仇討ち指南

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月02日〜08月07日

リプレイ公開日:2004年08月10日

●オープニング

『仇討ち指南、募集いたします』
 一見何の変哲のない依頼でしたが、おかしな点が一つありました。
 助太刀ではなく、指南なのです。
 話を聞きに依頼人の宅へと尋ねていくと、年の頃16、7の楚々とした娘が出てきて、皆さんを依頼主の元へと案内してくれます。
 部屋で待っていたのはやり手の商人と言った風体の中年男性です。その部屋には、先ほど案内してくれた娘とよく似た、15、6の少年が脇に控えています。
「この2人、実は仇持ちでしてな。この姉弟の父親にはとてもお世話になったので、本懐を遂げさせてやりたいと思っております」
 そこまでいうとまるで実の子を自慢するかのように誇らしげに続けます。
「この2人、腕も立ち、当然武家の子ですから、礼儀作法から手習いまで、どこに出しても恥ずかしくない姉弟です。ただ‥‥」
 そう言うと、依頼主はちらりと姉弟へと目を向けて小さく息を付きます。
「如何せん、控えめすぎるのです、謙虚なのです。なので、自分たちの腕は素人に毛が生えた程度で、幾ら相手を負かしても『手加減なさるのですね』とこう、自分たちの力量を信じられぬようです。仇討ち相手など、大した腕ではないのですが‥‥」
 そう言うと、依頼主の視線に、姉弟は決まり悪げに目を落とします。
「試しにうちを警護してくれる先生にこの2人と立ち会わせてみましょう」
 そう言うと、依頼主は姉に庭に出るように促します。そこにはなかなかに風格のある浪人が立っています。互いに木刀で退治しますが、すぐに姉のほうに打ち掛かった浪人が宙を舞います。
「そんなに‥‥女の身だからと手加減なさらないで下さい‥‥」
 浪人の一撃を回避し掴んで投げ飛ばしてから、姉は悲しげに目を伏せます。肝心の浪人は目を回し、依頼主が別に雇っておいた様子の僧侶に手当をされています。
「ご覧の通りです。お願いします、数日間、この姉弟と手合わせをして、十分に実力があると言うことを、打ち倒して理解させていただきたく、平にお願い致します」
 そう言うと、依頼主は畳に頭を擦りつけんばかりに頭を下げるのでした。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0555 大空 昴(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3445 笠倉 榧(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3796 篝火 灯(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea3823 設楽 葵(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5209 神山 明人(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●お手並み拝見
「仇討ちですか? 一体どのような経緯で‥‥」
 そう姉弟に大空昴(ea0555)は聞いてみました。
「私達の父は、酒の席で起きたいざこざを止めようとして、逆恨みを受けまして‥‥」
 姉が困ったようにそう答えます。その時、計らずしも恥をかくことになった相手に恨みに思われ、殺されてしまったようです。家の再興と名誉のためにも、この仇討ちを果たさなければいけないと、弟は付け加えます。
「是非、私にも手伝いをさせてくださいっ!」
 昴の言葉に、嬉しそうに微笑む姉。
「仇討ちってのは悲しいことだが‥‥ま、俺に出来ることなら協力させてもらうぜ! ということで、今回の期間中は、俺のことを師匠と呼ぶように」
 半ば冗談半ば本気で嵐山虎彦(ea3269)がそう言うのに、姉弟は大まじめな様子で頷きます。
「はいっ! 宜しくお願いします、お師匠様っ!」
「‥‥もしも姉弟が俺たちよりも強かったらマズイよなぁ‥‥」
 嵐山がぼそっと付け加えた言葉は、どうやら姉弟には聞こえていなかった様子でした。
 篝火灯(ea3796)と設楽葵(ea3823)が一緒に姉の所へとやってくると、一つの提案をしました。
『この期間は仇討ちされる側になってもらい、遠慮なく襲わせて貰う』と言うことです。
「キミ、結構可愛いから‥‥もし、私があなたに勝ったら‥‥どうなっちゃうかわかんないよ☆」
 にっこりと笑いながら葵の言う言葉に、姉は驚いた様に目を瞬かせます。先ほども、神山明人(ea5209)に勝ったら少し付き合って貰う、と言われて驚いたばかりだからです。
 道場で、灯と葵、笠倉榧(ea3445)と嵐山が腕前披露のために、姉弟の前で手合わせをして見せることにしました。
 灯と葵では実力通り、灯のスマッシュをかわして葵が危なげなく勝ちます。
 榧と嵐山の勝負は、有る意味見物でした。勝負自体は一瞬で決まったのですが、周りと比べても、2人の腕は抜きん出ているようでした。
 榧のブラインドアタックに、その攻撃を見定めてカウンターアタックを入れる嵐山。
 その様子を、姉弟は食い入るように見ていました。

