雨の寺

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:7〜11lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:9人

冒険期間:06月17日〜06月23日

リプレイ公開日:2006年06月27日

●オープニング

「は、はい、御仏に使える身故、御仏に祈って収めろ等と笑われてしまい、恥を忍んで、本当に情けない話ではあるのですが、恥を忍んでお助けいただきたく‥‥」
 そう青い顔で受付の青年に頼むのは、まだ年若い様子のお坊様。
「はぁ‥‥ええっと、それで、その‥‥どうなさったんですか?」
「はい、その‥‥私の預かることになった寺は、前の住職が、その、お恥ずかしい事ながら、金貸し、なるものをしていたらしいのです‥‥」
「いや、寺院がお金を貸すと言っても‥‥」
「ああ、いえ、その、そうじゃなくてですね‥‥その‥‥高利貸し、などといった者のようでしたので、色々と噂もある方でして‥‥ですが、先月みまかりましてから、色々と人手が出て、その後の処理を済ませて、つい先日から、私が預かる事となりまして‥‥」
 その時、前の住職が貯め込んでいたお金と証文も既に前の住職の手であらかた片付いており、手伝いに来ていた人間へと例を込めて払えば綺麗さっぱり、後に何も残らなかったそう。
「元々、あまり華やかな寺でもありませんので、こう、広々とはしているのですが、どうにも殺風景なといいますか‥‥そんな中で、一人で寺のことを始めて、小坊主などを置くようになるまではまだかかりそう、そんな中で‥‥その、誰かが‥‥」
 そう言って青い顔をするお坊様。
 どうも雨の中、ちらほら人の気配を感じたようで気にはなっていたそうなのですが、朝早くに起きだしてぱらつく雨の中、境内から外を見てびっくり、そこには幾人もの足跡がぬかるんだ土に残っていたそう。
「それ以来、毎晩毎晩、人の気配は絶えず、あちこち寺の中を踏み荒らされ、私は腕の方はからきしですので、賊達でしたら何も出来ず、ここのところ夜になれば自分お部屋で頭を抱えて念仏を唱え眠れぬ毎日‥‥」
 言われてみれば目の下にはうっすらと隈ができていて、随分と疲れ切っている様子。
「お願いいたします、どうか‥‥どうか毎夜忍び込み、境内の荒らし回る者達を、何とかしては貰えないでしょうか」
「は‥‥はぁ、取り敢えず、依頼を出しておきますね」
 何やら憐れな様子のお坊さんを前に、受付の青年は頷くと依頼書へと書き付けていくのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9913 楊 飛瓏(33歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0132 円 周(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2898 ユナ・クランティ(27歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3305 レオン・ウォレス(37歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ カイ・ローン(ea3054)/ 水葉 さくら(ea5480)/ アイリス・ヴァルベルク(ea7551)/ イツキ・ロードナイト(ea9679)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ リチャード・ジョナサン(eb2237)/ 鹿嶋 碁音(eb2474)/ アルディナル・カーレス(eb2658

●リプレイ本文

●ぐったり疲労の御住職
「ふぅむ、大分参っているようだな」
 窶れてへろへろの住職を前に、思わず腕君で小さく苦笑するのは野乃宮霞月(ea6388)。
 住職の様子を見て、七神斗織(ea3225)と野乃宮はまず休むことを勧めます。
「見たところ、かなりお疲れのご様子。美味しいお茶とお茶菓子で気分を落ち着けた後、今の内にごゆっくりお休み下さいませ」
「は、はぁ‥‥ですが、まだ本日の仕事も終わっても居ませんので」
 微笑を浮かべて告げる斗織に戸惑い気味に言うご住職ですが、野乃宮がぽん、とご住職の肩に手を置き。
「何、これでも僧職の端くれ。多少なりとも寺の事は心得ているさ。しばし、ゆっくり休みな」
「‥‥そ、そうですか? では、大変申し訳ございませんが、宜しく、お願いいたします」
 ぺこぺこ頭を下げてから斗織に付き添われて奥の間へと下がる住職を見送る野乃宮、見れば寺は広く小坊主も置いていないながら、きちんと隅々まで掃除が行き届き、賊達には分からないでしょうが、数少ないながらなかなかに価値のある像がきちんと奉ってあります。
 やがてやってくる付近の農民達や町人が、住職が休んでいることに心配しつつ、ぜひご住職へと取れた野菜などを置いていくのを見れば、住職が付近の住民達には好かれているのが分かります。
「自分が原因でもないのに、余分な苦労を背負込んじまうなんて、運が悪い住職だよな」
 肩を竦めて部屋へと入ってくるレオン・ウォレス(eb3305)に、玄間北斗(eb2905)も軒下からひょっこり顔を出して、掘り起こされ踏み荒らされたその様子に仕方ないのだ〜などと言いながら困ったように笑います。
「それにしても寺に盗みに入ろうとは、畏れって奴を知らんな。まあ、こいつも先代の徳の無さなのか‥‥」
「踏み荒らされては直してというのを繰り返していたらしいのだ、あれではご住職は余計疲れるのだ」
 小さな古い煤けた値打ちもないような壷を引っ張り出し、じゃらじゃらと小銭を入れながら言う玄間、レオンは玄間から受け取ったスリングを手に、境内にある砂利などをいくつか拾ってきて感覚を確かめるように弄り。
「巷ではちらほらと前住職の隠し財宝だなどと実しやかに囁かれているようだな。面白半分で探しに来る者は宝探し気分なのであろうが」
 それとも少し早い肝試しか、などと苦笑する楊飛瓏(ea9913)は、手伝いに来てくれたアルディナル・カーレスの話で、少し離れた酒場などではちょっとした楽しみの一つと考え、万人に開かれた寺に忍び込むのを可笑しいことと思っていないよう。
「ただ、その中で異様に興味を示した浪人者がいたとか‥‥」
「ただ不届きな方を倒すだけなら簡単だと思いますが‥‥二度と忍び込んで家捜しなどしないように仕向けることが重要だと思います」
 円周(eb0132)が言えば、ユナ・クランティ(eb2898)がなにやら不穏なまでに優しく穏やかな表情で微笑みます。
「ふふふ‥‥なんだか楽しそうですね♪」
 それはいろいろないたずらを思いついた子供のような、そんな何かを企む意味ありげな微笑だったのでした。

