要領の得ない話

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2006年09月27日

●オープニング

「そっ、その、私、とある伝手と申しますか同じ人に学問を師事した兄弟子様に相談しに行ったところ、その、ギルドと申すところへ金を持っていけば話を聞いて貰えると、こう、言われまして」
 落ち着きなくギルドの中を見回すのは、20代半ばの少し丸く人の良さそうな武家の男性。
「まぁ、お金をお持ちいただければ、依頼という形でお受けできる物はしますが‥‥」
「は、は‥‥左様で、で、ではお話を聞いていただけるのに、まずおいくら‥‥」
「いや、相談料を払わないと話が出来ないとか別にないですから、まずはどういった御用件で、どういった状態で、どういう仕事をするか、簡潔にわかりやすくお願いします」
「‥‥‥‥あ、は、はい‥‥」
 言ってから頷いて、今度はじっと手元を見つめる男性。
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥あのー‥‥」
「は、何でしょう、今、頭の中で整理しているのでお待ちいただきたく」
「‥‥簡潔でなくて良いです‥‥」
 泣きたいような表情で溜息をつく受付の青年。
 男性が話し始めた内容を纏めてみれば、どうもこの男性、こう見えて熟考を重ねたこととなるとなかなか、先見の明があると人に言われるほどだそう。
 兄弟子には『黙らせて出世の方法を考えさせれば、数通りの方法を事細かに書き付けてにこにこしながら持ってくる』と学問を習っている時分に褒めて貰ったとか、恐ろしい人間をうっかり敵に回しかけた場合の対処法とか、不祥事を隠すにはとか、重宝がられていると胸を張り。
「あの、後ろの二つが妙に具体的なんですが‥‥」
「は、は、左様で。比較的最近、三日間それだけ考えて結論を出せ、と、三日も考える時間を頂きまして‥‥どちらも幸いにしてお役に立てましたようで」
「あー‥‥その、兄弟子自慢はその辺で。ご本人が来たら何だか色々面倒そう‥‥いやいや、本題に入りませんか?」
「あ、はい。それで、私学問を修め、身を立てようとも致しましたが、如何せんこの性格‥‥そこに、商家に婿に入りお店をより良くしていって貰いたいと、は、は、嬉しいことにこう申される方がおりまして‥‥その、そこの一人娘も良く気の利く、大人しい方で」
「意外な‥‥いえいえ、それにしても、お目出度い良い話ではないですか」
「なのですが、その、そんな話があった直後から、妙な男に、は、つけ回されているような気が致しまして、は」
「‥‥気のせいじゃ?」
「いえいえ、一応兄弟子様にこってりと絞られまして、何とか、人に付けられていることぐらいは『そんなことでは闇討ちにあってあっさり死ぬぞ』とこう、とても心配下さいまして、は、有難いことで」
「‥‥」
 何やら可哀相な人を見るかのように、妙に優しい笑みを浮かべて話を聞く受付の青年。
「つまり、婿入りの話が決まりかけたところを付け狙う男がいて、身の危険を感じた、だからそれを調べて助けて欲しい、と?」
「えっ! 何で知っているのですか、私が頼みたかったことを!?」
「あぁ、それで良いです、もう。では、調査と護衛も兼ねた方が良いでしょうか?」
「はい、私、荒事は結局全く身に付かなかったものでして、はい」
「‥‥」
 どこか沈痛な面持ちで受付の青年は、依頼書へと目を落とすのでした。

●今回の参加者

 eb0466 穂村 猛(31歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 eb2755 羅刹王 修羅(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb6832 川上 幽座(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 鷹野 翼(ea9115)/ 眞薙 京一朗(eb2408)/ 高城 優季(eb3404)/ 猪神 乱雪(eb5421

