比良屋のお祭り

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2006年08月13日

●オープニング

「いやはや、一番お祭りで盛り上がる時期に、その商売の方がちょっと忙しくなりましてねぇ‥‥」
 そう困ったように額の汗を手拭いで拭うのは比良屋主人。
 比良屋主人がお供の荘吉と共に顔を出したのは、暑さがじっとりと纏わりつく、そんな夏のある日のことでした。
「お祭りというと、復興祭ですか?」
「ええ、お蔭様で商売繁盛ではあるのですが、少々、こう‥‥」
「素直にお雪をお祭りに連れて行く約束をしたのをうっかりすっぽかして拗ねられていると言った方が良いかと思うのですが」
「あらら、その年頃の子供は約束を破られるととても傷つきますからねぇ」
「う、うううう‥‥お昼前に終わる仕事が長引いてずれ込んでしまったんですよ‥‥」
「前日にきちんと確認の文を送った方が良いと言ったはずですけどね」
「うぐ‥‥」
 いつも以上にずけずけと丁稚の少年・荘吉に言われて気がつけばギルドの隅っこでのの字の比良屋主人、そんな主人を放っておいて息をつくと続ける荘吉。
「まぁ、そんな訳でお雪がすっかりと拗ねてしまいまして。なのでお祭りに連れ出して、機嫌を直して貰って欲しい、との事なんですが‥‥」
 そこまで荘吉が言うと、なんとなく受付の青年と顔を見合わせて小さく苦笑する二人。
「でも、それって比良屋さんが一緒にお祭りに行ってあげるのがたぶん‥‥」
「そうなんですけどね、旦那様間が悪いから、お祭りに連れ出せそうな機会をうっかり潰して一緒にお出かけして貰えないんですよ、お雪に」
「あらら‥‥」
 事情を聞いてますます苦笑するしかない受付の青年。
「では、依頼は‥‥」
「はい、お雪と一緒にまだお祭りのやっている辺りに連れて行って機嫌を取って、旦那様にもう一度お雪とお祭りに行く機会を作ってやって欲しいと」
「‥‥‥お膳立てしてまた失敗したら?」
「それは旦那様の自業自得ですから気にしなくて良いです」
 依頼書を纏めながら、ふと気になったことを受付の青年が荘吉に尋ねると、荘吉はきっぱりと言い放つのでした。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

エレオノール・ブラキリア(ea0221)/ 七神 斗織(ea3225)/ 白井 蓮葉(ea4321)/ 以心 伝助(ea4744)/ クリス・ウェルロッド(ea5708)/ 九十九 刹那(eb1044)/ 天馬 巧哉(eb1821

