怪我人は大人しく養生しやがれという話で
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:12〜18lv
難易度:難しい
成功報酬:7 G 99 C
参加人数:8人
サポート参加人数:9人
冒険期間:07月10日〜07月17日
リプレイ公開日:2006年07月21日
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●オープニング
「なんだ、こりゃ」
その日、凶賊盗賊改方の同心が、浪人姿で巡回中の合間を縫って手紙と金子を預かって尋ねてきたのは、じりじりと暑さの増してきた、とある日のことでした。
「いや、己にもあまり良くは分からぬが、どうにも出原医師から頼まれたもの故、そのまま持って参った」
「はぁ、では、取り敢えず見てみますね、御手数をお掛けしました」
「うむ、なぁ、宜しく頼む」
そう言って出て行く同心を見送って手紙を眺める受付の青年。
その手紙は確かに、現在凶賊盗賊改方長官、長谷川平蔵の治療に当たっている出原涼雲という通称『狐医者』からのもの。
何故狐医者かと言えば、その人を喰ったような性格やら化けてでそうな雰囲気やら、狐に似た細面からと色々あるようですが、とにかく何となくそう呼ばれています。
それはともかく、涼雲のその細い文字で認められた手紙、それを開いて固まる受付の青年。
ぱたりと手紙を閉じて空を仰ぎ深呼吸、再び目を落として手紙を開いて、力が抜けたかのようにがっくりと突っ伏します。
「どうかしたのか?」
「いや‥‥退屈しきっている長谷川様の監視って、どう思うよ」
「無理だろ」
どきっぱりと言い切る同僚に溜息をつく受付の青年ですが、依頼書を開いて何事か書き付け始め。
手紙には以下のように書いてありました。
『冒険者ぎるど御担当者殿
長谷川殿を大人しく休ませるため、監視を頼みたい。
長谷川様の容態は順調であると言いたいところではあるが、何分血を大量に失った後故、ご自身が思われているよりも体力の回復は遅く、消費は激しい。
まぁ、そうそう死ぬるような生易しい御仁ではないが、今暫くはゆっくりと療養していただかねば、治るものも治らぬ。
精の付く物をたんと食べるのは良いことではあるが、どうにもついでに盗み酒と言うことで、同心の木下に小遣いを握らせ、屋台の豆腐や酒を少し買って来させておるよう。
それは体力を戻そうという無意識かでの行動と好意的に解釈をしておったのであるが、この木下、余計なことに、屋台の親爺から聞いた奇妙な話というのを、長官の楽しみになればと吹き込みおって難儀しておる。
くれぐれも、言いくるめられて外に出したりはしてくれぬよう。
しっかり食べ、部屋で多少の身体のを解すなどの行動をさせるは良いことではあるが、通常の者より頑丈であるとは言え怪我人。
くれぐれも、怪我人は大人しく養生しておれば良いと言うこと、胆に命じて事に当たって欲しい。
出原涼雲』
そして、それに添えられた手紙で、どのような噂であるかを念のために書き居ていたらしく。
その手紙を見ながら、受付の青年はただただ溜息をつくのでした。
●リプレイ本文
●珍しい光景
「はぁ、無茶をしなさる。怪我人は大人しく養生しやがれだ、全く」
やれやれ、とばかりに溜息をついて苦笑するのは御神村茉織(ea4653)。
役宅の平蔵が休む間とその隣の間では大人数が集まってがやがや、珍しいといえば珍しいのですが、どうもそこで起きていることはそれに輪をかけて珍しい事柄のよう。
「平蔵さん、ゆっくりしてって言っても聞きそうにないけど、それでもゆっくりしてなさいって」
「そのとおり。長谷川殿、医師の言う事は聞いて下され」
リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)が苦笑すれば天風誠志郎(ea8191)は由々しきこととばかりに頷き、当の平蔵は話が大事になっているのに緩く息を吐いて笑います。
