【凶賊盗賊改方】慈雨

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月14日〜06月19日

リプレイ公開日:2006年06月26日

●オープニング

「済まぬが、ちと、頼まれて貰いたい‥‥」
 そう入ってきた男は着流しに手には塗り笠、何の変哲もなさそうに見える浪人者ですが、軽く首を傾げる受付の青年。
「どうぞ、こちらへ‥‥それにしても、酷い雨ですね、じめじめとしてあまり良い心持ちがしませんで‥‥」
 言って席を勧める受付の青年に頷いて腰を下ろすと、少々厳つくかたく見える浪人の口元に笑みが浮かびます。
「そうか? 俺はこういう静かな雨の日は好きだがな。それに百姓達にとっては作物を育む恵みの雨だ」
 そう言うと軽く首を傾げる浪人に頷いて、恐る恐るといった様子で口を開く受付の青年。
「あのう、どこかで、お会いしたことは‥‥」
「‥‥おお、直接話したことはないが、綾藤で何度か、な‥‥こちらから来る冒険者達には、大抵においては非常に世話になっている」
 言う男、聞けば鳩倉要人という改方の同心だそうで、今は忙しく駆り出されている為、少々気にかけている事柄について、手を借りたいと思ったそう。
「実はな、そのことというのも、雨が引き合わせてくれてな‥‥」
 聞いたところに寄れば、雨の降る静かな夜は鳩倉同心にとって好きな物の一つだそう、近頃下で命がけで働いてくれていた密偵を亡くして以来塞ぎがちだったそうですが、雨に誘われるように、その夜、ふらっと散歩に出たそう。
「そしたら驚いた、女が橋から身を投げようとしているじゃないか」
 慌てて止めれば、乳飲み子を抱えて、ふっくらした面立ちのその女、赤ん坊も程良く肥えていて、暮らしに困っていないと思ったそうです、その時は。
 ですが、女の話を聞けば、亭主がつい先日に川に落ちて死んだとか、怪しい点もあったそうですが、博奕の挙げ句に酒を飲んで酔って足を滑らせた、と奉行所では片付けられてしまったそう。
「女の亭主は酒はすぐに出来あがっちまうらしく呑めねぇ、博奕もちょっとした楽しみの一つだったそうで、決して度を超さねぇ、大工で腕も良かったから蓄えも沢山あったとか」
「じゃあ、何で身投げなんか‥‥」
「そこで、博奕の借金の形にと乗り込んできたらしい破落戸達、賭場の親分から言われたとかで、洗いざらい金目の物から家財道具一式、さっぱりと持ち去られたそうだ」
 憐れに思い、他に頼りにしている密偵に女と赤ん坊を預かって貰ったは良いものの、どうにも気になる様子、いつまでもそのまま養っていくのも、女が遠慮するだろうという鳩倉。
「どうにもその賭場の借金だ、酒が呑めねぇ亭主が酔って死んだというのも気に入らない。だが、今はお役目で一杯一杯、ということで、誰か、手を貸しては貰えぬかと思ってな」
 そう言う鳩倉の言葉に頷くと、受付の青年は依頼書へ書き付けていくのでした。

●今回の参加者

 ea1968 限間 時雨(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb3757 音無 鬼灯(31歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

ゲイリー・ノースブルック(ea7483)/ ポーレット・モラン(ea9589)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ 紅谷 浅葱(eb3878)/ 御陰 桜(eb4757

