比良屋のお見合い?

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2006年06月15日

●オープニング

 その日、薬種問屋比良屋へと出向いたギルドの受付の青年は、言われる言葉に目をぱちくり瞬かせました。
「えっと、今、なんて‥‥」
「はい、お見合いを打ち壊して欲しいのですよ」
 のほほんとした様子でトンでもないことを言うのは比良屋の主人。
「何でまたお見合いを‥‥いや、って言うか、誰のです?」
「私のです♪」
「‥‥」
「‥‥? どうしました?」
「いやー‥‥その、他人のお見合いを潰してくれとか、そう言うのは結構あると思うんですが、自分のお見合い潰すって‥‥」
「あぁ、ちょっと、信用置けないというか、色々ありまして」
 そう言う比良屋主人、どうやらその女性、幾度かお見合いをしているそうなのですが、毎回必ず破談となっているようで、それだけならばそこまで気にしないそうなのですが。
「‥‥その人の親類の伝手で、御家人に清之輔君とお雪ちゃんを養子に出せばとそれとなく働きかけてきた?」
「あくまで多方面にやんわりというように頼んでいるようで。それに、荘吉に急に他の御店から引き抜く話が出てきたそうで、荘吉も断っていたらしいんですが‥‥」
 そこに比良屋が結婚をして子供が出来ればお払い箱だろうと荘吉へ親切顔で言う人間がいるようで、再三言われ続けて、少々荘吉も迷い始めた様子が見えるそう。
「あくまでうちの御店は荘吉で保っていますから、商売敵の妨害かなーとも思えるんですが、こう、そのお見合い相手の女性って言うのが、またなかなかの美人で、話を合わせるのが上手いとかで‥‥」
「ちょっと勿体なく?」
「いえ、断る口実が見つかりにくいんですよ、一応、人からの紹介なので無下にも出来ず‥‥」
「なるほど‥‥」
「で、数日間うちの御店に泊まる言いだして、私も辟易してきまして‥‥なので、御店としての信用もありますから、無下な扱いも出来ないので、ここはお持てなしの席はしっかり盛大にと言いますか、むしろ私たちが楽しめるように」
「‥‥?」
「それを表向きとして、滞在中に荘吉を遠ざけようとしたり清之輔やお雪に、この御店にいたくなくなるような働きかけをしていたら、そこを押さえて欲しいと言いますか、反論できないようにして貰いたいんです」
「‥‥なるほど‥‥しかし、意外としっかりしているんですね、そこまで御店のことを見て‥‥」
「あぁ、いえ、うちのお弓がたまたま荘吉が他の御店の人間を追っ払っているところを見て、知りまして」
 お恥ずかしい、と笑いながら頭を掻く比良屋に、荘吉がいないと大変なことになるだろうなーなどと呟きながら、受付の青年は依頼書に目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0112 ジョシュア・アンキセス(27歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ウォル・レヴィン(ea3827