「兎の話だけでは色々と見落としがあるといけねぇと思ってな、身体慣らしにゃちょうど良いかと思ったんだが‥‥」
「頼むから、これ以上心配させないで下せぇよ。貴由からも何か言ってやってくれ」
「‥‥長谷川様、何故私達に仰ってくれないのですか?怪我はまだ完治してません」
「様子を見てからと思ったんだが‥‥」
「お願いです、もっと御身を大事にして下さい‥‥」
「‥‥って、おいおい泣くなよ」
目元に袖を押し付けて俯く時永貴由に、御神村は宥めつつ平蔵をちらり見て。
「旦那、これでも出かけるっておっしゃいますかい?」
「‥‥わかったわかった、仕方ない、大人しくしていよう。だから泣くんじゃねぇ」
お目付役もいるし、かってにゃ動けねぇよ、と側に控える野乃宮 霞月を見てから貴由に言う平蔵。
「それにしても、大分顔色も戻られましたし、傷の具合も良いようですね」
「暑さでばてて体力を落とさないように気を付けないとねっ♪」
そこへ微笑を浮かべて氷水を入れた桶を手にしたレヴィン・グリーン(eb0939)と、お盆に良く冷やした白玉に砂糖をかけた物を持つ所所楽石榴(eb1098)の夫婦が入ってくると、どこかほっとした雰囲気に。
「私の仕事場からいくつか栄養の高いものを持ってきたから、後でしっかり食べてね、平蔵さん」
念を押すリーゼに頷きつつ冷やした白玉を食べる平蔵、漸くに落ち着いた様子を見て、御神村はちらりと窺うように見て口を開きます。
「それで、その男‥‥長年の勘ですかい? それとも、何か心当たりがあって引っかかってるんで?確かに、聞いた特徴だと堅気でない気はしやすが」
「いやな、この時期だ、離れで仲良う過ごしている鶴吉たちはまだしも、どうにもこの役宅をわざわざ夜に窺っているみてぇだってのがな」
「確かに‥‥いつまた狙われるか分かりやせんからね」
平蔵の言葉に頷く御神村。
「それで、木村さん、その遊び人風の男の特徴とかなんかないっすか?」
以心伝助(ea4744)に聞かれて考え込む忠次、控えの魔で注意力が散漫であるようなことを言われていたのに腐っていたのですが、首を捻ってちびちびと思い出して少しずつ補完していきます。
「そうだな、あまり特徴のない様なことを言っていた気もするのだが‥‥垂れ目というか、少しにやけた感じの男で、何を聞かれてもにやにや笑っているだけとか‥‥私はすれ違っただけなので良くは見ていないのだが‥‥」
「木村さん、その時は‥‥」
「無論、浪人風の出で立ちで行った上に、よくよく注意もされている、出入りも周りに気付かれぬよう注意を払ってしていたので恐らく気付かれてはおるまい」
「じゃあ、詳しいことは屋台の親爺さんに聞いた方が確実ってことでやすね」
言われる言葉に頷く忠次。
「ま、親爺に話し付けて、その男が来たらそれとなく合図して貰えば良いんじゃないか?」
それ迄平蔵に皆で注意をしているのを面白そうに見ていた鷲尾天斗(ea2445)は、笑いながら言って立ち上がるのでした。
●退屈な平蔵
「へぇ、長谷川さんって、若い頃は結構悪だったんだ?」
「悪って程じゃ‥‥いや、酷ぇ鼻つまみ者だったがなぁ」
アレーナ・オレアリスが言う言葉に否定しかけて苦笑する平蔵、先程から差し入れの酒を飲みつつ、縁側で風斬 乱と将棋を指していました。
「ふむ、手堅いね‥‥」
「それでですね、先程庭を通りましたときに、この様なものを見たのですが‥‥」
ぱちりと駒を進める平蔵に盤上を見つめる風斬、その側では赤霧 連が合間合間に役宅内のことや江戸市中の様子など、退屈しないようにいろいろと気を遣っているよう。
「なるほど、煙管を弄るのが癖みたいっすね‥‥」
そんな様子を注意深く観察する伝助、平蔵の仕草や言動など、様々なものを覚え込もうとしているようで。
「まぁ平蔵さん、たまにはゆっくり待つのも良いだろう」
そう言って駒をぱちりと置く風斬に、諦めたかのように平蔵は息をつくのでした。
「こんな感じっす‥‥こほん、こんな感じになるかな?」
一日じっくりと平蔵の様子を観察していた伝助、姿を平蔵に似せた伝助は思わず普段の声で言いかけるのに軽く咳払い。
