比良屋の秋

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:09月26日〜10月01日

リプレイ公開日:2006年10月07日

●オープニング

 その日、徐々に暑さが和らぎ、心地良い青空の見られる日が続いていた、そんな日の昼下がりでした。
「いやぁ、お雪がお弁当を持ってお出かけがしたいと、こう言いましてねぇ」
 にへら、ともうそのまま溶けていってしまいそうな笑顔を浮かべて言うのは薬種問屋・比良屋主人。
 あまりの上機嫌ぶりにどこか引き気味な笑顔を浮かべる受付の青年は、お目付け役というかなんと言うか、とにかくしっかり者の丁稚の少年、荘吉を手招きして声を落とします。
「何かあったんですか? もう、目も当てられないでろでろっぷりじゃないですか」
「旦那様、お雪におねだりされるとき、初めて『ととさま』と呼ばれて‥‥冬になれば固まるでしょう」
「なるほどー‥‥」
 何故かしら可哀想な人のような気がしてきて、ほろりとした表情で比良屋を見る受付の青年。
「ええ、もう、お雪がお出かけをしたいというのなら、それはもう、是非に是非に美味しいお弁当を用意して、楽しい事を一杯一杯‥‥異国風に言う、『ぴくにつく』とか言うのでしたっけ? あああ、楽しみですねぇ♪」
「つまり、行楽のためにお弁当を作るのを手伝ってくれて、一緒に遊びに行く人を募集というわけですね」
「な、なるほど‥‥」
 もう何も動じまいとでも言うように表情を変えずに言う荘吉に、込み上げる涙を手拭で抑えつつ、受付の青年は依頼書を手に取るのでした。

●今回の参加者

 ea1309 仔神 傀竜(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6333 鹿角 椛(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9033 アナスタシア・ホワイトスノウ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5534 天堂 朔耶(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

氷川 玲(ea2988)/ アルベル・ルルゥ(ea4131)/ レウラ・ソラス(ea7292)/ ジュディ・フローライト(ea9494)/ 暁 鏡(ea9945)/ 烏乃宮 秋水(eb5511

●リプレイ本文

●嬉楽しいお出かけに
「それじゃあ気をつけて‥‥」
 良く晴れ渡った秋空の下、お見送りの暁鏡が差し出す包みを限間灯一(ea1488)が受け取れば、兄の清之輔の後ろから興味を持ったようにちょこんと頭を出してみるお雪。
 比良屋前で、気がつけば一行とその大切な家族の動物たち、そして比良屋の主人に子供たち3人、そして使用人のお弓さんの大人数、それに見送りやお手伝いをしてくれた方々で大賑わい。
「荘吉くん、清之輔くん、お雪ちゃんね? 私はアナスタシア。長い名前かもしれないから、お婆ちゃんでいいですよ」
「おばぁちゃま?」
 買い出しを氷川玲に手伝って貰って合流したアナスタシア・ホワイトスノウ(ea9033)が子供達に挨拶をすれば、かくんと首を傾げて見上げるお雪。
「じゃあ、お雪ちゃん、行きましょうね」
 アナスタシアが笑いかけてつと後押しをすれば、嬉しげにちょこちょこ歩き出すお雪、並んで元気よく歩き出した天堂朔耶(eb5534)を見上げて、ふと目が合うとにっこり笑う朔耶に慌てたように顔見知りである嵐山虎彦(ea3269)の後ろに隠れてみたり。
「おおぅ、お雪ちゃん久しぶりだなぁ。ってか、恥ずかしがってんだな」
「隠れなくて良いのにー」
「ん、んみゅ‥‥」
 呵々と笑う嵐山ににこにこ元気な笑顔を見せる朔耶、お雪はおずおず嵐山の後ろからひょっこりと顔を出すと、朔耶と目があって、赤くなりながらにこぉっと笑い返し。
「さ、お雪ちゃん、行こ♪」
「は、はい、なの‥‥」
 にっこり笑って朔耶が差し出す手をおずおず握ると並んでてこてこ歩き出すお雪。
「向こうについたら早速腹ごしらえでござるな。その後は‥‥雨が降らぬようてるてる坊主を一緒に吊るすのは如何でござるかお雪殿、清之輔殿」
「てるてる坊主ですか? それは楽しみです」
 沖鷹又三郎(ea5927)が言えば、作る光景を想像したのかにこり目を細めて笑う清之輔。
「お菓子も色々と作ってきましたので、向こうに着きましたら皆さんと食べましょうね」
 飛麗華(eb2545)が言うのに清之輔は嬉しそうに頷くのでした。

