●リプレイ本文
●それぞれの人柄
「失せもの探し‥‥みたいだけど、何か気になるわよね」
エレオノール・ブラキリア(ea0221)の言葉に困ったように眉を寄せる御住職。
無くなった物を少年へと確認させている間、御住職の部屋で僧兵のことを確認していました。
少年には限間灯一(ea1488)たちが、確認ついでにとついて行っているため、互いの話したことは互いの耳には入らないようになっており。
「その僧兵さんの特徴とかを教えて貰えないかしら? どちらにしろ本人を捜して確認しなければいけないことがたくさんありそうだし」
「心当たりについても聞きたいな。それに、人となりとか‥‥」
「真面目で実直、下手をすれば私よりも真面目に御仏に使えているような‥‥風貌は、そうですね、ジャイアントなので大柄で、というのは当然として‥‥長い髪を後ろで一つに結っていて、普段は着流しなどで行動していると思うのですが」
エレンが聞けば湯田鎖雷(ea0109)も口を開き。
考えるように答える御住職に苦笑するレンティス・シルハーノ(eb0370)。
「その男が盗んでいったなんて信じられんな。俺もジャイアントだ、外見体格良いし実際大きな物も持てる。‥‥でもそれだけで犯人扱いされたらたまらないぞ」
「ええ、ですからそれをあの子に言ったのですが、あの男だの一点張りで‥‥」
「‥‥」
御住職の言葉に眉を寄せて考え込む湯田。
「ところでその仏像というのは、住職がよろけるほど大きなものですか?」
「ええ、私自身があまり力がないと言うこともありますが、あの子と同じぐらいの大きさがあり、少し運ぶのは厳しいですね」
リアナ・レジーネス(eb1421)がふと思ったことを尋ねると、頷いて答える住職。
「普通ならば盗まれたと騒ぎ立てる人は後ろ暗いところがないと考えられがちだけど、それにしては不自然すぎるわよね‥‥」
「自分から疑いを逸らすためか、それとも、何か‥‥あの僧兵だという事にならなければならない理由ってのがあるのか‥‥」
エレオノールの言葉に笑って言いかけたレンティスが、ふと逆に自身が発した言葉に違和感を覚えたのか難しい顔をして考え込み。
「管理を任されていた少年ですが、あの少年、お仕事の方はどうなのですか? 盗まれた仏像を家の家宝というからには相当熱心に管理してたんですよね?」
「いいえ、必要なときにも姿を見せないことも時折ありましたね」
リアナが聞けば首を傾げながら思い出しつつ答える住職。
「なんにせよ、その友人の僧兵を見つけて話を聞いてみないことにはな」
そう言うと、湯田は立ち上がるのでした。
「いちいち覗き込まれちゃ集中できないです」
「そんなことより自身の仏像だ、もう少し特徴などを聞かせてくれないか」
苛立たしげに声を荒上げる少年に、動じた風もなくさらりと言うのは九十九嵐童(ea3220)。
先程からいろいろな品の品目を一覧で調べるのを手伝いながら、白井鈴(ea4026)が無くなった物を一覧として出せるようにと指示しながら小さく溜息。
「普通こういうトコって鍵とかかけてありそうなものだけど‥‥」
「僕と住職が一応持っていますけど、住職の方のが無くなっていたのだから住職の友人が受け寄って盗みに入り込んでいたんでしょう!? なんにせよ、僕は関係ないですっ」
少年が躍起になって感情的に騒ぐ姿に苦笑気味に見る嵐童。
「でも、やっぱり何が無くなったのかは分からないと困るよね」
そう言って鈴は、少年に確認を続けさせ。
「でも、その仏像の大きさとか、あと無くなったらしい置物とかって、どんなの?」
鈴が首を傾げればぐっと一瞬言葉に詰まる少年、どこか苛ついたようにぐるりと部屋を見渡しながら口を開きます。
「だ、だから今どこに何があるかを確認して居るんじゃないですかっ。盗んだ物が何なのかなんて、盗んだ本人しか居ないでしょうっ!?」
「この部屋の管理は貴方だと思うのですが‥‥管理をきちんと行っていれば分かる物ではないですか?」
小さく溜息混じりに言う灯一にぐっと言葉に詰まり睨み付ける少年。
「だ、第一盗んだときにひっくり返していったのかも知れないじゃないですかっ」
実際それはなかなかに苦しい言い分に苦笑した灯一ですが、ふと首を傾げて。
「ところで、その家宝の仏像とやら、もう少し細かい特徴はありませんか? 覚えている限り詳しくお願いしたいのですが‥‥」
「なっ、何でそんなこと‥‥」
「捜し物を詳しく知らなければ、暗闇に灯もなしで捜すことと同じですよ」
「‥‥ぅ‥‥」
「‥‥?」
「うるさいっ! 一つ一つ細かいことを覚えているわけないだろっ!? 大体盗んだのはあの僧兵だって言っているじゃないかっ!」
灯一の諭すような言葉に癇癪を起こす少年は、怒ったようにどすどすと乱暴な足取りで部屋を飛び出していき。