●リプレイ本文

●依頼人
「ああ言う連中は、それこそ簀巻きにして川に流す‥‥」
「流石にそれは死んじまうだろう。役人に突き出す辺りが無難なんじゃねーの?」
 刈萱菫(eb5761)が言えば、加賀美祐基(eb5402)が流石に殺すまでは、と言うと首を傾げ。
「つーか、まあ、調査の前にとりあえず茶でも飲みながら落ち着いて状況説明してもらえねえか?」
「婿入りの話が上がると同時に何者かに付け狙われる‥‥となりますと、原因は彼では無くお店絡みかも知れませんね」
 色々な事を想定していた方が柔軟に対処できますよ、と加賀美の言葉に頷きながら城山瑚月(eb3736)が言い。
「ようはおっちゃんを守ればいいんだよね?」
 各自の役割を確認しつつ穂村猛(eb0466)があっけらかんと尋ねれば、どこか寂しそうな依頼人。
「お、おっちゃんと言いましても、私、まだそれなりに若いつもりで、はい」
「まぁまぁおっちゃん、まかしとけって」
「妾は護衛か‥‥まぁ楽しくやるとするかのぅ」
 なんだか楽しそうな遣り取りをしている穂村と依頼人を見やりつつ、のんびりと良質な茶をのんびりと飲み、ほうと息をつく羅刹王修羅(eb2755)。
「皆が護衛をやってくれるようだ、安心して任せよう。それにしても、自分の私利私欲のために人の幸せを踏みにじる輩‥‥私はそういう輩は許せん」
 李連琥(eb2872)がきっと鋭い目をして言えば、川上幽座(eb6832)がちらりと目を向け。
「‥‥成敗してくれる」
「じゃあ、俺と勝負しようぜ。俺とお前、どっちが先に依頼主を狙う男を斬れるかを」
 着流しで浪人を装っていた連琥が決意を込めて呟けば、それを聞き留めどこか挑発するようににやりと笑えば、連琥は首を振り。
「こういうものは勝負などではない」
 気を落ち着けるためか緩やかに息をつきながら言う連琥に、つまんねぇの、と肩を竦める幽座。
「とにかくっ、他人の幸せを汚すような奴は許さねぇっ!」
「まぁ、依頼人おの幸せについてはどうでも良い。とにかくとっとと仕事を終わらせよう」
 がうーと気勢を上げる加賀美に、天堂蒼紫(eb5401)は仕方がないとばかりに息を吐いて加賀美を見やるのでした。

●付けねらう男達
「御店の内部では、彼がいなくなっても得する人はいない、ですか‥‥」
「ええ、少なくともわたくしの知る限りでは‥‥」
 依頼人が婿に入る事となった御店、城山がそこの主人と娘さんに会えば、娘さんは頬に手を当てて考え込むようにしながら答えます。
「手前どもの店の者は皆それぞれが良縁に恵まれまして‥‥独り身なのは一年ほど前から預かっております丁稚のみで、あれはまだ12の子供。店の中に疑わしくはないと思います」
 御店の主人も人の良さそうな顔に困惑を浮かべて答え。
「ふむ‥‥」
 少し考え込む城山。
「そうか、分かった。可能性が一つ消えただけでも良しとしよう」
「はい、なにとぞ、婿殿のことを宜しくお願い致します」
 深々と頭を下げる主人に、嬉しそうに頬を染めて同じく頭を下げる娘さん。
 二人に見送られ、城山はお店を後にするのでした。
「や、それは言いがかりである。これでも私はれっきとした浪人だ」
 胸を張り、ぴんと背筋の伸びた連琥が言うと、酒場の男達は何とも言えない表情を浮かべて目を見合わせました。
「いや、だって、なぁ‥‥」
 破落戸を着流しで装ってはいるのですが、見た目に既にきっちりとした様子の連琥に何とはなしに違うものを感じ取っていたのでしょう、不思議そうに首を捻りつつも頷いて、時折連琥をちらちらと眺めながら話を再開します。
「それにしても、あの旦那、女に袖にされて金も女もぱぁってんで、偉く怒ってやしたねぇ」
「あぁ、金がある御店の一人娘だ、そりゃ、なぁ」
「でも、殺してやるとか言ってましたよ。相手も女も生かしちゃおけねぇって‥‥あの人こういう事に見境無いし、取り巻き連中も何しでかすかわからねぇ‥‥」
 声を潜めつつ言う辺り、その辺のちんぴらや破落戸も脅しつけられているのかあまりおおっぴらに話したくない様子。
「でも、十かそこいらでだっと押しかけてきて、だっと逃げられたら‥‥」
 1人がそこまで言って目を落とすと沈黙する男達。
「冗談じゃねぇ、彼奴らますますつけあがってひでぇ目に遭うんじゃねぇのか?」
 浪人とその取り巻きの評判は悪いなどというものではないそうなのですが、御店以外での心当たりとして娘さんが上げた浪人は、見た目はすっきりとした目元の若い浪人者で、大人しそうに見えていたとか。
 おおよその話を聞いたと判断した連琥は立ち上がると勘定を払い、聞いた言葉を小さく呟いてから、急ぎ御店の方へと歩を進めるのでした。

