【凶賊盗賊改方】迷い道

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 19 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月16日〜09月21日

リプレイ公開日:2006年09月28日

●オープニング

 その日、受付の青年がギルドの入り口を掃き清めていると、そこにふらりとやってきたのは凶賊盗賊改方の同心、木下忠次。
「あれ、どうしたんですか?」
「あぁ、いや‥‥実は、ちょっと気になることがあってなぁ‥‥」
 困ったような顔でいう忠次、まだどこか釈然としないような表情で首をかしげる忠次に怪訝そうに見る受付の青年。
「で、どうしたんですか?」
「んむむ‥‥まぁ、気になることは調べた方が良いな。よし、奥で話そう」
 思いついたが早いかギルドの中へと入っていく忠次に慌てて自身も中へと入ると向かいに腰を下ろして受付の青年が依頼書を手に軽く首を傾げれば、懐から布に包まれた饅頭の山をでんと置いて進めつつ話し始めます。
「それでな、むぐむぐ、実はちと今日は非番で白粉の匂いでもーなんて足が向いた、花街のまっただ中で‥‥むぐ、そこで気になる者を、見かけて‥‥はむはむ‥‥」
「んぐんぐ、はぁ、その、聞く方としてはお饅頭は美味しいのですが、食べながら話すと話が進みませんよ。‥‥む、これはいま評判の‥‥皮と餡の甘さが絶妙ですね」
「むむむ‥‥先に、んぐ、話してしまおう。ちと、道の真ん中を、いい女が歩いておってなぁ、ふくよかなあの体つきが何とも‥‥じゃなく、その女、実はあの大火でてっきり死んだと思っていた女だったのだよ」
「んむ‥‥そりゃ、あれだけの事があったんですから、そう言う勘違いがあっても‥‥いやいや、進みますね、このお饅頭」
「そうだろう、これは大好物で。それでな、なんでそれが気になるかというと、あの女、実は密偵に成り立ての時に大火に巻き込まれたと、改方の人間は皆そう思っていたんだが‥‥」
「でも、密偵になりたてって、下手したら危ないですよね」
 お饅頭を頬張るのを止めてむと眉を寄せる受付の青年に、大きく頷く忠次。
「であろう? 普通は我々に見つかるのも、昔の盗賊仲間に見つかるのも不味い筈なのだが、何も気にする様子もなく、花街を抜けて、その先の茶屋に『ただいま』と入っていってなぁ」
「むぐ‥‥他人のそら似じゃないんですか? あ、もう一つ貰います」
「むぅ‥‥しかし、はむはむ‥‥あの女、私の顔を見て何か首を傾げてたんだよ、それってつまり、私のことを覚えていたのではないかと‥‥んむ、茶も旨いな」
「このお茶は私物でして、ちょっと良いお茶ですよ。しかし、首を傾げたって事は、覚えていないのかも‥‥まぁ、あれですかね、その女性がその密偵本人かどうかを調べるって所でしょうか?」
「あぁ、盗賊仲間に見つかれば‥‥むぐむぐ、命がないであろうからな。なかなか度胸の据わった、いい女だった覚えもあるし、何より凶賊のやり口を酷く嫌ってお頭の為に働くつもりだったのは誰の目から見ても明らかであったし‥‥」
 そう言って饅頭を頬張る忠次を見ながら、受付の青年も考えるように眉を寄せつつ饅頭を頬張っているのでした。

●今回の参加者

 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb4902 ネム・シルファ(27歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb5421 猪神 乱雪(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ミフティア・カレンズ(ea0214)/ 鬼 灯(eb5713

