朝顔市
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:9人
冒険期間:07月05日〜07月10日
リプレイ公開日:2006年07月14日
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●オープニング
「さぁて、ちょっと手伝いを頼みたくってなぁ」
そう言って入ってきたちゃきちゃきといった様子の男性を見て、懐かしそうに目を細める受付の青年。
「一年振りですかね。‥‥そういえば、朝顔市の時期ですね」
「おうよ、またまたあの親仁と精魂込めた朝顔で勝負しようと思ってな!」
「はは、そう言えば去年はそうでしたね」
そう言って笑うと頷く受付の青年ですが、どこか警戒色。
「そこでだ、今年も色々と手を借りたいと思ってな」
「はぁ、また判定するんですか?」
「いやいやそうじゃねぇ」
そう言って首を振る青年、見ればはやり何か木札を持っているのですが‥‥。
「実はな、今年は互いに2つずつ、自慢の朝顔を、沢山の人に見て貰って勝負を付けてもらおうと思ってなぁ」
「はぁ‥‥」
「なんで、朝顔市で遊ぶだけの菓子代や酒代、茶代は出そう、ついでにこの木札をばらまいちゃくれねぇかと」
「‥‥‥‥はぁ?」
話を聞けば、自分たちの作った朝顔を、どちらが良いかを見て貰い、その札を決まった場所へと入れて貰うことで、今回の勝負を決めようと言うことらしく。
その中で、道行く人達に小さな4つで一組の木札をばらまいて、そこで勝負をしていることをさらっと触れてくれればいいとのこと。
「勿論、初っぱなに配り終えて、残りの日数遊ぶんでも構やしねぇし、配分決めて時間を合わせて遊ぶんでも構わねぇ、とにかく、その木札配り終えてくれりゃ、後はこっちで何とかするからよ」
いうその男性に曖昧に頷く受付の青年。
「えっと、つまり‥‥勝負のことを告知して審査してくれる人を、適当に木札配る事によって選んで貰う、ということですか?」
「おう、その時に自分がこの花が良いって思ったらば、一つ分を手前ぇで入れても良いし、贔屓の花ぁ勧めるってのもあるしな」
「‥‥遠回しに根回ししろって言ってるように聞こえるんですが」
「んだとうっ!? お前ぇは気にせず募集出してりゃいいんだよ、今回はよっ!」
「‥‥あ、良いんですか、今回はお手伝いしなくても」
「現場で見つけたら問答無用で手伝わすけどな」
「‥‥」
言われる言葉に、朝顔市へお出かけしようかと考え始めていた様子の受付の青年は、どこか引きつった笑みを浮かべるのでした。
●リプレイ本文
●微笑ましい光景
「全く、相変わらずだなぁ、2代目」
冴刃音無(ea5419)が笑って木札を受け取れば、共に来ていた藤野咲月がくすっと笑って頷くと音無から一組の木札を受け取り、暫くは二人で並んでそれぞれの花を楽しんでいるよう。
「一つ分は自分で入れちゃお」
そう言って一組、木札を取り出すと弐と書き付けられたものを引っ張り出して箱に入れます。
「今回は敢えて、白。弐に一票」
「私は参に投票する事に致しましょう。藤色、ですから‥‥」
にっと笑って余った札を返却用の箱へと入れながら言う音無、参の木札を箱に入れる咲月に笑いながら続けます。
「見慣れない形だし真っ白で華やかで、なんか白無垢‥‥花嫁さんって感じだよな! ‥‥って‥‥や‥‥っ深い意味はないんだ、深い意味は‥‥っ」
途切れることなく次々と慌てたように赤くなりながら続けていく音無。
「そういや兄貴が祝言あげたのってこの位の季節だったなぁっていうか、義姉さん綺麗だったなぁっていうか、いや、断じて咲月で想像したりしてないぞ、う、うん!」
一息で全て言い切ると、そんな様子に目を瞬かせる咲月。
