振り返る、日々

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2006年09月11日

●オープニング

「‥‥儂は、何をしておったんじゃろうなぁ‥‥」
 ぼそりという老人は、すっかりと痩せて小さくなった身体を卓に預け、何とか身体を起こしながら小さく自嘲気味な笑みを零しました。
 その日、あたりは既に薄暗くなってきており、聞こえてくる虫の声が、夏が残り少ないことを告げている中、子供がお駄賃を握り締めながら案内した小さな茶屋にやってくると、その老人はまるで置物であるかのように生気なく腰を下ろしていました。
「あの‥‥この依頼‥‥」
「おぉ、是非に、宜しくお願いしたく‥‥」
 そう言って頭を下げようとして小さく咳き込む老人、老人の嫌な咳に眉を寄せてすと離れる者もいて、受付の青年は心が痛むのか目を落とします。
「くれぐれも、儂が頼んだことを言わないでやって欲しい‥‥曲がった事が嫌いだから手を貸してやった、そういうことにしてやって欲しいんじゃよ‥‥」
「でも‥‥でもそれでは‥‥」
 言いかけた受付の青年を、僅かに上げた指先だけで制すると老人はゆるりと息を吐いて、穏やかな笑みを浮かべます。
「すっかり嫌われておるだろうからのぅ‥‥今更親だ娘だと名乗ったとて詮無いことじゃでの‥‥」
 そういう老人の仕事は金貸し、それも高利ではないもののしつこく取り立て、びた一文も負けない、血も涙もないと付近の貧しい者たちに酷く言われている、ところの者たちには嫌われ者の老人です。
 他からは金も借りられない、かたになるようなものもない人達に貸してやるのはこの界隈では彼ぐらいでしたが、借りるときは頭を下げても、返すときには怒声と石を投げる人達。
 彼らも生きるために必死、それでも、この老人も必死で生きていた、ただ、嫌われたのは金貸しであり、道理を通せと迫るそれだけの理由。
「おん出た若い女房には未練もなーんもなかったが、生まれてすぐの娘は、そりゃぁ、可愛くてなぁ‥‥」
 ある日、けちな老人が金を溜め込んでいると聞いて女房としてあがりこんだ若い女は、贅沢をさせてくれない老人に愛想尽かしてすぐに出て行きました。
 転がり込んだ頃から若い男が上がり込んでいたし、老人に見向きもしなかった女、当然生まれてきた女の子もその若い男の子供でしょう。
 それでも、その女の子は老人にとって、たった一人の可愛い娘だったのです。
「ずうっと人を頼んで不自由がないか、ひそかに知らせて貰っておっての‥‥大火で見失うてしもたが、漸く見つかった頃にゃ、亭主が人様の物に手ぇつけておっちんで、亭主が盗んだものを返せと幼い孫たちと脅される日々が、聞いているだに耐えられんでのぅ‥‥」
「‥‥‥」
 老人をまともに見られない受付の青年に、卓へと重い袋を置いて押しやる老人。
「何を盗んだかは分からんが、亭主が殺された時点でそれ自体は取り返されているらしい、だのにあれは脅され、返せと‥‥」
 老人が老いた身体を引きずり様子を見に行くと、娘やまだ幼い孫娘たちを脅しつけて売り飛ばそうとしていることが分かり、その盗まれた物を返さなければと切られた期限が後わずかであることを知り、無我夢中で帰り道に笑っていたごろつき達にむしゃぶりついたとか。
「金貸し以外、なぁんもでけん爺は、そこで死ぬ気でおったが、死に切れんで逃げてしもた‥‥だから、儂にゃ溜め込んでおった金しかない。な、頼むなぁ‥‥」
 そう言うと頭を下げる老人。
「儂ぁくたばり損ないの爺じゃ、お迎えもまもなく来るじゃろうて。もっと早ぅ‥‥亭主が道ぃ逸れる前に見つけてやっておれば‥‥ほんに、儂はなぁんも役に立つことがでけんかったのぅ‥‥」
