【凶賊盗賊改方】哀別

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2006年10月09日

●オープニング

「止めて欲しいんです、彼を‥‥」
 凶賊盗賊改方の筆頭与力・津村武兵衛に付き添われギルドへやって来たその青年が小さく呟くのを直視できず、受付の青年は依頼書へと目を落とします。
 その青年がやってきたのは、風も涼しくなってきた、秋の日の夕刻のことでした。
 青年は左の肘から手の甲にかけての古い火傷痕があり、数年前に江戸に出てきて繍箔師の修行中であるそう。
「‥‥詳しい話をお願いします」
 受付の青年がそう小さく訪ねると、頷いて、悲しそうに目を伏せる青年は、ぽつりぽつりと話し出す青年。
「私は昔江戸に住んでいたのですが、色々ありまして十の頃に暫く江戸から離れた宿場に一家で移り住んでおりました。彼とは、江戸を離れる前に仲良くさせていただいておりまして‥‥」
 青年の話では、その頃の彼‥‥青年の幼馴染みは一生懸命素振りをし、弱い者を助けるために、とそれはもう純粋であったそう。
 しかし、青年が左腕の酷い火傷を負った時、助けようとしても大人と子供の力の差、何も出来ず叩きのめされて、江戸を離れることになったとき、酷く思い詰めた顔をしていたそう。
「その、差し支えなければその時の怪我の原因は‥‥」
「父が作った借金の方に色々と持って行かれましてね。子供心にそれが許せずに逆らって、突き飛ばされた先が、竈でして‥‥これぐらいで済んで幸運でした」
 受付の青年がおずおずと訪ねれば、お恥ずかしながら、と微苦笑を浮かべて言う青年。
「そんな彼を覚えていたので‥‥手先が少しだけ器用でしたので伝手を頼りに繍箔の修行を積ませていただけることとなったのですが、その時に、懐かしさから休みには彼を訪ねてあちこちまわりまして‥‥再会したときに彼は‥‥」
 小さく息を吐く青年。
 再会したとき、ところの弱い人達を強請集り、破落戸まがいになった彼を見たとき、自分の所為でと酷く胸が痛んだそう。
 それでもそれまでは最後の一線を越えられない、今は道に迷ってしまっただけなのだと思えたそうなのですが、ある日起きた事件を堺に、もう引き返せなくなってしまったのだと、青年は悲しげに言います。
「彼は人を殺してしまい、そして、その味を覚えてしまったのです‥‥」
 元々その優しさから結局は詰めが甘いと言うことが多かった幼馴染みは、いつかきっと自分の話を聞いてくれ、真っ当に暮らしてくれるのだと信じていた青年でしたが、一線を越え、自分にその力があるのだと理解してしまった幼馴染みはもう止まらなかったそう。
「始めは貧しい者が特に集まり辺りを牛耳っていた破落戸との小競り合いで、襲われてやり返しての、仕方のないものだと思いました‥‥でも‥‥」
 そこまで言って、武兵衛に救いを求めるように見る青年。
「その次の日、滅多斬りにされた、初老の悪党と、その護衛が殺された‥‥その男達は、かつてこの者の腕に火傷を負わせるに至った者達だ」
「それだけでなく、それ以降、次々と彼と合わなかった人間が殺されていきました。あくまで、あまり真っ当ではない人達なので、そこまで大事になっていない、と言えば酷い言い方でしょうが‥‥」
「勿論改方も奉行所も捜しておるが、それぞれ忙しく、どうやっても手が足りぬ」
「既に彼は気に入らないと言うだけで人を‥‥」
 そこまで言うと、青年は悲しみに目元を滲ませて受付の青年を見ます。
「お願いです。彼は血の味に酔ってしまっているのです‥‥どうか、どうか、彼を止めてください‥‥」
 言って手拭いで目元を抑える青年に、受付の青年は暗い面持ちで依頼書へと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea2639 四方津 六都(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1044 九十九 刹那(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb3463 一式 猛(21歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5421 猪神 乱雪(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カルナ・バレル(ea8675)/ 室川 太一郎(eb2304

