【凶賊盗賊改方】悪徳与力の最期

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:08月05日〜08月10日

リプレイ公開日:2006年08月16日

●オープニング

 その日、ギルドの青年は呼び出された酒場『ごんべぇ酒』で不思議な取り合わせを見た気がして首を傾げました。
「ええと、その、こちらの旦那は‥‥」
「町方の同心、薮田衛門七殿だ。実は薮田はわしが奉行所にいたときに下にいてな、本来ならば長谷川様は薮田も借り受けられるつもりだったのだが‥‥」
「はぁ、かずた、しちえもん様、ですか?」
「お初にお目にかかる、薮田だ。色々とあり遣り残したこともあれば、奉行も渋ってな。まぁ、あまり気性の荒い仕事は、俺には向かんからな」
 笑って武兵衛を指し『このお人と違ってな』という薮田同心、ですがよくよく見れば目の下にうっすらと隈が浮かび、どこか疲れたようなやつれたような雰囲気を漂わせているのに気付き、首を傾げる受付の青年。
「大丈夫ですか? なんだかとてもお疲れのようですが‥‥」
「あぁ、ここ数ヶ月、ずっと調べている事柄があってな‥‥それが思いの他堪えていてな」
 苦笑しつつ言う同心に、武兵衛は軽く咳払いをすると口を開きました。
「単刀直入に言おう、今回は薮田と共に奉行所与力・佐保田伝衛門に引導を渡して貰いたく」
「‥‥‥‥は? あ、あの、引導、ですか?」
「言ってしまえば腹を切らせろということだ。切らねば斬れとのことだな」
「で、でも‥‥その、突然そういわれても‥‥」
「奉行所与力・佐保田伝衛門は、その立場を悪用し私服を肥やすだけでは飽き足らず、人を人とも思わぬ悪行の数々、私と他二人の同心とは上からの指示で奉行所内にも気づかれぬようにと内々に調べていたのだ」
「別件で助けて貰って居たときの、舞殿や磐山殿に佐保田の屋敷を窺っていた同心の特徴を聞いて、もしやと思うて呼び出してみれば、薮田も此方が奉行へと話をしに行った事を知って訪ねてくるか迷うていたそうだ」
 言われる言葉に小さく息をつく薮田。
「事が事だけに慎重に取り扱わねばならないため、随分と迷ったのだが‥‥」
 そこまで言って武兵衛へと目を向ける薮田に、武兵衛は言葉を継いで口を開き。
「実際に悪事となる証拠は薮田の方も色々と内部のことを調べたし、改方に協力してくれている者達の調べもあり、証拠は十分‥‥しかし、それが公になれば‥‥」
「‥‥まぁ、大騒ぎですね。奉行所も突き上げを喰らいますし、役人をとかく嫌う人達にしてみれば、奉行所はやはり信用置けないと騒ぎ立てて大変なことになるかも知れませんしね」
 受付の青年が言うのに頷く2人。
「ギルドでの仕事は依頼の守秘も当然受け持って貰っていると思う。信用問題だからな」
「いつも頼んでいる者達にはまたすぐに新たに仕事を頼むことになると思う。故に別口でと思うてな」
「‥‥このことは長谷川様は?」
「お頭も昭衛様もご存じだ」
「分かりました」
 頷くと受付の青年は依頼書に筆を走らせて書き付けているのでした。

●今回の参加者

 ea1543 猫目 斑(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7905 源真 弥澄(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3556 レジー・エスペランサ(31歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb5092 イノンノ(39歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5421 猪神 乱雪(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アゲハ・キサラギ(ea1011)/ 時永 貴由(ea2702)/ ピリル・メリクール(ea7976)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ 久駕 狂征(eb1891)/ ヴィスコ・ヤンセン(eb2270)/ ルーク・マクレイ(eb3527)/ 磐山 岩乃丈(eb3605