直ぐに平蔵の声色を使い軽く胸を反らせばぱっと見は威風堂々と、よくよく見なければ平蔵と間違えるかも知れぬ出来にほう、と感心したように息をつく平蔵。
「ふむ‥‥器用なもんだ」
どこか楽しそうに言う平蔵ですが、すと表情を引き締めて伝助を見。
「しかし俺の姿を模すのだ、十分に気をつけるのだぞ」
「大丈夫、任せてくださいっす」
にっと笑う平蔵姿の伝助、平蔵はじっと伝助を見ると何か言いたげな表情を浮かべますが、直ぐに苦笑して息を吐きます。
「‥‥‥頼まれても身代わりは出来ないっすよ?」
「分かっておる、なればこそ言わんでおいたのだが」
何とはなしに可笑しそうに笑う二人。
やがて伝助は出かけていくのでした。
●夜の捜索
さて、外で行動していた者達はと言えば‥‥。
始めの夜、石榴と鷲尾は連れ立って屋台へと顔を出していました。
小声で屋台の親爺へ事情を素早く伝えれば、心得たように頷いて酒の支度をする親爺。
「今日は特に来る様子はありませんぜ。一日おきに来ますから‥‥明日のもう少し遅い時間にでも来て貰えたらと思いやすが」
そう伝える親爺に話を聞けば、時折何を言っても気付かずに険しい顔で役宅方向を見ていることがあるらしく。
「来たら分かると思いやすがね、一応目配せしますんで‥‥」
そう言って頭を下げる親爺。
親爺の心づくしで旨い酒と石榴には茶、そして薬味がたっぷりのった豆腐と飯に卵を落としたお吸い物などを振る舞われます。
「おいおい親爺、その男のこれ目当てに通っているだけなんじゃないのか?」
「いえいえ、ここで商売しているのはこの通りのお屋敷や役宅の人たちが買って行かれるのが主で、渡りの中間ならまだしも、あんな遊び人みたいな人ぁ普通来やしませんよ、こんな刻限に」
笑って答える親爺、役宅の人たちは団子や饅頭などを買ってくれると言えば、忠次が改方発足以来大分熱心に通ってきていることが分かり、初日は穏やかな雰囲気で終わります。
二日目、日付の変わる頃、軽快な足の運びでやってくる遊び人風の男をじっと見つめているのはジークリンデ・ケリン(eb3225)。
ジークリンデはその男の姿形をしっかりと覚え込もうとしているよう、しかし男の姿を確認するために屋台が見られる場所へと移動しているのは少々軽率と言えなくもなく。
ジークリンデは役宅へと戻っていく姿をじっと見ている男達の姿には気付かないのでした。
その男は忠次の行ったとおり、にやけたという表現が良くしてしている、垂れ目でどこかとぼけた印象を与えるような雰囲気を持っていました。
それで居て、にやけた目をよく見れば陰湿な暗い光を帯びて居るのに気付くことでしょう。
「ちょいと相席良いかね?」
鷲尾がそう言って声をかけると、男はちらりとを向けて観察をしてきているようでしたが、直ぐに愛想の良さそうな笑みを浮かべて頷きます。
「なになに、面白いものでも見えるのっ? ‥‥そうだな、こんな夜に一人でいるってことはー‥‥まさか覗きっ?」
「勘弁してくれよ、姐さん」
「お目当てさんでも居るのかなぁ?」
鷲尾と笑いながら男を茶化す石榴は一瞬受けた厳しい目つきでの睨め付けに気を払う様子もなく笑って答え。
「あっしはただ、知人が通りかかればいいなと‥‥」
当たり障りがないように居言う男の様子に笑いながらも、鷲尾と石榴は男が並々ならぬ様子で役宅を伺い続けているのをしっかりと記憶しておくのでした。
「ほら、平蔵さんは休む休む!」
大人しく療養していた平蔵が気がかりなことを感じてかどこかそわそわとし始めたのに、リーゼが止めると誠志郎と二人、急にそわそわし始めた理由を確認し、小さく溜息を吐きます。
どうやらジークリンデが平蔵に屋台の男を再現しての幻影を見せたようで、平蔵に心当たりはないものの、酷く動けないことに苛立ちを感じている平蔵。
「その男に関してですが、御神村殿がその男の後を尾けまして‥‥」
そう報告を始める誠志郎。
夜も更けた頃、ぶらりと帰り始めた男は先程鷲尾や石榴と交わした会話が有ってか妙に辺りを気にしている様子でしたが、ぐるりと役宅を回って様子を窺うと少し離れた場所へと、その足取りと裏腹に音を立てずに行く様はどこか不気味さを漂わせています。