●リプレイ本文

●痛惜
「俺、こういう悲しい仕事は初めてだな‥‥俺も数年前に両親が‥‥でも‥‥」
 一式猛(eb3463)が目を落として呟くように言うのに、依頼人も小さく息をついて目を落とします。
「相手を憎む気持ちはなかなか消えないっていうのは分かる。思い出しても悔しいしさ。それでも大切な人たちまで巻き添えにしたくないな‥‥」
「‥‥ったく、馬鹿な野郎だ」
 猛の言葉に苛立ちを込めた口調で言う四方津六都(ea2639)。
「弱い者虐めの為だけに鍛えたワケじゃなかろうに‥‥」
 六都の言葉に哀しげに目を伏せて唇を噛む依頼人に、くしゃりと自身の髪を掻きあげて息をつき、改めて目を依頼人へと向けて。
「で、とにかく何でもいい、その男の事を教えろ。名前から、行きそうなところ、好むもの、なんでもいい」
「あまり構えなくてもいいわ。順序立てる必要も無いし、分かる事から順に、ね?」
 哀しげに唇を震わせ、何から言って良いのか迷う様子の依頼人にルスト・リカルム(eb4750)が笑顔を浮かべてやんわりと聞けば、依頼人は小さく頷いてとにかく覚えている事を挙げていきます。
「後で人相書きを改方で用意して貰ってお渡しできるようにしておきます‥‥」
 おおよその特徴を聞き取ってから九十九刹那(eb1044)が言う言葉に一同は頷き。
「個々で行けば腕は明らかに相手の方が上だろう。一人で動けば‥‥」
 危ない、と続ける六都に頷きながら立ち上がる猪神乱雪(eb5421)。
「腕は立ってもボクの太刀筋を見切れるとは思わないけどね。じゃあ行こうか?」
「この惨状を鑑みるに、すでに人の域から外れかかっている気がいたしまするが‥‥では、猪神殿、参りましょう」
 乱雪の言葉に考え込む様子を見せていた磯城弥魁厳(eb5249)も立ち上がり続いて部屋を出て行き。
「じゃあ、李さん、行こう」
「心得た。‥‥依頼人の思いはしかと受け取った。全身全霊を持って、かの者の暴走を止めることを約束しよう」
 一式の言葉に頷いて、依頼人へと力強く告げる李連琥(eb2872)。
 ルストと六都も連れ立って出かけていけば、依頼人の長屋の部屋に残される刹那と依頼人。
「‥‥ぅ‥‥ぅぅ‥‥」
 目を伏せて小さく嗚咽を漏らす依頼人に、刹那はそっとその肩に手を置いてやる事しかできないのでした。