●リプレイ本文

●忠次の話
「受付員さん、依頼書の隅に饅頭のカスがついてるんだけど気のせい?」
「へ‥‥あ、あははは、気のせいですよ、気のせい」
 改方同心・木下忠次からの依頼内容をしっかりと確認するために出して貰った依頼書を手に取ると、怪訝そうに首を傾げるのは光月羽澄(ea2806)。
 羽澄の言葉に笑って誤魔化す受付の青年ですが、却って疑惑が真実であると確定したようで、にっこりと笑みを浮かべる羽澄に思わず固まる青年。
「で、とりあえずその女について知っている事を洗い浚い、関係あるかないかはこっちで判断する、きりきり話せ」
 受付の青年が追及されているのを尻目に蕎麦を啜っていた忠次ですが、ゴールド・ストーム(ea3785)に問い詰められれば、こちらもあれやこれやと頑張って色々と思い出しているようで、当日の様子からその女の事からその日の昼飯から、それこそ関係あるかないか構わずに事細かに話す忠次。
「いや、お前の食ったもんなんか興味はねぇ」
「ええっ、何でもいいから話せとこう‥‥」
「で、その女の名を、通り名でも構まわぬ故、教えて貰えぬのでござるか?」
 磐山岩乃丈(eb3605)が言えば、きょとんとした顔で、ぺちりと自身の額を叩く忠次。
「あ? いや、うっかりしていた、お志津といってな。こう、人目を引くような、決して美女というわけではないのだが、愛らしい顔立ちというか‥‥すっきりとした体つきで、こう、必要な場所はふくよかに、なぁ」
「鼻の下が伸びてますよ、忠次さん」
 仕方がありませんね、とばかりに笑いながら頬に手を当てるネム・シルファ(eb4902)。
「後で皆にうちの人相書描く絵師が今書いているのを回せるように手配しておこう」
 ほう、とすっかり醒めた蕎麦の汁を蕎麦湯で薄めてぺろりと飲み込んでから、忠次は重々しく頷くのでした。

●茶屋の主人の証言
「変わったところは‥‥特にないですねぇ‥‥」
 飛麗華(eb2545)が向かいの茶屋から女が入っていったという茶屋を見れば、忠次から回ってきた絵姿そのままの女が明るい笑顔で客を持て成し、評判は上場のよう。
 何とはなしにお茶を手に見ている範囲では、特に気になる様子もない、その茶屋の主人ので戻り娘か姪っ子か、などと噂になっているとかぐらいの話が耳に入ってくるぐらいで。
「はい、ですのでここで演奏させていただければと思いまして‥‥」
「うーん、うちはそう言うのをする所じゃないからねぇ‥‥」
 小首を傾げて聞くネムに、その女は頬に手を当てて苦笑すると、なにやら考えて込んでいるよう。
「その、行くところもなくて、どうして良いか困ってしまっているんです」
 言うネムに、困ったように眉を寄せて店の奥に顔を上げると声を上げる女性。
「ちょっと爺さん、どうするよ?」
「困っているってぇなら、暫く居ても良いわな」
 見れば奥にいる老齢に近い茶屋の主が煙管を吹かせて笑っていて、それを聞くと肩を竦めて女性は笑います。
「だってさ。良かったじゃないか」
 にと笑いかける女性に頷いて微笑み返し礼を言うネム。
 その時から茶屋に居れば、少しぶっきらぼうなところはあるものの、何かと気を配る女性が不自由ないようにしてくれる中、ネムは茶屋の主人やお客さんに色々と聞けないか試してみるのでした。
「お志津殿」
 花街の中、すれ違ってから振り返り磐山が軽く呼びかけると、一派踏み出した足を止め、辺りをきょろきょろと見回す女性。
 名前に心辺りはある者の、危険な事があるかもなどとはかけらも思っていない様子に、声をかけた磐山は少し渋い顔をして、怪訝そうに首を傾げ傾げ帰って行く女性を目で見送ります。
「これは‥‥少々厄介でござるな‥‥」
 磐山は呟くと急ぎその場を歩き去るのでした。
「へぇ、大火の後から‥‥」
 世間話程度の会話をしながら居れば、どうやら女性は今お蔦と呼ばれているそうで、火事に巻き込まれたときに名前が頭の中から消えてしまってたとか。
「ここの爺さんに助けられてねぇ。何でも腕とかあちこち火傷して燃えてた所を飛び出したんだろうって言われてるんだけどね。浅い川に浸ってた蔦に引っかかってたから、お蔦なんて、爺さんも安直だろう?」
 笑いながらも楽しげに茶屋の片付けや主人の面倒を見るお蔦、昼に仕事に出て行った時に客を装って入っていった磐山は口を開きます。
「先程出て行った女子、前にはたしかおらなんだな。最近雇われたのでござるかな?」
「へぇ、儂の娘のような者なんですがねぇ‥‥」
 言いながら茶と団子を出してくる主人。
 磐山がそれとなく聞き出そうとすれば、老人はその皺だらけの顔に笑みを浮かべてにぃ、と笑います。
「お前さん、お蔦の事を探してたのかい? それに、そっちの異国の娘さんも」
「え‥‥あの‥‥もしかしたらと‥‥」
「火傷と水を沢山飲んだのが原因か、お蔦はなぁんも覚えておらなんでな‥‥居なくなるんは辛ぇが、良い子だ、治るもんなら治して、身内が居るなら返してやりてぇなぁ‥‥」
 煙管を手の中で弄って小さく笑う主人は、お蔦やネムが家にいることが楽しくていつお迎えが来ても良いなぁ、などと笑って付け足すのでした。
「おい、お志津じゃねぇか!」
 手を振って近づくゴールドに、ふと首を傾げて立ち止まるお蔦。
「お志津だろ?」
「それが、あたしの名前なのかい? あんた、あたしを知っているのかい?」
 逆に驚いたように荷を大切に抱えながらもゴールドに尋ねるお蔦。
「っと、人違ぇか、すまねぇな」
 そこを離れていくゴールドを追いかけようとしてから足を止め、思い悩むような表情を浮かべて茶屋へととぼとぼ歩き出すお蔦。
「名前に反応したのか、記憶がないから反応したのかはわからねぇが、見ている限りの身のこなしなら、それなりに使えるんじゃねぇかな」
 お蔦と離れてから立ち去る後ろ姿を見つつ、ゴールドは首を傾げて呟くのでした。