「あの少年‥‥どうにも引っかかる。少し注意してみた方が良さそうだな‥‥」
嵐童はそう眼を細め、部屋を出て行く正面の背を見つめながら呟くのでした。
●献残屋
「うちには特に仏像を売りに来た人はいませんが‥‥あぁ、でも、大き目の仏像を買い叩いて人に売った献残屋でしたら存じておりますよ」
アルバート・オズボーン(eb2284)が一足早く町の献残屋などで話を聞いていると、とある一軒の献残屋の主人は思い出すようにそう言います。
「それはどこか分かるか?」
「え、えー‥‥喜包屋だったか‥‥豊実屋だったか‥‥そのどちらかだったのですが、ど、どちらでしたか‥‥」
「‥‥分かった、その二軒を当たってみよう」
思い出そうと首を捻りながら言う主人にそう言うと歩きだすアルバートに、慌てたように口を開く主人。
「あ、あの、うちが言ったとは‥‥」
「分かっている」
ちらりと主人を振り向くと、アルバートは頷いて仲間の元へと戻るのでした。
聞き込みを続けていた湯田が、その姿に気が付いたのは、喜包屋の評判を聞き込んでいるときのことでした。
知っている人が口を揃えて確かな人柄だと太鼓判を押す僧兵、それが盗みをと言われてもぴんと来ないため、どうにも違和感を拭えない湯田。
ふと顔を上げれば、喜包屋の裏口を厳しい表情でじっと見ているジャイアントが1人。
といっても、ジャイアントにしては少し体つきは細い方で、厳しい表情と言っても決して睨んでいるのとも違い、様子を窺っているよう。
「もしや‥‥輪浄坊‥‥か?」
小さく呟くような声に顔を上げるジャイアント、どこか窺うようにきっと見るとゆっくりと近付いてきます。
「あの少年達の縁者であるか?」
言う声音は落ち着いた物ながら有無を言わせない様子があり、緩く息を吐くと首を振る湯田。
「御住職に頼まれてきた。あんたを心配しているぞ」
湯田の言葉に伺うように見ていた輪浄坊の表情がふと穏やかになり緩く息を吐き。
「住職の寺に悪い話が出ては憐れというもの、穏便に事を片付けようと思っていたのだが‥‥」
そう溜息をついて喜包屋へと目を向ける輪浄坊につられるように湯田が目を向ければ、細く開けた障子をピシャリと閉じる喜包屋の姿が。
「ご住職から伝言を預かっている。『心配なので寺に戻ってきて欲しい』とのことだ」
「‥‥しかし、あの店から目を離せば‥‥」
「そちらに関しては当てがある、少し待っていてくれ」
言うとその場を去る湯田は、暫くして同じく辺りを調べていた鈴を連れてきます。
「あの店を見張っていれば良いんだね?」
「姿が見えるだけでも、多少の抑止力にはなるのだが‥‥」
「分かった、任せておいて♪」
にっこり笑って言う鈴に頷くと、湯田に促され輪浄坊は歩き始めるのでした。
「では、ずっとあの付近であの献残屋が折れて盗品を返すまで粘っていた、と言うことですか?」
驚いたように聞く灯一に、輪浄坊は頷くと、出された茶を飲んで人心地といたように息を吐きます。
「実のところ、あの主は盗品を扱ったという証拠はないとの一点張りでな」
「付近の酒場を聞いたところ、大分評判は悪いみたいね、あの御店。それに妙に高価な物や良い物が出回るらしいし‥‥それも凄く高く」
エレンがそう言うと、何を言わんとしているかが分かり眉を上げる嵐童。
「盗品を扱うわけだな。表向きは普通の献残屋として営んでいるが、裏に回れば金持ち相手に、と言う奴だ」
「そう言うことらしいわ」
「しかし、何故あの献残屋に寺から盗まれた物があると?」
「‥‥‥‥夜に水を貰いに起きだしたところ、物音がするのであの部屋へと言ったら、そこから賊が抜け道を通り逃げ出すところだった。それを追ったまでだ」
何とも言えない表情で言う輪浄坊。
と、ちいさなもの音に嵐童は顔を上げると立ち上がり部屋を出て行くのでした。
●罪の重さ
「‥‥‥‥ぁ‥‥はぁっ‥‥はぁっ‥‥」
急ぎ駆ける少年の背を追うのは、嵐童。
それについてレンティスとリアナも後を追いかけ。
他の者も急ぎ足を向けているようで、少年は迷う様子もなく込み入った道を駆け抜けていきます。
焦ったように駆け込んだ先の廃屋を見渡せば、そこにいるのは旅支度をした青年が3人。
「‥‥ちょ‥‥何してるんだよ、お前らっ!?」
辿り着いて声を上げる少年に一別をすると、ずっしりと重そうな胴巻きを手に立ち上がったところでした。
「ご苦労だったな、ちび」
「なっ‥‥」
言葉を失う少年を押しのけて出ようとした青年達ですが、その退路を塞ぐように、ぬっとレンティスが立ちはだかり。
「何だ、おま‥‥」
最期まで言いきらないうちに少年を押しのけた青年が崩れ落ち。
「ちょっとおいたが過ぎるんじゃないか?」
「てんめぇっ‥‥!」