●追う男達
 下町の、殊更に貧しい一角、依頼人の話からもともと男の住んでいた一帯へと足を踏み入れた乱雪は、一様に暗い顔をした人々が恐れるような憤るような、何ともいえない顔で見ているのに気がつくと小さく溜息。
「とある男を捜している。留吉という若い男で‥‥」
「いないよっ! とっくの昔にここの長屋から出て行って、それっきりだ、あたしたちは係わり合いが無いっ!」
 言いかければ金切り声を上げる、長屋のおかみさん。
 その目と様子から、怯えてぎりぎりの生活を送っている事が窺い知れ、目を細める乱雪。
「では、どこに行った?」
「あたしらが知るはず無いでしょっ! もう、もう来ないでおくれっ!」
 その必死の様子、そして付近の住人達もが遠巻きに敵意を込めた目で見るのを見れば、男か男を捜してやって来た破落戸達と同類に見られたようでふんとばかりにその場を立ち去る乱雪。
「‥‥斧は持っていなかったけど、きっと奴らの仲間に違いないよ」
「あのろくでなしが、ばぁさん殺しただけじゃ飽きたらずにこんな厄介事ばかり‥‥畜生っ、彼奴らが次来たら今度こそあの男の居場所を言えと脅されて死人が出るぞっ」
 固まって話す付近の住人達の様子では男の居場所を知るものは居ないようで。
「彼奴口ばっかだったからって莫迦にしてたし、次殺されるのはお前かもな‥‥」
「そう言うお前だって、あの男が飢えてお前のとこの米を勝手に入って盗んだってときにえれぇ剣幕で罵ってたじゃねぇか」
「ほんと、とんだ疫病神だよ、あの男はっ」
 怒りを帯びた声を身を潜めながら聞き取り人々を注意深く調べるも、男の行方を知るようすの者はいないのでした。
「留吉って男を知らねぇか?ヤツにちょいと野暮用があってな、行方を捜しているんだが」
 六都が聞けば、あんたもかい、とばかりに見る茶屋の老婆。
 そこは依頼人が最後に男と会った場所、刹那が依頼人へと聞いておいた場所へ、六都とルストが聞き込みをしていれば、老婆は小さく溜息を吐いて。
「このあたりでは斧を持った怖い奴らが留吉を探していてね、あたしらも怖くて関わり合いになりたくないんだよ」
「でも、このまま放っておけばもっと巻き込まれる人も出るし、早く見つけて止めないと」
「そりゃあ、そうなんだけどねぇ」
 そう言うと、老婆はどこか警戒するように見ながら声を潜め。
「あんたら、お上かそれとも斧持った奴らの仲間かい?」
「違う」
「私たちはこれ以上犠牲を出したくないだけ」
 六都が即答すればルストが老婆へと静かに首を振り、老婆も少し悩む様子を見せますが口を開きます。
「あたしは聞いただけだけど‥‥こっから少し行った先に有る寺の辺りで、それらしい男が見られてるって。でも‥‥でも、斧を持った奴らもそれを聞いてその辺りをうろついているはずだから‥‥」
 そう言って小さく息を吐く老婆。
「これはあたしが言ったんじゃないからね。‥‥気ぃ付けてねぇ」
 2人を送り出すと仕事に戻る老婆。
「他の人たちにも伝えないと‥‥いったん戻りましょ」
 ルストと六都は、急ぎ足で依頼人の長屋へと足を向けるのでした。
「お、俺は風車で遊んでるだけだよ!」
 その頃、その茶屋より少し離れた場所で手斧を持った男達にいきなり囲まれる猛。
 殺気だった男達が『留吉の事を聞いて回っていただろう』と凄むのに風車を見せて言うのですが、手斧をちらつかせて睨め付ける男達。
「何をしている」
 低く聞こえる声に男達が振り向いた瞬間、咄嗟にその輪から逃げ出す猛。
「なんだぁ? 坊主はすっこんでろ」
「俺達ぁこの餓鬼に用があるんだよ」
「‥‥‥はて、どの子供にか?」
「あぁ? ‥‥っ、おい、あの餓鬼探してこいっ! 邪魔だてしやがって‥‥次にこんな事が有ればこいつの味を身をもって味わうことになるぞ」
「それは勘弁願いたいな」
 しれっと言ってゆっくりと歩き去る連琥は、少し離れた場所で猛と合流し。
「ったく、ちょっとでも男の名前出したらあの通りだもんな。李さん、助かったよ」
「恐らくはあの辺りで姿を見られているのであろうな。だからこそ、些細なことですら過剰に反応する」
「あの辺りの人たちに聞いてみた様子じゃ、みんな直ぐその辺で話を聞かれているかのようにびくびくしててさ。変なの」
「詰まるところ、あの辺りに居るのだろう、本人か、協力者か‥‥いや、今の男に協力者は居ないであろうな」
 言いながら場所を変えようとする2人に歩み寄る刹那。
「一度長屋に戻って情報を確認しましょう‥‥」
「そうだな〜」
 刹那の言葉にんーと伸びをして、猛は頷くのでした。