●長閑な待ち時間
「はぁ、旨そうだけど、おっちゃんはこっち食べないの?」
「は、私はあまり御馳走と呼ばれる類は執着いたしませんので、いえ、美味しい物は美味しいと、は、その辺は心得ておりますが、あえて選ぶものでもないかと思い、はい」
 食事の膳が出されれば、家と付き合いのある料理人が届けてくれるそうなので一行の前には手の込んだ江戸の料理人の粋とでも言いますか、目にも色彩鮮やかで贅をこらしたものが並びます。
 ですが、依頼人の前にはなぜか質素に玄米と一菜一汁、それに香の物と梅干しが添えられているだけ。
「は、私にはこれが一番でして、はい」
「しかし、茶にはこだわっておると見受けるがのぅ」
 膳に添えられた茶碗を手に取り顔へと近づけその香りを楽しむ修羅に、どこか嬉しそうに頷く依頼人。
「茶の香りは心和ませ、穏やかに物思いにふけることが出来るようになりますもので、はい」
「ほんに良い茶よのぅ‥‥」
「宜しければ、お茶のお代わりはいかがです?」
 見ればすっかり髪を一つに結い上げ、仕立ての良い袷に袴の若衆のような出で立ちで細々とした手伝いをしていた菫は、少し慣れない様子でぎこちなくお手伝いを続けています。
 兄弟子と相談し、妹弟子としてついて行くとなると、武家の女だてらに学問習いに行くのならば男姿ならばまだ通ろうとのことで、男装する羽目になるとは思わなかったのか菫本人も少々勝手が違うよう。
 何はともあれなんだかんだで英気を養うと言おうか、のんびりした様子で時間は経っていきますが、そんな中、落ち着かなげに椰子この周りをうろうろしている加賀美と、庭でなにやら苛ついたように時折素振りをする幽座の姿が。
 まだ時間はあるものの、一番の手柄を絶対に取るぞと言う意思の表れか。
「ち、へらへらと平和ぼけして‥‥」
 そう言いながらもどこか目に羨望にも似た色を移して依頼人を見ると、幽座は再び素振りを繰り返し。
「べ、べつに学者肌の奴と一緒だと疲れるからじゃないぞ! 羅刹王さんの案に則っているだけだからな!」
 自分自身へと言い訳をしながら屋敷の付近に二階に上がって目と配ったり、塀から辺りを確認したり、加賀美も襲撃が来るまでの時間の、依頼人のそわそわせかせかした様子が気になるのかなにやら落ち着かないよう。
「それにしても、天堂の奴どうしてるんだか‥‥」
 なにやら珍しく疲れたように呟く加賀美は、と視線を感じ立ち止まると辺りを見渡しますが、特に何かを見つけることもなく、直ぐにその無くなったため、屋敷内へと戻っていくのでした。