●どっきり祟りな御寺の噂
「‥‥おい、聞いたか、あの寺の噂‥‥」
 声を潜めるふりをしてその実その場に居る人間の興味を引こうとでも言うかのような物言いに、前住職の人となりを調べていた時永貴由(ea2702)が耳を澄ませると、夕刻の酒場で数人の職人たちと話していた男はにまっと笑って口を開きます。
「どうもあの寺、出るらしいぞ」
「出るって、何が?」
「前の住職がよ、化けて出るんだと。儂の金ーって」
「へぇ‥‥面白そうだなぁ、おい」
「‥‥」
 なんだか遠ざけるよりも先に、野次馬を引き寄せてしまいそうな勢いの噂の広まり具合に小さく溜息をつく貴由。
「って事はあの寺に前の住職が残した財宝があるっていうのも、あながち嘘じゃあねぇのかもな」
「あ、俺それについてはなんか変な話聞いたことある」
 現住職は変な人で大量に仏像を発注したとか夜中に境内に入ると仏像が話しかけてくるとか、金縛りに合って怖い思いをしたり雷に追っかけられたり‥‥。
「変な噂が流れているようだねぇ‥‥今度の住職さんは穏やかで良い人だって思っていたんだがねぇ‥‥」
 ぽつりと寂しそうに言う老婆、何でも昔やむにやまれず前の住職に金を借り、返しても返しても利息が膨れ上がってしまったことがあったとか。
 前住職が亡くなったとき、知らずに尋ねていき、現住職がその利息に驚いたとか驚かないとか、過去の分を調べ全ては戻せないが、と幾ばくか返してくれたり、前住職が死ぬ間際に無理に金を貯めることの虚しさを感じ証文を焼き捨てたことを伝えてくれたそう。
「今の住職は悪い人じゃない。悪い者が捕まればその噂はなくなるよ」
 機会があれば、全て片付いたときにそれを知る人に伝えて欲しい、そう告げる貴由に頷く老婆。
「妙な噂が残ったら、あの住職今度こそ心労で倒れるな‥‥」
 貴由がそう呟いて再びいくつかの家や前住職と付き合いの会った人のところへと尋ねていけば、壮年に差し掛かった頃に世の無常を感じ『金がなければ救えるものも救えない』との事から、はじめは金持ちから高い利子を受け取り貧乏人からは酷い取立てはなかったそう。
「けんど、金とは恐ろしいもんですなぁ‥‥先の住職は、段々と金が貯まっていくのが面白くて面白くて堪らなくなっていってしもーたのでしょうなぁ」
 とある商家のご隠居がそうしみじみ言えば、その頃からご隠居や友人たちと離れ、貧乏人からも厳しく取り立てるのに、用心棒として浪人を雇っていた時期もあったそう。
「では、その浪人たちと住職が切れたのは‥‥?」
「たいそう豪胆な住職であったからなぁ、奴らが取立てを上乗せしてちょろまかしたことが分かって、烈火のごとく怒って、こう、放り出したんですわ。確か4、5年前のことですから、奴らも程よく中年になっていることでしょうなぁ」
「‥‥その男たち、おそらく住職の金への執着と、どれほど貯め込んでいたのかといったことは、よく知っているのだろうな?」
「はい、それはもう‥‥自分たちが取り立てていた頃だけでも、どんだけ金が入っていったのか、よう存じておりましょうとも」
「そう、か‥‥」
 ご隠居の言葉に眉を寄せて頷く貴由、当時の男たちの様子や溜まっていたあたりなどを聞いてから、礼を言って商家を後にするのでした。
 同じ頃、近頃目を血走らせて様子が可笑しくなっていると言う男の話を聞いて様子を見に行く飛瓏。
 飛瓏が調べて見ればその男は博打の負けが込んで、前の住職から金を借りていたこともあるとかで、前住職のことを恨みに思っていても可笑しくはないそう。
「高利貸しもどうかと思うが、己が引き起こしたことを棚に上げ恨むとは‥‥」
「元から博打狂いではありましたが、どうもこうも、彼方此方から借りた金は、近日中に返す当てがある、とかいったそうで‥‥」
「それが、先の住職の隠し金、か‥‥」
 飛瓏が聞けば、頷くその男。
「でも気をつけてくださいよ、何でもあまり様子のよくねぇ浪人者が取立てに来たかと思ったら、暫く話し込んで帰っていったようで‥‥下手に関わると、面倒なことになるかも知れやせんぜ」
 そういう男に飛瓏は礼を言って別れるのでした。
「殆どお金は残らなかったらしいのだが、それが口惜しかったのかその些細なお金に執着し‥‥」
 ひゅーどろどろとでもいうような音が聞こえてきそうな語り口で話しているのは玄間。
 長屋の井戸端、着物を洗う奥さん形のそばで遊んでいた子供たちが固唾を呑んで聞く中、どうもおかみさんがたも手を止めるものが居たり、気のないぞぶりをしながらもちらちらと視線を投げたりしています。
「‥‥そのご住職は成仏出来ず金を守り続けているそうなのだ」
「ねーねー、ご就職のお金って、どんくらいー?」
「みよがかーちゃんから貰ったお駄賃ぐらい?」
 飴が一つ買えれば良いほどの小銭を見せながら聞く子供に、それよりかはちょびっと多いのだ、と言いながら笑う玄間。
「大事なのは、人間、欲に目が眩んではいけないって事なのだ」
「でもさーぼーさんが金溜め込んで、何に使うんだー?」
「おさけー?」
「馬鹿、違うよ、初物の鰹をたらふく食うんだよ」
「ぼーさんは酒も肴も駄目なんだぜ」
「みよ、お酒大好きなお坊さんたくさん見てるよ、酒場にお坊さん、よくいるよー」
「はいはい、注目なのだー」
 玄間が言えば、好奇心いっぱいの目を向ける子供たち。
「住職さんが前住職の執着を解こうと日々供養しているのだが、寺を荒らす物が居るせいか静まらないらしいのだ」
「くよー? 荒らす人たちいなくなれば、お化けいなくなるの?」
「そうなのだ、だからお昼に遊びに入っても、いたずらはしちゃ駄目なのだー」
「はーい」
 他にも貴由のお手伝いに来たアイリス・ヴァルベルクが金品は養生所にすべてそっくり運び込まれたことなどをシフール仲間に手伝って貰って広めたりと、万が一に悪い噂が残らないようにと動き回るのでした。
 昼に休んでいたユナも夕刻には出かけていって、可愛らしいお嬢さんに声をかけ、楽しげな語らいの最中、お寺の怪談話に怯えた様子で、それでも怖いもの見たさでぎゅっとユナの手を握って話を聞く娘さん。
 心なしか入り込めない雰囲気を醸し出していたように周りが感じたのが‥‥きっと気のせいでしょう。
 なんにせよ、お寺には小銭しかない、前の住職が化けて出る、供養を邪魔するものがいるために静まらない、と言う噂は、言い意味でも悪い意味でも広がっていったようです。