●小さな大きなお友達
「しかし、この季節に弁当持って野遊びって本当に風流だなぁ」
「鮮やかな紅葉を楽しむにはまだ早いですけどね、この時期の野山は気持ちが良いですからね」
 市外を抜けて郊外の道、そろそろ宿が見えてくる頃、鹿角椛(ea6333)が空を見上げて言えば、頷く荘吉はなにやらそわそわ椛の肩の辺りに視線を彷徨わせ。
「どうした?」
「あー‥‥その、その緑色の‥‥」
「あぁ、これは凛という。それが?」
「いや、綺麗なもんだなーと思うのですが、浮いているのがなんだか‥‥」
 不思議で、と付け足しながら興味深げに影が浮かぶのを楽しげに見たりする荘吉に、思わず笑みを零す椛と仔神傀竜(ea1309)。
「あたしはこの子達を連れてきたのよ」
 仔神がひょいと手に乗っけて見せるのは可愛らしいひよこ、そして足元には千切れんばかりに尻尾を振っててこてこと歩く愛犬・慶翁の姿。
「可愛いなぁ。うちのお店には荷運びをしてくれる驢馬がいますけど‥‥」
 意外や意外、珍しいものから普通の動物まで、なんだか特に楽しそうなのは丁稚の少年・荘吉で、声音などいつもと変わらないようでいて、なんだか表情が楽しくてうずうずしているよう。
「‥‥実は、あんなものもいるんだが」
 他の人に荷と一緒に乗せてもらっている白く動く塊を指し示す椛に、きょとんとする荘吉。
「あれ、おっきな大福じゃなかったんですか?」
「悠って言うんだ。‥‥食うなよ?」
 目を瞬かせて真顔で聞く荘吉に、椛はとりあえず釘を刺しておいてみたようなのでした。
「うわぁ‥‥立派で姿が凄く良いですねぇ‥‥」
 主人の知人が運営する宿について暫くして。
 宿の馬屋、惚れ惚れといった様子で黒煌を見上げる清之輔に、灯一は微笑を浮かべると藁で首筋を擦ってやり黒煌も主人が蕎麦にいるため心持ちゆったりとしているようで、小さく溜息をついている清之輔にも藁を差し出します。
「このお馬さんも明日一緒に出かけるんですか?」
「ええ。黒煌と言うんですよ」
 微笑を浮かべて頷く灯一から藁を受け取ると、清之輔は灯一に世話の仕方を教わりながら、拙いながらも一生懸命にお手伝いをするのでした。
「てるてるぼぉず?」
「てるてる坊主♪」
「その布で今作った物を包んで‥‥そうでござるよ」
 少し早めに晩ご飯を済ませると、子供達と一緒にてるてる坊主を作る沖鷹。
「あ、私も作りまーす♪」
 腰を下ろして布と筆を手に取る朔耶、荘吉が器用に紐できゅきゅと首の辺りを上手く巻き付ける横で、こだわりがあるのか何度も頭の大きさを作り直しては首を傾げる清之輔、沖鷹にお膝に乗っけて貰い一生懸命紐で括ろうとしては取り落としてしまうお雪。
「拙者が持っているでござるから、ここのところを結ぶでござるよー」
「私もこっちを留めてっと。うん、お雪ちゃん上手上手☆」
 沖鷹と朔耶に手伝って貰って漸く出来上がる、ちょっと頭の大きなてるてる坊主、お雪が握る筆に沖鷹が手を添えて目と口を書き入れれば、嬉しくてきゃっきゃと笑うお雪に荘吉や清之輔も笑ってみていたり。
「じゃあ、お婆ちゃんが下げてあげましょうね」
 子供達のてるてる坊主を軒下に吊せば、明日のぴくにつくが楽しみだという話で盛り上がったり。
「明日は総司朗も嵐山さんのちびすけちゃんや仔神さんの慶翁ちゃんと一緒に遊ばせてもらいますよ〜」
「わんちゃんにねこさんとぴくにつく、ゆき、たのしみ‥‥」
「俺はちびすけとこの鳥の雛ぁつれていくかね」
 自然と見上げて話すのは、明日に控えた行楽での予定。
 朔耶の愛犬・総司朗がくぅんと鼻を鳴らして顔を上げれば首元をわしわし撫でて嬉しそうな荘吉。
「とと、話しているうちに眠っちまったようだな‥‥」
 やりたいことやどれだけ楽しみかなどを話していると、そうこうしているうちに気がつけば夜も更け、徐々にうとうとし始めていた子供達も楽しい夢の中へと落ち込んでいくのでした。