●リプレイ本文

●手筈
 酒場『ごんべぇ酒』、その2階の一間には、奉行所同心の薮田と凶賊盗賊改方与力、津村武兵衛が待っていました。
「薮田さん、よろしく頼む」
 柚衛秋人(eb5106)が言うのに頷きこちらこそという薮田。
「問答無用で行きたいところだが、面目上そうもいかないらしいな。背負っているものがあるというのは大変だな」
「あれは考えられぬほどの害悪、俺とて出来れば問答無用に引き立てたい。しかし‥‥」
「善い善い、それも仕事だ。佐保田‥‥いちばん嫌いな人種だな、退治するのが世のためだろう」
「ふぉっふぉっふぉ、私腹を肥す悪党同心の成敗か、悪くないのぅ」
 悔しげな薮田に笑う柚衛、アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)はなにやら楽しげに軽く顎を擦りながら笑い。
「それにしても、与力が悪事三昧だなんて、情けないわね」
「触らぬ神に何とやら、にっちもさっちも行かなくなって漸く動き出したんだ、そう言われて何も言い返せん」
 深く息をついていう源真弥澄(ea7905)に言われ苦々しく眉を寄せてはき捨てるように言う薮田は、随分と前からそのことを気にかけていた様子が見て取れ。
「向こうはゴロツキを雇っておるし、小悪党ほどいざと言う時の逃亡の機転は効くものぢゃから油断は禁物ぢゃのう」
「いくつか当たって見たけど、抜け道に関してはあまり分からなかった。もしかしたら正面口と裏口以外には抜け道はないのかもしれない」
 アルスダルトが言うのにレジー・エスペランサ(eb3556)は時永貴由や磐山岩乃丈の手を借り調べた屋敷の見取り図を取り出して言い。
「破落戸達はどうやら複数箇所に散らばっているようでございますね」
 磯城弥魁厳(eb5249)が自身が調べた部分を見取り図に書き加えていくと、奥の方に隠れているのだけは分かるものの、まだ日常の生活習慣は把握し切れていないので、と付け足しながら与力の主にいる場所を指し示します。
「おお、そうじゃった、正面と裏口にも見張りの人を配しておきたいでの、奉行所の手を借りたいのぢゃが」
「俺とあと二人がこの件に関わっている。手分けをしてそれぞれを張るで良いだろうか?」
「十分ぢゃの」
 言われる言葉に答える薮田、返る答えに頷くアルスダルト。
「夜中から朝方にかけての行動となりそうですし、それに合わせられるように体調を整えておきませんとね」
 イノンノ(eb5092)が言えばそれは重要であるな、と微笑を浮かべ手頷く武兵衛。
「それで‥‥紹介状は?」
「あぁ、彦坂様よりの働きかけでこちらを用意した。御大身故、疑われることはないであろう。昔行儀見習いに来ていた娘ということとなっておる」
 猫目斑(ea1543)が尋ねれば武兵衛が書状を差し出し。
「疑われても話は合せてあるので裏を取られても平気ということにございますね」
 大事そうに書状を受け取り懐へと仕舞う斑、その様子を見ながら緩やかに息をつくと、手の中の刀へと目を落とす猪神乱雪(eb5421)。
「切らぬなら斬る、か‥‥」
 僅かに口の端に苦い笑みを浮かべる乱雪。
「確認するけど、斑ちゃんの手引きで屋敷の者らが眠っている間に侵入し、佐保田に切腹を迫る。任務遂行後撤収し、その後の処理は薮田同心にお願いする‥‥で良いかしら?」
 弥澄が改めて確認すれば、一同は頷くのでした。

