武人の誉れ

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:9〜15lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月06日〜07月11日

リプレイ公開日:2006年07月17日

●オープニング

 その日、立派な籠の迎えに、ギルドで受付をしている青年がびくびくとした様子で乗り込むと、立派な武家屋敷の門の中、玄関で降ろされておどおどと挙動不審に陥ったのは、徐々に暑さの感じられるようになった、とある初夏の日のことでした。
 中へと入れば立派な庭園に面した廊下を、初老の物腰丁寧な武士が案内し先に進めば、客間、底に腰を下ろしてかちこちしながら待っていると、直ぐに入ってくるのはあまり裕福とは言えない様子の若い女性。
 やがてゆったりとした足取りで入ってくる男性は壮年でふっくらしており人品も良く、着ている物は落ち着いた色彩ながら、手の込んだ仕立ての良い物。
「無理を言ってきて貰い済まなんだな」
 上座へと腰を下ろすと穏やかに言う旗本、緊張気味に頷く受付の青年に、若い女性を御家人の娘であることを告げ、受付の青年に紹介します。
「さて、本日来てもろうたは他でもない、儂の不徳故に起きてしもうた事を、その心の憂いを取り除いて貰いたくての」
 そう言う旗本の男性。
 御家人の娘は桔梗と言い、意志の強そうな顔には疲れと苦悩が滲んでいます。
「実は先の月、庭にて武芸の試合を開いたのじゃ。招いたのは4つの道場、そこの道場主がこれはと思う者を推挙し、それそれを正々堂々と戦わせることにより、誉れある武人を見いだしたいと思うての。‥‥それが間違いであった」
 嘆息する男性、ぶっちゃけてしまえば市井に隠れる名道場を見出し、良き試合・人柄・心構えを見せれば相応に援助を考えていたそう。
 その時に暫く前から信頼し懇意にしている町道場の主に聞き、その推薦で3つの道場が選ばれ、他の者から勧められた今一つの道場とで試合を行うこととしたのですが。
「その時、それぞれの申請しておった代表の弟子で、参加したのは一人のみ、うち2つの道場は試合自体を直前で辞退しての」
 可笑しいと思いつつも始まった試合で当然の如く、最後に決まった道場の男が勝ちをとり、試合前に男性が宣言していた業物の刀を受け取りゆうゆうと帰っていったそう。
「それを聞いて、私居ても立っても折られず、何としてもお目通りをとお願いし‥‥」
 そう言う女性、女性は弟がその試合に出るはずだったのに、試合の二日前、いきなり襲いかかった集団に投網を被せられ、利き腕と片足を折られ試合に出ることが出来なかったそうです。
「じゃ、じゃあ、他の道場も‥‥」
「それを昵懇にしておる先生にと頼もうと思うたのだが、どうやら留守‥‥そしてそこな娘の弟御は『あのような奴が武人の誉れなどと、決して許せぬ』と飛び出してしもうたと‥‥」
 受付の青年がそこまでを依頼書に書き付けると、男性は再び口を開きます。
「そこで、そちらの娘の弟御の保護と、真相を確認し行ったことをしかるべき所へと届けるための証拠を押さえて欲しいのじゃ。無論、そやつ等の証拠が掴めたならば、しかるべき所へ突き出すまでを行うて貰えるなら、それに越したことはないのだがの」
 そう言うと、男性は毅然と座る娘さんを気遣うように見るのでした。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0563 久遠院 雪夜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6769 叶 朔夜(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 ea9913 楊 飛瓏(33歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