 そう呟くように言うと、老人は声を殺して涙を流すのでした。

●今回の参加者

 eb2408 眞薙 京一朗(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb3383 御簾丸 月桂(45歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5521 水上 流水(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb6526 山岡 太郎座衛門(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb6535 神威 雅(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●縁
「強請り集りに人生台無しにされちまうとこを、放っておいたら男じゃないからな」
 御簾丸月桂(eb3383)がにかっと笑って言えば、まるで拝み倒さんばかりに頭を下げる老人。
 そこは娘母子の住む長屋近くの茶店、娘達や男達の確認のために案内をして貰っていました。
「じぃさんの心意気、裏切らないように頑張るさ」
「そうそう、俺たちに任せてくれ、必ず守ってみせるから! な、天堂!」
「まぁ、仕事は仕事。きっちり遣らせて貰おう」
「まーた、お前はー」
 御簾丸が老人に頷いてみせれば、加賀美祐基(eb5402)が相棒である天堂蒼紫(eb5401)相手に気勢を上げ。
「品物が何なのか、確かに今奴等の手中なのか否か‥‥」
「水上殿がきっと首尾良く運んでくれるはずだ。‥‥俺は情報収集は苦手だからな、護衛を精一杯させて貰うとしよう」
 鋭い視線を破落戸達に投げつつ眉を寄せる眞薙京一朗(eb2408)、軽く首に手を置いて李連琥(eb2872)が言えば、僅かに口元に笑みを浮かべて頷きます。
 どうやら連琥が言った人物の他にも二人ほど足りないのは、急用か待ち合わせの連絡が届かなかったのか。
 何にせよやむにやまれぬ事情があったのだろうとの事でそれぞれ行動を確認すると席を立つ一行。
「さて‥‥奴等にのし付けて叩き返す迄には多少刻もある、御老体にはきちんと医者に掛かって貰わねばな」
「い、いや、儂は‥‥」
「彼女達の為に動ける其の気力で今暫く足掻いてみるのも悪くあるまい?」
 娘達さえ、そう言いかけた老人ですが、京一朗の言葉に、先に水上流水(eb5521)からも医者に掛かるように勧められていたことを思い出してか迷うように目を伏せる老人。
「大の男が数人がかりで女子供を脅すなんて絶対に許せねぇ!」
 そんな京一朗と老人の耳に入ってくる加賀美の声に、念を押すかのように老人を見て一つ頷くと出て行く京一朗。
「女子供に大勢で寄って集るたぁ、随分語るに落ちる風情だねぇ?」
「なんだ、手前ぇらはっ!?」
「なんだと言われてもな。だいたい天下の往来で大声張り上げるのは感心しないな。程度が知れる」
「なっ‥‥」
 御簾丸と連琥が言えばかっと顔を真っ赤にして、どこから見ても怒り心頭の様子の男達、絡まれていた物悲しげな様子の女性ときっと目に涙を浮かべ縋り付く妹を庇うように居た少女が驚いたような顔で見上げます。
「こいつらが盗んだものを返さねぇのがいけねえんだっ! 関係無い奴ぁすっこんでろっ!」
「ほう‥‥物さえ返せば足りるのか?」
 そこへぬっと顔を出す京一朗、人数がそろそろ逆転しそうな雰囲気にじりっと引き気味の男達、
「と、とにかく、後4日、きっかり4日後に返さなけりゃ、お前ぇと娘は花街行きだっ! 畜生、訳わからねえお前ぇらも、後で見てろよっ!」