●侵入
「全て滞りなく‥‥一部お酒を飲んだかは確かめられませんでしたが‥‥」
「では、予定通り‥‥」
 短く小さく言葉を交わすのは斑と魁厳。
 そこは屋敷内の水場、本邸で泊まりで浪人や佐保田の世話をするのは斑のみなので怪しまれることもなく、また双方細心の注意を払っての事なので気がつかれる事はありません。
 徳利に冷やした酒を入れ、それを盆に並べて再び出て行く斑を見送ると、そっと屋敷を抜け出し外へ。
「全て滞りなく進んでいるそうにございまする」
「了承した」
 魁厳が伝える一言に、裏口付近で足止めのための罠を張っていたレジーが短く答え、魁厳はそのまま走り去ると、レジーは広い道を隔てた廃屋へと急ぎ足を向けて小さく息を吐きます。
「明け方‥‥機会は一度のみ‥‥」
 小さく呟いて、レジーは表情を引き締めるのでした。
 そして‥‥すっかりと辺りが寝静まり、物音一つ起きない静かな時。
 微かに砂を踏みしめる音と共に、付近で時を待っていた一行が駆けつけると、魁厳伸す方に駆け寄り、そっと裏口の戸が開かれ、斑に迎え入れられてするりと入り込む一行。
「‥‥」
 薮田が手で指し示すと、同心二人が音もなく正面口の方へと滑るように去っていき、薮田も戸を潜るとそこに立って頷き。
 斑が先に立って佐保田の元へと先導すれば、所々に見られる酒を飲んで酔いつぶれた様子の浪人達が数名、使用人の一部は離れで酒を振る舞われていて深い眠りに就いており、本邸の様子には気がつかないであろう事を言葉短に伝える斑。
「ただ、佐保田の周りでは数名、酒を呑まず、交代で張っている者もおります‥‥」
 小さく告げる斑に各々獲物を握り直し。
 それぞれの部屋を確認し、屋敷にある綱や手拭いを使い浪人達を縛り上げつつ仲間を追う柚衛、退路を塞がれる可能性を減らしながら進むと、とある部屋。
「‥‥なん、だ、貴様ら‥‥」
 気配を感じてか酒を飲まなかったか、よろよろと起き出した浪人が顔を見せたかと思えば、すといつの間にか背後へと周り込んだイノンノが素早く小太刀を横へと引き、湿った空気の音を発するだけとなる浪人。
「ごめんなさい‥‥声を上げられては困るのです‥‥」
 とさりと静かに崩れ落ちる浪人を置いて再び一行と合流し先へと進めば、灯りの漏れる部屋の前。
 見取り図でも何度も確認した佐保田の部屋の手前、斑の伝えた入れ替わりに見張りの居る部屋です。
「くっ、何奴っ!?」
 短く声を発し刀へと手をかけ立ち上がる浪人へ、瞬く間に詰め寄り鞘から刃を抜き態に斬り捨てる乱雪。
「食い詰め者なんぞに僕の太刀筋は見切れんよ」
「今日はいつもと勝手が違うのでな、手加減できんがかまわんな?」
 その側にいた者を問答無用に斬り伏せにやりと笑い乱雪と並ぶ柚衛に、突如前へと進むのが阻まれるかのように乗ったりと刀を掴もうとする一人。
「若いの、そう焦らん事ぢゃ。人生は長いで、ゆっくりゆっくり‥‥ふぉっふぉっふぉ」
 それがアルスダルトの魔法によるものと知り顔に恐怖を浮かび上がらせた男は、見えない剣線に崩れ落ち、乱雪の足下へと倒れ込み。
「ひっ‥‥」
 がたがたと慌ただしく音を立てて庭へと障子を開け逃れようとした浪人の一人には、ひゅと短い風の音と共に足に付き立った矢に崩れ落ち、声にならない声を上げてのたうちます。
「‥‥狩人には狩人の戦い方があるってね」
 他に逃れる者も術もないと確認してから慎重に屋敷内へと入って来たレジーが呟くように言うと仲間と合流し。
 峰で叩き伏せた浪人を見下ろす弥澄が隣の間への襖を蹴り倒すと、そこにいるのは布団から這い出た醜い老人が白い寝間着のままに這って床の間へと逃れようとする様を押さえる事が出来るのでした。。