●たいへんよくできました
「おいしそうなにおいなの‥‥」
「ほんと、良い匂い〜♪」
「あら、2人ともおはよ」
 朝もまだ早い頃、起き出してきたお雪と朔耶が顔を出せば、既にお弁当の支度は大分進んだ頃。
 細々としたことを手伝っていた襷がけの仔神が声をかければ、2人ともまだ少し眠そうな目を擦りながら挨拶を返し。
「2人とも、顔を洗っていらっしゃい」
 眠そうな様子に笑う仔神、直ぐに顔を洗って戻ってきた2人は、奥の方では流石宿のといったところか4つのお釜を器用に確認しながら直ぐ側の鍋にも気を配る沖鷹の姿が見えて感心したように見るお雪。
「おきたかのおにいちゃん、すごい‥‥」
「おやお雪殿、おはようでござる。ご飯はもう少しで炊けるでござるよ」
 にこり笑い言う沖鷹に、よし、と袖を捲って襷がけをする朔耶、見ればおにぎりの準備に入っていた様子の仔神が小皿に塩をひとつまみ、お水を張ったものを持ってきて卓へと乗せ。
「お雪殿、作ってみるでござるか?」
「え‥‥う、うん、ゆき、やる!」
 普段は危ないからとやらせて貰えなかった様子のお雪は、沖鷹の言葉にぱっと顔を輝かせると、手招きをして笑う仔神の所へてこてこ。
「こうやって、手にこのお水を‥‥」
 実際にやってみせる仔神の隣で椅子に上って真似をするお雪。
「さ、炊けたでござるよ」
 そこへ、おひつに炊き込みご飯を移して運んでくる沖鷹、出されたおひつを見れば、香ばしいお醤油の香りが食欲をそそる茸ご飯に、ほんのり甘い香りの栗ご飯、五目ご飯に炊きたてほかほかの白いご飯。
「鮭も焼けましたよ」
 お茶の支度をしていた灯一が微笑を浮かべて告げるのに沖鷹は礼を言うと、大降りで良く焼けた鮭の切り身を二切れ皿にのせて戻ってくる沖鷹に不思議そうにお雪が首を傾げれば、ご飯の上にのせてしゃもじでざっくりと切り混ぜていき。
「塩は切り身に揉み込まれた物でも十分‥‥でござるな」
 しゃもじにほんの少し乗せ味を見ると満足げに頷く沖鷹、めいめいがおにぎりを作り始めれば、火傷しないように温度に気をつけながらお雪に握り方を教え。
「お兄ちゃんが言ってました。料理は腕で作るんじゃない、心で作るんだって。愛情は最高の調味料になるって」
 そう言って手に取った炊き込みご飯をきゅっきゅっと握る朔耶ですが、なんだか不思議なことに少し大きくまん丸な形が出来ていき、手の中に視線が集中すれば、照れたようにてへっと笑って。
「‥‥えへへ、おむすびを綺麗に作るのも苦手なんですけどね」
「お雪殿、熱くないよう気をつけるでござるよ」
「うん、ゆき、がんばるの」
 沖鷹に栗ご飯を取って貰うと、ちっちゃな手で握られるおむすびはなんだか不思議な楕円形で、まるでおいなりさんみたいな形に。
 その横では鮭を混ぜたご飯を手に取りきゅっきゅと握っていく仔神が。
「おにぎりぐらいは握れるんだけどね」
 笑ってお重におにぎりを詰めていく仔神に頷きながら、沖鷹は他の段に作った料理を綺麗に装い。
「お雪さんに天堂さん、お茶の味見でも如何ですか?」
 いつの間にか、少し炊き込み御飯のお味見をしていた2人に笑って、灯一はお湯呑みにお茶を淹れて渡すのでした。