「あ、あの音無様、言葉が早‥‥。ふふ、そこまで照れなくても宜しいじゃありませんか」
「あー‥‥いや、その‥‥」
どぎまぎしている様子の音無の手へそっと自身の手を触れさせる咲月。
「――とても、嬉しいですよ?」
「あー‥‥え、えっと、今年も一鉢、買っていこうか?」
互いに頬を赤らめながら触れあう手をそっと握り合い、目に留めた濃紺の朝顔を買い求めると、二人は朝顔市の中を楽しげに語らいながら歩いていくのでした。
「エスナ、お弁当の前に私たちも入れておこうか?」
「うん、そうだね、ケイン‥‥」
そう言って並ぶ朝顔へと目を落とすのはケイン・クロード(eb0062)とエスナ・ウォルター(eb0752)。
おう今年も来てくれたか、と豪快に笑う2代目に参の木札を渡すケイン。
「ケインが参に入れるなら、私も‥‥」
そう言って参の木札を取り出すエスナ。
「参の花、小さいのにしっかりと花を咲かせてる‥‥なんだかエスナみたいだからね」
照れくさいのかエスナに聞こえないほど小さく呟き。
「じゃ、お弁当にしようか?」
「‥‥うん‥‥」
かけられる声に微笑んで振り返るエスナ、二人は朝顔市が眺められる神社の芝生地の場所へと歩いていくと、布を敷き腰を下ろしてケインお手製のお弁当を広げるのでした。
●全ての花を見て欲しい
「‥‥微笑ましい光景だな」
幸せそうに寄り添う人々を眺めて、志羽武流(ea0046)は小さく呟くと、ギルドで教わった辺りへと歩を進めます。
道の両脇へ所狭しと並べられ売られている朝顔のどれもが誇らしげに咲き誇るのに、僅かに口元を歪め歩けば、見えてくる場所。
「壮年の頑固で無口な植木職人と若くで喧嘩っ早い植木屋の2代目の勝負か。どちらが勝ってもおかしくはない」
並ぶ四つの朝顔にはどちらがどちらとは明かされておらず、既に木札を貰った人たちや、お祭り事が大好きな人々が集まってちょっとした盛り上がりを見せていて、志羽はそこで自分受け持ちの木札を渡されると、少しの間をおいて、全ての木札を返却用の箱へと入れます。
「お?」
「贔屓の花など無い。どの花も見事なものだからな。それは他の客もわかっているのではないだろうか」
「それはそうだが‥‥勝負を決めるには‥‥」
「青に白い縁取りのされた爽やかなものも、純白で幾重にも花びらが重なり合った大振りのものも、藤色で可愛らしく小振りな心和ませるものも、紅く品の良い王道な心落ち着くものもどれも見目麗しい」
ほう、と息をつくと至極真面目な表情のまま告げる志羽。
「このようなものでは、甲乙つけがたい。全部に投票したいくらいだが、それは無理なことは承知」
「うん、どの子も素敵ですよね。」
ちょうど木札を受け取りに来たミカエル・テルセーロ(ea1674)も志羽の言葉に笑って頷き。
「うむ‥‥そういう理由で、俺は木札を他人に渡す気もなければ、投票する気もない」
きっぱりと告げ、一通り四つの朝顔を楽しんだ後、ゆっくりと朝顔市の人並みの中へ戻っていく志羽。
「‥‥凄く潔いですね‥‥」
「おう、あれはあれで有り、だな」
流石の2代目も押されたのか頷いて志羽を見送るのでした。
「あっ、そうです、この子達を生み出す時の苦労とか、教えてくださいませんか?」
志羽を見送ると、ミカエルはにこにこと微笑みながら二人の職人を眺め首をちょこんと傾げて聞けば、にと笑い種を蒔く時期やその前の支度を、壮年の職人は水をやる刻限や量にも気をつけなければいけない、と付け足します。
「無論、僕個人の好みはあります。でも、皆一生懸命咲いてるし、お二方も丹誠込めて育てたんですから、どの子も皆さんに見てほしいんです」
一つ、自分用に取り分けると、ミカエルは道行く人々に声をかけ、是非見ていって欲しい、と告げています。
その横にてとてとと歩いてくる柴犬。
