恒例の夕涼みを‥‥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:07月23日〜07月28日

リプレイ公開日:2006年08月02日

●オープニング

 その日、異常なまでの暑さに少し疲れた様子の70を過ぎた老夫婦がやってきたとき、受付の青年は思わず笑みを浮かべて迎え入れました。
「お久し振りですね。もうそんな時期でしたか」
「はい、今年も色々とご厄介をお掛けしますが‥‥」
 そう人の良い顔に笑みを浮かべて言う老人に笑って頷く受付の青年。
 老夫婦はここのところ毎年、夕涼みに行くための護衛を雇って出かけていく、とても仲睦まじい方々です。
「今年はこの異常な暑さですし、少し早くに向こうへと言って、長逗留してこようかと思いましてな」
 じりじりと焼き付く暑さにすっかり参ってしまった様子の老夫婦。
「それにその、大きなお祭もあるとかで、ちょっと賑やかになりそうでしたのでの、私たちのような年寄りには、静かでのんびりした場所の方が落ち着く、そう思いましてな」
 そう言って傍らの老婦人へと微笑みかけると、こちらも穏やかな表情で頷きます。
「そう言ったこともありますし、老人2人の旅はやはり物騒ですので‥‥」
「分かりました、では、護衛の募集、かけておきますね」
 そう笑うと、受付の青年は手元の依頼書へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 ea1181 アキ・ルーンワース(27歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea2139 ルナ・フィリース(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea8209 クライドル・アシュレーン(28歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4902 ネム・シルファ(27歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb4994 空間 明衣(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ 佐上 瑞紀(ea2001)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ ユリア・ミフィーラル(ea6337)/ 神剣 咲舞(eb1566)/ 水上 流水(eb5521

●リプレイ本文

●長閑な旅路
「お久しぶりです、お元気でしたか? もうそんな時期なんですね」
「おお、ルナ殿も、元気そうで何より」
「本当にまぁ、お元気そうで‥‥危ないお仕事もあるでしょうから、心配していたのですよ」
 そんなふうに老夫婦と再会を喜び合うのはルナ・フィリース(ea2139)。
 去年・一昨年と老夫婦が夕涼みに行く時の護衛は既に3回目、すっかりと顔馴染みとなっているようで、老夫婦も孫が来てくれたかのように嬉しげです。
「祭りの間人が増えるのは‥‥苦手な人は、苦手だよね。町の為には良い、んだろうけど」
 小さく呟いてアキ・ルーンワース(ea1181)は老夫婦へと目を向けて。
「誰にとっても良い、事を選ぶのは難しいから‥‥避けて避暑に出向く事が、お爺さん達にとっては、自分達の為の小さなお祭りなのかもね」
 俺も人混みから離れられるのは嬉しいかな、と小さく呟いて息を吐くと荷物の最終確認を始めるアキ。
「夫婦水入らずで避暑地へ、な」
 その直ぐ側でモードレッド・サージェイ(ea7310)は老夫婦がルナと楽しげに語らう様子を見ながらぼそり。
「‥‥そういう老後の過ごし方ってのも、いいもんなのかもなぁ」
「本当に。ステキなご夫妻ですね‥‥こんなふうに結婚して年を重ねられたらいいなぁ」
 モードレッドの呟きが聞こえたか、ネム・シルファ(eb4902)がその幸せそうな穏やかな老夫婦を見てほんの少し、羨ましいような響きを滲ませ言うと笑うモードレッド。
「ま、先のこったろうが、それを目指すのも良いんじゃねぇか?」
「そうですね、あのお二人みたいになれる秘訣を是非聞かせてもらいませんと」
 笑って依頼人たちのほうへと歩み寄るネム。
「夕涼みでございまするか。さすれば旅路も快適なものにする必要がございますな」
「か、河童さん、ですか‥‥?」
 磯城弥魁厳(eb5249)も歩み寄って挨拶をし言うと、馴染みが無いためか少し驚いた様子の老婦人。
「左様でございまする。此度はわしも護衛に加わらせていただいてございまして」
「そろそろ出発しましょう、足が少し悪いとの事なので、やはり馬に乗っていただくのが良いでしょうね」
 クライドル・アシュレーン(ea8209)がそう言えば、空間明衣(eb4994)も愛馬の手綱を取り首を撫でながら近づいてきます。
「私の馬も準備は出来ている」
 そこで聞いたところ、依頼人は元々武士で隠居したとのことで馬は問題ないとのこと。
 明衣の馬に依頼人が乗り、老婦人はクライドルの前に乗せて貰い出発することに。
「早く着けばのんびり夕涼みと洒落込めそうね」
 そう笑って御陰桜(eb4757)は草履の紐をきっちりと結わえ直すのでした。
 良く晴れた青空の下を馬や特別な草履などで普通に歩くよりもずっと早く道を行く一行ですが、その会話はあくまでのんびりと、行った先の村のことなど。
「井戸の水も良いけれど、村に流れる美味しい水の川があるのですよ。この時期には冷たい水で、笊にお豆腐などを置いて流水で冷やしたり‥‥」
「凄く美味しそうだね、楽しみだ」
 老婦人の話に笑って頷きながら愛馬のはみに手をかけ笑い、のんびりとした様子で一行は進んでいくのでした。

