火が先か血が先か

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月12日〜07月17日

リプレイ公開日:2006年07月23日

●オープニング

 前日の夜に火事が起き、一軒の川縁の小屋が焼け落ちたのみで被害が治まったという事件が話に上がっていたとある初夏の日のことでした。
 怯えたように入ってきたその若い男性に軽く首を傾げながら見る受付の青年、席を勧めながら話を聞けば、真っ青に震えるばかりでなかなか口を開かなかった男性はぼろぼろ泣き出し、慌てる受付の青年。
「ど、どうしたんですか?」
「つ‥‥次は僕の‥‥次に殺されて焼かれるのは僕なんです」
 その怯え具合と言葉に昨夜の耳にした事件を思い出し眉を寄せる青年、小屋の焼け跡に、辛うじて人であったと思われる固まりが一つあったとか言われるその火事、それについて言っている様子なのですが。
 青年の聞いた話では今は既にない油問屋の持ち物だったというそこには、その小屋の所有権だなんだと、なにやら訳が分からないややこしい事情があるとかで残されたままになっていた油があったとか。
 そこに入り込んで暖を取っていた者の火の不始末により起きたものと聞いていたため首を傾げる青年ですが、男性の怯え具合にただの冗談とも思えなかったようで詳しい事情を促します。
「実は、その焼け死んだって言う人間は、先に殺されてあそこで‥‥あそこで焼か‥‥」
「殺されて焼かれた?」
 こっくりと頷く男性、宥め宥め話を聞くと、この男性と友人2人が仕事帰りに酒を飲んでご機嫌で歩いていたときに、変な男達と遭遇したそうです。
 ちらりと記憶の中にあるのは『〜に火を付ける』と言う言葉だそうで、興味本位に男達を追っかけた一人が、次の日川で溺れ死んでいたそう。
 これで殺された、と思って慌ててもう一人の友人の所へ行くと、敵を取ると飛び出していったその友人は結局、昨夜帰ってこなかったそう。
「そ、その男達が話していたのが、あの小屋の側で‥‥あ、あのとき僕たちはべろべろに酔っていたし、か、か、顔を隠すなんて考えるわけもないし‥‥」
 死にたくない、と卓に突っ伏しておいおい泣き出す男性に手拭いを差し出しながら口を開く受付の青年。
「酔っぱらっての溺死については、相当酒も飲んでいたし、転落したときに打ったと思われる打撲以外はなかったんですよね? それに、その、小屋の火事も殺されてかどうかははっきりしてないんじゃ‥‥」
「そんなっ、殺されたんですっ! だ、だだだって‥‥血‥‥血が‥‥」
「血?」
「あの小屋に、僕も行って‥‥あいつを止めようと‥‥」
 敵討ちより役所へ行こうと慌てて後を追った男性、小屋に火を付けた男達の着物に暗くてはっきりとは見えなかったが血が付いていた、そう言う男性に依頼書へと目を落とす受付の青年。
「人を殺して小屋ごと焼いたなら‥‥」
「前の二人も怪しまれずに殺されて‥‥次は僕‥‥僕なんですよ‥‥助けて‥‥」
 掠れた声で言う男性に、受付の青年は頷いて依頼書へと目を落とすと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4321 白井 蓮葉(30歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1807 湯田 直躬(59歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●怯え
「物騒な‥‥火を人殺しや証拠隠滅の手管に使われるのは気分が悪いですね」
「依頼人の方の話と、見たかもしれないという何か‥‥まさか、火付けのための油をあそこから盗み出していた?」
 ミカエル・テルセーロ(ea1674)が顔を顰めて言うと、九十九刹那(eb1044)が口元に手を当てつつ呟くように言うのに、白井蓮葉(ea4321)も眉を寄せると頷きます。
「復興支援祭りも近いというのに、一度悪化した治安というのは回復は難しいわね‥‥」
 そう言って蓮葉がちらりと目を向ける先には青い顔をして怯えたように目を彷徨わせている依頼人と、その依頼人を穏やかに宥めている湯田直躬(eb1807)の姿が。
「だからと言って市井の平和を脅かされていつまでも黙ってもいられないわよね。亡くなったご友人に安らかに眠って頂くためにも、犯人は絶対捕まえなきゃ」
 どこか決意を込めて言う蓮葉。
「大丈夫、少しずつ有ったことを整理していけば良いのだ」
 直躬が宥めてからその様子を窺えば、つっかえつっかえ事件当夜の話を始める青年、その日の夜は3人とも上機嫌で、前後不覚なほど呑んだとかでうろ覚えだったことや、普段ならばあの時間に絶対人の通らない通りであったことを話し項垂れます。
「普段だったら絶対にあんな場所に行かないのですが、あの日は本当に酔っていて、間違えて入っていったのにも気がつかなかったんです」
 震えながら話す青年。
「火事か‥‥厭な事を思い出させる。里が焼かれ、滅んだ時の事を‥‥」
「里が焼き滅ぼされ、私と貴由だけが生き残った‥‥」
 時永貴由(ea2702)と光月羽澄(ea2806)は火事に対しての思いで表情暗く話し合っています。
「依頼人の友人も最悪の状態でない事を祈るばかりね‥‥」
 知らされた訃報が実際にはその男性ではないと良いのに、そんな願望を込めた様子で羽澄は依頼人へと目を向けて呟くように言うのでした。