「嫌ぁな歩き方をしやがる」
御神村が口の中で小さく呟くのも無理はないこと、細心の注意を払って後を追っているにもかかわらず、何度か見つかったか、と思うようなこともあり。
やがて男はほどほどの大きさの宿へ辿り着くと当たり前のように裏口から入っていき、御神村もその後を追うようにしてそっと忍び込めば、男は二階へと上がっていき、中の一間へ。
暫く様子を探ってみたところ、そこに暫く逗留していた様子で男が寝入るのを確認してから、あちこちを回り綾藤に戻ったそう。
「見たところ一人だったそうですが‥‥今はその連絡を元に男の身辺を何人かで張り付いています」
「だから安心して私たちに任せて休んでね」
言われる言葉に苦笑すると頷く平蔵。
そのころ綾藤では、石榴が夜間に出歩いていた分の代わりに休憩中、繋ぎなどで交代に綾藤に入っていたレヴィンが戻ってきていることを聞いてそっと部屋に入れば、幸せそうな表情でお休み中の石榴の姿が。
「‥‥」
思わず微笑を浮かべて見入っているレヴィンですが、自身も平蔵の看護や情報の整理などでお疲れのよう、いつの間にかうたた寝からふと目を覚ますと石榴が笑いながら膝枕。
「お疲れ様っ」
「石榴さんも、お疲れ様です。あまり無理をしてはいけませんよ?」
レヴィンと石榴の夫婦は笑みを交わすと互いの仕事の首尾を話し合うのでした。
●襲撃
男の宿が割れたことで張り付いて調べていくと、頻繁に酒場で食い詰め浪人たちを相手になにやら密談を繰り返しているよう。
なんと言っているかに確証が持てぬまま、再び屋台へとやってくる夜に。
「へ、この刀がありゃ幾らでも金は入るってもんさね」
「‥‥‥兄さん、金にゃあまり困ってやしないようですが‥‥その腕、ちょいと試したくはなりやせんか?」
屋台再び顔を合わせた男と酒を飲んでいる間に、例の男がにやりと不気味な笑いを浮かべて尋ねるのに興味をそそられたように見返す鷲尾。
「ここのお屋敷、そりゃあもう、剣の腕を取ったら、と言う男がいましてねぇ‥‥ちと病み上がりで手応えはないかも知れないですがね、生きてられたらいろいろと不都合なお人がいましてね」
首尾良くしとめればごっそりと大金もと金の入って居るであろう包みを見せると笑う男にそれは良いな、と乗る鷲尾。
と、その男がぎょっと驚愕した様子で鷲尾の背後を見るのに振り返れば、ぶらりと歩いてくる平蔵の姿が。
「っ!」
身体を引き気味に見ると、男は彼奴を斬っておくなさい、そう鷲尾に言います。
「‥‥任せろ」
にやりと笑って飛び出していく鷲尾に、男は金を放りぱっと屋台を出るとぴと短く口笛で合図を送り。
「巧く化けたな」
「本人のお墨付きっす」
鷲尾と伝助が目を見合わせて笑えば、そこに駆けつけてくる浪人達が。
「なるほどねぇ、鬼平を付け狙ってたって事か」
さも可笑しそうに笑う鷲尾。
と、そこに駆けつけるのは石榴から連絡を受けた誠志郎にリーゼ、そして役宅に戻ってきていたレヴィンです。
平蔵と見て斬りかかる男達ですが、腕の差は歴然。
瞬く間に斬り返され倒れる浪人達。
それを見て背中を向けて逃げ出す男ですが‥‥。
「おっと、逃がしゃしねえよ」
回り込んだ御神村に男は取り押さえられるのでした。
●男の正体
「上方を荒らし回っていた奴の手の者だったとはな」
誠志郎が呟くように言うと、リーゼや御神村の差し入れで体力が付きそうな者を昼食にとって居た平蔵が苦笑します。
「そこで怪我人である俺がそろそろ復帰するんじゃねえかと先に潰しに来た、江戸で仕事がしやすくなるようにってな」
「これから其の凶賊達が‥‥」
心配そうに眉を寄せるレヴィンですが、鷲尾が笑って口を開きます。
「まぁなんにせよ、そいつらに先手を打つことが出来たんだ、今回はそれで十分だな」
「おう、俺が二人なんて言う面白れぇもんも見られたしな」
同じく低く笑う平蔵に伝助は軽く頭を掻き。
「さてと、じゃあ平蔵さんも早く良くなって、そいつらに備えないとね」
リーゼの言葉に、平蔵は笑って頷くのでした。