高い場所まで上らないといけませんから大変ですよ、江戸界隈には簡単に飛び降り自殺できるような崖っぷちがないですし。‥‥ちょっと遠出になりますね」
 うーん、とこれもまた真面目な顔で言う乱雪の言葉に、想像したのか首を捻る青年。
「昨今、郊外は野盗が多いですから、手間が省けるかもしれません。でも貴方はすぐ殺されるでしょうけど、お絹さんは‥‥」
「それに、風の具合で叩き付けられたり、大概人間は丈夫だから叩き付けられても死ねなくて、でもそんな所じゃ助けも呼べないでしょうし‥‥」
「うわ‥‥それは確かに‥‥」
 喪が言う言葉に想像したか顔をしかめる菊川、青年の表情は良い感じに青ざめてきています。
「入水。重石を持ち運ぶ労力をいとわないなら。ただ、江戸湾は遠浅ですし、舟が必要ですね。漕げますか? 櫂は重いですよ?」
 細腕を見られて気まずい様子の青年、乱雪はちらりと青年のお膳へ目を向け。
「江戸湾は魚が多いですからね‥‥その魚もどなたかをかじったかもしれませんねえ」
「ぶばっ!?」
 思わず咳き込む青年に、乱雪は涼しい顔。
「あとは‥‥そうですね、首吊りが一番場所も選びませんし、手軽かも知れないですね。2人並んで苦しむのは心中に向かないとは思いますが、これで行きますか?」
「行きますかって‥‥」
「予行練習としては、飛び降りか首吊りが一番簡単かな?」
「首吊りは綺麗なものではないですが、藻掻き苦しむ様はなかなか‥‥人が付いていれば何度か繰り返し練習できますし?」
 早速場所を考え始める菊川と、縄ならありますよ、と心からの優しい微笑みで差し出す喪。
 その目がかなり本気であることは追求しない方が良いのかも知れませんが。
「あ、後これだけは保証して差し上げますね」
 既に血の気が引いて真っ白になっている青年へ、言い忘れました、と口を開く乱雪。
「できませんから、アンデッド化は保証してあげますね」
 ぷく‥‥小さな音が聞こえたかと思うと、ばったり、本気で釣りそうな喪が怖かったのか、平然として淡々と話し続ける乱雪が怖かったのか、菊川のどこまでが本気かが分からない様子が怖かったのか‥‥。
「心中、こわい‥‥」
 呟くように聞こえたかと思うと昏倒する青年に、根性がなっていないとばかりに、乱雪は小さく溜息をつくのでした。

●一から鍛え直し?
「さ、そこでもう一回、発声練習!」
 へたばりそうになる青年に、菊川は声を上げます。
「それに、気を抜くとそこから落ちるからなぁ」
「かかか‥‥勘弁、もう、無理‥‥」
「ばうわうっ!」
「んみぃ?」
 江戸の郊外、思い切り高いというわけではない崖の上で、泣きながら発声練習をしているのは青年、そして、その側で軽く素振りをしながら声をかける菊川に、青年の後ろにちょこんと並んで座って、さぼると吠えたり鳴く、影が2つ。
「はい、やまざきもはくしゅうもお利口さんだな。引き続き監督頼むね」
 休ませてと泣いて頼む青年に、にこやかにさっくりと却下をすると、菊川は鍛え直すって言って借りて来ちゃったんだから、と首を振ります。
「それとも、瀬戸殿と変わるかい?」
 言われてかちんと固まり、首だけもの凄い勢いで横に力強く振る青年、何かよっぽど怖いことがあったのでしょうか、あの人の側だけは辞めてくれ、と懇願します。
「とりあえずはあれで平気なのである」
「‥‥人格が変わっていますね、既に」
 そして、少し離れたところでもう大丈夫と知らせを受けて、ユリアにお菓子を作って貰いみんなで出かけてきたようで、すでにお絹さんに言い寄るも何も、そんな気力も思考もないようで。
「このお菓子やっぱり美味しいですね‥‥後で作り方をもう一度教えてくださいね」
 そしていたくユリアの作ったお菓子が気に入った様子のお絹。
「喉元過ぎてにならなければ良いんだが‥‥」
「あぁ、大丈夫ですよ、きっと‥‥」
 ランティスが溜息混じりに言えば、茣蓙に座ってのんびりとお茶を頂いていた喪が、なんだか意味ありげに微笑み。
 青年の叩き直される様を眺めながら、喉から春の日の昼下がりを、一同は過ごすのでした。