●リプレイ本文
●茶屋で合流
「ぜひ子どもたちとも仲良くなりたいものだが‥‥はてさて」
茶屋へと向かう途中、さて、と腕を組んで考え込むような仕草を見せるのは李連琥(eb2872)。
秋空の下のんびり穏やかな陽気の中待ち合わせの場所へと向かえば、茶店でちょこんと並んでいる子供たちが3人。
「む、来たか」
餡子の団子を頬張っていた10ほどの少年が顔を上げてちょっぴり偉そうに言えば、嗜めるように袖を引く一番年嵩の少年が立ち上がってぺこりと頭を下げれば、普通のお百姓さんといった風情の老人とがっしりとした村人が一行へと歩み寄ります。
「へぇ、わざわざお手数をおかけいたしやすが‥‥よろしくおねげぇします」
村人が言えば、老人が名残惜しげに子供達を見てから、改めて一同に頭を下げ。
「では、坊ちゃま方のことお任せいたします」
「じぃ、世話になったな」
「じぃ、またあそびにいくね」
子供たちが老人へ挨拶をしてから一行と共に茶店を出て、のんびりと穏やかな道のり。
「江戸に戻られるのは久方振りとか‥‥楽しみにしてらしたのでしょうね」
「うむ、幸も弘兄も江戸におられる兄君達の手紙の度に江戸はどうなっているかーと」
「たかお兄ちゃんも、母上がしんぱい、いってたの」
鷹瀬亘理(eb0924)の言葉に胸を張って言う高由ですが、幼い幸満が亘理の袖を引いて見上げながら教えてくれたり。
「大火の話を手紙で知らされては居ましたが‥‥復興しているとはいえ、たまたま江戸から離れていて不謹慎ではありますが、良かった、と思ってしまい‥‥」
「そう思うのは当然のことよ。無事だったのだからそのことについて気に病む必要はないわ」
「その通りじゃ。そう言うことは子供のうちにあまり考えるでないぞ」
ちらりと幸満と高由を見てから目を伏せて言う弘満にルスト・リカルム(eb4750)が微笑を浮かべて言えば、カルナ・バレル(ea8675)もわしゃわしゃと弘満の髪を撫でながら言い。
「あまりだらだらしていると日が暮れるぞ」
のんびりゆったり進めば猪神乱雪(eb5421)が声をかけ、少し歩調を早めつつ、はぐれないように幸満の手を握りてくてく歩くカルナ。
「実はの、オクスフォードと言う場所では遺跡探索に加わったこともあっての」
「いせき、たんさく?」
「そうじゃ、もう百年以上も昔に作られた地下にそれはあってな――」
地下への薄暗い通路へと降りていくときの緊張感、などと言いつつも、こっそり自分は一日で引き返してきたお手伝いであることを誤魔化し話せば、きらきら大きな目で見上げて話をせがむ幸満にちょっぴり胸が痛んだ様子のカルナは口の中で小さく謝ります。
護衛の手伝いに来た七神斗織が耳を澄ませ注意深く辺りに目を配っていると、特に問題も起きず、お昼過ぎに一度小さなお堂の前でルストが作ってきたおにぎりでちょっと休憩したり。
「やはり紫蘇の握り飯は堪らんな」
「僕は梅干しが一番好きなので‥‥」
おにぎりの入ったお弁当を広げれば、育ち盛り食べ盛りの男の子、頂きますを言うと同時におにぎりを手にとって。
「ゆき、どっちもーゆきも食べるー」
「はい、たっぷりありますけど、食べ過ぎたらお腹が痛くなってしまいますよ」
「なに、その分身体を動かせば良い」
亘理がごまのおにぎりを割って渡してあげると喜んでぱくつく幸満、微笑を浮かべて言う亘理におずおずと言ったように頭を撫でてみながら言う連琥。
「はい、おねえちゃん」
ちらりと辺りに気を配るルストに気がついた幸満がお弁当箱から紫蘇おにぎりを取り出すと半分こにしてにこぉと笑う幸満、ルストは口元に笑みを浮かべるとそれを受け取るのでした。
●花街
一行がのんびりとした時間を過ごしつつおにぎりを頬張っていた頃、寺へと向かう途中に通りかかる花街には鬼灯(eb5713)の姿がありました。
「なんや、けったいな奴らが多いなぁ」
殺気だった男達が花街と隣接した道をうろうろ、それが所の者や香具師の配下で見回りをしている者達であることを内部の人達は知っているため、花街の中で特に大きな騒ぎはないようで。
付近の様子を窺ってみれば、花街の香具師は『白鐘の紋左衛門』、勝手に名を使われて『筋を通さない輩』と酷くお怒りのようであることなどが耳に入ります。
「あれじゃ、鉢合わせやな」
やれやれ、とばかりに細い道へと入っていけば、その通りから再び出てきた灯は30半ばの同心の姿に。
「こらこらおヌシら、人相の悪いのが集まって悪事の相談か? お上の手を煩わせる様な事だけは致すなよ」
