趣運び

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月07日〜07月12日

リプレイ公開日:2006年07月18日

●オープニング

 その日、受付の青年が依頼の数々を確認して纏めているところに、ひょっこりと顔を出したのは、本当に小さいパラの少年。
「あれ? いらっしゃい」
「んむ、おしごとおねがいにきたなのね〜」
 にまっと笑って言うパラの少年に続いて姿を現したのは、あか抜けない様子ではありますが利発そうな少年で、ぺこりと頭を下げて迷う様子もなく入ってくるのは、過去にギルドを利用したことがある様子。
「実は、荷を運ぶお手伝いをお願いしたく思いまして、こちらに寄らせていただいたのです」
 少年は江戸の近郊、一日ほど行ったところにあるのんびりと穏やかな村、その村長の末息子でパラの少年はその村長さん宅でお手伝いしながら子供同様に可愛がって貰っている3兄弟の末っ子だそう。
「あのねあのね、兄ちゃと一緒にきたのね〜ちっちゃな桜の苗木とか言うのを一つ運ぶのね〜二人だけだと怖いのね〜」
 にこにこと言うパラの少年に感心したように見る受付の青年。
「君達二人で江戸に出てきたのかい?」
「はい、僕たち安全な昼間だけに移動しますし、途中休むところも江戸で止まるところも、父と懇意にしているところなのでそんなに危険ではないんですよ」
 比較的、と困ったように笑って付け足す少年、近頃大火の傷跡は大分癒えてきたとはいえ、人々の暮らしが戻るのにはまだ時間が掛かりそう、そのために街道はどうしてもまだまだ用心が必要とか。
「来るときは大丈夫だったのですけれど、荷を受け取ることになって、その中に苗木があることに気付きまして‥‥そこそこ頑丈な鉢に植えてありますしそこまで神経質にならなくても良いとは思うのですが‥‥」
 それでも、大八車に他の荷物ものっけて帰るとなった時に、周囲に注意があまり行かない気がしてきて心配になったとか。
 幸い、父親に必要になるかもと渡されているお金を考えれば、冒険者に付いてきて貰えた方が確実、そう判断して護衛を頼みに来たそう。
「それに、なかなか良い物らしいんですよ、その苗木。ですので、何かあってはやはり困りますし‥‥何とか、護衛を頼まれては貰えないでしょうか?」
 そういうと、二人はくいっと首を傾げながら受付の青年を見上げるのでした。

●今回の参加者

 ea0691 高川 恵(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9803 霧島 奏(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9952 チャイ・エンマ・ヤンギ(31歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0556 翠花 華緒(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2408 眞薙 京一朗(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5183 藺 崔那(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