ちゃと短い刀を抜く2人の青年ですが、そこへ裏から回ったリアナ、その手の中には雷光が。
「お止めなさい」
リアナは一言警告するも、その刀をリアナに向けた青年。
過ぎの瞬間、まばゆい光と共にはじき飛ばされしゅーしゅー煙を上げる青年と、突き破られて向こう側の土壁まで一直線上にあく、廃屋の壁。
「手加減して差し上げただけでも感謝してくださいね」
そう言うリアナですが、リアナは少年のことを聞き込んでおおよその事情が掴めているためか少し怒ったような口調でそう言い。
「‥‥は‥‥はは‥‥」
焦げて転がる仲間を見て、最期の1人は唖然とした様子で刀を取り落とし。
「ほら、もう泣かないの」
押しのけられて唇を噛んで悔しそうに声を押し殺して泣く少年に、追いついてきたエレオノールは手拭いを取り出すとその涙を拭いながら諭すように声をかけているのでした。
●高価な物よりも
「ですから、存じ上げないと申し上げているのですか?」
「では、店内を検めさせて頂いても宜しいのですよね?」
献残屋『喜包屋』で穏やかな口調、物腰で居ながらそう譲らない灯一に、それまで温和な顔をしていた喜包屋主人は忌々しげに睨み付けます。
「勝手に店の中を見ればいいじゃないですか。何にもないでしょう、その様な物は」
「いえ、在庫である商品を納めてあるはずの地下ですよ」
「何をその様な言いがかりを‥‥」
「売った本人達が認めました」
「‥‥」
睨み付ける喜包屋主人ですが、後ろで睨みを利かせているアルバートの存在が気になるのか、エレオノールと灯一が見せろと言う地下を案内すると言って立ち上がります。
「そっちじゃないよね〜☆」
そう聞こえてきた声にぎょっとした顔で喜包屋が目を向ければ、その視線の先には鈴が倉の戸を開けて床の上に座り込んでいるらしく、さっと顔色が変わる喜包屋。
「我々で調べてみたところ、長持を動かしたら鍵のかかった扉が現れてな」
そう言って、倉の戸の内側から姿を見せる嵐童、その手にはずっしりと重そうな錠前が握られており。
「見せていただけますよね?」
「盗品が無いならば問題ないわよね?」
灯一とエレンが口々に言えば、引きつった顔のまま口を開く主人。
「は‥‥はは、何を言うかと思えば‥‥第一お客様が持ち込まれた物が盗品だったと、どうやって私が知りうるのですか」
「‥‥高く買い取ると青年達を焚き付けたのは貴方だと、彼等が白状しましたよ」
捕らえられた青年達は口を割ろうとせず少年に罪を着せようとしていたのですが、レンティスの船の上での心からの説得により。
「真夏だから泳ぐと気持ちいいぜ、凶暴な魚につつかれるかもしれないが。お前なんかいい感じにお焦げ色も付いているし」
「勘弁してください」
まぁ、なにはともあれ穏便にその様な会話が交わされた後、少年を仲間だと唆して隠し通路に中から招き入れさせたこと、献残屋にいい金で買い取ってやると言われてやったことなどを聞き出してから一同はこちらへとやって来ていたのです。
何でもないことのように倉の方へと足を進める灯一に、へたりと座り込む喜包屋主人。
「これだね、少年が持ち込んだって言う仏像って」
鈴が見上げれば、首を傾げるアルバート。
「俺はこの国の人間ではないし、あまりこういった物に詳しくはないが‥‥良い品とはとあまり思えんな」
「あの寺にあったと言われる器があるわね」
見れば寺の物だけではなく、他にも色々と出所が怪しい物が幾つも。
「あれでは言い逃れは出来なかったな」
湯田が笑って言うと、鈴がおずおずと口を挟み。
「あのぅ‥‥ご住職様? あの子、これからどうなるのかなぁ?」
鈴は少年が先の大火で身寄りを失って居たとき、そのうち使えると踏んだ青年達に仲間だ何だと言われながらあの廃屋で寝泊まりしつつ凌いでいたこと青年達から聞き出していました。
「本人がうんと言わなければそれまでですが、取り敢えず寺において雑用をやっていって貰おうかと思っています」
青年達は他にも色々と悪さをしていたこともあり番所へと突き出されましたが、少年は手引きをしたものの実際に盗んだわけでもなく、役人も目こぼしをしたとか。
「別に坊主にならなくても良いんですが、この寺は広いです、1人ではとても手が回らないですからね」
笑って言う御住職にほっとした様子で笑いながら頷く鈴。
「それにしても‥‥そう言う事情があったのならば言伝でも何でも良いので連絡をすれば良かったではないですか」
リアナが言えば、困ったように頭を掻く輪浄坊。
「自分が疑われる可能性は、全く考えてはおらなんだ」
思わず笑みを零す一行。
灯一が境内へと目をやれば、何やら意地を張っているのかぷいとそっぽを向く少年に笑いながら声をかけるエレオノールの姿が。
そんな様子を、灯一は暫し穏やかな気持ちで見つめているのでした。