雨闇の向こう側

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:9〜15lv

難易度:やや難

成功報酬:6 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月16日〜06月23日

リプレイ公開日:2006年06月27日

●オープニング

 その日、ざんざか降りしきる雨の中を入ってきた男性は、笠に蓑、取るものも取り敢えずといった様子でギルドへと飛び込んで来ると、真っ青な顔で絞り出すように言いました。
「ど、土砂崩れで村との道が‥‥道を開く人足の護衛を‥‥」
 ただならない様子に受付の青年が席を勧めて熱い茶を飲ませて詳しく聞くと、彼は江戸から二日ほど行ったところにある村の青年で、村で採れた物を運んでは、薬などを買い求めて帰っていくという暮らしをしており、今年の不安定な気候に体調を崩すお年寄りも多く、慌てて薬を受け取りにやってきた所、帰り道が塞がれてしまったそう。
「お、おらのお袋も酷い風邪だで、早う帰ってやりたいといったら、薬屋の旦那さんの好意で、人足を‥‥道が塞がったままでは不自由だども言ってたで‥‥」
 そこでその御店の旦那が気にしたのは、整備された街道ならばいざ知らず、土砂崩れで道が塞がれているとなれば当然、辺りを縄張りにしている山賊達が恐ろしいわけで、旅人達が足止めされればそれだけ彼等にとっては都合が良い上に、人足達が襲われれば被害も大きいとのこと。
「なんで、冒険者さ頼みに使いを出す言ってたども、おら、居ても立っても居られねぇで、自分で来だよ。お代はこの通り、預かって‥‥」
 そう言って、懐からきちんと紙で包んだ代金が差し出され、頷く受付の青年。
「お願げぇだ、人足達の護衛、何とか‥‥何とかして欲しいんだよ!」
 必死で頼む青年に頷いて代金を確認すると、受付の青年は依頼書へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea1170 陸 潤信(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)/ 沖鷹 又三郎(ea5927)/ ブルーメ・オウエン(ea9511)/ フィーナ・アクトラス(ea9909

●リプレイ本文

●雨の中で作業
「この雨じゃあ作業はなかなか捗らないでしょうね‥‥」
 降りしきる雨の中、眉を寄せて言うのは陸潤信(ea1170)、その傍らでローブの中に身体との隙間を作りスクロールが使えるかどうかを確認していたクレア・エルスハイマー(ea2884)が顔を上げて頷きます。
「雨で森の中の様子が見えませんわね‥‥魔法をかける機を読むのも難しいですわ」
 言ってクレアが空を見上げると、雨で見えない上空、宿にしている茶屋で借りたか身体の割に大きな笠をカファール・ナイトレイド(ea0509)が両手で支えて持ち上げながら森の方へと視線を向けていました。
「ん〜盗賊りんが来るとしたら、あっちの森の方だよね? う〜っ、よく見えないや」
 羽根を濡らさないように笠で庇いながらの飛行ですが、強く降り注ぐ雨は、風で荒れ狂うことがないのが救いと言った様子で、腕が辛くなりぱたぱたと下へ降りていくカファール。
「お疲れ、やっぱりこの雨じゃああまり見えないでしょ?」
「あ、リゼりん♪ うん、でも上から見た感じでも、なだらかな右側から上がってくると直ぐに気付くんじゃないかなぁ?」
 人足達が入れか泡李で休めるようにと用意された簡易テントに入れば、リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)に手拭いを借りて雨が掛かった髪や足を拭うと、跳ねた水が跳ねに雫を付けるのにふるふると羽根を震わせて言うカファール。
「雨がもう少し弱くなったら、蕗の葉っぱ持って罠とかないか、少し見てくるね〜」
「悪いけど頼むよ。相手の動きが少しでも掴めると防衛が有利になるからね」
 リーゼの言葉にまかしといて♪ と頷くカファール。
「おお、ちっこいお嬢ちゃん、団子でも食わんかね」
「あ、食べる食べる〜人足りんありがと♪」
 沖鷹 又三郎の差し入れであるお団子を食べてちょうど休憩中だった小父さんに声をかけられてお団子を受け取るカファールに笑みを浮かべると、リーゼはテントを出て笠を被り、蓑を肩にかけて戻ればクレー・ブラト(ea6282)が振り返り軽く首を傾げます。
「何か見つかったんか?」
「いや、今のところは視界に入ってきてなかったようだね。雨に得意な奴らでも、逆に足を取られる可能性が高い今は様子見をしているのかも」
「なんにせよ、こっちの森から先に仕掛けてきて、そっちに気を取られた好きになだらかな方からも回り込まれるそうやし、気は抜けんなぁ」
 ブルーメ・オウエンが聞き込んできた所では、過去に襲われ命からがら逃げ帰ってきた人間達から話を聞いたのを思い出して小さく溜息を吐くクレー。
「念のため森に前もってかけておいた方が良いかもしれないですね」
 ユリアル・カートライト(ea1249)が言えば、雨の様子を見てだね、と頷くリーゼ。
「この雨がもう少し弱くなれば作業も捗るのだろうけど、弱くなると言うことはその分相手も動きやすいことだし‥‥」
「雨の中での戦闘は自分もそうやし、皆慣れてへんからすこぅし不安やな」
 クレーはそう言うと、雨で先がまともに見えない森の中へと目を向けるのでした。
「これから大変な仕事なんだから、ちゃんと食べて体力を全快させておかないとね」
 土砂降りの作業で身体も冷え切った人足達を茶屋で迎えたのは、一足先に茶屋へと戻ったユリア・ミフィーラル(ea6337)。
「俺らはこういった作業が仕事だからなぁ。ただ、今回は周りのことを心配しながらじゃない分だけ、ずうっとやりやすいよ」
 ユリアと手分けをして食事を運んだりしていたケイン・クロード(eb0062)はその言葉に笑みを浮かべると頷きます。
「皆さん明日ぁちぃとは雨も弱ぁなりますでな」
「分かるのですか?」
「ずぅーっとここで茶店やってますで、なんとなぁくわかるですよ」
 驚いたように目を向けるユリアルに茶屋の老婆が笑いながら言うと、作業をする人足達の間にもほっとした空気が流れます。
「なぁ、姐さん、こいつをもう一杯貰えんかね」
「あ、はい、直ぐに。沢山食べてくださいね」
 雨が弱くなると言うことは山賊達も動きやすくなると言うこと。
 目を見合わせる一行ですが、人足達がユリアの用意した暖かい汁や煮物に嬉しそうに声をかけるのににっこり笑って作業へと戻るのでした。