●リプレイ本文

●お手伝い
「仕事が忙しくて子供との約束を反故に、か‥‥まあ、子供にそこの所の苦労を理解しろというのも難しいだろうしなあ」
 苦笑しながら言うのは龍深城我斬(ea0031)。
 季節の移り変わりに体調を崩す人たちや、暑さで怪我などの症状が悪化して薬を必要とする人が多かったからか、薬種問屋の比良屋は医者や何とか高価な薬を分けて貰いたいという人で大変忙しかったよう。
 漸く一段落付いたのか荘吉が淹れたお茶でほっと一息つく比良屋、と思いきや。
「うううう‥‥何で肝心の時に私は‥‥あうあう〜」
「いや、まぁ、とりあえずご主人殿も落ち着こう、うん」
 お茶を前に頭を抱えてがっくり、どうも仕事と休憩で頭を切り換えた途端がっくりする比良屋主人に菊川響(ea0639)も参ったなとばかりに苦笑して宥めます。
「お客さんや取引先との交渉術もお雪殿に機嫌直してもらうには効かないか」
「ほら何時までもしょげてないでしゃっきりしなしゃっきり」
 菊川と我斬に宥められたり発破をかけられたり、うじゅっと30過ぎの比良屋主人が見るのは微妙な光景ですが、何とか少しは落ち着いたよう。
「さ、なんとか時間を作るために俺たちも手伝うから頑張るぞ」
「さ、ご主人殿」
「は、はい、頑張ります‥‥」
 まだどこか挙動不審者とかしている比良屋は、二人に励まされて立ち上がるのでした。
「約束を破るのは良くないでござる。子供ゆえ余計に、でござるの」
 そう言いながら反物問屋の持ってきた反物を手に取るのは沖鷹又三郎(ea5927)。
 御店の内部のお手伝いもあらかた終わって、子供達も浴衣を縫うために御店で働くお弓に聞いて呼んで貰った馴染みの反物問屋は、快くいろいろな反物を背負って顔を出したよう。
「そういえば、昔似たような事があったっけ‥‥収穫祭に行く約束を養父さんが忘れて、珍しくエスナが拗ねちゃって‥‥」
 懐かしそうに目を細めて青い反物を見るケイン・クロード(eb0062)に、エスナ殿が、と沖鷹も可愛らしい雪だるまが染め付けられた桃色の物を手に取りながら軽く首を傾げ。
「養父さん、2、3日、口もきいてもらえなかったんだよね」
「気持ちは分かるでござるな」
 思い出して苦笑するケインに手荷物反物を選り分けて、藍色の物に手を伸ばす沖鷹、浴衣に良い生地がそれぞれ見つかったようで頭を下げて帰って行く反物問屋を見送ると、そこにお弓と沖鷹の手伝いに来ていた天馬巧哉が。
「祭りはまだ暫くやって居るみたいだな」
「刹那殿が調べたり聞いたところでは、比良屋殿は三日後には何とか時間を作ると言っていたでござる」
「じゃあ頑張って早く上げないとね」
 天馬と九十九刹那の報告に沖鷹とケインは、お弓に子供達の採寸の結果を聞いて手分けして浴衣を作り始め。
 その夜は、二人のいる部屋の明かりは消えないのでした。
「何、俺も子ども達の笑顔が見たいしね?」
 言って台帳に向かいながら筆を走らせるのは風斬乱(ea7394)。
「そのためには、あんたが必要なのさ」
 にやっと笑ってみせる風斬に申し訳なさそうに頭に手を当てながら礼を言う比良屋。
 前もって荘吉に聞いていたお陰か、あまり迷うこともなく台帳に整理して書き込んでいく風斬、肩を落としながら仕入れた薬を選り分けるのを見て苦笑。
「旦那、そう気を落すな。手伝ってやるゆえ、仲直りは自分からまた申し出るのだよ?」
「は、はぁ、分かっているのですが、怒って聞いてもくれないので‥‥」
「何、お雪もただ拗ねているだけだろうよ」
「うう、面目ない」
 そう言って、比良屋は風斬と手分けして卓の周りの仕事を片付けていくのでした。
 そしてお祭りに行くことを相談して決めた日、帳簿を書き込んでいた風斬はいくつもの箱を整理して並べ替えている装置に気がついて声をかけます。
「どうした、もうそろそろ皆祭りで出かける時刻だろう?」
「僕も後から合流するので大丈夫ですよ」
 そう言って最後に残っていた箱を棚へと入れる荘吉に、風斬は帳簿から顔を上げて口を開きます。
「荘吉、お前も今は店のことを忘れて祭りを楽しんで来るといい」
「いえ、でも‥‥」
「お前の分の浴衣も作って貰ったんだろう? いつも旦那を支えている分、今日は旦那に甘えさせて貰えよ。お前はいつも頑張り過ぎる」
 にやりと笑う風斬に、ふうと一息吐くと笑って頷く荘吉。
「そうですね、たまには‥‥」
「ああ、楽しんでこい」
 そう笑って、風斬は立ち上がって部屋を出て行く荘吉を見送るのでした。