●撃退
 長閑な道行きの中、モードレッド、魁厳と同じく先行するのはネム。
 さぁっと吹く気持ちの良い風の中、大凧の中で風を受けながらの旅路は思いの外心地よく。
「風があるだけで違うんだね」
 目を細めて呟くネムの直ぐ横で梟のクルーガーが鋭く鳴くと、視界の先になにやら豆粒のような物がわらわら動き回っているのが入り、首を傾げるネム。
「あれって‥‥」
 はっきりとは分からないのですが、どうも人が数人で動いているよう。
「どうされました?」
「先の方に、何か人らしき物が動いているんです」
 魁厳の元へと凧を降ろして伝えると、モードレッドと前後を見つつ老夫婦の相手をしていたアキも歩み寄り。
 直ぐに状況に気がついたルナが直ぐに馬で駆け寄り状況を確認すると、ネムは直ぐにそれ以外に怪しいことはないかと大凧で空へ、4人は老夫婦の警護をアキ、クライドル、桜、明衣の4人へと任せて前へと向かいます。
 道の先、村と江戸の道では僅かに江戸よりの道脇にある林、、木々が少しせり出してなだらかな道に影を落としているその地点にいることを道のこちら側から伺って溜息を作るルナ。
「またあそこを‥‥昨年も同じ場所を使って居たのですが‥‥」
「この炎天下の中、人目が無くなる場所で獲物を張れるなんてなあそこぐらいだろ?」
 モードレッドが言うと、それぞれが目配せをしてそれぞればらばらに別れました。
「そろそろ来るはずですぜ」
 身軽な旅支度の男が、だらだらと草むらに転がって道を見ていた5人の男達に声をかけるともそもそと起き出す男達、とそこへ。
「暑い最中にごくろーさん。‥‥‥選ばせてやるよ」
 素早く寄ったモードレットが道側真正面から言えば、その隣でルナはスピアを突きつけるようにきっと毅然とした表情で見ています。
「このまま大人しく穴倉に帰るか、ぶちのめされて炎天下に転がるのと、どっちが好みだ?」
「相手が違うとも、今年も追い剥ぎに容赦はしませんよ」
「あぁ? 何言っていやがる、こいつらは」
「例の爺婆の護衛らしき奴らですよ」
 どうやら江戸を出る辺りで目を付けられていたらしい老婦人と一行ですが、江戸を出た後の動きまでは見られていなかったようで、不意を突かれたように慌てて身体を起こしながら声を上げる男達に旅装束の男。
「護衛だと? 引っ込んでろ」
「問答無用です。こうなったら追い剥ぎは徹底的に殲滅させますよ」
「たった2人で何寝ぼけてやがる、畳んじまえっ!」
 旅装束の男が止める間もなく刀を抜いて斬り掛かろうとする男達ですが‥‥。
「ぐはっ!?」
 背後から忍び寄る魁厳に気が付かなかったよう、1人が声を上げ昏倒すれば、クルスソードを振るい問答無用に叩き伏せるモードレッドに勢い良く突っ込んでスピアで破落戸を吹き飛ばすルナ。
「もう暫くこちらでのんびり待っていよう。折角の旅に醜いものは見ない方が良いからな」
 その言葉通り、旅装束の男が這々の体で老夫婦の方へと駆けてくる以外はあっさりと追い散らされ、旅装束の男もおっかなびっくりに匕首を握るのに、あっさりとクレイドルに剣で払われるとそれを取り落とし。
「私が立っている限りは危害を加えさせはしませんよ」
 はっきりきっぱりというクレイドルの言葉に降参した男。
「動けるものは怪我人を抱えて去れ。追い剥ぎする体力があるなら江戸に行けば良い。あそこは祭りで人手が多いから仕事はあると思うぞ」
「‥‥へ、目こぼしいただけるので?」
「折角の旅に無駄な水を差されたくもない」
 言って食料を分けてやろうとしますが、たいした距離でもないと慌てて断り、まるで逃げるかのように江戸の方へと駆けていく男達。
 ちょっぴり蹴散らしたモードレッドに対して怯えていたように見えたのは気のせいかも知れません。
「さて、そろそろ進みましょうか。もう少し先に木陰でのんびり休める茶屋がありましたよ」
 そう言って促すアキに、一行は再びのんびりとした旅を再開するのでした。