●リプレイ本文

●その女
「そうですわね、私は素敵な御店だと思いますわ」
 レイナス・フォルスティン(ea9885)と話す女は楚々とした様子で、優しげな微笑を浮かべて頷くとそう言いました。
 女は泊りがけで来る前に暫く通い詰めていたのですが、なかなか出て行こうとしない子供達に業を煮やしている様子。
 比良屋の一室、女は申し分のない立ち居振る舞いで言っているのですが、他愛のないことを話し様子を窺うレイナスにしてみれば、所々で本人が自身の気質を押し込めて居ることが容易に伺え軽く肩を竦めます。
「わたくし子供が好きですので、この家にいる子供達とすっかり仲良くなったんですのよ」
 そう言ってにっこり笑う笑顔の向こう側に、どこか後ろ暗い陰湿なものを感じ僅かに眉を上げてみるレイナス。
 その部屋から見える庭ではウォル・レヴィンが清之輔と走ったり笑ったり、そして縁側ではお雪がエスナ・ウォルター(eb0752)にべったりで、聞こえてくる女の言葉に何か言いたげにぎゅっとエスナの腕に掴まります。
「お雪ちゃん‥‥お人形‥‥気に入ったなら‥‥」
 あげるよ? というエスナの言葉にふるふると首を振ると、お人形を抱えて甘えるようににこおっと笑って見上げるお雪、どうやらお人形を持って遊びに来て貰いたいようで、貰ってしまったら来て貰えないかも、との様子が見えて、思わずエスナも笑みを零します。
「お雪ちゃん、ケインにお菓子、貰って来る‥‥ね?」
「うん、えすなおねぇちゃん、お雪、まってる」
 こっくりと頷いてお人形をぎゅっと抱き締めるお雪に、エスナは奥へと入っていけば、ケイン・クロード(eb0062)はちょうど有り合わせの材料で甘くさっくりと揚げた一口大のお菓子を布に包んでいるところでした。
「ケイン‥‥こっち、忙しい‥‥?」
「うん、少しね。料理の手が足りないから荘吉君に手伝って貰ってるけど、今、沖鷹さんが例の女性を呼びに行ってるみたいだよ」
 そう言ってお菓子の包みをエスナに渡すと、頭を撫で、清之輔とお雪のことを頼んだよと告げるケインに、エスナもほんのり頬を染めて頷きます。
 エスナが戻る途中、沖鷹又三郎(ea5927)がお見合い相手を連れて戻ってくるのと擦れ違い、お雪の待っていた部屋に入れば、ジョシュア・アンキセス(eb0112)が怒ったような困ったような表情でお雪を抱っこして宥めており、お雪はぐすぐすとべそをかきながらぎゅーっとジョシュアに掴まっています。
「お雪ちゃん‥‥何か、あったの‥‥?」
 心配そうに聞くエスナにしゃくりあげたままのお雪、ジョシュアは女性が歩き去った方向を睨むように見て口を開きます。
「あいつが旦那に話があるって目を話した隙に、あの女、『ごみ漁りをしていた子供も、運が良ければ裕福な商家で何不自由なく暮らせるみたいですけど‥‥』なんて小さくお雪に言いやがって‥‥」
 どうやらジョシュアはエスナが離れている間にお雪を相手に『とーっておきの手品の練習につきあってくれ。ホラよ、見せる芸ってのは観客いねーと練習にならねーだろ』と言いながら手品を披露し、それにお雪も喜んで人懐っこくにこにこと笑って見上げていたそうです。
 その時にふと店の者に呼ばれてジョシュアもお雪から離れ、その隙に悪態を付かれたようで、見ればそれが聞こえていたのか庭の隅で悔しげに唇を噛んでいる清之輔と、顔を真っ赤にして怒りながら清之輔を慰めるウォルの姿もあり、自分が言われたかのように悲しげな表情を浮かべてお雪の頭を撫でるエスナ。
 ジョシュアもエスナも、心無い言葉に傷付けられる辛さは自身や身内に向けられる差別の言葉を知っているだけに、憤りや遣る瀬無さを感じているよう。
「大丈夫‥‥私、一緒に居るから‥‥」
 エスナの言葉にお雪は目にいっぱい涙を浮かべて顔を上げます。
「大丈夫だから、ね‥‥お菓子食べて、嫌なこと、忘れよう‥‥?」
 エスナがそう言って頭をもう一度撫でて上げると、お雪は頷いてぐしぐしと目元を拭ってにこっと笑いかけるのでした。

●厨房は今日も大盛況
「比良屋殿といえば美味しい物好き、奥方候補のお方でござればさぞ料理の腕前もあるでござろうの」
「本職の方には敵うはずもありませんわ」
 そう言いながらも多少の自身はあるのか蕨を手に取る女性、沖鷹はその隣で既に鰹を手元に引き寄せて手早く包丁を入れていきます。
「荘吉君はやっぱり頼りになるね」
「単純な物しか作れないですけどね」
 ケインと荘吉の会話が聞こえてくるのが気になるのか、蕨をゆっくりと丁寧に扱う女性に小さく溜息をつく沖鷹。
「駄目でござるよ、料理は手際が大事でござる、一つ一つにあまり時間を取られては美味しく出来るものも味が落ちてしまうでござる」
「それは‥‥ですから、本職の方と比べられるとお恥ずかしい限りですわ」
「荘吉君はいつも比良屋殿の食事も使用人の食事も作っているでござるよ」
 言いながら女性のまな板の上の蕨を、まな板ごと取り上げて、自身が裁いた鰹の切り身を乗せたまな板をずいと押し出す沖鷹、女性が沖鷹を見れば察しの悪さに深く溜息をついて見せます。
「刺身ぐらいは切れるでござろう? あぁ、でも、美味しい刺身の切り方は存外難しいものでござるが」
「‥‥」
 沖鷹の様子に一瞬剣呑な目つきで見るとにこりと笑って頷き、刺身包丁を手に取る女性、す、すと切っていきますが、すぐにあきれたように溜息をついて手を止めさせます。
「‥‥そんな切り方では駄目でござる、材料が勿体ないでござるよ」
「なっ‥‥」
「ケイン殿、荘吉君にこれを切って貰えぬでござるか?」
「あぁ、わかった、すぐに戻ると思うから」
 いつも寄るらしい魚屋の相手をしに出て行っている荘吉の変わりにやはりまな板ごと鰹の切り身を受け取り頷くケイン。
「荘吉くんは刺身を切るのは得意でござるよ、いつも魚を捌いているでござるし」
「ん、料理ができない人は、申し訳ないけど、やっぱり忙しいとちょっと邪魔、かな? お客さんには部屋で待っていて貰おうか」
 女性にこれ見よがしに聞こえるように言う二人に、わずかに口元を引きつらせて笑うと、女性は出て行き、入れ替わりに戻ってきた荘吉は、怪訝そうに首を傾げるのでした。