天堂 朔耶(eb5534

●リプレイ本文

●長閑な陽気の中で
「んむ、ぽかぽかで気持ちいいなのね〜」
 大八車を村長の息子が牽き、その隣をちょこちょこと歩き出したパラの少年がんーっと伸びをすれば、翠花華緒(eb0556)は微笑を浮かべてパラの少年の頭を撫でて口を開きます。
「私達が付いてるし怖くないわ。心配しないで一緒に行きましょうね」
「うみゅ、ありがとうなのね♪」
 天堂 朔耶に見送られて街道へと出る一同は、大八車を守るように円陣で進んでいきます。
「まだ小さいのに江戸までお遣いなんてえらいな。あ、俺は加賀美祐基ってんだ。祐基でいいよ。よろしくな。そう言えば名前を聞いていなかったな?」
「おいら、ひのき。兄ちゃは惣七っていうのね〜」
 加賀美祐基(eb5402)が荷を乗せた馬の手綱を引き引き隣に並んで聞けば、にっこり笑って見上げるひのき、気がつけばちゃっかり加賀美の空いている方の手に掴まってご機嫌でてくてく。
「この早さだとどれぐらいに着くだろうか?」
「そうですね‥‥夕方に早い宿を取るか、夜中までかかりますが一気に進んで村に入ってしまうかですが‥‥」
 眞薙京一朗(eb2408)に聞かれて少し悩む様子の惣七、京一朗は少し考えるように聞きます。
「途中、父親と昵懇にしている者のところで泊まれるような場所はあるだろうか?」
「はい、父の古い友人が少し大きめの飯処をやっていて、遅くなったときなどはいつも泊めて貰っています。だいたい夕方近くには着きますので‥‥」
 惣七の言葉に頷く京一朗。
「良い物を運ぶっていうんなら、神経質になる気持ちはちょっぴり分かるなぁ」
「枝の色合いといい様子といい、さぞ立派で美しい木になるのでしょうね」
 藺崔那(eb5183)がしっかりと大八車に縄や毛布で固定してある苗木に目を向けて笑えば、高川恵(ea0691)も苗木の様子から大きくなった姿を思い浮かべて微笑を浮かべて頷きます。
 暫くは見晴らしの良い平坦な道を長閑に歩いて行き、昼にはいつも帰りに昼食をとるという、惣七の義姉の婚家である茶店でお蕎麦を頂き歩いていけば、やがて両脇に森の広がる道へと差し掛かり。
「‥‥おや‥‥」
 小さく呟き霧島奏(ea9803)がちらりと目だけで背後を窺えば、ひたりひたりと尾けてくる足音の主は見た目旅装束に身を包んではいるのですが、明らかに距離を保って此方を窺っているよう。
 同じ頃、天堂蒼紫(eb5401)も先行して付近を窺っていたのですが、森の先、小さな祠の後ろに4人程がだらだらと集まって酒を飲んでいたようでまだ天堂には気がついていません。
「なるほど‥‥」
 呟いて取って返す天堂、急ぎ合流して報告すれば、霧島も早速行動へと移り。
「何をしているのです?」
「っ!」
 尾けて来た男が荷と前を行く一行に気を取られている間に回り込んで笑みを浮かべて声をかける霧島、男はぎょっとして目を剥きますが、霧島はまるで前から居たかのように当たり前のこととばかりに歩み寄り。
「今のうちに諦めておいた方が良いですよ。何故なら‥‥」
 荷から風車を取り出す霧島に怪訝な表情を浮かべる男ですが、それを霧島が自らの手に突き立て、先が手の甲まで抜けてきているのに悲鳴を飲み込み一歩後退る男。
「見ての通り、僕は容赦を知らない人間です。こうはなりたくないでしょう?」
 言って一歩踏み出す霧島に真っ青になって駆け出す男。
 一同は青い顔で走ってくる男にさっと警戒を示しますが、男はそのまま駆け抜けていき、霧島は微笑を浮かべて手に持つ風車を、そして傷一つ無い手を一撫でしてくすりと笑うのでした。
 一行が再び歩き始め、天堂の報告した祠までやってくると、そこの裏では男達がなにやら揉めている様子。
「あいつらはやべぇ、手前ぇの手をこう突き通すような、ヤバイ奴が居るんだよ、本当にっ!」
「しっ‥‥いい加減にしやがれ、行きに二人だった餓鬼二人が雇う程度だ、金から言ってもたかが知れてら」
 祠の裏からわらわら出てくる4人の男、一人は青い顔して祠の後ろからびくびくと様子伺いに回るよう。
「さ、ふたりともこちらに‥‥」
「あの子達には近寄らせませんっ!」
 華緒がそう言って惣七とひのきを庇うようにして避けさせれば、恵が木剣で駆け寄った男を牽制。
 牽制をかわす男を崔那が素手で一発二発と見た目の姿と裏腹に重い連撃で殴り倒し、男は苦しそうに胸元を押さえて転がり。
 直ぐ側では馬を相棒の天堂へと預け、炎を纏った刀で斬りかかる男の刀を受け止め、直ぐに斬り返しを防ごうと引いた男の刀を半ばから断ち斬りにっと笑う加賀美。
 二人目を崔那がひっくり返した横では京一朗が無造作に振るう槍の塚を後頭部に受けて地へと突っ伏す破落戸の頭らしき男。
「ひっ‥‥あ、あわわ‥‥」
「だから早くに諦めなさいと言ったのですが」
「ひいぃっ!」
 祠の後ろでその様子を見ながら震える男に、後ろから声をかけた霧島、男は真っ青なままの顔でぺたんと座り込んで見上げるのでした。