●襲撃
「あの莫迦‥‥」
 小さく溜息を吐く天堂と、天堂の先を行く城山。
 2人は噂の浪人が依頼人の家を張っている所を漸くに見つけて後を追っていたのですが、さっぱり気付く様子もなく普通に屋敷に戻っていった加賀美をらしいと思いつつ肩を竦めていたのでした。
「ん‥‥?」
 ふと見れば、上手く付かず離れずに後を追っていた城山は一瞬浪人が自分を見た気がしてそのまま横を会釈して通り抜け。
 再び歩き出す浪人を今度は天堂が追い始めれば、少しして自分を尾け始める城山の気配。
「‥‥ここ、ですね」
「そのようだな‥‥」
 やがて着くのは郊外にある百姓屋、そこに浪人は入っていくと、暫く様子を窺い出てくることがないのに城山と天堂は頷き。
 小さい小屋のため見とがめられるのも困るため小屋自体を張っていると、徐々に夕刻から夜に移りゆく間に、ちらほらと破落戸達が集まってきて。
 すっかり辺りが暗くなった頃、じりじりと動きを探るために近づく天堂と城山。
「くそっ、なんだ、あの坊主はっ!? あんなの居るなんて聞いちゃいませんぜっ!?」
「坊主だ? あの御店にはそんな輩はおらんかったぞ」
 きぃきぃ騒ぐ男に怪訝そうな声。
 聞こえてくる会話の内容では、どうやら破落戸に御店を襲わせようとしたところ、入り口で茶を飲みながら控えていた異国風の坊主に叩きのめされた、とか。
「!」
 城山がちらりと天堂を見れば誰のことか理解し頷く天堂。
「まぁいい。お前ら、今日の酒はほどほどにしておけよ。寝静まる頃を見計らって、腰抜け侍の家に火ぃつけてやれ」
「旦那ぁ、そりゃ、ばれたら不味いですぜ」
「なぁに、火を出したのは侍だ、なぁ? おまえら?」
 男の言葉に城山が天堂を見れば、素早く小屋から音もなく離れると、風のように走り去る天堂。
「‥‥あの様な人達の思い通りにはさせません‥‥!」
 未だ癒えきれない大火の傷跡を抉るかのような言葉の数々に、小屋から離れ出入り口を見張りやすい位置まで引くと、城山は息を潜めて小屋をじっと監視し続けるのでした。
 人の寝静まった頃、小屋からわさわさと出てくる男達。
「いいか、まずは火ぃつけて、出てきた奴はみんなやっちまえ。1人も生かしておくな」
 低く言うと先頭に立ち小走りに屋敷へと向かう男達。
 屋敷は静まりかえっており、いそいそと火を布に付け油の竹筒を手にした破落戸の1人が、突然つんのめるように滑り込んで。
「お前らみたいな奴らは絶対許さないっ! その腐った性根を叩きなおしてやるぜ!」
 後ろから問答無用で蹴り倒すと、匕首を手に振り向いた男の手に振り下ろされる青黒い刃と、砕け散る匕首。
「相手の頭を仕留めるのは俺だっ!」
 屋敷の方から飛び込んでくる幽座は、まるで加賀美に抜け駆けをするなとでも言わんばかりに、荒削りな太刀筋でがむしゃらに打って出て。
「流石にこの屋敷を燃やされると路頭に迷う人たちも居るんです」
 溜息を吐いて出てくる依頼人を守るように立つ菫と修羅。
「指一本触れさせませんよ」
 その優しげな微笑みが夜の闇の中冷たく浮かべば、突っかかってくる男を簡単にいなして修羅が脇差しの峰で、手加減無しの一撃を叩き込み。
「流石にそこいらのごろつき如きには負けんよ」
 微笑を浮かべ言う言葉、すと小さく息を吐くとその金色の瞳を輝かせて艶然と笑い。
「だが‥‥悪党に手加減する道理はないっ!」
 踏み込んで更に加減無しの一撃を叩き込まれて地に沈む破落戸は、きっといっそ殺してくれと思ったことでしょう。
「さーってと、一丁やるだけやったらどれか当たるだろうしっと」
 なにやらとんでもないことを言いながら、穂村の振り抜かれる刀に必死で受け流し、避ける破落戸達。
「こらこら、ここまで来て逃げるなんて許しませんよ」
 退がりかける破落戸がそのまま崩れ落ちれば、そこには厳しい表情で男達を見る城山。
「あ、おい、天堂っ!」
「安心しろ、誰かさんが五月蠅い所為で殺しちゃ居ない」
 加賀美の後ろに回った破落戸を天堂が打ち倒せば、圧倒的に不利になり刀に手をかけたまま、じりじり場所を移す浪人。
「っ!!」
 と、振り抜かれる爪をぎりぎり刀で受けて飛び退る浪人、そこに立っていたのは連琥。
「いまだ修行中の身だが、お相手いたそう」
 きっと睨み付けて構える連琥に下がる男、二、三歩打ち込まれる爪を受け流して下がる浪人に迫る刃。
「っ!!」
「お、当たったラッキー」
 穂村が上げる声、背後が空いていたので斬りつけたのだろう、膝を突くも身体を翻そうとした浪人。
「さてさて、では役所にでも引き渡すとしようか〜♪」
 更に刀を手に逃げ出そうとする浪人ですが、結局の所あっという間に他の者達に捕まえられたのでした。

●それぞれの幸せ
「とても良く似合いますよ」
 微笑を浮かべる菫に、娘さんは頬を染めてはにかんで笑い目を伏せます。
 全員が臑に傷を持つ者達ばかりだったので、他にもやった悪事が次々と明らかになりました。
 浪人を斬れずに酷く悔しがった幽座に、案外冷静に綱を持ってこさせて役人を呼んだりと、一通り事件も何とか解決したよう。
「これで障害は去った‥‥お幸せにな」
 微笑を浮かべた修羅が『いつかは私も姉と‥‥』と呟いた修羅に遠い目をしながら頷く依頼人。
「まあ、これから一家の主になって家や嫁さんを護らなきゃいけないんだから、少しは肝を据わらせないと」
「は、善処します」
「‥‥というか、むしろお前が言うな」
 加賀美が依頼人へと声をかければ、依頼人は頷くと、笑ってそれぞれにもう一度礼を言うのでした。