「っと、待てっ! 返せ返せ言うなら、物がなんなのか言わないとわかんねーだろうが!」
 脱兎の如く逃げ去る男達の背中にはっと気がついたように言葉を投げる加賀美。
「しかし大丈夫か? あいつら一体どういう‥‥?」
「あ、は‥‥はい、お恥ずかしながら私の夫が先の大火で働けなくなり、人様の物に‥‥でも、夫は先に逝き訳も分からぬままに、何かも分からない物を返せ返せと‥‥」
 一行の様子に始めは少し怖かったのかも知れませんが、御簾丸が人懐っこい笑みを浮かべて話しかけるのにほっとしたのか、礼の意味も込めて長屋へと招待する女性。
「よし、兄ちゃんが絵、描いてやっかんな、泣くな泣くな」
 加賀美がべそべそと姉に取り縋っていた小さな女の子の顔を覗き込むと、手拭いにちょんちょんと花の絵や猫や犬など、増えていく可愛らしい絵ににこぉと笑って手拭いを覗き込む妹。
「暫くは俺たちがここに留まって様子を見ようかと思うんだけどな」
「そ、その、でも私たちには冒険者の方を雇うほどの余裕は‥‥」
 とても申し訳なさそうに俯く女性に緩く首を振る京一朗。
「大丈夫だ、俺たちにしてみれば仕事と仕事の合間の休みを有意義に使うだけだ」
「つーか、理不尽な事や曲がった事は本気で大っっっ嫌いだからな!!」
 京一朗の言葉に被るように加賀美ががうと吼えるかのように言い。
「ちょうど身体も空いている。良い体慣らしだ」
「大丈夫、俺たち任せとけ」
 京一朗が娘に言えば、御簾丸も姉の頭をくしゃりと撫でて力強く頷くのでした。

●禍
「性懲りもなくやって来たか」
 長屋の前で幼い少女達を驢馬に乗っけて御簾丸が遊んでやっていると、その側で腰を下ろして目を瞑っていた連琥が緩やかに息をつき顔を上げます。
 ぞろぞろと5人、人数が1人でも多ければ負けないだろうとでも言うその様子は、逆に哀れみさえ覚えるようで、連琥が緩やかに息を吐くと、御簾丸は少女達に家に入って待っているようにと告げ。
「おにーちゃんーまた怖い人たち来たよー」
 少女達が言えば、まさしく飛び出してくる加賀美にゆったりと出てくる京一朗。
 直前まで中で流水・天堂と話し合っていた2人、特に加賀美は少女達が泣きながらどんな風に脅されたのかと話したのを思い出し、まさに怒り心頭と言った様子。
「性懲りも何も、盗んだもんをとっとと返せと言いに来る、それの何処が悪いんだ、なぁ?」
 1人が言って仲間を振り返れば、そうだと囃し立てつつ足を踏み出そうとする破落戸達ですが‥‥。
「ぎゃぁっ!?」
「どれほど強いのかは知らんが、まぁ鼻血の一つや二つ覚悟してもらうか」
 連琥が問答無用に一歩足を踏み出すと破落戸が悲鳴を上げるのはほぼ同時。
 吹き飛ばされて腹を押さえて悶絶する男に軽く突き出しただけと言う様子の腕をゆっくりと戻しながら言う連琥に殺気立つ男達。
「聞いたぞ。期限を切っておいてわざわざ出向くとは、余程暇なようだ」
「何ぃ? もう勘弁ならねぇ!」
 匕首を手に喚きながら突きかかる男の手を簡単に掴んで捻り上げれば、直ぐに匕首を取り落として泣き声を上げ、緩く笑った京一朗は突き放すように男を離せば、直ぐ側では回り込もうとした男を殴り倒す加賀美の姿が。
「期限にはきっちり返してやろう。其れまでは楽しませて貰わないとな‥‥」
 そう言った京一朗が袂からなにやら小さな布の包みをちらりと見せて笑えば、笑いが引っ込む男達。
「お‥‥覚えていやがれっ!」
「幸いにも近頃物覚えが激しくてな」
 捨て台詞に低く笑って言う連琥。
「おにーちゃんたち、だいじょうぶ?」