既に木札を受け取った誰かの者らしく、背中の籠に木札が四組、首からは『気に入った朝顔の木札を取って投票してほしいワン(天斗書)』などと書かれており、くすっと笑ったミカエルはその犬、太助君の頭を撫で撫で、お利口さんですね、と褒めてあげています。
「オーソドックスに見えますが、安定感があって朝顔自体の魅力があますことなく出た、品格のある感じ、素敵ですよね」
「わん♪」
「本当に‥‥素敵ね、私この花好きだわ」
道を行く長く連れ添った様子の老夫婦がミカエルから札を受け取り投票すると、朝顔の話を仲睦まじ像にしながら歩き去る夫婦にミカエルもなんだかほんわかした気分に。
「この青に白の縁、波間に寄せては返す波の泡のようにも、見える色合い。暑いこの季節にぴったり、だと思いませんか」
「あー確かになぁ‥‥元から青色は好きだが、こう、白が入っているとなかなか‥‥」
町人髷のお兄さんが太助君の籠から木札を取り出して一票。
「最後の日に、僕も一つ入れるんですよ」
「わう?」
にこやかに木札を配る一人と一匹を、道行く人たちも微笑ましく見守っているのでした。
●美しさよりも‥‥
「ふむ、で、どれが一番薬効があるのかね〜?」
「薬効ってぇいうと難しいところだぁな」
トマス・ウェスト(ea8714)に聞かれる言葉にむと眉を寄せる2代目、壮年職人も少し考え込んでいる様子。
「牽牛子は種が完熟する前に‥‥と聞いたが、医者でないので我々にはどちらが薬効が、とは言えぬな‥‥」
「大量に服用しちゃ不味い、だったよなぁ」
壮年職人が答えれば、2代目も頷き。
「けひゃ‥‥我が輩にとっては、どれが『綺麗』かなど、さほど意味はない〜。どれが『効く』か、だ〜」
むう、と何とも言えない沈黙、受け取った木札からひょいひょいと目的のものを引っ張り出したドクターに軽く首を傾げる二人の職人ですが、その木札を五つ、そのまま投票して、どれが効くかねーと言いながら歩き去るドクターを、思わず二人は見送るのでした。
「お嬢さん、朝顔の花に集まる朝露の如き夢を一緒にみ‥‥」
みなまで言わせて貰えず、すちゃっと植木宜しく手早く簀巻きにされ首根っこを掴まれるのは鷲尾天斗(ea2445)。
ちゃ、と九十九嵐童(ea3220)がなにやらその様子を見ながら書き留めていたものがあるようですが、若い娘さんに声をかけていた鷲尾も、いきなり問答無用で首根っこを捕まれて引きずられるとは思わずに、笑顔のまま朝顔市のど真ん中をずりずり。
「昨日頭にちっこい娘に小判ぶら下げられて歩いていた奴じゃねえか、暇なんだったらとっとと手伝えっ!」
「あっ、待って、それなんか凄い誤解を招く表現〜!」
鷲尾の抗議も空しく引きずられていけば、そこにはちょこんと座って道行く人や若い娘さん達に愛でられている太助君の姿が。
「お利口さんね〜」
「可愛いわ。でも、飼い主さんって酷いわね、こんな可愛い犬にお仕事させて居ないんですものねぇ‥‥」
「なぁ、悪いこたいわねぇ、今の飼い主よりも良い暮らしは出来ねぇが、うちに来るかい? 犬らしく幸せになるように俺も‥‥」
「待ってーっ! 俺の太助君を持ってかないでっ!?」
慌てて騒ぐ鷲尾。
「『太助君、主人と違い良く働き、人々の関心を集める』‥‥この場合は飼い主の過酷な使い方に反感が集まる、の方が良いだろうか‥‥」
初日に妹の刹那と共に既に自分の分を投票し、一組だ札を手元に残していた嵐童は気楽なようで、どうやら作っているのは報告書のよう。
「おう、昨日の‥‥どうしたぃ?」
「うむ、今小奴の奥方に提出する行状調書‥‥つまり『鷲尾天斗行動録』を記しているところなのだが‥‥」
「そいつぁ大変だなぁ」
なぜかくう、と太助君も2代目の同情混じりの声に同意しているのはきっと気のせいでしょう。
「おっと‥‥花が決められないのか?」
そこへ、昨日木札を渡した人物がまだなにやら悩んでいるようで今日も足を運んだのに気がついた嵐童。