緋宇美 桜(eb3064)/ 猪神 乱雪(eb5421

●リプレイ本文

●件の道場門弟達
「古人いわく、『現場百回』、『事件は足で稼げ』。そして『見の目優しく観の眼強く』ってね」
 小さく呟くように言うと久遠院雪夜(ea0563)は旗本の元に来ていた娘さんに教わった、弟の襲われた場所に立つとぐるっと見渡します。
 そこは片側が寺社の石垣、もう片側は草地となっており、余り一目に付く場所とはいえないよう。
「投網まで使っての大騒動なんだから、何も残っていないはずがないし‥‥」
 そう言って石垣に近付いて見れば、道側から上るのは一般人なら少々難しそう。
「登れないこともないけど‥‥向こう側から回ってみようかな?」
 寺の敷地へと入れば、先程の道に面した位置迄やって来て、こちら側からならば容易く石垣の上へと出られることに気が付き、注意深く石垣の辺りを見てみれば、僅かに草履の跡が石の手前に残っていることに気が付いて目を細める雪夜。
「ここからなら身体を引いておけば下からは見えにくいし、これぐらいの高さなら飛び降りても大丈夫だろうし‥‥」
 下の通りを見下ろし言う雪夜、投網を投げるとすれば上から、しかも狙いやすい位置から投げられるのに頷くと、ゆっくりと辺りの様子を注意深く調べ始めるのでした。
「そうなのですか‥‥それでは、とてもお強いのですね?」
 とある酒場、2人の浪人者へとお酌をする女性、もとい女物の着物に簪、薄化粧で微笑を浮かべるのは瀬戸喪(ea0443)。
 その酒場は旗本に聞いてあった道場近くの店で、付近の住民へと軽く聞き込めばここに良く来る浪人者がいると聞いて、喪は早速姿を変えてやって来たのでした。
「当たり前よ、うちの所はとあるお偉い旗本のところで行われた試合で他の道場を叩きのめしたんだぜ、なぁ」
 言って意味ありげににやりと笑う2人、喪はよく分からないとでも言うようににこにこ笑いながら軽く首を傾げて見ると、さも可笑しそうに笑い合う2人。
「いや、試合に出た奴ってのがなぁどっかの良い家の三男だか四男だか。これで名を上げれば道場の後ろ盾になるし、どっかに養子の口でもあるだろうとな」
 酒が入ってか口が軽くなっているようで低く笑いつつ言う男、見合いなど色々と手は尽くしたそうですが、その人柄が話が纏まるまでには先方に気が付かれ断られるとか。
「腕はまぁ、そこそこ‥‥俺等よりは、なぁ」
「自分で手を汚さねぇのは気にいらねぇが、奴が良いとこに取りいりゃ、俺たちも旨い汁が据えるってぇもンよ」
 酒量が増えていくにしたがって言う内容もどんどんと問題ある話へと移っているようなのですが、まさか女性と思っている喪に言ったところでどうこうなるとも思っていないのでしょう。
 やがて、喪はよい潰して2人の浪人が卓に突っ伏して鼾をかき始めた頃、店の主人に後を任せて席を立つのでした。