 恐る恐ると言ったように顔を覗かせる妹をだっこしてやりながら大丈夫だよ、と笑って安心させると、じりじりと逃げに入る男達を見る御簾丸。
 男達は余程頭に来たのか大声で意味不明の言葉を喚きながら駆け去っていくのでした。

●業
 襤褸い打ち棄てられた江戸郊外の屋敷、その床下に潜む人間が2人。
「‥‥」
「‥‥」
 流水と天堂が耳を澄ませば聞こえる怒声、床の隙間から見れば、なにやらきらりと光る小さな物を手に、すっかりと騙されたと喚いているところを見れば、幾つか確認をして目を付けた物のよう。
「あれは根付けだな。異国の石が埋め込まれている為、珍しくはあるが、たいした値打ちの物でもない」
「‥‥あれならすり替えるのに打って付けの物を見たことがある。確認をしたんだ、包んでしまえばもう一度確かめるようなこともしないだろう‥‥」
 少し離れてから流水が言えば、僅かに目を細めて呟くように言う天堂。
「では、手筈通り今夜確認、そして明日の夜に‥‥」
「あぁ、此方は物を用意する、そちらは報告を‥‥」
 そう言うが早いか、床下から消える2人、それに床の上の男達は気付くことなど無いのでした。
「そうか、医者に掛かっているか‥‥見込みはどうだ?」
 報告のためにとある茶屋に出向いた流水は、少しは余生を引き延ばせるのではということ、そして人に移る病ではない事が分かったなどと言う話を聞いて、口元に僅かに笑みを浮かべて頷きます。
「何卒、宜しく‥‥娘のこと、宜しく‥‥」
 拝むように頭を下げる老人に頷いて席を離れれば、露骨に眉を潜めて周りにこれ見よがしに声を上げて老人を非難する数人の男女。
「金貸しが、あの血も涙もねぇ奴に取り立て食らって、どんなにか俺らの暮らしが苦しかったことか」
「とっととくたばって、あたしらから巻き上げたおぜぜを返して貰いたいもんだね」
 吐き捨てるように嘲笑うように、身体を押さえてのろのろと出て行く老人へとぶつけられる言葉に眉を寄せる流水。
「取り立てはしたのだろう。‥‥しかし、助けてくれたのも、あの老人だったのではないのか?」
「なんだと?」
「決して暴利でもなく、誰も手を差し出してくれなかったときに、貸してくれたのは爺さんだけだったんじゃないのか?」
 流水が窘めるように言えば立ち上がりかける男を、流水との情報交換にやってきた御簾丸が押し留め、やんわりと言えば、気不味い顔で顔を見合わせる男達。
「金を借りるほど苦しんでいたのに、今じゃすっかり返し終わって普通にそうして暮らして居るんだ、助けられただろう?」
「それは‥‥」
 言われて言葉に詰まる人々。
「それでそんな風に言われていたら、浮かばれないだろうな」
 流水は言うと御簾丸と席に着き話し始めれば、御簾丸はこんな時に頼ってはいけないのだろうけれど、と言いながら、父親がこんな時にいたら、と困ったように溜息を吐いていた様子を話し。
「では、脈はあるようだな」
 言うと、流水は明日の夜にと伝えて立ち上がると、ゆっくりとその店を後にするのでした。
「さてと‥‥今日が約束の期限だ、とっとと返して貰おうか」
 なにやら浪人まで引き連れぞろぞろとやってきた男達、じろりと京一朗を睨むのは先日物があるかのように振る舞った事に対しての含む部分らしく。
「良いだろう、確かにその品であることを確認するが良い」
 そう言って袂から取り出した布を開けば、きらりと小さく光る石がはめ込まれた小さな根付けが姿を現し、さっと表情を変える破落戸達、一番偉そうにしている男が懐から布の包みを取り出して慌てて開ければ、そこには似たような大きさの拙い出来の根付けがころんと入っており。
「手前ぇ‥‥盗みゃがったなっ!!」
「何を言っている、あの女の亭主が盗んだ物を返せと言っていたのだろう?」
