緋色に染まる村

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月05日〜10月10日

リプレイ公開日:2006年10月16日

●オープニング

「‥‥燃え‥‥ぼくの、村‥‥」
 その日、風が涼しくなりつつある秋の入り口、ふらふらとどこかぼやけた焦点の少年がギルドへとやって来ました。
 目に光がない、と言えばいいのか、少年のただならぬ様子、そして擦り傷だらけ泥だらけで、服は森を突っ切ってきたのでしょうか、木の枝に引っかかったかあちこち裂けて切れて痛々しい様子に遠巻きに見る人々。
「あ、あの‥‥君、大丈、夫‥‥?」
 恐る恐ると言ったように声をかけた受付の青年を、焦点の合わない目で見返した少年、懐をまさぐり掴み損ねた袋を取り落とせば、袋の口が開き散らばるお金。
「‥‥‥燃やされ、て‥‥みんな、森に、逃げて‥‥怖く、て‥‥森に詳しい、ぼくと、ねえさんが‥‥」
 言いかけてがくがく震え出す少年、
「ぼくの家、燃え‥‥姉さん、ぼく、逃がして燃え‥‥うわぁあぁぁっ!!!」
 突如叫び声を上げて頭を抱え倒れ込む少年、受付の青年は何とか宥めようとし、奥の部屋へと連れて行き根気よく聞き取ろうとしますが、どうにも錯乱状態の少年の言葉は聞き取りにくく途方に暮れ。
「大丈夫か? なんか、騒ぎがあったようだけど‥‥」
「あ、正助‥‥」
 そこへ顔を出したのは正助という少年冒険者。
 過去に山賊に村を滅ぼされ、一時は冒険者不信だった頃もありましたが、一年ほど前に助けた商家で子供のように可愛がられながらギルドの手伝いをするという生活を送り、少し頼もしく成長していました。
「実は、詳しいことは分からないのだけど、村が燃やされた、とか‥‥」
「‥‥ちょっと、俺が話してみる」
 言って正助は、がくがくと震える少年に歩み寄って屈むと、顔を合わせて肩に手を置き、ゆっくりと呼吸をするように根気強く宥めていきます。
 少年も正助自身がまだまだ少年のためか、他の者へよりは怯えた様子を見せずにつっかえつっかえ話し、少し離れたところで心配そうに見る受付の青年。
「そうか‥‥では、村に移り住んできた老人の異人とその従者である中年男に‥‥」
 異国人が行き来できる今の世の中、どのような者達がやって来るか、それを見極めるのは至難と言わざるを得ず。
 そして、少年の村は、あまりに平和で疑うことを知らないような穏やかな村でした。
 異国から移り住んできたという老人とその従者らしき中年の男が開いている小屋を使わせろと言うのにも親切に応対し、出来た作物や食事のお裾分けなど、本当にいろいろと気遣っていたつもりだったそうです。
 ですが、それでも全く歩み寄りを見せず、寄ってきた子供達を脅かし、だんだんとお裾分けをしに行きたがる人々も減っていった、そんな中。
 当たり前のように村の物の畑から食料を持って行き、家畜を奪い殺し、それを抗議しに言った村人の1人が殺されました。
 突如燃え上がったその村人、そして傲慢に『劣った者どもが主に楯突くとは』と村人に言い放つ中年男と、大したことではないかのように方々へと火を放つ老人。
 村人達は森へと逃れ、幾つかある猟の時に使う洞穴に身を潜め、何とか持ち出せた物を森に一番詳しい少年とその姉に託し、江戸へと走らせたそう。
 そこで中年男に二人とも捕まり、姉は少年を逃がすために足止めをしようとして、少年の目の前で燃やされた、と。
「あの子は連れて行けない。あの状態では‥‥」
「でも、村の場所が分からないと‥‥危険だし、あの状態では無理だって分かってるけど」
「‥‥場所は、俺が分かる。一緒にその村に行ってくれる人を集めて欲しい」
「そ、そんな、正助だって、そんな人を簡単に燃やすような奴らに‥‥」
「あの辺の森は元々俺の居た村の近くだ、それに、森には自信がある。出発までに案内出来るようにしておく。俺じゃ、あまり戦えないけど‥‥俺、分かるから‥‥出来ることだけでもしたい」
「‥‥」
 正助の言葉に目を落とし、小さく溜息を吐くと、依頼書へと目を落とす受付の青年。
「‥‥分かった、でも、無事に帰ってくるように」
 そう困ったような笑みを浮かべて言う受付の青年に、正助はしっかりと頷いてみせるのでした。