●青年
「武に唾する行為、決して許せぬ」
 声に怒りを滲ませ言う楊飛瓏(ea9913)は、ぐと拳を握り目を落としました。
「なんにせよ、桔梗さんの弟さんを見つけて治療を施さなければ‥‥手当はしたと言っても無理をしていれば治るものも治らなくなりますし」
 エルリック・キスリング(ea2037)の言葉に頷く飛瓏、既に件の道場と青年の通っていた道場付近は見て回り、見つかっていないため、念のために不正を働いた代表選手の屋敷の近くまでやって来ていました。
「付近の店で宿は取っていないようだが、それらしい男を見た者がいるらしい」
 エルリックと飛瓏が話していると、レイナス・フォルスティン(ea9885)が屋敷と道を挟んだ草地で、木陰に隠れてじっと屋敷を窺っている青年を見かけたとのこと。
「様子がおかしくて声をかけないでいたら、やがてずりずりと裏の方に足を引きずって移動したとか‥‥」
「例の男はいつ依頼主から連絡が来るかと屋敷で連絡を待っているとの事‥‥考えればつくづく愚かしい」
 1日おきに道場へと顔は出しているそうなのですが、仲間からその男は殆どをこの屋敷の中で旗本の引き立てが来ないかと待っているなど、幾つか聞き込んだ話が耳に入ってきています。
「‥‥ぁ‥‥」
「ん? どうした」
「あそこにいる方‥‥!」
 見れば屋敷の潜り戸を出てきた20代半ばの男、その男に気が付いて動き出したか小さく足を引きずりながら木の陰から飛び出した青年が。
 エルリックがそれを指し示すよりも早く素早く青年の進路に割り込み抜き掛けた刀の鞘を押さえて止める飛瓏。
「くっ!? な、なん‥‥お前達、奴に雇われ‥‥」
「落ち着け。俺たちはお前を捜していた」
「っ‥‥‥」
 レイナスも青年の前に立ち止めれば、道を歩き去っていく男の姿に悔しそうに顔を歪めて俯くとがくりと肩を落とす青年。
「とにかく、手当をしなければ‥‥一度戻りましょう?」
 エルリックに促されるままにのろのろと歩き始める青年、すっかりと薄汚れて右腕は痙っていた布も外してしまいだらんと垂れ、左足も括り付けられた細い板と供に引き摺り痛々しい有様。
 近くの店で駕籠を呼んで貰い家へと送り届ければ、すぐに医者を呼び手当をし直して貰う青年に話を聞く一行。
「相手は5人か‥‥」
「もっとも、あの男を入れれば6人だけど‥‥」
 言って俯く青年。
「直接手は下さなかったらしいことは言っていますが‥‥」
「腕を折れと言ったのは彼奴自身だ」
 喪が聞き込んだ話を思い出して呟くように言えば、吐き捨てるかのように青年は言い、抵抗したため足もやられたとのこと。
「恐らく、三國さんはもっと‥‥」
 言って声を震わせる青年に西園寺更紗(ea4734)は小さく溜息をつきます。
 更紗は先程三國という、青年とは別の道場の代表選手と話してきており、彼は更に頭を酷くやられて、身体の左側が麻痺し、二度と剣は握れないだろうと言われています。
「闇討ちで他道場の競争相手に手傷を負わせ望みの物を我が物にとは‥‥」
 呟いて息を緩やかに吐くのは叶朔夜(ea6769)。
「武人のやることではない、これは破落戸そのものではないか」
「それ以下ですやろ、その三國はん言わはったお人、6人がかりで‥‥」
 3つの道場のどこに行っても皆、恐らく勝ち抜き選ばれるのは三國だっただろうと言い、二度と剣が持てなくなったと知って怒り嘆き。
 静かに療養しながら怒るもせずに溜息をついていたのは三國その人だけでした。
「三國はんていう人、大したお人やね」
 ぽつり、更紗は呟いて苦笑します。
「だからっ! あのような奴がのうのうとしている事が‥‥だから自分がっ!」
「現状を考えろ、無理というものだ。そこにいる姉も心配しているぞ」
 言われて言葉に詰まる青年。
「武とは私欲無くして忠恕ある事。武とは威強くして叡き徳ある事。武は心に在りて形に非ず。剣も拳も、道は違えど根ざすものは変わらぬだろう」
 飛瓏が口を開くのに顔を向ける青年。
「己が誠を貫きて、己が足を以って進む事。然れど匹夫の勇は武にあらず」
「で、でも‥‥っ」
「武に唾する行為、許せぬのは分かる。然し己の身と姉の想いを知り、省みるのもまた必要」
 そう言ってから、ふと微笑を浮かべる飛瓏。
「‥‥俺もまだ及ばぬものも多いがな」
「あの道場が怪しいのは解っています。その非を暴くため私達冒険者が動き出していますから、どうか早まった事をしない様にして下さい」
 エルリックの言葉にまだ迷いがある様子の青年。
「下種は俺たちに任せろ。然るべき所へ突き出すのみだ」
 レイナスの言葉に俯いた青年は、やがて微かに頷くのでした。