先に確認しておいた姿になり声色を使い言う灯に、咄嗟に目を伏せて『へぃ、もちろんでございやすよ』などと行ってすれ違い通り過ぎる男たち。
そして、お弁当が済んだ頃、少し休憩中の一行より先行して出てきた亘理が花街の様子を窺えば、なにやら同心とすれ違った男たちが顔はまだ伏せたままではありますが、怪訝そうに首を捻り。
「おかしい‥‥おい、お前見てこい」
「へぃっ!」
1人の若い男に男たちより上の立場と思しき男が言えば、駆け出す若い男。
「‥‥これは‥‥危ないですね」
俄に慌ただしくなる男たちの様子に表情を暗くするとそっとその場を離れる亘理は、まっすぐに一行の元へと戻ってきます。
「んー‥‥気になるのだが、結局の所、花街とは何なのだ?」
「花街が何かって? それはもう少し経験積んだら判るようになるよ。自然とね」
首を傾げる高由にこくこくと頷く幸満、そして少し困ったように遠くを見る弘満。
「大人になれば、判るぞい」
幸満の頭を撫でつつ言うカルナは、ふとその手を止めて少し考える様な表情を浮かべて。
「いっその事、簡単に説明するか?! してみるか?!」
「やめぃ」
がすっ、なんだかちょっぴり鈍い音、何とも言えない微妙な表情で突っ込みを入れたのは連琥で、きょとんと幸満に見上げられてどこか困ったように視線を彷徨わせます。
「走り回って怖いおじさんにぶつかったらタダでは済まんぞ、頼むから大人しくしていてくれよ」
乱雪が釘を刺すのに慌てて謝る弘満は、高由と幸満を促してみたり。
「ここから先は迂回していった方が良いでしょう。なにやら花街で問題が起きているようですし」
慌ただしくなりつつあった様子を伝え、人通りのあまりない道へと方向転換をする一行に、灯が乱雪の元に一応騒ぎを起こさないように促しはしてみたもののあまり効果が無いのだと告げて。
「‥‥皆で子供たちを守るように進めば余計な騒ぎも避けられるならば、そちらを選ぶ方が良いであろうな」
これから騒ぎが起こりそうな所にあえて行けば、下手をすれば大乱闘にもなりかねない事を考えたか言う連琥。
「それに、知人から聞いた話では、冒険者が花街の香具師を最近怒らせたことがあるとも。安全を期すために、迂回はやむを得ませんでしょう」
亘理も実際に殺気だった男たちが慌ただしく動く様子を直接見ているため、流石にそのまま通って通り抜けられるという保証がないことに頷き。
「うん、じゃあちょっと道を変えていこっか? 普段通らないような道を選ぶ者面白いものよ」
ルストが笑いながら幸満の手を引いて歩き出すのに、一行も子供たちを庇うように歩き出し。
名前と姿を騙られた同心がその付近の香具師・白鐘の紋左衛門に受けた誤解を解いて激怒し、コケにされたのだと紋左衛門が烈火の如くに怒ったというのは、また別のお話なのでした。
●お寺の風景
「わーっ、ひろい――っ」
「こら幸満、恥ずかしいじゃないか、少しは押さえろ」
言いながらもうずうずとお寺の中を探検したくて仕方がないと言った様子の高由に、思わず弘満が小さく笑います。
辺りは既に日が陰り、少し風が冷たくなってきた時刻、少し遅かったと心配していた様子に花街を避けてきたことを言えば、筋さえ通していれば怖くはない香具師なのですが、と言いとばっちりを受けたことを純粋に同情している様子の寺男。
「いやいや、何にせよご無事で良ぅございました」
そう言って持てなせば、寺の奥の生活空間、幾つかの客間に案内されて漸く人心地着いた一行。
「数日の間ですが、ゆるり、身体を休められますよう」
そう言って夕餉の席で老住職は穏やかにそう告げ、一同の一日目は終わるのでした。
「さて‥‥お世話になっているのだから、これぐらいは‥‥」
滞在中のお部屋の掃除など、ルストが雑巾がけをすれば桶の水を取り替えたりとお手伝いをしようと頑張る幸満、ちょっとよたよたゆっくりなのが玉に瑕だったり。
「私が君らぐらいの年の時分には‥‥小坊主として働いていたか?」
「異国の寺もこの国と同じようなのか?」
「どの国でも言えることであろう、何事も修行なのだ」
ということで、とさっそく高由と弘満は連琥の指導の元、身体作りのために腕立てを始めて見たり。
「たまにのお客人が来られると、何とも活気があり楽しいものですね」
住職の言葉に微笑を浮かべて聞く亘理に、静かな縁側で傍らには茶を置いた盆、膝には愛猫の小次郎でいかにものんびり、と言う風情の乱雪。
「よしっ、子供たちと遊ぶぞ!」
寺を一通り見て回ったカルナがなにやらにんまり、お掃除を終えたルストや幸満、言われた数の腕立てを終えて転がる弘満や高由と、ひょいひょいと軽快に腕立てをしながら話を聞く連琥など、声をかけて鬼ごっこを提案します。