●血に酔いしれて
「そこをどけっ!!」
「ここは邪魔をしないでもらおう。貴殿らにも言いたいことがあろうが、この場は我らに任せるのだ」
 怒声、そして諭すような低い静かな声。
 そこは小さな店が軒を連ねる裏通りの小道、連琥が対峙しているのは斧を持った男達。
「手前ぇは‥‥坊主だからと見逃してやったってぇのによっ!」
「今貴殿らに手を出されればあの子の命もなく、また恨みの連鎖ともなりかねんのだっ!」
 き、と見開かれる目に気圧されたように言葉を失う男達。
「‥‥どうしても通りたいというのなら、この私をまず倒していくことだ。さぁ、お相手いたそう!」
「う‥‥」
 連琥の後ろでは、他の仲間達が1人の男と対峙していました。
 そして、男の腕には幼い子供が血刀を突きつけられ泣いている姿が。
「‥‥は‥‥貴様らに俺は殺せねぇ。何も出来なかった頃たぁ違うんだ‥‥ひ、ひひ‥‥」
 目が狂気に染まり低く笑うその姿にぎっと唇を噛み厳しく睨み付ける六都。
「手前ぇ‥‥そんな‥‥そんな風になるために‥‥っ!」
「人間なんてなぁ簡単に死ぬんだ。それが出来るか出来ねぇかは踏ん切りが付けられるかだけよっ!」
「‥‥もう、何を言っても届かない‥‥だから、ここであなたを止めます!」
 刹那が悲しさを含んだ声で言えば、ふん、と鼻で笑い腕の中の子供に当てた刀をゆっくりと引こうとし‥‥。
「させないっ!」
 その腕に飛びついたのは猛。
 怯えて青い顔をして泣く子供をその隙に取り返して離れる魁厳に、忌々しげに舌打ちをしてそのまま腕を強く振り、壁へ叩き付けるように猛を投げ飛ばし。
「なんて、酷い‥‥」
 子供を受け取り店の中へと駆け込んだルストが見たのは、夥しい血の海に辛うじて息をして横たわる男女、恐らくはこの子供の両親。
「‥‥っ‥‥お願い、間に合って‥‥」
 彼らに手を触れさせリカバーで傷を癒せば、彼らの呼吸は落ち着き、子供がそれでたがが外れたかのように両親の身体に取り縋って泣きだします。
「まかりなりにも、帯刀して人を殺めているのだ、自身も斬られる覚悟はしての事だろう‥‥人を斬ると云う事はそういう事だ」
 表では乱雪が言い放ち態に男に斬りつけ、男はそれを軽くいなすと鼻で小さく笑います。
「はっ、たいそうな口をきいても、その程度じゃないか」
 男の言葉に睨み付けながら低く笑う乱雪、そこに斬り込む刹那の剣線も僅かに身体を引くことで容易く避ける男。
「く‥‥やるたぁ思っていたが‥‥強い‥‥!」
 嫌な汗をかき呟く六都に、斧を持った男達に丁重にお休みいただいた連琥が加わり。
「強き力を振るうには、強き魂が必要と知れっ! 貴殿は力を振るうにはあまりにも未熟だ!」
 素早く寄り繰り出される蹴りに体勢を崩しかけて踏み留まる男、そこへ畳みかけるように刹那と乱雪が斬り込み、ぎりぎりに受けて転がり下がる男。
「っ!?」
 と、突如不自然な震えと共に身体がぴたり止まる男に、追撃とばかりに斬り付けた乱雪をぐいと引き留める六都。
「何をっ!」
「もう終わったんだっ! やめろっ!」
 見れば店の戸の場所で、斬られた人たちの赤で姿を染めたルストが立っており、ルストのコアギュレイトで動きを止めた男に、魁厳や刹那が縄を打って引き立てるのでした。

●哀しい別れ
 刑場前、既に人も散ったそこで、依頼人の青年はぽつり立ちつくしていました。
 その日の昼、1人の兇悪な男がそこで処刑されました。
「‥‥」
 ぽん、と男の肩に手を置くルストに、泣き出しそうな顔をした青年は目を伏せて頷きます。
「‥‥‥彼を‥‥止めてくれて有り難う‥‥」
 泣き笑いで言う青年に辛そうに目を伏せると小さく首を振るルスト。
 赤く染まった秋空の下で、2人は暫くそこに立ちつくしているのでした。