●居漬けの客の言い分
「畜生、何だったんだ、彼奴らは‥‥」
 そう言いながら数人の男達が集まって例の茶屋を張っている姿を、そっと天井裏に潜み聞いているのは羽澄。
 忠次達に話を聞いた後、羽澄は花街で男達の評判を聞こうとしていたところ、花街では既に大騒ぎが起きていました。
「あの野郎ぉっ! どこ行きやがったっ!!」
 怒声が上がるといきなり蹴破られる襖に思わず店の者と一緒に身を引く羽澄。
 見ればなにやら男がその男達を挑発していたようですが、そのどこか不自然さを見せる男が姿を偽っている事に気がつく羽澄が訝しげに見れば、そこに割って入るのが猪神乱雪(eb5421)。
 その隙に人混みに飛び込んでしまう、男に姿を変えていた鬼灯。
 ひっ捕まえようにもそれなりに修羅場を潜った様子の男達が揃って飛び出してきており、通りでは迷惑になるから裏へと誘導しようとしても、血の気が多い男達のこと、素直に話を聞くつもりもついていくつもりもなさそうで。
「ここが何処のシマかくらいは知っているだろう? お頭は御上の介入を嫌う‥‥ここまで言えば頭の悪いキミにも理解できるだろ、僕の役目がさ‥‥」
 ちらり刀を見せ囁くように言う乱雪にぎっと睨めつける男達ですが、花街の香具師の存在をちらつかせるのに忌々しげに匕首を収め。
「理解できたなら二度とここには来るな! 仲間にもそう伝えろ‥‥次は無いと思えとな、いいね?」
 人目を避ける場所まで連れて行くことが厳しそうなのを理解し、とりあえず花街から追い出す方向に出た乱雪ですが、それを見て花街の店の者達は曖昧な様子で礼を言うとそそくさと仕事へと戻っていき。
「‥‥知らないよぅ、旦那の後ろ盾を騙った奴が出たなんて知れたら‥‥」
 くわばらくわばら、と店に戻る若い衆が呟いて戻っていくのに、少し不安を感じながら羽澄は男達の後を尾けるのでした。
「しかし、あっちを追い出されてお志津の奴を見つけられねぇんじゃと焦ったが、なぁに、思いのほか近くにいたってなぁ‥‥」
 にやりと笑う男。
 あの日花街から追い出されて一つの茶屋に乗り込み占拠した男達は、直ぐそばの茶屋にお蔦が入っていったのを見つけていたよう。
「こうなりゃ構うこたねぇ、中にゃお志津以外にゃ爺と娘っこ一人だ。お志津捕まえるのは少し手を焼きそうだが、爺と娘っこ盾にして捕まえりゃ良い。捕まえちまえば二人ぁ‥‥」
 そこまで言って、くいっと首を一撫でする男に、他3人の男達もにやりと笑い。
「裏切りもんがのうのうと生きてやがるたぁ、ふてぇ女だ」
「あいつぁ俺たちの顔を知ってやがる、さっさと始末しておかねぇとな」
 酒を呷りだんだんとその気になってきた様子の男達。
「いつやる」
「思い立ったがって言うだろうよ。寝静まった頃に、な」
「面白ぇ、裏切りもんは散々啼かせてから縊り殺しだ」
 下卑た笑いを浮かべる男達に眉を潜める羽澄は、そうっとそこを抜け出して、仲間の元へと走るのでした。