●リプレイ本文

●過去の事件
「あの方も面会が許される程回復したみたいで何よりだわ」
「お頭の様な方の場合は、大人しく寝ていると落ち着かないようだがな」
 鳩倉同心が調書の写しの束を抱え入ってくると、光月羽澄(ea2806)は微笑を浮かべ頷きながらその内の一冊を受け取りぺらりと一枚紙を捲り目を落としました。
 そこは同心長屋にある鳩倉同心の部屋、すっきりと言えば聞こえの良い、物がほとんど無い部屋の唯一目立つ家具である文机の周りには、既にいくつもの写しの山が積み重ねてあり、手に取り軽く首を傾げる羽澄。
「‥‥これは、奉行所の調書の写し、かしら?」
「津村さんが必要だろうと、互いに当たり障りのない件の調書ぐらいは遣り取りをと‥‥まぁ、互いに重要な案件は交換するほどの連携は取れていないのだが‥‥」
 手近なものを確認していく鳩倉になるほど、と頷く羽澄。
「いろいろな事件はあるけれど‥‥賭場がらみの事件はやはりのめり込んだ人ばかりだから、少し違うわね」
「大体においてその辺は解決しているからな」
 唸るように調書きを調べる鳩倉をちらりと見ながら羽澄は口を開きます。
「それで‥‥奉行所の方から調書は?」
「午後には荻田さんが持ってきてくれる‥‥奉行所時代の知人から何とか手に入れてきてくれるそうだ」
「では、その調書が来たら現場を確認しに行かなくてはね」
 羽澄は言いながら手元の調べ書きの写しへと目を落とすのでした。
「‥‥何となくですが‥‥きな臭いですね。もしかしたらただの破落戸ではないのかも」
 九十九刹那(eb1044)が眉を寄せて言うと、九竜鋼斗(ea2127)も頷いて河原に屈み込み、じっと変わった事はないかと注意深く見回しています。
 遺体のあがった現場、少し離れた場所では羽澄が川に手を合わせた後、川沿いの聞き込みを行っていますが、そもそも人目に付かない場所のためあまり芳しくない様子。
「それにしても同じような事件で解決していないものがなかったのは‥‥まだ被害自体は広がっていないのかも知れないな」
「‥‥まだ他に事件が起きていないのでしたら良いのですが‥‥」
 言う刹那に頷きかけ九竜は目の端に映る何かに気がつき歩み寄れば、それは血の付いた布の切れ端。
「‥‥それは‥‥?」
「石に引っかかって居たようだが‥‥揉み合いにでもなったときに掴んだのだろか?」
 そう言いながら、九竜は手の中の布を見つめるのでした。