「鬼ごっこですか‥‥」
「ふむ、たまにはそう言うものをしてみるのも良いやも知れぬ」
「ほほう、なにやら気持ちが若返りますね」
「‥‥‥なんや、御住職もやるんか?」
亘理と連琥が頷けば、ひっそりこっそり穏やかに笑いながらも参加する気がある様子の御住職に灯が目をぱちくりさせてみたり。
「では、最初の鬼を決めまーす。じゃんけん」
『ほい!』
ただ1人、見事にたった1人負けてなんだか切なげに膝を抱える弘満。
「にげろーっ」
「鬼ごっこでもかくれんぼでもうちは負けへんでぇ〜!」
中にはかなり本気の人もいるようで、わっと境内中に散る参加者を、元気だなぁとでも言わんばかりにお茶を啜りながら見ている乱雪。
「‥‥‥‥境内中って、結構広いんじゃ‥‥」
数を数えてなんだか途方に暮れて呟く弘満に、乱雪の膝の小次郎がにゃーと鳴いて送り出すのでした。
「み、皆さん反則ですよーっ!」
当然と言えば当然、弟幸満を捕まえる方向にはいけない弘満、直ぐ側を通った連琥を追えば、いとも容易くとんとんとかわして塀の上に上がってしまったり、灯を追えば木から木へと飛び移ったり。
「まぁ、これも修行のうちなのでしょう。諦めずに。御仏は見守っておりますよ」
「‥‥届かないところからどうも‥‥」
御住職、どこから上ったのか分からない屋根の上からのんびりと声をかけてみたり。
「うう、なんだか皆さん容赦がない‥‥」
などと肩を落としている弘満、微かに聞こえる物音に咄嗟に振り返ると、そそくさと建物から建物へ移動するルストを発見。
「‥‥っ、ここを逃したら今日一日鬼のままっ!」
弾かれるように駆け出す弘満がルストを捕まえたのはその数瞬後。
「ふむふむ、この辺りならば‥‥おお? ルスト殿?」
「‥‥はい、交代」
「むむっ!?」
「ふむ、たまにはこのようなものも運動となって良い‥‥」
「おお、ほれ、次は貴殿じゃぞ」
「む‥‥修行が足りん‥‥」
「うちは捕まらんでー」
「甘いっ!」
「な、何という瞬発力や‥‥くう、はよ誰かに‥‥」
「っ‥‥凄い勢い、逃げ切れませんね‥‥」
なにやら境内のあちこちから上がる声に、屋根の上からのんびりと楽しそうに見る住職。
「ゆきもあそこ行くー」
「止めておけ、俺らじゃ危ない、流石にあそこは」
住職を見上げて声を上げる幸満に、流石に高由は止めにはいり。
賑やかに白熱する鬼ごっこは、そんなこんなで空が茜色に染まるまで続くのでした。
●寺の夜
「おいし♪」
山菜の煮付けを亘理にお皿にとって貰って嬉しそうににっこりと笑う幸満。
鬼ごっこと言うにはなかなか過酷な面々の揃った遊びだっただけに、弘満と高由はなにやらへろへろしながらご飯をのたのた食べているのですが、1人平和ににこにことしていた幸満はすっかりご満悦でルストと亘理の間で元気よくご飯中。
「私などが言って良いことではないのでしょうが、御仏への思いはそれぞれ、自分にあった方法で、自分にあった考えで対するのが一番なのですよ」
その中で、錫杖を手にすることも己が身を投げ出すことも、信じるのも信じないのも強要する者ではないですからねと笑みを浮かべ、亘理の作ったお吸い物を頂く御住職。
連琥もその言葉になにやら考える様子がうかがえたり。
「んむ、粉を塗して焼いたのですか‥‥なんだか、面白い味で‥‥後でこれの作り方を教わっても?」
ルストに少し眠そうな顔のままに聞く弘満。
やがて食事が終わり、ゆったりとした時間の中、亘理が高由の隣へと腰を下ろし口を開きます。
「高由さんは御兄弟の事をどう思っているのでしょう?」
「む‥‥弘満は幸満のことになると、直ぐに優先してしまうのが、少し気に入らない‥‥けど、幸満は俺の弟だ。可愛くないはずがない」
きっぱりと自信を持って言う高由に微笑を浮かべる亘理。
「たまにはもう少し素直になってみても良いのではないでしょうか?」
「む‥‥す、素直ではないのだろうか?」
眉を寄せて首を捻る高由にくすりと小さく笑みを零す亘理。
「かわいい‥‥いいな、ゆきも、犬さん、欲しい‥‥」
そう言いながら幸満が連琥の愛犬・リンチェイとじゃれるのを見ながら目を細める高由に、亘理はぽんぽんとその頭を撫でてやり。
「まだ少し時間はありますが‥‥お別れは少し淋しいです」
「‥‥寂しければ、いつでも遊びに来ればいい。幸満も弘満もきっと喜ぶし‥‥俺も、嬉しい‥‥」
最後に小さくぼそっと付け足して顔を赤くしながらそっぽを向く高由に、亘理は微笑みながら、なんだか名残惜しそうに見つめているのでした。