●賑やかな宴
「いやいや、どの料理も美味しそうですねぇ」
 そう嬉しそうににこにこする比良屋にお酌を、と言って女性が隣へと腰を下ろすと、宴会の開始です。
「お雪〜この蕨餅は美味しそうですよ〜」
「‥‥エスナおねえちゃんたちとたべるからいい」
「そんなぁ‥‥」
 比良屋の主人がお雪を呼べば、お雪はぎゅうっとエスナの腕に掴まりながら後ろへと隠れ、しょんぼりと見る比良屋。
「エスナ、お皿を取ってくれないかな?」
「‥‥はい、ケイン‥‥」
 お皿を受け取り選り分けると、エスナに少し冷まして食べさせて貰い、嬉しそうに笑うお雪、清之輔は沖鷹とレイナスと話しながら料理に舌鼓を打っています。
「裁き方や、ちょっとした工夫で随分生臭さがずいぶん‥‥その、消えるんですね‥‥」
「これは酒で蒸したのか? ‥‥それにしては酒と言う気はしないが‥‥」
「大根と煮付けてみたでござるが、なかなか良い出来でござるよ」
 あれこれと話しながら食べていますが、ふと首を傾げる清之輔。
「この、妙に切り口があれているお刺身は‥‥」
「それはお客人が切られた物でござるよ。‥‥こういっては何でござるが、折角の食材が可哀相でならないでござる」
「なかなか芸術的な切り方ではあるが」
「‥‥いつも荘吉お兄さんが切るから、こんな不揃いなお刺身は見ないし‥‥」
 微妙に耳へと届く声で話し合われる内容に引きつった笑みを浮かべる女性、自分の流れで呑みたいから、と徳利をひょいと取り上げてのむ比良屋主人に、そうですか、と笑みを浮かべながら応えます。
「さて‥‥じゃあちょっとした余興を‥‥」
 そう言ってジョシュアが芸を見せれば、それ見る女性は皆がわいわいと盛り上がるのはどうものは退屈そうで、折角の美味しい料理をもそもそ。
「いつもより多く花を出しておおりまーす」
「きれぇなの、かわいいの〜♪」
 それに反してお雪は本当に嬉しそうにきゃっきゃを声を上げ、ジョシュアもにっこり、お雪に布で作った造花を渡しているのでした。
「何を書いて居るんですか?」
 ちょっと、と言って席を立った女性に呼び止められて声が掛かっている御店のことをちらっと聞かれて複雑な顔をしてお酒を運んでいた荘吉は、なにやら書き込んでいるジョシュアに気がついて首を傾げます。
「あ? あぁ、これは今回の仕事の一部だ」
 そう笑って閻魔帳という名の報告書を閉じるというジョシュアに首を傾げて、荘吉は宴会の端っこに腰を下ろして鰹の漬け丼を前に頂き始めようとすれば、ひょいとそのお膳を持ち上げて宴の中へと入っていくジョシュア。
「荘吉君、ほら、こっちで一緒に食べよう」
 ケインが声をかけ、そこへジョシュアがお膳を置けば小さく溜息をつく仕草を見せつつも笑って歩み寄り腰を下ろす荘吉、いつものようにわいわいと賑やかな宴が続きます。
「俺、一人っ子でさ。ガキの頃は兄貴や姉貴に憧れてたんだよ」
「はぁ‥‥」
 もぐもぐ、鰹の漬けが余程気に入ったか、ジョシュアの言葉を聞きながらもついつい食が進む荘吉、そんな様子をケインとエスナが微笑ましく見ています。
「‥‥‥比良屋に居残って、ご主人の子供の兄貴分になるって選択肢はねえか?」
「でも、旦那様が奥様を貰われたら、まぁ、その辺りの役割は生まれて来る子供のものでしょうし‥‥」
「旦那さんが荘吉君の事を大切に思っているって事は、きっと誰よりも荘吉君が一番分かっていると思うんだ。大切な比良屋の一員として、本当の家族みたいにね」
 ケインがむうと迷う様子を見せる荘吉に言うと、笑って続けます。
「だから、邪魔だとかお払い箱だとか、そんな事は思っていないと思うよ」
 子供が出来ようと関係なくね、笑いながらケインが言うと、とてとてと歩み寄るお雪が、そしてどこか伺うような心配そうな視線を投げかける清之輔にふと表情を和らげる荘吉。
「そう‥‥お雪ちゃん、お歌、好き‥‥?」
「うん、おゆき、だいすき」
 荘吉の隣でにこにこと笑って頷いたお雪に、エスナがちょっと恥ずかしそうに頬を染めながらゆっくりと歌い出すその異国の歌は、穏やかで不思議で子供達に、ここ数日裏でいろいろと嫌がらせの言葉を投げられた心を癒してくれるかのような響きがあります。
 そんな中で、女性に側にぴったりとくっつかれてちょっとのけ者状態の比良屋は、なんだかしょんぼりとした様子で蕨の天麩羅や鰹の叩きを口へと運んでは、ちょっぴり恨めしげなのでした。