「そうだな‥‥愛しい人に贈るとしたら、どの花を選ぶ?」
「あ‥‥‥‥、えっと参、かな‥‥」
顔を赤らめて参の木札を入れていく若者を見送れば、太助君もわん♪ とお見送り。
その後は、簀巻き出来にぶら下がり十分に人寄せには役に立てられながら、一人と一匹、それに一物体は朝顔勝負の宣伝を続けるのでした。
●強い決意
最終日、太助君が決めた「ないす朝顔」に投票があったり、木札を持って考えていた人々の投票も終わり、結果が発表されるのを待つだけとなりました。
壱、二代目の作 拾票
弐、壮年職人の作 漆票
参、二代目の作 拾二票
四、壮年職人の作 陸票
ぺらり、結果の書かれた布が貼り付けられれば、どうやら藤色の花が二連勝のようで、互いに来年こそは負けないぞ、と盛り上がります。
「さてと、結果も出たことですし‥‥鷲尾の旦那ぁ? つけ、きっちりと払っていただきますわよ?」
「わーっ、しつこいっ!?」
「あっ、逃がしゃしませんよ!」
揚屋の女将に追いかけられる様をさらさらと書き添えた嵐童は、そっと太助君に報告書を渡し背中の籠へ、くう、と鳴いて太助君もしっかりと背中の籠を背負ったまま帰って行きます。
「鷲尾‥‥今日家に帰ったあと大変だろうなぁ‥‥南無」
生暖かい目で合掌し見送る嵐童。
そして、そこから少し離れ遠くから朝顔市の喧噪が聞こえる中、ケインとエスナは俯いて向き合っていました。
「この街の人たち‥‥ハーフの私にも普通に接してくれるし‥‥ケインが側に居てくれる‥‥だから忘れちゃうの‥‥私がハーフエルフだって事、キャメロットじゃ忘れる事なんてなかった‥‥辛い事、いっぱいあったから‥‥」
「うん‥‥」
ぽつりぽつりと告げられる言葉に、小さく頷くケイン。
「でも、それが現実だから‥‥ハーフに生まれてきた以上‥‥私はその事を受け止めなければいけないから‥‥。だから、ケインと一緒に居ちゃいけないの‥‥強くならなきゃいけないのに‥‥すぐに甘えちゃうから‥‥」
そう言って、精一杯笑顔を作ろうとしながら呟くようにエスナは付け足します。
「それに一緒に居たら‥‥いつか、きっとケインに迷惑をかけちゃう‥‥だから‥‥だから‥‥」
暫く無言の二人。
「‥‥去年、朝顔の前で約束したよね『必ず迎えに行く』って‥‥エスナも誓ってくれたよね?」
「‥‥」
答えられず俯いたままのエスナに、ケインは顔を上げると歩み寄り、そっとエスナを抱きしめます。
「‥‥だから‥‥‥いつか絶対に君を迎えにいくから」
ぴくんと小さく震えるエスナに決意を強く込め、優しく微笑んで力強く続けるケイン。
「君を護る‥‥寂しさや辛さ、悲しさから全て護ってやれる男になって迎えに行くから!」
「‥‥ケ‥‥イン‥‥?」
「そして江戸に帰ってきて、今度は一緒に暮らそう。本当の家族になる為に」
驚いた表情でケインを見上げるエスナに、ケインはにっこり笑いかけるとゆっくりと息を吐きます。
「‥‥‥結婚、しよう」
言われる言葉にぼろぼろと泣き出すと、花が綻ぶような笑みを零すエスナ。
「必ず‥‥必ず迎えに行くから!」
「‥‥うん‥‥弱い心、今だけ許してもいいよね? ‥‥もう絶対に泣いたりしないから‥‥」
小さく呟くように言う言葉、やがて手を繋いで朝顔市へと戻る二人。
「‥‥お雪ちゃんに‥‥お人形渡しておいてね‥‥」
「うん‥‥またいつか、一緒に比良屋に行かないとね」
賑やかな市に足を踏み入れ微笑み合う二人。
「そっか、朝顔のもう一つの花言葉‥‥『愛情の絆』。今頃思い出しちゃったよ」
苦笑するケインを見つめて微笑み。
「いつか‥‥もっと素敵な女性になった私が君の隣に居ますように」
まるで朝顔に願いを込めるかのように小さく呟くと、二人は結果発表で盛り上がるみんなの所へと戻っていくのでした。