●嘆き
「はい、確かにあそこには上質の油をたっぷりと保管しておりまして‥‥」
 大変なことになって申し訳ない、そう頭を下げる商人。
 その小屋は施錠はしていた事とあの小屋が油を置かれていることを知っている者がごく一部でしかないこと、そして小屋の中の油の所有権から身内でいろいろとごたごたが起きてそのままになってしまっていたことを話す商人に、ミカエルは知っている人の心当たりを聞き。
「それぞれがそのことをどこかで漏らさない限り‥‥確実に自分たちではあの油や小屋に火を付けるとは思いませんが‥‥」
 どこか納得行かない様子で首を捻る商人に、念のために聞いて回っているのでと告げる直躬、それぞれが身内には話しているのでどう広がっているかは分かりませんが、と所有権を争う兄弟の居場所を伝える商人に礼を言って席を立つ二人。
「小屋の規模で、その中に一杯の油があったとしましたら大変な量が無くなったことになりますね」
 あちこちで聞き込みを続け、現場付近の人通りがありそうなあたりで小屋や油のことを聞きながら動く二人、商人の兄弟に話しを聞いて回っていると、弟の一人が一度だけ、どこかの茶屋で酒が入った勢いであそこに上質の油がいっぱいあるのに兄たちががめつくて指一本触れられない、と零したことがあるよう。
「そのとき、誰か聞いていた様子の人はいませんでしたか?」
「さてねぇ‥‥茶屋だからなんとも‥‥職人が2〜3人と町人がやはり2〜3人ぐらいじゃないかな」
「そのとき、何か気がついたことは‥‥」
「うーん‥‥ちょいとした町の茶屋だったんだが、そこの女がしつこく油のことを聞きたがってたなぁ。いつも来る色がちょっと江戸から出ていて留守で手が空いてたとか何とか、退屈でなんて言ってやがったが‥‥」
 男の言葉に直躬とミカエルは顔を見合わせてから尋ねるのでした。
「そのときのこと、もう少し詳しくお願いします」
 そのころ、依頼人の家では蓮葉と刹那が精一杯励ましているという光景が。
 先ほど直躬に宥められてから大分落ち着いてきたようで、蓮葉が買い求めてきた菓子などで一息つきながら友人達の昔のことを話してくれる依頼人。
「あれは確かにあいつでした。体格と言い‥‥奉行所でも小屋近くに仕事道具が落ちていたと言う話ですし‥‥」
 話していて落ち着いたのか、事件のことをポツリポツリ話し始める依頼人、ほぼ確実に友人であったことを告げる依頼人に蓮葉は頷きます。
「仇を取ると言って出ていったご友人の後を追った時は素面だったのよね?」
「はい、素面でしたし、多少酒が入っていたとしても、川に浮かんだという知らせを聞いた後なもんで‥‥」
 酔いもすっかり醒める、そう言って俯く依頼人に小屋に着くまでにかかった時間を考えて貰えばやはり予想通り短時間。
「でも‥‥腕が立つ者がいるか、集団だからか‥‥計画を聞かれるあたりは素人にも思えるけれど」
「それなんですが、その小屋の場所がどうも引っかかっているんです。話に聞いたところによると、少し入り組んだ路地の先で、しかも川沿いの道を隔てると通りはずっと塀で隔てられているんですよね?」
「はい‥‥僕たちも酔っ払ってそのまま道を間違え入り込んでしまいましたが、普段はわざわざあんなところを通りはしないんです。他の人達だってそうだと思います」
「‥‥普段は人通り、全く無いの?」
「ええ、遠回りになる上にあまり日当たりも良いと言えない場所ですし‥‥」
 近隣の者でも滅多に近寄らないと言われる場所らしいことを聞いて小さく溜息をつく蓮葉。
「では、だいぶ手慣れた者たちだって事ね」
「‥‥だと思います‥‥あいつは気性も激しいし腕っ節も強かったですし‥‥」
「貴方が見たところ何人ぐらいだった? 背格好とか、何でも良いの」
「7、8人ぐらいで‥‥浪人者らしきのが一人‥‥後は、みんな町人だったと‥‥」
 思い出すように目を彷徨わせて言う依頼人、暫く考えていましたが、少なくとも自分が見た人数はそれであることを告げるのでした。