●今回の参加者

 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9913 楊 飛瓏(33歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0161 コバルト・ランスフォールド(34歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

木賊 崔軌(ea0592)/ 七神 斗織(ea3225

●リプレイ本文

●薄暗い洞窟
 どこからか漂う木と、それ以外のものの焼けた気分の悪くなる匂いのする森の中を突っ切る一行。
「村に着いたら全力全開で、わからんチンどもをぶっ飛ばせるようにしておきたいわね」
「気を付けて。そちらは足場は悪くなってるから」
 それまで仲間の体力消費を押さえるために助言をしながら進んでいたマクファーソン・パトリシア(ea2832)に正助が避ける地点を伝えれば、注意深く辺りを見回して。
「あの少年の話でこの辺りに3つ程洞窟があるらしく、そのうちの2つを使っているって言う話だから」
「じゃあ、手分けをして洞窟を確認した方が早そうね」
 言って一行を少し待たせてこの辺りを大まかに知る正助と、土地勘のあるマクファーソンの2人で探しに行けば、マクファーソンが目を凝らしてみる先に、微かに動く物が。
 そっと近づけば見えてくるあまり大きくはない洞窟が行き来できそうな短い間隔に2つ、そして、伺うようにそうっと顔を出す男性の顔を確認すると一行の元へと戻り。
「1つ見つけたが、こちらは猟用の資材が置いてあって‥‥」
「こっちに2つ、村人らしい姿も確認したわ」
 マクファーソンの言葉に頷いてその洞窟に向かえば、物音に怯えたように洞窟から顔を出した村人が、老人と従者でないことに気がつき安堵の表情を浮かべて迎え入れてくれました。
「よ、良かった‥‥あの姉弟は江戸に着いたんだな‥‥」
 迎え入れる村人の言葉に何とも言えない表情を浮かべる一行。
 依頼を持ってきた少年は、補助に来ていた七神斗織と木賊崔軌が江戸の医者の元へと付き添い、そこで治療を受けたり、崔軌の妖精の魔法で眠りへと誘ったりと回復することに望みをかけて預けてきています。
 それについてもどう言って良いのか、少なくとも村の人たちは少年とその姉が江戸へと太助を求めに出た後どうなったかを全く知らない様子。
「‥‥だから俺たちが来た」
 短く告げるコバルト・ランスフォールド(eb0161)に、洞窟内にはほっとした空気が流れます。
「この付近でその老人と男を見かけることあるか?」
「い、いえ‥‥あの男はほとんどよっぽどのことがない限りは老人の側を離れませんでしたし、ここは一番村から遠いから‥‥」
「蓄えが多少有ったから我々もここを出来るだけでないようにしていたし‥‥」
 村人に楊飛瓏(ea9913)が尋ねれば、少し悩むように首を捻り口々に答え。
「食べ物などは大丈夫ですか? 怪我をされた方などが居ましたら‥‥」
「あぁ、うちの子が逃げている間に怪我をして‥‥」
 香月八雲(ea8432)が奥の方で固まっていた人々に声をかければ小さな子供を抱えた親が出てきて、その子供の足が酷く怪我しているのを見せ、飛瓏がその傷の手当をすれば拝まんばかりに礼を言う母親。
「自らの矜持にかけてこの依頼、成功させる」
 低く呟くように言う柚衛秋人(eb5106)に、ステラ・シアフィールド(ea9191)は洞窟の入り口当たりで村人たちの様子を見ていましたが、やがて森へと目を移し。
「力の中年と魔法の老人か。手強いな」
「何故このようなことを‥‥」
 超美人(ea2831)が眉を寄せて言うのにステラは理解できない、と言う表情を浮かべます。
「何故その老人と中年男が村を焼いたかは、そやつらを捕えた後『じっくりと』聞くとしますかの」
 洞窟の中で祈るように身を潜める人々を見ながら、磯城弥魁厳(eb5249)は言うのでした。