●襲撃
「護る為の戦いが飛燕剣の真髄‥‥この仕事、絶対に失敗出来ない、ね」
 どこか決意を込めてそっと上着の下に忍ばせてある小太刀を撫でると呟くケイン。
 その小太刀を託してくれた人はきっと幸せになっているだろう、それを想うと自然と口元に笑みが浮かび、しとしとと静かに降り続く雨の森に強い決意を込めた瞳を向けると、ケインはゆっくりと人足達の側に歩み寄ります。
「ん〜‥‥あっ! なんか、向こうの方に動く黒い影が幾つか見えるよ!」
 蕗の葉を傘替わりにしていたカファールが声を上げれば森へ向かい立つユリアル、異国の言葉が紡がれれば一陣の風が森を駆け抜けた、そんな雰囲気の後、遠くから幾つかの怒声が上がります。
「迷いの森は彼らがこちらへ辿り着くのを遅らせてくださいます」
「さ、早くこちらに!」
 ユリアルが言えば、素早く潤信が人足や青年を簡易テントを張った位置まで下がらせ、庇うように立ち、カファールの愛犬、リュドりんとエリりん、それに潤信の輝牙が雨で暗い森へと低く唸り。
 やがて半刻、怒声と共に森から現れたのは屈強な体躯を誇る3人の男達。
「させない!」
 力強く繰り出される霞小太刀から放たれた衝撃波が一人の男を襲い、ぐと踏みこたえながらも呻く男達。
「今、炎をっ!」
「っ、有り難う!」
 瞬時に炎を纏い燃え上がるケインの霞小太刀、身体の自由を制限する蓑と笠を脱ぎ捨てるリーゼに男達は狙いをこの二人へと定めたよう。
「うぉおぉぉぉっ! 逆らうならば殺して奪うのみっ!!」
「賊がっ! 許さないっ!」
 ぐんと迎え撃つために踏み出すリーゼの刀も炎に包まれ、大振りな刀が振り切られるのには寸瞬早く身体を引きかわすリーゼ。
「小癪なっ、女あぁっ!!」
 返す刃もぎりぎり掠めるに留まると雨の中にも響き渡る絶叫、リーゼが賊の足を斬り払いもんどり打って倒れ。
「山賊なんてやってる奴にかける情けはどこにもないの、おわかり?」
 その側ではローブに身を包んでいたケインその様に甘く見たか無造作に大刀を振り上げる男、その懐に踏み込むケイン。
「ぬっ!」
 小太刀をかわし切れずに呻き飛び退る男、残る一人もクレーが泥濘に気を取られつつ、レイピアで男の刀を受け流して持ちこたえています。
「クレーさん、避けてくださいませっ!」
「っ!!」
 咄嗟に横へと身体を投げ出すクレーに、直後打ち込まれる稲妻が男を穿ち、予期していなかった一撃に吹き飛ばされる男。
「ちっ、退けっ!!」
 森の中からの声に転身する二人の男と、足をやられリーゼに完全に押さえ込まれた男が一人。
「近くの宿場から役人を呼んで引き渡さないと」
 言われる言葉に頷くと、ひとっ飛びで役人へと連絡するカファール。
 人足や青年は半ば半狂乱になりかけていたのですが、一行の迅速な対処を見てほっとしたように再び元気よく作業へと戻るのでした。