●怒り
「これは‥‥酷い」
 僅かに唇を噛んで言うミカエル、情報を集める際にちらりとは見ていたのですが、焼け跡は酷いの一言。
「かなり燃えたらしいですからね、火の元がどの辺りかはちょっとわかりにくいかと‥‥」
 言う直躬に頷きながらも焼け落ちた中に近づいて覗き込んでみれば、そこには確かに割れた油壷のかけらやらが散乱していますが、見たところ小屋一杯にあったにしては少ない様子。
「確かに、建物の中心辺りが特に激しく燃えたみたいですね」
「さて‥‥こちらの方にも燃えの激しい場所があるのだが‥‥」
「え‥‥?」
 直躬に言われて表へ出て直美のいう川に面した辺りの地面を見れば、その辺りも特に激しく燃えたのか消し炭になって地面がそのままむき出しになっています。
「‥‥‥中だけじゃ全部燃え落ちる保証が無かったから‥‥」
 火をこのようなことに使われ辛そうに顔を歪めるミカエルの方をぽんぽんと軽く叩くと、直躬はミカエルを促し少し速い歩調で表通りへ。
 商家の建ち並ぶ大通りを通り、わざわざ人混みを選び通り抜けた直躬は、途中ギルドへと立ち寄り中へ入ると暫くギルドで外の様子を窺うのでした。
「あのすぐ下流は流れが速いからな、そりゃ突き落とされれば泳ぎが得意ではない酔っ払い、あっさりと沈むであろうが‥‥」
 検視をした医者のところへ貴由と羽澄が出向くと、丁度その医者には来客‥‥というよりも医者が医者に診られているというなんとも奇妙な状況に。
 怪我をしている医者に手当てをしていた狐医者を捕まえると、貴由は怪訝そうな表情で口を開きます。
「一体どうなっているのですか?」
「なに、あれは旧友でな、暴漢に襲われたところをたまたま威勢のいい奴らが通りかかって事なきを経たらしい」
 肩を竦めていう狐こと出原涼雲に眉をひそめる羽澄、涼雲は溜息一つつくと言うには、『死んだ男はわざわざ全身に油を被ってから火をつけたとしか考えられない。そんなことを果してするものだろうか』と近しい人間に話していたことを告げます。
「じゃあ、もしかして‥‥」
「可笑しい、と思ったことを彼方此方に言っていた為か、面倒に巻き込まれたようだな」
 肩を竦める涼雲、手酷く痛めつけられているのであまり無理をさせないようにとは注意を受けるものの話を聞くことができれば、いくつか不審な点に行き当たり。
「そうそう、ちょっと気になったのだけど、さっき言っていた酔っぱらいというのは?」
 羽澄に聞かれて肩を竦める涼雲。
「いや、二日続けて死人が出たと言うので万が一があってはと同心が聞きに来たらしいが、どうにも流れが急で深い辺りは身体をぶつけるような所はないらしいのだが、頭を打っている様な痣があったらしくてな」
 足を滑らせれば逸れもあり得るからそこまで可笑しいというわけでもないのだが、と付け加える涼雲。
「ただなぁ、足を踏み外してぶつけた場合とも少し違うように思えたのだが‥‥こう、平べったい物で殴りつけられたかのような‥‥」
 確証が持てない上に死んだときに泥酔していたことから酔っぱらって落ちて、と判断されたようで、少なくとも現状ではそれでも筋は通っているため新しい話が入ってこない限りはそのまま事故と判断されるであろうと言うこと。
「では、確たる証や怪しむべき話があればもう一度その件について洗い直しも?」
「あり得るな。そもそも下手人に裁きを下していないのならばその事件を躍起になって終わらせようなどと言うのはそうあるまい?」
 貴由が聞けば答える涼雲、二人は現状の事を涼雲に簡単に説明して見るのでした。