●師達の言葉
 その日、天螺月律吏(ea0085)は離れに誂えられた、道場になっている一室で姉弟2人の稽古を見ていました。この2人の腕で自身が対等に斬り合えば、恐らくそう持たないうちに倒される事は確実でした。
 技、そして打ち込まれるのを返すのに長けている姉に、速さと斬り込む一撃は、弟の方に軍配が上がりそうです。どうやら2人の様子に弟の方が組みしやすいと律吏は判断したようです。
 道場で律吏と対峙した弟は、少し緊張しているのか何度か深呼吸をしてから木刀を構えます。それを見てから、律吏は木刀を向け、一騎打ちは始まりました。踏み込む律吏にそれを受け流す弟。すぐに叩き付けるように律吏の木刀へとぴしゃりと打ち込むと、一歩を踏み込もうとして、はっと気がついたように咄嗟に身体を捻って脇へと転がり、身体を起こして木刀を、律吏の頭ぎりぎりで止めます。
「くっ、避けられたっ!?」
 あえて木刀を手放しオーラソードで喉元を狙った律吏でしたが、間一髪避けられ突きつけられた木刀に小さく息を吐くとゆっくりと立ち上がり、それに合わせて弟も木刀を引きます。
「謙虚は美徳なれど、お前達のは度を過ぎている。お前達は周囲の声を『謙虚』という美しい言葉を使い『否定』しているに過ぎない。つまり、お前達は誰一人信じてはいないのだ。いや、他人を侮っている――そう言ってもいいのかもな」
 手加減されたと思ったのか、表情を硬くする弟に、律吏はどこか諭す様子でそう言います。言われた言葉に、どこかはっとする弟。
「私の言葉を否定するなら信じてみろ、ここにいる我々を。それとも私達が嘘をつくとでも思っているのか?」
 律吏の言葉が堪えたのか、弟は戸惑ったように足元へと目を落としました。
 同日、日もまだ高い頃、姉は龍深城我斬(ea0031)と道場で対峙していました。
「‥‥さて、死合ってもらうぞ」
 そう言いながら真剣を向ける我斬に、姉は同じく刀を向けて対峙します。緊迫した時が流れます。姉がじりっと間合いを詰めるのに、我斬は姉の間合いへと入らないように距離を取りつつ隙を窺います。
 一瞬、その一瞬に我斬は素早く刀を抜きつつ下から掬い上げるように裏小手を狙います。取った、と思った瞬間、姉はぎりぎりでそれを避けるために後へと飛び退き、体勢を崩さぬよう左足で踏みとどまります。
「っ!?」
 姉の切り返しに、我斬はなんとか身を捻って避けました。腕が違いすぎる、刀を鞘に収めながら、一瞬だけ我斬の頭にその言葉が過ぎります。そこへ畳み掛けるように打ち込んでくる姉の攻撃をからくも避けながら、壁に背を向けないように、自然と道場内をぐるぐると回る形になりながら、何とか隙を窺う我斬。
 一瞬にかけてブラインドアタックを放った我斬でしたが、ぎりぎりでかわされた、と思った時には脇腹に激痛が走ります。
 急いで駆け寄る僧侶達に魔法で手当を受けながら、我斬は姉へ向けて口を開きます。
「俺は手加減などしてないぞ‥‥お前さんも武術の嗜みがあるならわかったはずだ、俺の殺気が」
「で、ですが‥‥」
「まあ、仇討ちなんぞするもしないもお前さんらの自由さ‥‥だが、その理由付けに試合った相手を侮辱するのはどうかね?」
「侮辱、ですか?」
「‥‥ああ、侮辱さ、全力で戦ったのに手加減されたなんて言われちゃあな」
 我斬が言う言葉に、考え込む様子を見せる姉。そんな姉の様子を、身体の手当を済ませた我斬は見つめていました。