「違うっ、手前ぇらが、盗みやがっただろうって言ってるんでぃっ!」
「‥‥俺達が盗みを?」
 血相を変えて言う男に仕方がないとばかりに笑って肩を竦める京一朗。
「其れは無理だろう、本物を持たない相手から『本物』は盗めんよ」
「なっ‥‥」
「これ以上の無体はお前さんらの為にもならんぜ?」
 顔を真っ赤にしてぷるぷる肩を震わせる男に、宥めようとする御簾丸ですが、そこへぬと出て来る浪人崩れの壮年男性。
「まんまと遣られたな。此度は楽が出来ると思って追ったが、とんだ間抜けよ」
 言って刀に手をかける壮年、他の2人の浪人も前に出れば剣を抜き様に斬り付ける男の刀を受け流すと斬り返す京一朗の刃を辛うじてかわし間合いを取る男。
「血を望む者よ、御仏の慈悲と思え!」
 連琥の繰り出す爪の連撃に気を取られた瞬間、1人の浪人の身体が軽やかに宙を舞い何が起きたかも分からぬ儘に突きつけられる爪に息を飲み。
「ぐだぐだぐだぐだとっ! だーっもういい、問答無用でぶっ飛ばす! と、間違ってもみんな殺すなよっ!」
 刀を抜き参戦する加賀美が手近な男の匕首を刀で防ぎ、その首根っこを掴みかかれば、後ろから襲いかかろうとした男を、更にその後ろから殴りつける天堂。
「おい、天堂殺すなよっ!?」
「加賀美という名の阿呆が五月蠅いからな」
「にゃにおぅ!? お前だったらやりかねねーから言ってるんだ!」
 何やら仲良くじゃれてでもいるかのように言い合いながら破落戸を殴り倒す2人。
「畜生、あのアマ‥‥」
 長屋の方へと歩を進めようという男達の前には厳しい表情で立ちはだかる流水と御簾丸が。
「これ以上あの女性や子供達に無体な真似はさせないぜ」
「‥‥もう引き時だと、分からぬものでもないだろうに」
「くっ‥‥」
 既に残りも僅か、身を翻して散り散りに逃げる男達を見送り、叩き伏せ、気を失わせた者達を引っ括ると、流水が役人を呼びに走り、老人の娘が目に涙を浮かべつつ、一同に礼を言うのでした。

●絆
「じゃあ、奴らのねぐらも?」
「あぁ、水上が番所に投げ文を放り込んでいたからな、待ち構えられて一網打尽だろう」
 興味がなさそうに言う天堂に、良かったーと笑って頷く加賀美、その膝を妹が掴んですーすー眠っていたり。
 騒ぎが収まっても、お姉さんだからと母親と妹のまえで気丈に我慢していた姉は御簾丸の袖をぎゅっと掴みながらどこかほっとしたように俯いていたり。
「あの、皆さん、本当に有難うございました‥‥その、いつか、必ずお礼を‥‥」
 そう言いかける娘の言葉に顔を見合わす京一朗と連琥。
「実は、既に依頼料は貰って居るのだ」
 その言葉に驚いたように2人の顔を交互に見る女性。
 そこへ戻ってきた流水。
「余計なことをしたとは思っているが、な‥‥」
 そう言いながら渋る様子の老人を部屋へと押し入れると、女性の驚いた表情に見る見る止めに浮かぶ涙。
「‥‥お父、さん‥‥?」
「‥‥‥こんな汚い年寄りで、申し訳ねぇ‥‥今頃、ちゃんだなんて、そんな、勝手なこと‥‥」
 言いかけてさがりかける老人へと駆け寄って、その前で膝を突いておいおいと泣き出す女性。
「やっぱり、本当のおとっつぁんは私にいたんだ‥‥助けて、助けてくれたんだ‥‥」
 戸惑うように一行を見回す老人。
「1度きりの人生だ、悔いを残していくもんじゃないぜ」
「爺さん、最期ぐらい娘さんに看取ってもらうのも悪くないぞ」
 御簾丸と連琥の言葉にすっかりと赤子に返ってしまったかのような顔に涙を浮かべて頷く老人。
「‥‥‥‥‥俺もそのうち親父に会いに行くかな」
 抱き合っておいおい泣き合う父娘の様子を、加賀美は小さく呟いて眺めているのでした。