●結局の所
 宴の終わった朝、女性が比良屋にしきりに二人で庭を見たいと誘ったとき、一同はこっそりと庭のあちこちから様子を窺っていました。
「楽しい御店ですのね。きっと、私も時間はかかるかもしれないですけれど、この御店でやっていける、そう思いますのよ」
 そう微笑を浮かべて言う女性に、そうですね、とどこか生返事で手元の紙の束を見ている比良屋。
「いつもいつもあんな風に賑やかにお過ごしなのかしら?」
「まぁ、大抵、美味しい物が入ればいつもああですね」
 ぺらり、紙を捲る音と共に素っ気ない返事、ですが、女性はあまりそうと取れないのかくすっと笑って軽く首を傾げて見せています。
「でも、たまには二人きりで、静かに楽しみたいですわ」
 その言葉にぴたりと紙を捲る手が止まり、にっこりと笑い返す比良屋にあちこちで盗み見ている一同は固唾を呑んで見守り。
「家はみんなでやって来て、今の形がある御店なんですよ。それに荘吉は大切な家族だし、お雪はお嫁にやるくらいならお婿に来て貰うし、清之輔が御武家様の子です、いつかきちんと御武家様の家にとは考えては居ますが‥‥」
 そう言いながら捲っていた紙を閉じれば、それはジョシュアが書きためていた閻魔帳。
「それは末永く、親しく行き来する様なお方の所と決めていますので。あの子達の母親になれない方でしたら、申し訳ありませんが‥‥それに‥‥」
 そう言いながらちらりと様子を窺う一同の姿を見てから笑って言う比良屋。
「お料理が出来ない方は、ちょっと、ねぇ」
 その言葉に顔を真っ赤にして背を向ける女性。
 その後ろ姿にこっそりとあかんべーをする比良屋はちょっと子供っぽいかも知れません。
「いじわるなおねえさん、もうこないの?」
 お雪がエスナにくいっと首を傾げて聞けば微笑を浮かべて頷き、ケインとほほえみ合うエスナ。
「当然の結果でござるな」
「‥‥‥‥まぁ、なんにせよ‥‥これで比良屋は安泰、か?」
 沖鷹が頷けば、そう言って荘吉へと視線を投げかけるジョシュア、どうやら大黒柱が居なくなる危機は脱したようだ、と小さく口の中で呟いたり。
「さて、皆さん、今夜は心おきなく楽しめますよー」
 これを肴に、そう言う比良屋の手にはジョシュアお手製閻魔帳。
 ケインや沖鷹が立ち上がって食材の確認へと戻る中、比良屋は子供達3人に囲まれてようやく心底楽しそうに笑うのでした。