●浴衣でお出かけ
「‥‥あぁ‥‥いや、『お化け屋敷風金魚すくい』‥‥金魚すくい‥‥は、出来れば止めておいたほうがいいか」
 祭りの人混みの中、遠巻きにと言うか少し離れたところで見物している人たちの方を見て言うのは九十九嵐童(ea3220)。
 嵐童は知人がそちらに行っているのか、かなり危険な出し物であることを知っているようで、ただの金魚すくいではないことを話しながら、お祭りの中を歩いていきます。
「報告書で見た限りでは、あの親父の出し物は色んな意味で濃すぎる」
 折角浴衣を作ったのだから、とぐずるお雪に浴衣を着せて、飛麗華(eb2545)が手を引いて、嵐童と沖鷹、嵐山虎彦(ea3269)が引率しながらのお祭り。
 嵐童の言葉にきょとんと首を傾げるお雪、清之輔も不思議そうな顔で見るのに笑いつつ、小屋が去年壊れた様子を説明する嵐童に清之輔も笑い荘吉は想像付くのか頷いていたり。
「射的ぐらいだったらみんなできるかね」
「それは良いでござるな」
 嵐山が言ってみれば、的が掲げられ弓を持った女性が笑いながら手招きをしています。
「ゆき、みえない‥‥」
「台を用意する?」
「いや、俺がこう抱えればっと‥‥」
「なんだか拐かしみたいな絵面だな」
「ほっとけ」
 ひょいと抱え上げて自身の屈んだ膝にお雪を立たせた嵐山に、焼いた餅の串を荘吉と並んで囓っていた嵐童がさらりと突っ込み。
「あのね、とばないの‥‥」
「ここをしっかりと握ってください。それでまっすぐ‥‥」
「いや、少しだけ上へ向けた方が良いな」
 お雪が困ったように眉を寄せれば麗華がお雪の握る弓に手を添え、つがえた矢を軽く指で上へと向けさせれば、むと眉を寄せてたどたどしくも矢を放つお雪。
 ぽて。
 小さな音を立てて真ん中へと当たってから落ちる矢、ちゃんと放てた弓ににこと嬉しそうに笑うお雪に、笑みを浮かべる荘吉と清之輔。
「ぼ、ぼくも‥‥」
 清之輔がおずおずと言えば沖鷹が屋台の女性から弓を受け取り、用意された台に乗ってから弓を受け取る清之輔に、嵐童と麗華が一言二言助言を入れ。
 覚えが良いのか思ったよりも巧く的に矢が刺さるたびにわっと盛り上がる一行、どうにも弓は苦手の様子の荘吉ときゃっきゃと笑い声を上げるお雪、そんな時間を一同は楽しむのでした。