●弟撃破
 庭にて木刀同士で昴は弟と対峙しました。序盤、昴は防戦に徹します。暫く避け続けながら動きにくそうな地点を探して辛くも持ちこたえながら誘導していく昴。
 今だ、そう思って弟の攻撃を返そうとした、その一瞬‥‥。
「えっ‥‥」
 目の前で自分の木刀が叩き折られ、ぴたっと目の前に木刀の剣先が止まります。木刀が引かれるのと同時に、がっくりと膝を付く昴。
「わ、私の今まではなんだったんでしょう‥‥」
「あ、あの、そ、そんなに落ち込まれずとも‥‥」
 おろおろとする弟。そんなところへ、ひょっこりとやってきた嵐山が、にやりと笑って軽く稽古用の棒を見せます。
「おう、次いいか?」
 そう言う嵐山に、とぼとぼと脇へと退く昴と、もちろんです、と道場へ促す弟。
 道場で弟と対峙して、嵐山は腕自体はほぼ互角であることを感じます。差が出るとすれば速さの勝負となるか力の勝負となるかと言ったところでしょう。
「はっ!」
「って、いきなりかよっ!?」
 斬りつける弟の一撃を棒で受け、次の瞬間棒が叩き折られるのに思わずそう口をつく嵐山。すぐに替えの棒を用意している所へ、昴が道場へと乗り込んできます。
「もう一度、手合わせお願いしますっ! 今度は2人でっ! ええ、卑怯だろうがなんだろうが勝てばっ!」
「2人って、俺かよ。まぁ、いいけどな」
 どこか吹っ切れた様子で言う昴に、頷いて新しい棒を手にする嵐山。
 2対1で対峙すると、弟は木刀を構え、じりっと昴へ間合いを詰めます。と、嵐山が弟へと打ち掛かり、それに反応して攻撃を避けに入った時でした。一瞬の隙をついて、昴が鋭い一撃で、弟の喉元へと木刀と打ち込み、寸でで止めます。
「‥‥参りました」
 一瞬の間の後、弟は木刀を降ろすと、どこか尊敬の念の込めた目で2人を見るのでした。

●夜の攻防
 ひっそりと屋敷中、もちろん離れも寝静まったような時刻、灯は足音を忍ばせて姉弟の休む一角へとやって来ていました。
「あんまり姑息な手は使いたくないけど‥‥」
 既に弟が撃破されたことは聞いていて、その肝心の弟は嵐山や昴と稽古に明け暮れている様子です。次は姉の番。そう思いながら部屋の前へとやって来た時でした。
「‥‥姉上、そろそろ交代の時刻です」
「んっ‥‥そうですか、では貴方は早く休みなさい」
「‥‥まさか、交替で見張って起きているの?」
 考えもしない結果に目を瞬かせる灯。
「誰っ!」
 小さく呟いた言葉に反応したのか、襖がぴしゃっと開けられるのに、咄嗟に灯はスマッシュを叩き込みます。が、それを咄嗟に防ぐように出された刀で凌がれるのに、灯は一目散にその場を後にしました。
 翌日、何事もなかったように弟は道場で稽古を付けて貰っていて、姉はというとなにやらじっと考え事をしているようでした。
 そして、夜が来ました。姉が湯浴みをしている時です。
「仇討ちっていうのは、相手の隙を狙って行うんだよ!」
 そう言いながら木刀一本で乗り込んで来たのは葵でした。葵の声に咄嗟に湯船から出た姉は、打ち掛かるのを交わしつつ、木刀を持つ手を掴みに入ります。
 次の瞬間、葵は床に尻餅をつく形で投げられていました。
「いてて、残念、本気でキミ打ち倒して好きにしちゃいたかったんだけどなぁ‥‥」
 そう言いながら木刀を手に出て行く葵。ほうっと息を付くと、姉は湯殿を出て浴衣を着ると、置いておいた木刀を手にゆっくりと庭を回ります。
「きゃっ!?」
 ふと何かに躓くと、そこへと襲いかかる手裏剣をなんとか踏みこたえながら木刀で受けた時でした。詰め寄られ、ぴたっと首筋に当てられる忍者刀に姉は木刀を取り落とします。
「勝負あったな」
 一番美味しいところを持って行きながら、神山はにやりと笑いました。

●月夜の宴
 最終日の夜、ささやかな宴席が設けられました。ささやか、と言うのが相応しいかは微妙な盛り上がりではありましたが。一際上機嫌で酒を飲んでいるのは嵐山で、その横で真っ赤な顔で周りにからかわれて暴れている弟の姿があります。
 ふと、庭へと目を転じると、神山並んで庭で杯を交わす姉の姿があります。
 そんな離れの様子を、月明かりは照らし続けていました。