●お化け屋敷? な御寺で仕置き
「仏の道を説く者が、そのように自信無くびくついていてどうする。胸を張り堂々とするんだ」
 野乃宮の言葉にわたわたと慌てたように深呼吸をしようとしてむせる住職。
 噂に面白がって入り込んで来てほうほうの体で逃げ出すものが後を絶たなかった1日目、2日目と違い、すでに3日目ともなれば少し落ち着いてきたお寺、巷では、皆、怖かったと言うのがいやで、何も無かった、などと強がりを言っているそう。
「ご住職様、少し休まれてはいかがでしょう? 野乃宮様も、お茶にいたしましょう」
 斗織が言えばお茶を頂きながら話せば、どうにも夜間脅かしているときの悲鳴がちょっぴり怖いらしく、その様子にくすりと笑う斗織。
「それにしても‥‥時永様のお言葉では、どうも組んで荒らしに来ていた方は、どこかの浪人様だったそうで‥‥誰も怪我をされないとよいのですが‥‥」
「大丈夫ですわ、皆様とても優秀な方達ですしいざとなればわたくしが必ずお守りしますから」
 手を包み込んでにこりと笑う斗織にほっとしたように微笑を浮かべて頷く住職。
 庭をほっくり返していた者も、本当にお金は無いのでは、と思い始めたのか少し静かになった夜、住職の表情にも少しゆとりが出てきているのでした。
 そして、その夜。
 雨がしとしとと降りしきる中、寺の庭を駆け入る物音に気がつき、、一同は身を隠しつつ入ってくる者の様子を伺っています。
「おい、探して見つからなかったらどうするつもりだ」
「そしたらあのひょろりした住職を締め上げて吐かせりゃ良い。隠し金が盗まれたなんざ届出も出来ねぇだろうよ」
 見れば浪人二人に、少しがっしりとした町人が軒下へと潜り入ると、やがて軒下からぼんやりと明かりが。
『帰れー』
 テレパシーで話しかければ、ごん、と床下から響く鈍い音。
「何やってるんだ、気付かれちまっ‥‥」
「しーっ!」
「い、今、声が‥‥」
 雨音の中でもかすかに聞こえる声、やがて、彼らは何かを掘り出したかおとなしくなります。
 そんな軒下を覗き込み、浪人達が手に持っている物へとスリングで石礫を打ち込むレイン。
 かしゃんっ、何かが割れる音とともに、じゃらじゃらと鳴る音。
『置いてけ〜』
 玄間が住職に聞いていた前住職の声色ですかさず声を入れると、暫しの間。
 大抵面白半分か間が指した人間はこのあたりで飛び出してきて、掴まった後も平謝りで謝り、それを住職が許す、となっていたのですが、何を思ったか、ドン、と床を突き上げる物が。
 見ればわずかな明かりにギラリと光る刀の先端。
「坊主っ! 貴様だなっ!!」
 壷に入った小銭にかけられる声、人除けの仕掛けか何かでコケにされたとでも思ったのでしょうか、部屋でびくっとする住職は、斗織が預けていた次郎丸にぎゅっと掴まって事の成り行きを窺っているよう。
「それ以上は、許されぬぞ」
 飛瓏の声に軒下から飛び出し抜き放った刀を向ける浪人たち、町人も短刀を手に睨めつけ。
「本当に、この寺にはもう隠し金は一銭もないんだがね。嘘だと思うなら、養生所に聞いてみな?」
「ほざけっ!!」
 階段を駆け上がり飛瓏に切りかかる浪人ですが、まるで赤子をあやしているかの如く容易く避け微笑を浮かべる飛瓏。
 まもなく、野乃宮のコアギュレイトと飛瓏、貴由や斗織の手によって捕らえられる男たち。
 次の日、大通りに『この者ども、寺を荒らし、無き金品強奪を画策』という立て札が傍らに立てられた男たちの姿を見出すことができます。
 奉行所へと投げ文があったとかでまもなく番所へと連れて行かれた男たちを、寺から逃げ帰ったことのある男たちが面白いものを見るかのように見つめているのでした。

