夕涼み

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月05日〜08月10日

リプレイ公開日:2004年08月13日

●オープニング

 日も陰り、涼しくなってきた頃、その老夫婦はやって来ました。
 年の頃は70辺りの、穏和で‥‥言ってしまえばお人好しそうな雰囲気の老夫婦です。
「わたくしども夫婦は別邸を持っておりましてな。年に一度、そちらへと伺って2、3日のんびりとすることにしておるのですよ」
 人の良さそうな笑みで傍らの老婦人へと微笑みかける依頼人。その様子は、長年連れ添ってきた夫婦特有の雰囲気を醸し出し、見ていて心が和みます。
「しかし、今年また行こうとなりましたところ、どうも途中で怖い御仁が数名、道を塞いで通してもらえんのです。通行料を払えと言われ、刀をちらつかされたこともあり、結構な額をお支払いしました。しかし‥‥」
 そう言うと、老夫婦は溜息混じりに目を落とします。
「わたくしどもの老後の蓄えがそれなりにあると踏んでか『もっと出せ』『家に行って奪い取っても良いのだぞ』と‥‥お金を持っていく約束をして、何とか逃れて参りましたが‥‥」
 話を聞くと、別邸のある村までは1日ほど。そこへ向かう、なだらかな道で、数名の男達が通せんぼをしている、とのことらしいです。見た感じ、腕の立ちそうなのは3人ほど。それに何人か下っ端が付いているような様子らしいです。
 そう言うと、依頼人は老婦人を気遣うように見ながら言います。
「家内は足を悪くしておりまして、あの道以外通れぬのです。毎年、あそこでのんびりと夕焼けを見ながら涼を取るのが、わたくしども夫婦の、何よりの楽しみで‥‥」
 そう言うと、老夫婦は深々と頭を下げます。
「お願い致します、旅の護衛をしてもらえんでしょうか?」

●今回の参加者

 ea0608 狩多 菫(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1001 鬼頭 烈(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2139 ルナ・フィリース(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3096 夜十字 琴(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea4162 フィール・ヴァンスレット(30歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

●街道のろくでなし
「安心してください、必ず御二方を村まで御守りしますよ」
 そう微笑みながら言うルナ・フィリース(ea2139)に、老夫婦の顔が綻びました。老婦人は佐上瑞紀(ea2001)の愛馬・野裟斗に乗せて貰い、その傍らで依頼人の方は気遣いながらも、楽しそうに皆さんと話しをしています。
「お婆ちゃん大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫ですよ。とても気持ちが良くて、疲れなど吹き飛んでしまいますからね」
 老婦人の側で狩多菫(ea0608)が聞くのに微笑みながら頷く老婦人。老婦人は時折一番最後をちょこちょこと着いて歩く夜十字琴(ea3096)のことを気にかけて様子を見るために振り返ります。小さく可愛らしい声で歌っている琴ですが、ぽてっと転んでしまい、じわっと目に涙を溜めるのに気がついて、月代憐慈(ea2630)が手を貸して立たせて上げると、依頼人が琴に手招きをしました。
「家内も琴ちゃんもそんなに重くはないですし、一緒に乗せてあげて良いですか?」
「ええ、構わないわよ」
 瑞紀に依頼人が聞くと、瑞紀は頷きそう答えます。琴を前へと乗せてにこにこと、優しい穏やかな表情で微笑む老婦人。
「なんだか何年か振りに孫達に囲まれているみたいで良いですねぇ」
「そうだの、こんなに楽しい旅は久し振りだ」
 そう嬉しそうに言う老夫婦は、前を歩く3人へと目を向けます。
 辺りを警戒しつつ先に進むフィール・ヴァンスレット(ea4162)と氷川玲(ea2988)の後を時折後の老夫婦達と言葉を交わしながら鬼頭烈(ea1001)が続きます。
「自分より明らかに弱いと思える相手に対しわざわざ徒党を組んで搾れるところまで搾り取ろうというそんな魂胆が果てしなく気に食わん」
「全くだ」
 玲が不機嫌そうに言うのに、鬼頭が頷いています。フィールは先ほどから辺りの様子を窺っています。そろそろ問題の地点へとさしかかると一行は老夫婦の護衛に菫・月代・琴が少し下がった位置で留まり、殲滅隊が問題の地点へとゆっくりと近づいていきます。
「お‥‥お爺ちゃん、お婆ちゃん、あ、安心してください! 琴がお守りしますから!」
 琴の言葉に、老婦人は琴の頭を撫で撫でと撫でています。
 それに気がついたのはフィールと玲でした。街道の言われた地点に柄の悪そうな男が4、5人たむろしています。2人はその脇の林にも数名が一行を見ているのに気がつくと、すぐに他の者に伝えます。
 相手がこちらに気がついて立ち上がるのに、フィールがびしっと指を突きつけ手口を開きました。
「君達だね? この老人夫婦の楽しみ奪ったのは!? 正義の乙女としては見逃せない行動なんだよっ! さしあたってここで君達に選択させてあげる♪ 一つ、僕達にのされるか。二つ、平謝りしながらのされるか。三つ、あの怒り狂う番犬・玲さんにのされるかっ! さ、選べっ☆」
「あぁ? 何言ってやがんだ、この餓鬼」
「‥‥玲さん、やっちゃえっ☆」
「番犬でも狂犬でも何でも構わん、俺はテメェらが大嫌いだ。奪う立場だったなら奪われる感覚を叩き込んでやる、他人にやったことは必ず自分に戻ってくることを思い知れ」
 フィールの言葉にそう答える玲。敵はと言うと隠れていた男達がぞろぞろと出てきます。
「あなた達ね‥‥やってる事が小鬼とかと同等な低俗な人達って。覚悟しなさい‥‥ただじゃ済まさないわよ」
 瑞紀の言葉にかっとした様子で男達は得物を構えます。次の瞬間、戦いの火はきっておとされます。正面の敵の中へと踊り出ると瑞紀とルナは敵へとソードボンバーを叩き付けます。錐揉み状態で吹き飛ぶザコに、攻撃を耐えきった残された3人の男に鬼頭と玲が向かい、1人が組みしやすいと思ったのか突破して依頼人の方へと向かおうとします。
 それを迎え撃つように月代と菫が立ちはだかります。
 刀を持った1人へと鬼頭がスマッシュで打ち込み、倒れこむところにすかさず槍を首筋に突きつけます。
 玲の方はと言いますと、玲が打ち込んでこないのに焦れた男が斬りつけてくるのに意図もたやすく身体をずらして避けると相手へと一気に間合いを詰め、足の腱を斬りつけます。倒れこみ悶絶する男を踏みつけると、皆で手分けして倒れている男達を纏めて括って、その間に玲は男から刀や財布などを取り上げていました。