●最期
「あんたも武士の端くれならば潔く腹を切りなさい」
 倒された襖、弥澄の静かながらきっぱりと放たれた言葉におたおたと辺りを見て、じりじりと下がる佐保田。
「な、なんだ、お前ら‥‥か、金か? それとも‥‥業物の刀も高価な異国渡りの装飾品も‥‥」
「作法は教えてあげるわ、準備もしてきたし。ああ、命乞いの交渉は一切耳を貸すつもり全くないから。潔くその罪、身をもって償いなさい」
「な、何‥‥ほ、ほら、このような物を手に入れられる機会は他に‥‥」
「ワシは河童でございますゆえ、人間の宝物の価値はとんとわかりませぬ」
 弥澄が聞く耳持たないと判断した佐保田が他に救いを求めようと言うも、穏やかな声で返す魁厳。
「僕も今でこそ浪人なんぞに落ちぶれているがキミの様な悪徳与力に比べればまだまだ可愛いもんだ」
 見るのも嫌だとばかりに蔑みを色濃く滲ませ見下ろす乱雪。
「ひどい仕打ちに手に入れた品々を気持ちよく受け取れる筈も無く‥‥それも、分かっては貰えないのでしょうね‥‥」
 悲しげに目を伏せるイノンノに救いを求めるように見回せばどれもこれもが冷たい顔。
「ま、まて、儂とて‥‥儂を殺しても良いことはないぞ。それに‥‥」
「悪党にも悪党の言い分か? 聞く耳持たんわい」
「何を言っても今更だな。大体むさい野郎には興味がねぇ。若い綺麗なねーちゃんならまだしも」
 ふぉっふぉと笑いながら言い放つアルスダルトに肩を竦めて告げるレジー。
「これ以上は時間の無駄だ」
 言い様刀を振り抜く乱雪、死にかけながらよろよろと手を伸ばす醜悪なその姿に、弥澄は情けだと小さく呟いてその首を作法に則り皮一枚残して刎ねるのでした。

●後日
「しかし、良くもまぁ、溜め込んでやがったな」
 少し惜しそうに言う柚衛に低く笑う乱雪。
 それもその筈、どのような手でどのような金を使っ手に入れたかを思えば当然手に入れる気も起きなくなるでしょうが、それでも業物や場合によっては魔法の掛かった物までも手に入れていた事が判明し、それを奉行所に報告した薮田同心。
 報告はした物の、それは奉行所へはいることはなく。
 直ぐにそれを金に換えてそれまで苦しめられてきた人たちへと還元されるようにあちこちに働きかけていると薮田同心。
「だったらあのとき応じて居れば良かっただろう?」
「酒の肴に話に出すくらいは勘弁してくれよ」
 からかいの響きが籠もった乱雪の言葉に笑って杯を煽る柚衛。
 奥の座敷では主人が死んだ為に暇をと出てきた斑が加わり、どのように佐保田の財産が処分されるか、出てきた物がどれほど片付き始めたかなどを話したりしているよう。
「はぁ、人知れず影ながらお役目を果たすのがこんなに大変だとは思わなかったわ。ほんと、改方の密偵衆の苦労が今ならよく判る」
 切腹の作法に則ったようにとあれから佐保田の遺体に手を加えた弥澄がどこかやりきれないように溜息を吐けば、イノンノが気遣うように見つめ。
「少なくとも‥‥これから佐保田与力に苦しめられる人達は増えません‥‥」
「ん、そうね。それが救いね」
「負ってしまった傷はどうにもならないが‥‥俺に出来ることを精一杯やっていこうと思っている」
 目を落として言う薮田。
「それにしても、浪人達は雇われていたこと自体言わなかったんだって? 怪我した奴まで含めて」
「護衛対象が殺されたか本当に切腹したか‥‥どちらにしろ死んでしまった以上雇われていたとなれば飯の種を無くすからぢゃろう」
 レジーの言葉にいうアルスダルト。
「なんにせよ、無事に終わって良うございましたな」
「ええ、あそこに勤めていました、普通の使用人の方々にも怪我もなく‥‥」
 魁厳が言うと斑が頷き。
 それぞれの思いを抱えながら、ゆっくりと時間は過ぎていくのでした。