●二度目の襲来
「んむ、いたずらしようとしてたから、おいら大声で叫んだら、あいつら逃げていったんだよ♪」
 どうやら夜に巡回をしていた様子のカファールがそう言うと、人足の小父さん方は口々に凄い偉いと感心し、小雨ぱらつく現場は和やかな雰囲気です。
 昨日の中断はあったものの、安心して作業に当たれる分作業効率は良く、順調に取り除かれていく土砂と慣れた手つきで人足達が作る、崩れそうな場所への板で作る壁に感心したように見るユリア。
 と、そこへ眉を寄せて森側の草に屈んでいたユリアルが立ち上がります。
「大きいのが居るとの事を草が言っていましたので少し確認したのですが、どうやら懲りずにまたやって来たようです」
 草の言葉に耳を傾け、地に手をつきその振動を探れば、4っつの大柄なものが付近を慎重に調べながらこちらへと向かってきているよう、ユリアルはその内の二つが森を外れ離れた位置から反対側のなだらかな坂へと移動しようとしているのに気がつきます。
「示し合わせて複数方向から同時に襲うつもりみたいですね」
 潤信が言えば傍らの輝牙がくう、と見上げ。
「後々のためにも、確実に潰して動きを封じていかないと、禍根が残る」
 リーゼの言葉に一同は頷くと、人足達や青年に伝え、指示に従うようにと伝えるのでした。
「くっ、ちょっと、こいつはきつい、かな‥‥」
 小さく息を切らせて呟くケイン、四方からの攻撃は思ったよりも苛烈なもので、にと口元に笑みを浮かべながら男の大刀を受け流すケイン。
 男達の猛攻の和を、いち早く崩したのは潤信でした。
「ぐぅぅうぅっ!」
 唸り噛み付く輝牙を振り解こうと男が手を挙げるのと、潤信が懐に入って素早く拳を繰り出すのはほぼ同時、輝牙は唸りその鋭い牙を剥き出しにして男の足に食らいつき続けています。
「この状況見て襲ってくるなど‥‥人として許せませんッ!!」
 崩れ落ちる男に鋭く言い放つ潤信、クレーが刀を来る男に苦戦をしていれば、ユリアルが魔法によって男の動きを鈍くさせ、そこに一撃、男は倒れ込みます。
「雨は貴方達に味方はしないよっ!」
 ユリアの言葉と共に、リーゼとケインの前にいた男達が突如目を見開き、空に向かってやったら滅多らに手を振り、顔を庇うように駆け出します。
「逃がさないっ!」
 ケインの振り抜いた小太刀の衝撃波により倒れ込む一人に、追いすがり森へはいる前にリーゼが足へと斬りつけるのに小さく呻く男。
「こいつで最後、だね」
 リーゼが呟くように言うと、心配そうに身を寄せ合っていた人足達は安堵の溜息を吐き。
「この小太刀に相応しい、立派な剣士へと一歩近づけたかな?」
 そう呟くケインの顔には、穏やかな笑みが浮かんでいるのでした。

●その丘を越えれば
「早くお母様にそのお薬を届けて差し上げませんとね」
「はい、作業ももう少しで終わりだし、明日の朝一にこちらを出て‥‥」
 嬉しそうに笑みを浮かべながら土砂を取り除くのを手伝っていた青年がユリアルに頷き返します。
 宿場役人達に山賊を引き渡すと、潤信やケインも加わり夕刻頃には既にすっかりと片付いた道、人足達も作業を終えて明日には江戸に戻れるのが嬉しくて堪らない様子。
「それにしても‥‥雨には早く上がってもらって、温かい太陽の光を浴びたいものですね。雨に打たれてばかりでしたから、久しぶりにひなたぼっこをしたいです」
 茶屋での最後の夜、ユリアの心尽くしの手料理に、人足達のお酒も進み、和やかに時間が過ぎていく中、小さく伸びをするかのようにしてユリアルが言えば本当に、と頷く青年。
 晴れていればその分村に早く着けるからでしょうか、薬の入った包みに目を落として考え込む青年に、ユリアは笑いかけます。
「大丈夫です、きっと、明日は晴れますよ」
「分かるんですか?」
「そんな気がするんです」
 驚いたように言う青年に、ユリアルはそう言いますが、不思議と本当に晴れるような予感を覚え、にこりと微笑むのでした。