●遊び友達と酒場の男
「武家屋敷などが多い辺りの、『ます長』と言うお店だね?」
 限間時雨(ea1968)が確認するように言うと、その女性は赤ん坊を腕の中であやしながらもしっかり頷いて見せます。
 ふっくらとした愛らしい雰囲気の女性で、気丈にも亭主の亡くなったときの様子やその前後のことを思い出しては曖昧な受け答えはせずにはっきりと答えます。
「うちの人が声をかけられたお店には、それまでうちの人を誘ったという男は来なかったそうなのですが‥‥」
「借金はしなかっただろうって言うのは分かるとして‥‥その間変わったこととかもなかった?」
「‥‥‥そう、いえば‥‥うちの人はもうあそこには行かないとなんだか酷く怒った様子で‥‥あたしが声をかけると、直ぐいつものあの人に戻ったのですけど」
「怒った? じゃあ、次の日は‥‥」
「あたしはあの人は賭場に自分からは行かなかったと思っています」
 なるほど、と頷いて考え込む時雨。
 時雨は店の場所を確認すると安心させるように女性に頷いてみせるのでした。
「あいつが金を貸して欲しいだって? まさか、どちらかといやぁ、俺らが、な」
 金に困っていたかとの音無鬼灯(eb3757)の言葉に肩を竦める研ぎ師と桶屋の二人、この二人は大工の亭主の友人で遊び仲間。
 大工が死んでからは気が塞いで遊ぶ気にもならず、奥さんが心配で見に行けば家財道具一切合切無くなっていて心配していたのが分かり、奥さんと子供が無事であることを鬼灯が告げるとほっとしたように息をつきます。
「賭場の位置は、実はよく分かっていないんだ、俺たちにも」
「あぁ、でもあの廃寺にあることだけは間違いない。仏壇の所に地下に降りる階段があって‥‥浪人達に案内されてだから、何となくじろじろ見て回るのも憚られてなぁ」
「それはそうだろうな。‥‥それで、何か変わったところとかは覚えていないか? 何でも良い、最後に会った日の旦那の様子とか何か無いだろうか?」
 言われて考え込む二人。
「そういやぁ、最後にあった日は、奴さんえらく怒っていやがったよな、金輪際この賭場に来ちゃいけねぇ、と偉い剣幕で俺たちに言ってたし、怒るなんて珍しいこともあるもんだと思ったが‥‥なんか言ってなかったか?」
「‥‥あー、そうそう思い出した、小さくぶつぶつと『盗人の片棒なんか死んだって担げるかい』とか吐き捨てるように言ってたなぁ」
 男達の言葉に厳しい目つきで考え込む鬼灯、彼女は一刻の後には賭場のあると言われる廃寺の側、木陰に隠れて息を潜めていました。
「やれやれ、真っ昼間から酒盛りなんて良いご身分だこと‥‥」
「本当にな」
 浪人を見ながら言う時雨、時雨と合流し遊び仲間の話を鬼灯が伝えると、時雨は眉を上げて小さく唇を噛みます。
「もしかしたら‥‥盗賊の仕事を手伝わせる人間を賭場に呼び込んで、そこで負けさせて‥‥」
「脅しつけ手伝わせていたのかもしれんな。もっとも、亭主は決して大きな賭はしない、大負けしないから別の方法で引き入れようとして‥‥」
「‥‥口封じで殺されたんだったら、何とも許せないね」
 暫くしてちらほらと町人や若衆の出入りなどが見られるようになり、手分けして見てみるところ、ある者は大店に勤めていたりある者は裕福な武家屋敷の出入りを許されていたりと言うことが確認できるのでした。