●村でのおもてなし
 途中に休憩を挟み、一行が村へと着いたのは2日目のお昼前。
 過去に冒険者達が来たことがあるらしく冒険者に驚く様子はなく、直ぐに村長宅へとやってくれば村の中ではひときわ大きな家でゆっくり休んで行ってくださいと村長も笑いながら告げます。
「お、俺に任せておけって」
 大八車から荷を降ろすのを笑いながら手伝う加賀美に惣七もひのきも手分けし手荷物を降ろしていき。
 一通り荷の降ろしも終えると、ほっと一息休憩中。
 そこへ男達を役所に着き出し簡単な事情説明に足止めを受けていた天堂と京一朗も到着。
「あのあの、足を冷やすと気持ちいいのね、このお水、使うのね」
 ひのきの兄の一人が桶に一杯、井戸で汲みだした水を出せば、恵が氷をつくって幾つかの固まりを桶に入れてやる恵。
「よ、お疲れ」
「‥‥走り続けたからな、少しはゆっくりさせてもらうか」
「わかってるって。ほら、茶だ」
 縁側でのんびり過ごす時間、客間ではお茶の道具を確認して借りた華緒が茶を点て村長へ。
 村長も久々にお茶を楽しむそうでとても機嫌が良いよう。
「あのねあのね、白玉なのね、お砂糖と、あの姉ちゃに作って貰った氷を使ってあるのね〜」
 ひのきはえっちらとお盆にのせて持ってきた白玉を受け取る一同。
「食べてくれるなの?」
 小皿を受け取った霧島に首を傾げて見上げつつ聞くと、微笑のままに頷く霧島。
「意外ですか? こう笑顔で勧められては断れませんよ」
 元々好きですけど、と小さく付け足していう霧島に、ひのきは嬉しそうに笑って上機嫌にお菓子を運んで居るのでした。

●子供達との時間
「穴はこれぐらいで良いだろうか?」
「はい。で、ここに腐葉を入れて‥‥」
 子供達が河原近くの広場に穴を掘り始めたのは次の日の朝早く。
 京一朗や加賀美がお手伝いで穴掘りや腐葉土の蓄えてあった器を運ぶのに手を貸すと、運んできた苗木を植えるところとか。
 二人に手伝って貰うと準備も早く進み、苗木を支えて土で隙間を埋めていき‥‥。
「ふむ、皆が集まる場所に桜を、と言う訳か」
「はい、父は様子を見て徐々に木を増やしていこうと考えて居るみたいです」
 目を細め、木の位置を確認して言う京一朗に、惣七も頷いて笑みを零し。
「桜の苗木、綺麗な花が咲くといいな。咲いたらさ、その時は一緒に花見しような」
「うん、桜の季節には遊びに来るのね〜♪」
 パラの三兄弟が嬉しそうにきゃっきゃと笑って言えば、華緒がのんびりと歩いてきて。
「そろそろ朝食だそうよ。‥‥綺麗に移し換えることが出来たわね」
「うん、みんなで頑張ったのね」
 にこにことしたひのきと並んで苗木を見ていた華緒ですが、皆を促し朝ご飯へ。
「じつは、こんな物を持って来たんですよ」
「たくさん色があって綺麗なのね〜」
 恵が食後に取り出したのは絵双六に独楽。
 色とりどりの絵双六によく分からないままに一緒に始める遊戯の時間。
「天堂、見てみろ、賽の目が凄いことに‥‥」
「見事なまでに外れのコマにばかり止まるな」
 早速加わって大変な状況の加賀美をちゃかす天堂、恵と惣七が良い勝負、ひのえは華緒が隣で話を聞き構ってくれるのでなんだか幸せそうに賽を振っています。
「独楽はこうしてっと‥‥」
 崔那に回し方を聞いて何度も練習するパラの少年二人、一番上のお兄ちゃんが一番ちょっぴり不器用のよう。
「あっ、惜しいですね、後一歩でしたのに」
「ううん、賽の目が少し足りなかったですね」
 そして、楽しそうに遊ぶ子供達と恵。
 近くの川にみんなで出かけて、子供達に混じっての加賀美が思い切り真剣に頑張って魚を捕り、それを持って帰っては焼いて貰ったり。
 村は消して暑くないとは言えないのですが、風が通り日陰にいれば大分涼しく過ごしやすい時間。
 やがて、明日帰るという夕暮れ時。
「眠ってしまったようね」
 華緒がそう言って微笑むと、そこにはぴったりと寄り添って眠りこけているひのきの姿が。
「もう少し居るの、なんて‥‥思わずもう少しだけここにいても良い、なんて思ってしまいますね」
 明日には帰ることを聞いてぐずってしまったひのきを思い出してか微笑んで見る恵。
「またそのうち顔を見に遊びに来るのも良いかもしれないわね」
 泣き疲れて眠ってしまったのか、甘えるようにくっついて眠るひのきに、恵と華緒は穏やかにその寝顔を見ているのでした。