●血と火の村
「‥‥酷い‥‥」
 村の惨状を目の当たりにし、呟くように言うのは八雲。
 未だ燻り続ける火に、幾人かの全身が焼けた遺体‥‥それを目の当たりにし改めて村の被害がどれほどの物かを理解し厳しい表情を浮かべる一同。
「‥‥行きましょう」
 亡骸から咄嗟に目を逸らし息を緩く吐いてステラが言えば、老人たちの居る家へと向かう一同。
「お願いです、話を聞いてください! もう‥‥もうこれ以上人を傷つけるのは‥‥っ!」
 聞こえてくる八雲の声と、マクファーソンのゲルマン語での降伏勧告を聞きながら、そっと魁厳が小屋へと忍び込むと天井裏から見えるのは髪も髭も白く長い老エルフ。
 そしてその側で聞こえてくる声にちらりと目を向けるも何事もないかのように老エルフへと近づき二言三言、異国の言葉を発する中年の男。
 煩わしそうに手を1つ振る老エルフに左手で手斧に手をかけると右手を弓へと伸ばす男。
「‥‥」
 老エルフに聞く気が全くないのを読み取ると小太刀を握り直すと気配を殺し老エルフへと背後より一気に迫ったはずの魁厳だったのですが。
「ぐぅっ!」
 背後が見えているかのように振り向き態に投げつけられた手斧が深々と肩に突き刺さり床に叩き付けられるように落ちる魁厳、じろりと見る老エルフがゆっくりと歩み寄れば、一瞬赤く光る老エルフの伸ばす手の周りがゆらりと熱で揺らぎ。
「ぐ‥‥あぁっ!!!」
 灼熱の手に捕まれ声にならない声を上げる魁厳は、部屋の中央にごろんと放り投げられる魁厳に、ちらりと目を向けるだけで、既に弓を手に窓へと歩み寄る男。
「っ!」
 微かに聞こえる苦痛の叫びに美人と飛瓏、そして柚衛が飛び出せば、窓から小さな風切り音と共に深々と突き刺さる矢に倒れ込む美人。
 その間にも駆け寄る2人に更に矢を射かければ辛うじて盾で捌ききると更に更に先へと駆け寄る柚衛。
「っ、なんて奴だ‥‥」
 ちらりと美人の安否を横目で見れば、薬を取り出して何とか自力で戦列に戻ろうとするのが見え、緩く息を吐くと柚衛は盾で強行に道を突き通り。
 その頃にも後衛の人々と老エルフとの戦いも白熱しています。
 建物の入り口に現れた老エルフは酷い火傷を負った魁厳を興味深げにこねくり回すのにも直ぐに飽きたのか外へと放り出すと、視界の端に見えた後衛の人々に唇を歪め作り出される炎の固まり。
 激しく燃え上がる炎の固まりが迫るのに、後衛の仲間たちの前に立ちはだかるマクファーソンが手を差し出せば、瞬時にその掌に渦巻くように空気から水が集まり炎の固まりを迎撃、交錯する瞬間、瞬時にして消滅する炎と水。
 次の瞬間、目の前に立ちはだかる炎の壁と、瞬時にして勢いを増す村のあちこちで燻っていた炎。
「っ‥‥こ、これ以上はさせませんっ!」
 水で浸した毛布を被り強引に突破すると、視界を遮る炎の壁を解除する八雲。
「っ、少しぐらいでは効かないようですね‥‥」
 地を揺らし行動を阻害しようとするもあくまで仲間が辿り着く前まで。射程まで近づくも思い通りに妨害をする機会を逸したステラ、老エルフの家へと厳しい視線を投げます。
 前衛が辛くも辿り着いたその先に、魁厳を踏みつけるようにして姿を現す中年の男は弓を捨て、巨大な斧と、そしてまさに目の前で魁厳から斧を引き抜き無感情に一同をじろりと睨め付けます。
 どうやらかなりの痛手を負い意識を失っている様子の魁厳を放って、駆けつけた者達へと向き直る老エルフ。
「利己に惑いしその振る舞いは許されるもの非ず。その業の報い、しかと受けて頂こう」
「ぬかせ‥‥下等な民共が生かしておいてやったことも忘れ主様に楯突くとは」
 ぎらりと光る斧を軽々と振り切る男にぎりぎりでその斧の一撃を避ける飛瓏に駆けつけた柚衛も飛瓏や遅れて駆けつけた美人への攻撃を盾でなんとか受けきり。
「っ! このっ!!」
「っ‥‥」
 徐々に暑さで飛瓏が一歩引くと、柚木がそれを守り、の間に薬で傷を癒し。
「くっ‥‥流石にあの斧は無理か」
 美人は小太刀を手に斧を狙いますが、斧には刃が立たない様子、ですが徐々に近づきつつある後衛、コバルトが放つブラックホーリーがたいした傷は負わせないもののいちいちかんに障る様子の2人。
『この儂を煩わせるでないっ!』
 従者の男へとゲルマン語で叱りつける老人、幾度も襲いかかる炎に軽度の火傷を負いつつも盾を手放さずに受けきる柚衛も嫌な汗がじっとりと滲んでくるのを感じ。
「おのれっ!!」
「村の者達の苦しみ、身をもって知るが良いっ!」
 老エルフへ一歩も近づかせず立ちはだかる男は、数と回復の差に徐々に押され始め、また、劣った者達と見ている者達への怒りも込め振り抜く攻撃が掠めても、何とか前衛と合流した八雲にその傷を癒して貰いつつでは当然差も出てくるわけで。
『‥‥くっ、主様! このままでは‥‥』
『‥‥』
 男が声を上げるのを冷酷さを滲ませたその目が侮蔑の色を顕せば、瞬時に作り出される炎と共に、一瞬にして炎を手の中で作り、目の前にいる従者もろともに前衛の者たちに炎を叩き付ける老エルフ。
「がっ!!」
『ぎゃあぁっ!! あ、主‥‥』
『見苦しい真似を‥‥貴様には失望した』
 ゲルマン語で放たれる言葉、既にあちこちに傷を負っていた男は崩れ落ちるように倒れ込み。
 吹き飛ばされたその周辺には皆倒れ伏している中を、辛うじて爆風を耐えた美人が斬りつけるのに身体で受ける老エルフ。
 老エルフは何事かを口走り吹き上げる炎の壁。
 先程の爆風で呷られた火が、家へと燃え移り老エルフへと纏い付くかのようにして燃え上がり。
『下賤な者の手に誰が掛かろうかっ!!』
「‥‥‥愚かな‥‥」
 村ごと巻き添えにしようと火の勢いを強め自身を燃やし尽くした老エルフですが、それはマクファーソンの魔法などで食い止められ、八雲に直して貰い、一行は村人たちへ報告のためにその場を後にするのでした。