●賭場での出来事
「大火の後片付けもすっかり終わりに近づいたが、大工はまだまだ仕事にあぶれる事は無さそうだ」
 『ます長』で羽振り良く酒を呷り小鉢に舌鼓を打っているのは磐山岩乃丈(eb3605)。
 女性から『ます長』の話を確認すると、大工道具を調達して貰い通い始める磐山。
 『ます長』はなかなかに気の利いた小鉢を出し、酒以外では蕎麦と魚の手の込んだ品が安く食べられるというのでなかなかに賑わっています。
「そりゃあ良い、あやかりたいもんですなぁ」
 笑いながら『ます長』の亭主は、冷や奴を手にゴールド・ストーム(ea3785)歩み寄ると笑いながら首を傾げます。
「旦那は今日はお一人で? 昨日の別嬪さんは来られないんですかい?」
「昨日怒って出て行ってからそれっきりだ。まあ、数日経てば向こうからまた戻ってくるだろう」
「へぇ、こりゃごちそうさまです。‥‥あ、いらっしゃいまし」
 ゴールドから目を上げてぺこり頭を下げる亭主、商人を装う鷹司龍嗣(eb3582)が入ってきたのに気がついたようで直ぐに酒の用意をするのを見送れば、小座敷へと上がって腰を下ろす鷹司。
 そんな様子が続いた3日目、いつものように羽振り良く酒を飲みにというふうを装った磐山が2人より遅れて店に入ると、いつも店の隅で酒を飲んでいた町人風の男に声をかけられます。
「どうだね、あんたなかなか羽振りも良さそうだし、良いとこ知ってるんだが‥‥」
 伺うように細い目が見据えながら磐山を見ると、『ます長』の主人は面白くなさそうに若い男へ目と向けます。
「まぁたあんたか、いい加減にしてくれ、お前さんが声をかけたお客は大抵みーんな来なくなっちまうじゃありませんかい」
 どうやら贔屓にして居た大工は既に亡くなっていることを知らないようで、あの人達はもう来ちゃくれないのか、などと小さく溜息を吐いて奥へと戻っていきます。
「で、旦那はどうするねい? 兄さん方もよけりゃ来ないかい、異国の客は初めてだがたいそう羽振りが良いじゃねぇか」
 そう言ってゴールドに声をかけ、小座敷にいる鷹司に、商人だったらいろいろと憂さを晴らしたいものもあるでしょう、などと誘います。
 暫くして、連れだって3人は例の廃寺へと連れてこられていました。
 寺の中にある大きな壇は仏を安置してた頃の名残でしょう、そこに歩み寄るとなにやら裏のに小さくある窪みに木の型を置くとかちりかちりと動かして、壇と一体化していた板はきぃと音を立てて開きます。
「へぇ、こりゃ面白い」
 磐山が言えば頷く男、階段を先に立って下りていくと下は案外広い通路になっています。
「どうもここの元のご住職って言うのは、人を匿って逃がしてやってたようでね。次からはあそこにいた浪人達に言えば入れてくれるよ」
 笑って言う男が歩き出し、少し行けば上がる階段が。
「おう、新しいお客かい?」
 薄気味悪い笑みを浮かべる中年男が出迎えれば、その奥の間では既に白熱している職人達の姿が。
「我が輩も入れるでござるよ」
 早速木札を入れて場に混じる磐山とゴールド、酒を出して貰い場を眺める鷹司。
「ふむぅ、今夜はついているでござるなぁ」
 上機嫌を装う磐山、賭場の雰囲気や人間だけで言うなら昔から場を作っては荒稼ぎをする者達を思わせるのですが、賭場の人間がそれとなく仕事の様子や出入りしている場所を確認しているように感じられます。
「おい、お前、いくら稼いでいる大工をって言ったからって、なにもあんな‥‥」
「いや、羽振りが良いんです、そんだけ現場に出て仕事をして居るんじゃあありやせんかい?」
 ひそひそ聞こえてくる声に鷹司が耳を澄ませれば、酔わない程度に酒を口にする鷹司が聞いて居ると思っていないようで話を続ける男達。
「だってお前ぇ、あの大工のように拒否して始末を付けるってぇなったら、事だぞ」
「‥‥あ、確かに。ちょっと、目方といい、そっから見た感じといい、強そうでやすねぇ‥‥」
「くそ、せこせこと賭場で稼いでるよりゃ儲けているところがっぽりと思ったのに、とんだ奴ばかり掴ませてくれやがるなお前ぇは」
 聞こえる言葉に眉を寄せる鷹司。
 殺された大工は何か手伝うことを拒否して口封じに殺されたらしいこと、そして男達の話す様子では、盗賊に転向する為の根回しを始めているよう。
 やがて入ってくる男達にスウィルの杯で思い切り強い酒をどんどん勧めて潰し、ゴールドと手分けをして建物内を調べる鷹司。
「おい、ちょっと来てみろ」
 ゴールドが言えば、納戸の一つに幾つかの家具が入っており、その周りには男女の着物が散乱し、簪やら落ちています。
 見れば赤ん坊用に縫ったであろう着物もちぎれて散らばっており、家具の一つ一つを漁り何かを探していた様子。
「何を探してたんだか」
「もしかしたら‥‥」
 肩を竦めるゴールドに首を傾げる鷹司。
「旦那に何かを見せて協力を迫ったのかも知れないな」
 手に取った着物の裏地まで剥がしてあるのを見てそう言う鷹司、ゴールドは手に持った細工の壊れた根付けをぽんと放ると乾いた音が化粧箱からして、思わず目を見合わせる二人。
「旦那は大工だったな」
 言ってよく見れば底に僅かな隙間がある化粧箱、その板をゴールドが鍵開けをする道具を使って外せば、そこに入っているのは何処ぞの商家の絵図面。
「‥‥こいつは証拠になるかも知れねぇな」
 それを化粧箱の底からそれを取り上げるとゴールドは言うのでした。