●頑張れ旦那様
「だ‥‥だ、大丈夫ですかね?」
 ケインと沖鷹に作って貰った青い浴衣を着て、どこかおどおどとした様子の比良屋に、溜息を吐くと苦笑する菊川。
「ご主人殿もお雪殿や皆とのお祭、当然楽しみにしてらしたのだろう? 今年のお祭、復興祭なんてもうこれっきり、そのはずだよな」
「そ、そりゃあ当然ですよ、忙しくなって約束を忘れてしまう直前まで、私も楽しみで楽しみで‥‥でも‥‥」
 忙しくても約束は約束で、としょんぼり肩を落とす比良屋。
「興支援の最中に偶然会って、一緒に働いた家族でやっとお祝いできるんじゃないのか? 諦めちゃったらもったいない。許してもらいに行かなきゃ、そして一緒に祭、楽しんできて欲しいな」
「ほら、うだうだ言っていないで行くぞ」
「さ、旦那さん、行きますよ」
 菊川がにっと笑うと、我斬とケインがぐっと比良屋の腕を取って引っ張り出し、男4人で祭りへと。
 そろそろ日も落ち、あちこちで灯りの入れた提灯がぶら下がり、夕闇の中に暖かな光が広がる中、お祭りへと出てきた子供達と一行は一緒に卓へ腰を下ろしていました。
 どこか眉を寄せた様子のお雪に、沖鷹は屈んで目の位置を遭わせると口を開きます。
「比良屋殿はお二人とお祭りに行けなくて悲しがっているでござる。もちろん、荘吉殿ともでござる」
 口をへの字に曲げるお雪の頭を撫でて口を開く嵐童。
「まぁ‥‥許せないってのも分かるし、今回のは旦那が全面的に悪いんだが‥‥旦那にもう1回だけ、チャンスをやっちゃくれないかな? ダメかい?」
「ちゃんす?」
「あぁ、もう一度、機会を与えてあげてくれないかと」
「ん‥‥」
 目を落とすお雪の様子を、清之輔ははらはらとした様子で見ていたり。
「あ、旦那様」
 不意に上げた荘吉の声に顔を上げると、見れば引っ張ってこられた比良屋の姿が。
「さ、しっかりお雪ちゃんと向かい合って、ちゃんと気持ちを確認してあげないといけませんよ。‥‥もちろん、忘れた事への謝罪もですよ」
「あとは子供達と当人同士、上手くやるんだな」
「は、はい‥‥」
 ケインと我斬の励ましと叱咤にゆっくりとお雪の前へと歩いていく比良屋。
「‥‥そ、その、お雪、本当にごめんなさい。楽しみにしていたことも、良く、分かっていたのに‥‥」
 屈んで言っておずおずと差し出す小さな木彫りの帯飾りに、むうとむくれていたお雪は小さく首を傾げ。
「ねこさん‥‥?」
「ああ、嵐山さんに教わって、作ってみたのだけど‥‥お雪はネコさんが大好きだから‥‥」
 そう言ってお雪を伺う比良屋に、お雪はみるみる目に涙を溜め、次の瞬間にはわんわん泣き始め。
 一緒に行けなくてどんなに悲しかったと泣くお雪を宥め、泣き笑いで木彫りの猫を受け取るお雪の許しを得て、漸くだっこをして清之輔達の待つとこへと戻る比良屋。
 清之輔や荘吉にちょっぴりからかわれ気味でわたわたする比良屋を、風斬は後ろから見て面白そうに笑みを浮かべるのでした。

●みんなで楽しいお祭を
 全員合流して、ぞろぞろと練り歩くお祭りの道。
「ここの蕎麦はとても美味いでござるよ」
 そう言って屋台へと顔を出して蕎麦を頼めば、盛り蕎麦をちょんと先っぽだけを付けてずるりと啜る嵐山に、先に蕎麦湯でつゆを薄めて食べる荘吉、だっぷりつゆに蕎麦をしっかりつけて食べる比良屋。
「おじちゃん、あじ、する?」
「おお、こいつが江戸っ子の食い方よ」
「粋な食い方ではあるが、出汁の味はほとんどしないな」
 お雪が聞くのに豪快に嵐山が笑えば嵐童が蕎麦を啜りつつさりげにつっこみを入れてみたり。
 清之輔はそれぞれの方法を真似て自分にあった食べ方を模索中であったり。
「あっちの方でなにやら踊っているらしいな」
「お雪殿も比良屋殿も、行ってみても良いんじゃないかな?」
 我斬が賑やかな辺りに気がついて言えば、菊川もそれを勧めたり。
 お祭りで集まって踊ってわいわい楽しそうに騒ぐ子供達と比良屋を、我斬や沖鷹、菊川それにケインは屋台に腰を下ろして見ています。
 ケインはお雪へと預かった人形へと目を落とすと小さく溜息。
「今回はこれを渡しておくのはやめた方が良いかな」
 言ってそっと荷物へと人形を仕舞うと比良屋と子供達へと目を戻し微笑むケイン。
「‥‥」
 そして、くっとぐい呑みを空けると緩やかに息をつく風斬。
「仕事の後の一杯はやはり美味いね」
 子供達に引っ張り回される比良屋の姿を見ながら風斬は満足そうに笑って呟くのでした。