●これから
「あの子達は‥‥そのような‥‥」
 柚衛が来る前の少年の様子、そしてその姉がどう亡くなったかを伝えれば、子供たちを冒険者に頼んでやってきた、2人を送り出した村の大人たちは沈痛な面持ちをし目を落とします。
 結局の所、老エルフを押さえることが出来なかったためなぜこのようなことをしたのか、それをこの主従から聞き出すことは出来ませんでしたが、村人たちが生まれ育ち、はぐくんできた村を取り戻す事はできたよう。
「あいつはがんばった。それに応えられなければ‥‥俺たち冒険者も、生き残ることが出来たお前たちも‥‥」
 柚衛の言葉に村人たちは悩みながらも死者を葬りながら村を片付けて行くも、ほぼ村の全てが燃え尽きているため、村人たちは付近の村に射る縁者たちの元へと身を寄せ、徐々に復興し、亡くなった人たちの墓を守っていきたいと考えたそう。
「罪を憎んで人を憎まず、ですよ」
「‥‥あぁ、憎んでも、失った者は戻らない‥‥」
 八雲の言葉に村人たちは頷きます。
 江戸からの頼りで、少年はこの先長い療養が必要であること、それでも必ず快方に向かうであろう連絡も届けられ、少しずつ、本当に少しずつではありますが村人たちは前へと進み出せるような、そんな予感に、少しは彼らの心も軽くなることでしょう。
「‥‥居たか?」
「ううん、こっちではないみたいだ」
 コバルトがかける声に首を振って答える正助、2人は手分けをして老エルフたちの小屋周辺を、有るはずの亡骸を探して回っていました。
「‥‥なんとしても見つけてやらねば‥‥」
 小さく唇を噛んで根気強く焼け跡を調べていくと、焼け残った柱と柱の隙間に見つかる、若い女性であろうと思われる亡骸。
「‥‥居たぞ」
 低く告げるて正助と2人で掘り起こして見れば、奇跡的に隙間にあり何処も損壊しなかった様子の亡骸を、正助の差し出す毛布にくるみ慎重に運び出すコバルト。
「‥‥せめて‥‥せめてゆっくり眠ってください‥‥」
「この魂に憐れみを‥‥」
 用意された墓の前でぐっと涙を堪え目を潤ませて呟く八雲に、目を瞑り言うステラ。
「‥‥」
 『弟と村人の命を護った少女への敬意を込め‥‥』他に聞こえないほどの小さな呟き、コバルトは暫しその少女の墓に祈りを捧げているのでした。