●救い
「現状で分かっていることを考えれば、この方を犯人捕縛まで改方で保護して貰うが良いかと」
 刹那がそう言うのには訳がありました。
 男達のおおよその潜伏先は、茶屋女の馴染みの客を貴由と羽澄が後を尾けおおよその見当は付いたのですが、大柄で血の気の多い大の男を簡単に片付けて手早く火をかけた様子から、無理に少人数で捕縛に走るのは危険と判断してのことです。
「目撃の証拠だけでは決定的ではないのでそれも出来なかったでしょうが、今は男達の潜伏先も‥‥ただ‥‥」
 そこまで言って少し硬い表情を浮かべる刹那。
「我々も既に彼らに居場所を知られてしまっている、と言うことだな。あちらは私たちに見つけられているとも思っていないだろうが」
 直躬の言葉に頷く刹那。
「奉行所へと言うよりは賊の一段らしいからな」
 貴由が言い依頼人へとそれを確認すれば、依頼人もそれを了承。
 直ぐに必要な物だけを包ませ見張りらしき男を叩き伏せて気を失わせて、急ぎ皆で警戒をしながら改方へと向かいます。
「あい分かった、その男の件、改方で責任を持って手がけよう」
 長官代理の彦坂昭衛に請け負って貰い、直ぐに腕利きの同心達が男達の潜伏先へと向かったのも、怪しまれる点と潜伏先、そして商人である依頼人自体を送り届けたからこそであったとか。
「その者達が思ったよりも大がかりな物であっては後々大変にもなろう。だが役宅に居れば必ず誰かしらが守ることとなる、暫くの辛抱であるが‥‥」
「いえ、私一人では証拠も何も、怪しい点すら出せずにただ怯えるだけでした。でも、友人達を殺した者達をこれで捕まえることが出来たら‥‥」
 そう言って言葉を詰まらせる依頼人。
 後日、ギルドへと報告をした潜伏先を押さえ、多量の油‥‥恐らく運び出されたであろう油の大多数と、二人の男を口封じに殺したという証言、また依頼人を万が一のために捜していた取った事を聞き出すことが出来たとか。
 『まだ全員を捕らえたというわけではないのですが、きっともう少しで全てに片が付くかと思われます。手助けいただき、本当に有り難うございました』
 ギルドへの報告の文には、最後に依頼人の字でそう添えてあったそうなのでした。