●長閑な村での日々
「ここは‥‥静かで良いところですね」
 老婦人の別荘へとやって来たのは夕焼け空も美しい頃合い。
 屋敷の管理を任されていた村人があらかた掃除も済ませてあり、荷を置いてのんびりと歩いたり馬に乗っての疲れを癒す一行。
「お疲れ様、ですね」
 そう言って厩に馬と驢馬を入れると藁で首筋や腿などを擦ってやると嬉しそうに鼻を鳴らし、クレイドルに擦り寄る二頭。
 厩に差し込む茜色は、次第に紺へと移り変わり、クレイドルは馬たちの首筋をもう一度撫でると口元に微かに笑みを浮かべて屋敷へと戻っていくのでした。
「もうすっかり昔のことですでな、忘れてしまいましたわ」
「またまた、そんなこと言って〜」
 次の日、木々に囲まれよく晴れた日差しの中でも涼やかな風が心地良い、そんな屋敷の縁側では紫陽花の浴衣に着替えた桜が老夫婦を相手に興味津々と言った様子で話を聞いていました。
「毎年仲良く夕涼みに行くくらいだから大恋愛だったのかしらね?」
「いやいや、どうにも‥‥」
 すっかりと忘れた振りをする依頼人に桜が老婦人を見れば、老婦人は穏やかな笑みを浮かべて見つめていたり。
「‥‥‥」
 ルナもどこか興味深そうに二人を見比べれば、目が合った老婦人はどこかいたずらっぽそうな目を依頼人へと向ければ、どこか照れたようにさてと、などと言いながら立ち上がる依頼人。
「微かに水音が聞こえてきますな」
 のんびりと村を見て回っていた魁厳が依頼人に言えば、笑って頷くとひょいひょいと先に立って歩く依頼人。
「この小川は村の自慢でしてな、もう少し上へと上っていけば、清水が滾々と湧き出ていましてな」
「ほう‥‥」
 感心したように息を漏らすと川原へと降りて水に手を浸して目を細めます。
「もう少し下流に行けば、この時期子供たちが泳ぐこともございましてな」
「ふぅむ、それは良うございまするなぁ」
 魁厳は依頼人におおよその場所を教わると川に沿って下流へと下っていくのでした。
「あ、依頼人さん」
「おお、ネム殿?」
 依頼人が歩いていくと、鼻歌を歌いながら屋敷を管理していた村人の家の土間に入ったりでたりしているネムに気がついて首を傾げる依頼人。
「宜しければ、お昼には私の国のお料理をご馳走しますね」
 どうやら村人たちの希望に沿って色々と演奏をしたりしていたネム、気がつけば老夫婦のために用意されていた色々な材料を前に振る舞い料理好きの血が騒いだか、どの材料がどれの代わりになるか、それを考えるのもまた楽しいようで。
「左様ですか、それはそれは楽しみですなぁ」
 その様子が微笑ましかったのか笑みを浮かべて頷く依頼人。
「はいっ、腕によりをかけて作りますね♪」