●嬉しいぴくにつく
 晴れ渡った空の下、宿の裏口から宿の方々に見送られて楽しみだった比良屋曰くぴくにっくへ。
「鬼や妖怪を退治したこともありましたし、色々な行事に参加することもあります。あとは‥‥私の父は月道の向こうの国の人で‥‥」
 青空の下をありきながら灯一が語る話に興味津々といったように聞くと、清之輔は緩く息を吐いてから延びをして笑います。
「僕やお雪は火に追われて必死で逃げていたとき、冒険者の方達に安全な方へって逃がして貰ったから‥‥今の家に来てからも沢山親切にして貰ったし‥‥だから、そう言うお話を聞くと、なおのこと憧れて」
 並んで歩く灯一の愛犬・燐太郎を見ながらはにかみながら言う清之輔に、隣でぷーぷー草笛を吹いていた嵐山が口を開き。
「おぅ、清之輔。そういやお前さんは剣術の訓練とかしてないのか?」
「前に冒険者の方に教わった素振りは毎日遣っているんですけど‥‥」
「いつかやる気があるってぇんだったらいい道場紹介するからな」
「ほんとですか!?」
 ぱっと顔を輝かせる清之輔に、灯一と嵐山はやっぱり男の子なんだなぁ、とばかりに笑い。
「おばあちゃま、はらっぱ、あとちょっとなの」
「それじゃあ、頑張って歩きましょうね」
「うん♪」
 アナスタシアと手を繋いで楽しそうに歩くお雪の姿に、少し後ろを歩きながらその様子に何だか嬉し涙の怪しい比良屋。
「お雪も清之輔もどんどん活発で明るくなって‥‥ううう」
「‥‥‥あー、放って置いて大丈夫ですから、はい」
「そうか、ならば放っておこう」
 その触り心地が妙に気に入ったのか、白い塊の悠を頼んで抱えさせて貰い、てこてこ歩く荘吉がぼそりと言えば、心得たとばかりに頷いて輝く球体を抱えて歩く椛。
 暫く歩けば、広々とした草地があり、細い川を隔てて林が茂る、何とも気持ちのいい広間に辿り着き。
「着いたーっ♪」
 朔耶が声を上げれば嬉しそうにはしゃぐお雪と、敷物を馬や驢馬から降ろして貰い手分けして敷いて、荷物を置く場所を確保する少年2人。
「総司朗、とっておいでー」
 手鞠を投げる朔耶の言葉にちょこちょこと走り出す幼い柴犬の総司朗君。
「ちびすけちゃんや慶翁ちゃんもおいで〜」
「ねこさんやわんちゃんたちとゆきもあそぶー」
 とてとて駆けだしてすてんと転ぶもじゃれつく犬たちに埋もれてきゃーきゃー楽しそうな笑い声を上げるお雪に、清之輔もうずうずしてきたのかそれに加わって。
「はい、よければどうぞ」
 麗華が栗饅頭を勧めれば、受け取ってはむはむ頬張りつつ大人達と混じってまったり中の荘吉。
「旦那旦那、えらくやに下がってるが一体全体お雪ちゃんにどんな心変わりがあったのかねぇ?」
「それがよく分からないんですが、もう可愛くて可愛くて‥‥」
「‥‥しかし、子供というのは可愛いもの。ご主人がでろでろになるのもやはり判る気が致します」
「そう言っていただけると‥‥」
 いかにも嬉しそうに笑う比良屋に笑みを浮かべると、何やら遠くを見る灯一。
「‥‥とはいえ、自分がお嫁を貰って子を設ける、というのは‥‥とても先のことの様に思えてしまうのですが‥‥」
 小さく呟く灯一に軽く首を傾げる比良屋と、ふむ、と聞こえた様子で上目遣いにちろりと見ながら、灯一が鏡から貰ったお饅頭をぱくつく荘吉。
 一同は暫し、子供達が楽しそうに遊ぶ様子を眺めてのんびりしているのでした。