●ちょっと成長? 臆病住職
「養生所にぜーんぶ残った物を寄進されてたんですかー」
 良く晴れた昼下がり、何度言っても信じなかったじゃないですか、という住職に、たははと笑う町人の男性達。
 事の次第が広まって、噂話が色々と大きくなって、怖いお話になっていたんだろう、ということで落ち着きつつある様子に住職もほっとしたような表情、久し振りにゆっくりと眠れたとか。
「しかし、寺一つをしょって立つのならば、もっとしっかりと自覚を持ったほうが良い。お前さんももう少し度胸を付けた方が良い気がするな」
「信心過ぎて御仏に祈るのではなく、信心以ってして諭し赦すことも必要となろう」
 野乃宮と飛瓏の言葉に頷く住職。
「そうですね、びくびく怯えているところばかり見せていては、皆さんの方が心配になってきてしまうでしょう‥‥それでは、寺を預かる物として、示しが付きませんね」
 そう微笑する住職に頷く貴由。
「幾つかのところで、受けていた誤解も解けるように話をしてきておいた」
「本当に、何から何まで有難うございます」
 礼を言う住職、お茶と茶菓子をお盆に載せてやってくる斗織。
「皆さん、お庭の片付けももう少しかかると思われますし、このあたりで少し休憩にいたしませんか?」
 それは良い、そう言って笑う住職はなんだか少しだけ、しっかりとしてきたように見えるのでした。