●武人の誉れ
「やっぱりお前どこかであったこと無ぇか?」
「いいえ? 気のせいですよ」
 きっぱりと答える喪に、浪人は怪訝そうに首を傾げますが、この道場の名が広まって入門に来たのだと考えると気分も良かったせいか、それ以上は深く突っ込まず、雑用を押しつたりしつつ得々としているよう。
「‥‥あった‥‥裾に縫い跡がありますし、血の跡も落ちきっていないですね‥‥」
 山のように洗濯物を押しつけられ、それを洗いつつ見つけた喪は、こっそりと選り分けて素知らぬふり。
「これが久遠院さんや西園寺さんが言っていた棍棒、ですかね‥‥」
 皆が出かけている合間を縫って納戸などを調べればそこにあるのは少し歪な形をした大振りの棍棒で、これもうっすらと色が違う場所があります。
「‥‥これで十分、ですね」
 喪は微笑を浮かべると呟くのでした。
 空が徐々に茜色と藤の色合いに混じり合う頃、道場では道場主を囲み一部の門人達が酒を飲み食いしていました。
「おい新入りぃ! 酒が足りねぇぞ! 酒がよ!」
 怒声が上がる中、一同は喪の手引きで道場の入口から堂々と乗り込んでいきます。
「下種が、覚悟はいいかな」
 ずいと入り放つレイナスの言葉にざっと立ち上がる男達。
「何だてめぇらはっ!」
「‥‥確かに用意して頂いた人相書きと合致しますね。あなた達のしたこと、証拠は挙がって居るのです!」
 エルリックが布を広げ確認して言えば、何を指しているのかに気が付き殺気立つ男達。
「納戸で見つけた、あちこち欠けたり折れた棍棒、その破片が3人の代表達の襲われた現場で見つかりました」
「それにそこの方の左腕‥‥抵抗され小太刀で斬りつけられた時のものですよね?」
 喪とエルリックが他にも、と雪夜の見つけてきた遺留品や、更紗達の聞き込んだ証言を突きつけている間、朔夜は注意深く男達の様子と、裏口に近い男がじりじりとさがる様、手前の男が誰なら与しやすいか値踏みをしているのを確認。
「お前達のしたこと、全て明白。決して許されぬ‥‥大人しく己が犯した所業を認め‥‥」
「それはお前達を黙らせれば済むことだっ!」
 喚くように飛瓏の言葉を遮ると睨め付ける男達に、奥にいた中年男が口元を歪めます。
「生かして返すな」
「良いであろう、武学修めるには未だ遠き道為れど、姉弟の想い、この拳に誓いその憂きを晴らそう」
 ぐと拳を握ってみせる飛瓏につらと一斉に刀を抜いて飛びかかる浪人達。
「貴様っ! 謀りおったなっ!」
「相手の実力が読めないのはご自身の修行不足なのでは?」
 ふ、と冷笑を浮かべて受け流すと、かわし態に後ろに回り込み、問答無用にみねの一撃。
 刀で身体を支えて立ち上がろうとしたその浪人ですが、まるで舐るかのように一発、もう一発とみねで打ち据えて昏倒させる喪。
「手加減するのは好きではないんですが‥‥」
 そう言いながらも一撃で落とさないぐらいに力を押さえてわざわざ繰り返し打ち込まれたそれは、痛みも何も想像を絶するものが。
「邪魔だてするなっ!」
「通らせぬ!」
 鋭い剣線が飛瓏に迫りますが、一撃、二撃と身体を引き交わすと、刃を返そうとする浪人の腹部、胸元と素早く拳を繰り出し転がす飛瓏。
「小賢しいっ!」
 もう一方ではエルリックと浪人が一人、斬りかかって剣をかわしては離れを繰り返し、なかなか決着が付かず。
「くっ!」
 何合か打ち合った後、軌道を変えられた剣を受けきれずに地に伏せたのは浪人の方でした。
 道場主の行く手を阻んでいたのはレイナス。
 繰り出される刀を何とか捌ききり、返す刃に頬を浅く斬られつつも、一歩、踏み込みを浅くして剣を振らせると、身体ごと床まで叩きるけるかのような強烈な一撃で道場主を地に沈めるレイナス。
「武人の恥が‥‥」
 足下に横たわる道場主を見下ろして、レイナスは吐き捨てるように言うのでした。
 一方では、更紗を見て女と侮ったか押し通ろうとした男の刀を軽くいなすと、長巻のみねで思い切り叩き付けて殴り倒し。
「あらぁ、力加減間違えてしもた、堪忍どす」
 言いつつもこれっぽっちも申し訳ない様子もなく口元に笑みを浮かべる更紗。
「卑怯も兵法とはいえ、やり方が汚く度が過ぎてしもたようやねぇ‥‥」
「ひっ!」
 一人が力一杯打ち込まれ倒された上に囁くようにかけられる言葉に、ばたばたと逃げ出す浪人一人と旗本の息子。
「忘れて貰っては困る」
 背を向けた浪人へと朔夜が素早く寄り一撃、すとんとそのまま気を失い落ちる浪人。
 裏口からはばたばたと逃げて庭へと降りる旗本の息子の姿が。
「行ったぞっ!」
「っと、漸く出番だね」
 庭に降りて逃げようとした男は、ふと自分の上に影が差したのに顔を上げるのと、雪夜が屋根から飛び降りて、手にした短刀で意識を刈り取るのはほぼ同時なのでした。

●再び剣を
「ようやってくれた」
 経過の報告をし、事情を聞きたいというお伺いが来たときの話を依頼人から聞くことになったのは、涼やかな風の吹く夕暮れ時のこと。
「無用な騒ぎには避けるべきと思ったのだが‥‥」
「なに、構わん」
 事情を聞きに来られることとなったため飛瓏がそう言えば、事も無げに言う依頼人。
「件の男の親の家は、暫く謹慎と相成ったようじゃ」
「被害にあった者達は‥‥」
「うむ‥‥腕の良い医者を知っておる。見て貰えるように話は付けた。良くなるには時間も苦労もあろうが‥‥儂の蒔いた種、最後まで責任は持つ」
 そう言うと改めて一行に礼を言う依頼人。
 その場には桔梗も顔を見せ、弟も順調に直っていること、そして身体に麻痺の残った本人も、少しずつ根気よく治療を続け、剣をもう一度、適わなくとも何かを見つけるつもりであることを伝えます。
「面倒を頼んだの。皆、本日はゆるりと休んで行かれよ」
 そう言って、依頼人は一同を持てなすのでした。