●晴れ渡った秋空の下で
「いっただっきまーす!」
 元気な声が上がれば、子供達が手を布巾で拭いて早速お弁当のお重に群がって。
「わーっ」
 上がる歓声。
 味噌の香りに程良く焼き色の付いた茄子と豆腐が二本の竹串に刺さっている田楽、蜜とだし汁それぞれで味を付けてふんわり焼き上げた厚焼き卵。
 上の段を隣へ降ろせば、そこには戻り鰹の照り焼きが、天麩羅が、そしてまぁるい揚げ物が幾つか綺麗に並んでおり、更に下の段にはおにぎりが。
「こいつぁなんだ?」
 箸で丸い揚げ物をひょいと取って首を傾げる嵐山、一口囓れば、しゃくっと言う食感と、口の中に広がる山芋と海老に薄い塩味が何とも言えない旨味。
「こいつは旨ぇな」
 見れば摺り下ろした海老を山芋で挟みあげた物のようで、何だか食が進むよう。
「これは酒が欲しいところだが‥‥まぁ、流石に、真昼間っから酒かっくらう訳にもいかないよな」
「宿に戻ったらいっぱいやるか」
「その時に肴は作るでござるよ」
 茶を灯一から受け取りお弁当を摘む椛が言えば、くいとお猪口の仕草を見せる嵐山に、笑って言う沖鷹。
「んーっ、おいしー♪ あ、お雪ちゃん、おかず取って上げますね♪」
 幸せ、とばかりに笑う朔耶は小皿を手に取りおかずを幾つか装ってお雪に渡してあげたり。
「あらあら、御飯粒がついていますよ」
 アナスタシアが清之輔の口元を手拭いで拭えば、照れたように笑う清之輔。
「きっと喜ぶでござるよ」
 そう沖鷹に背中を押されたお雪は、楕円形の小さなおにぎりを1つ取って茄子を幸せそうに食べている比良屋に差し出して。
「ととさま、ゆきつくってみたの、ととさまたべる?」
「お、お雪‥‥食べる、食べますともっ!」
 受け取って嬉し泣きで食べる比良屋に、その様子を見てめいめいが笑い。
「実は私が扱っている品物、それには色々な思いが籠もった物で、こんな事が‥‥」
「へぇ、面白いですね、物にまつわるお話って」
 椛の話に荘吉が興味深げに目を瞬かせ。
「‥‥私の初任務のケインさんへの報告、これでばっちりなのです♪」
 こっそり報告書に筆を走らせる朔耶を、不思議そうに麗華が見ていたり。
 澄み渡った青空の下、一同はもう暫く楽しい時を過ごすのでした。