 ネムが鼻歌を歌いつつ作業に戻るのを見て、どこか楽しげに依頼人は散策に戻るのでした。
 一方、木陰で木に寄りかかりながらのんびりだらりと気楽に休憩中なのはモードレッド。
 モードレッドの手には大徳利、口にきゅと押し込まれた蓋の内側には村で毎年作る梅酒がたっぷり、手間隙かけた梅酒はどうしてなかなか、馬鹿に出来たものではない旨さがあります。
「長閑な村だな。たまにはこういうのも良いかも知れねぇな」
「酒も旨いしのんびりと骨休め、か?」
 笑って声をかけてくる明衣の手にも徳利が。
 丁度旨い梅酒があると聞いて貰って来たところのようで、夕涼みに呑むのが楽しみだと笑う明衣。
 木陰で暫く二人黙ってのんびり。
 二人の視界には馬と驢馬を引いて小川に向かい、世話をするクレイドルの姿があり、なんとなしに目で追ってみたり。
「なーんか、ほんとに時間が止まるってぇのがぴったり来る村だな‥‥」
「長くいたら退屈なのかもしれないが、たまになら良い」
 明衣が言うのに、違いない、とモードレットは笑って徳利の口をあけてくいと一口飲むのでした。
「‥‥静かで良い村だね‥‥」
 散歩から帰ってきて、女性陣が楽しげに語らっているのを見てちょっと離れて縁側に腰を下ろした依頼人に、アキは小さく言いながら依頼人の側へと腰を下ろします。
「年寄りには、祭りの賑やかさはいささか刺激が強すぎましてな」
「ん‥‥俺も、人混みとか賑やかなところは苦手、だから‥‥‥」
 呟くように言うアキに、目を細める依頼人。
「ああいった楽しむものは、苦手ならば無理に参加をする必要はありませんからな。少しでもアキ殿がこの村を気に入ってくれれば嬉しいですなぁ」
「ん‥‥良い所だと思う、嫌いじゃない‥‥」
 アキの言葉に、依頼人はそれは良かった、と嬉しそうに微笑を浮かべて言うと、二人はのんびりと用意されたお茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごすのでした。

●穏やかな夕涼みを
 のんびりと穏やかな時間は、その驚くほどのゆったりした時からは信じられないほどに瞬く間に過ぎ去って。
 辺りが徐々に茜色に染まり、その燃えるような空の中をのんびりと歩く老夫婦の、そしてまるで孫のように2人に挟まれて時折言葉を交わしながら歩くルナの姿が。
 明日になれば老夫婦は暫くこの村に滞在し、一行は帰りの行程につくことになります。
 ルナは去年も一昨年も、一緒に来て、江戸に一緒に帰っていたのもあり、お互いに離れ難いのかもしれません。
「‥‥仕事の後で良い風景を眺めつつの酒は至福だな」
 明衣は全てが茜色に染まったそんな風景を眺めつつ、酒で満たされた杯を傾け呟くのでした。