●夜襲
 廃寺より離れた酒場、幸い酒場の主人は自由に使って良いと言ってくれたので情報交換に使っていたそこで、一同は情報を確認していました。
「どうもね、賭場に集まっていた人のうち、数名がやっぱりおかしな動きをしているのよね」
 羽澄が言うには後架を借りると言って席を立ち、倉の側にいるのを目撃されたり、いろいろと家を建て直したりしている御店に出入りしている大工が賭場に誘われたり。
「裏口というか賭場の場所は割り出したでござるよ」
 廃寺から歩いた距離などでおおよそ割り出した場所、そこで賭場を開けるだけの建物を割り出し確認をしてきたばかりの磐山が言います。
「賭場の客を除けばたいした人数は居ない。多少腕が立ちそうなのはあの浪人達ぐらいだ」
 鬼灯が言うと頷く鳩倉。
「改方の方でどれぐらい手が借りられる?」
「昭衛様に話は通してある、それぞれの出口に5人ずつ、今夜は手を借りた。‥‥さてっと、外道に容赦はいらねぇ、引っ括って本当の鬼の前に引き出してやろう」
 ゴールドに鳩倉が応えると、一同は手早く準備へとはいるのでした。
「鬼道衆が一人、『抜刀孤狼』九竜鋼斗‥‥行くぞ!」
 裏口がぶち破られれば乗り込んでくる九竜の名乗りが響き、何が起こったのか分からずに慌てる職人達に羽澄が落ち着くようにと声を上げ、聞き入れない様子に溜息。
「‥‥悪いけど、少し眠って貰うわね」
 春花の香に誘わればたばたと倒れ込む客達、こっそり磐山達を案内した男もそれに混じって寝こけてみたり。
「そこをどけいっ!」
「‥‥申し訳ありませんが‥‥力づくで押し通らせて頂きます!」
 主格であろう中年男を庇うように立つ浪人の怒号にきっと睨め付けていう刹那。
「抜刀術・一閃!」
 こちらでは包みを抱えて逃走しようとした浪人に一撃を加え引き倒す九竜、落とした包みからはばらばらと小銭から山吹色までが散乱します。
「くっ‥‥これまでか‥‥」
 廃寺の方、客らしき男がわたわたと逃げてきたのを受け、見張りに残っていた浪人がそっと廃寺から抜け出そうとするのですが、すと現れた時雨が懐に入り込み入れた一撃で崩れ落ち。
 括り上げて改方の同心と見下ろす時雨。
「さて‥‥洗いざらい吐いて貰おうかな?」

●後々のこと
「これから、あの二人はどうなるのかな‥‥」
 ぽつりと言う時雨、賭場の方は取り逃しもなくまた鴨にされ脅しつけられた者達には改方より呼び出しがあり、付け入れられたことに対しての軽い注意と証言をもらうだけに留まったとか。
 その後同心達や鷹司のスクロールを使っての協力によって他の盗まれた物も幾つか見つかり、あの母子にも家財道具や取り上げられた蓄えがきちんと戻された事は伝えられています。
「雨で行き会ったのも一つの縁、鳩倉も独り身でもしその気があるなら‥‥ってまぁ余計なお世話かな、コレは」
 時雨の呟くような言葉に苦笑すると、小さく笑う鳩倉。
「昔世話になった老夫婦が居てな、小さな茶店を持っているがそこで預かって貰うことになった。老夫婦には子もないので俺も可愛がられたもんだが‥‥」
 その老夫婦に任せておけば、不自由なく、若い手もあれば老夫婦も助かるだろうし、言う鳩倉はどこか照れたようにそっぽを向いています。
「引き合わせてくれた慈しみの雨、か‥‥」
 呟くと小さく笑みを浮かべて雨空を見上げる時雨。
「はて、私の『雨』はどんな雨だろうね?」
 時雨と鳩倉同心は暫しの間、どこか穏やかな顔をして雨を眺めているのでした。