●女の決意の発言
「狼藉者ども! 我が十手を恐れぬのならば、かかってくるがよかろう!」
 磐山の大音声の怒号と共に戸が蹴破られ、二階でどうお志津を甚振ってやろうなどと笑っていた男達は、一瞬何が起きたのか理解できず、階段を踏みしめてくる足音に膳や杯、徳利をひっくり返して窓へと駆け寄るのですが。
「‥‥っ!」
「ったく、めんどくせぇなぁ‥‥」
 通りに懐へと手を入れ男を見やるゴールドに、目敏く何を隠しているのか察したか、ばらばらに屋根を素早く駆け抜け道へと降りるのですが‥‥。
「がっ!?」
 最後に降りようとしていた男は襟首を掴まれ部屋の中へと引き釣り倒され、降りた先には乱雪と麗華が。
 一人道を走り出した男にはゴールドの手裏剣が背に刺さり倒れこみ。
「‥‥こいつら‥‥どこかで‥‥」
「思い出したのですか?」
 そして、ネムと羽澄に付き添われ道へと出て来たお蔦は、痛そうに眉を顰めながら、良くは思い出せないけど、何故かどの顔も知っている、と答えます。
「会話をこっそり聞いたけど、ほぼ、盗賊である事は間違いないわ。改方に突き出しましょう」
「‥‥改‥‥」
 羽澄の言葉になんともいえない表情で見るお蔦。
 やがて、男達を引き渡すと、老人の茶屋に集まる一行。
『深き淵で眠る人に 目覚めの時間がやってきた』
 ネムが優しく紡ぐ言葉にまだどこか戸惑いを浮かべて聞くお蔦ですが、どこか不安そうなその様子を見た羽澄が手を取って微笑を浮かべると、どこかほっとしたように目を瞑り。
『遠い幼子の泣き声に 閉じた瞼が開きだす』
「‥‥貴女は昔気質のお頭の所で女賊として働いていたの」
 ネムの歌を聴きながら、そっと切り出す羽澄。
『赤い龍の傷跡も癒え 柔らかな風がたゆたう場所で』
「‥‥赤い、龍‥‥火、だね‥‥?」
 不安そうに小さく呟けば、頷く羽澄。
「覚えているかしら?」
「‥‥あぁ、凄く熱くて、表はもう出られない‥‥だから、煙が流れていくほうに‥‥裏の戸も燃えてたけど、表よりも、ましな気がして‥‥」
『嬉しさも悲しさも抱えたままの 自分がゆっくり目を覚ます』
 ネムの歌が終われば、まだ全てを思い出したわけではなくとも、羽澄の伝える言葉を理解した様子のお蔦が。
「夢中でその戸に体当たりして、戸ごと、落ちて‥‥」
「‥‥お志津殿が身を省みずに救った子は、大きな怪我も無く元気で暮らしていたでござる。‥‥お志津殿のことをとても、心配されてござった」
 磐山が言えば、お蔦はつと涙を零し微笑を浮かべます。
「まだ、自分のことははっきりしないけど‥‥うん、まだ通れると思ったとき、夢中でそこいらにあった上着を引っつかんで、洗い場にあった水桶の水で浸して‥‥そうだ、あの子は、無事だったんだね‥‥」
 喜ぶお蔦に緩く息を吐く羽澄。
「凶賊を憎んだ貴女なら‥‥辛い記憶があるのは承知の上だけど、志は思い出してほしいわ‥‥」
「爺さん‥‥」
 羽澄の言葉に振り返ったお蔦、視線の先の主人は相変わらず煙管を燻らしたままゆったりと頷き。
「あたしが盗賊だったとして、それを知って信じてくれたっていう人がいるんだったら、戻らなきゃ、ね‥‥」
 そう笑って立ち上がるお蔦。
 数日後、あの盗賊達は一味の生き残りでたまたま江戸を離れていたもの達と判明。
 そして、お蔦は凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵に許可を貰い、あの茶屋で主人の世話を焼きながら、涼雲医師のところへと通い再び密偵として働けるように、記憶を辿り始めているのだと、耳にする事ができるのでした。