●長閑な村
 その村は、本当に長閑な所でした。別宅を管理している男性が出迎えてくれて、早速一同はゆっくりと休むことにしました。
 朝になると、玲は早速出かけていきました。
 瑞紀は老婦人へと手を貸して食事やお菓子を作ったりと家事を手伝っています。
「お茶でもどうですか? お菓子もありますよ」
 そう言って老婦人が一行をもてなします。そうしているときの婦人は本当に楽しそうに微笑んでいます。庭の大きな木下で、のんびりと休んでいる鬼頭に、ちょこちょことお盆を手に琴がお茶とお菓子を運んでいく光景が見られます。
 フィールは月代と散歩に出かけていました。川へとさしかかるとそこで魚を捕まえている玲に気がついて笑いながら声をかけていました。
 夕刻になると、魚の焼ける良い匂いがしてきます。
 縁側では菫がじわっとしているのに、ルナが隣へと腰を下ろしてそんな菫の様子を見ています。
 夕食には、玲の捕った鮎が食卓に並べられ、なんだか和やかな雰囲気のまま、一日が終わっていきます。
 2日目の朝、玲は起き抜けに顔に違和感を感じて触ると、なにやら墨が付くのにすぐに顔を洗いに出ると、物騒な笑顔を浮かべながら月代を探します。フィールとのほほんと話をしていた月代は、後から蹴り倒されて慌てて振り返ると、物騒な光を目に宿した玲が笑いながら立っています。
 長閑な、どこに出もありそうな朝の光景ですね。
 河原に夜行くと綺麗な物が見られると聞いて、フィールは最終日に行こうと月代を誘うと、くつろいでいる玲の懐へと潜り込もうとして、猫のように丸まってぬくぬくしています。
 厩で馬の世話をしていた瑞紀は、依頼人が顔を覗かせて、許可を取ってから野裟斗の首筋を撫でてやり、笑います。
「良い馬ですなぁ、本当に」
 そう言って笑うと、瑞紀と並んで馬の世話をするのでした。

●最終日
 その日は村での最後の日と言うこともあり、なんだか少し感傷的な気分になるような、そんな日でした。
 夕方までのんびりと、各々が話したり、休んだりしています。寝っ転がって昼寝などをしたり、茶を飲みながら景色を眺めたり、何とも言えないまったりとした時間が流れていきます。
 夕焼けが辺りを黄昏に染め抜くと、村の中では、老夫婦がのんびりと散歩をしている姿を見ることが出来ます。
 その様子は、本当に幸せそうで、見ていて心が和む光景でした。
 夜、何人かは河原へと向かい、辺り一面に飛び交う蛍を見ています。
 そんな中で、月代とフィールは少し離れた場所へと移動すると、フィールは手に停まる蛍へと目を落とすと微笑みながら口を開きます。
「ジャパンに来てよかったよ、憐慈さんと出会えたから♪」
 そう言うフィールを、月代はどこか優しい面持ちで見守っているのでした。

●江戸へと戻って‥‥
 帰りの行程は、本当に何も起きないまま平穏無事に終わりました。
 老夫婦を家まで送ると、何度も何度も感謝をしながら別れを惜しんでいます。
「久々に、孫達と出かけたような、そんな気がしました。皆様、本当に有り難うございます」
 そう頭を下げる老夫婦。立ち去る一行を、姿が見えなくなるまで、いつまでも屋敷の前で見送っているのでした。