●リプレイ本文
●人足寄場の餅搗き大会
「おいっしょ――っとぉっ!!」
「うらあぁあぁぁ―――っ!!」
「虎、それ掛け声違う」
長閑な冬晴れの空の下、石川島の人足寄場では賑やかな掛け声と共に響き渡る声。
寄場の中では幾つか臼や杵が用意されており、あちこちでもち米を蒸かしたものが運ばれては、景気が良い声とともに賑やかに楽しげに餅搗きが行われており、その活気たるや気力体力が有り余っている者たちばかりでそれはそれは凄いもの。
人足達が集まってわやわや騒ぐ中では、ちょうど嵐山虎彦(ea3269)とレンティス・シルハーノ(eb0370)が杵を手に餅搗きの真っ最中で、嵐山の発した声にリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)が存外冷静に突っ込みを入れつつ御餅を反します。
「久し振りだけど、活気があって良いわね」
レンティスのを方の御餅を反しながら光月羽澄(ea2806)が微笑を浮かべて言えば、一段落ついてレンティスが笑いながら頷きます。
「見たところ先の乱の影響は見えないな」
実際のところ、先の乱があったにも拘らず、まったくと言って良い程に変わらずいたこの人足寄場は、やはり特殊な環境下にあります。
周囲を海と川に囲まれた入り江に浮かぶ島であること、そして更生の見込みのある軽犯罪者や暮らしていけなくなったあぶれた者たち、そしてまた特殊じゃ事情で来ている者もいることでしょうこの島は、他所の干渉を上手く避けて維持されていました。
「ま、特殊な場所だからな、扱いに困ろうて」
紺の袷に羽織を身につけた、普段と違い大分気楽な姿の人足寄場責任者・彦坂昭衛が肩を竦めれば、傍らでは見ていて楽しいのか搗き上がりの御餅を笑みを浮かべてみるのは昭衛の義息・清之輔です。
「それにしても、ここはいつも活気がありますが、今日は一段と賑やかで楽しいです」
「そうなの? 楽しんで貰えるなら何よりね」
「はい、皆さん御餅が食べたくてうずうずしているみたいですよ」
元から年齢より大人びているであろう清之輔ですが、近頃は年相応の大人たちに対しての甘えの姿も見えるようで、ちらりと昭衛を盗み見れば、珍しく目を細めて楽しげに口元を歪めていたり。
「おし、どんどんやっていこうぜ。清之輔もどうだ? 俺がやるからよ」
手で返す仕草をして見せながらいうレンティスにぱっと顔を輝かせて杵を受け取る清之輔、御餅を丸めに戻る羽澄は可笑しくて堪らないとでも言うようにくすりと笑い昭衛に声をかけます。
「ほんと、清之輔君が可愛くて仕方がないのね」
「ええい、悪いか」
「悪いなんて言ってないわよ? ただ、凄く顔に出ていたから少し可笑しくて」
「あぁ、確かに凄いねー、昭衛さん普段仕事とかで見かける顔とえらく違うんだから」
他の者にちょうど代わって来たリーゼが微笑を浮かべて同意すれば、呵々と笑いながら嵐山も口を開き。
「そーそー、もうでれでれじゃねぇか」
「‥‥‥‥‥嵐山、後で覚えておけ‥‥」
「俺だけかよっ!?」
楽しげに上がる笑い声、手分けをして御餅を丸めたりきな粉や餡、お雑煮に御餅を落とし甘酒や振る舞われる酒。
「はぁ、こいつぁうめぇ!」
中でも暖かい魚汁と酒は人足達に人気のようで、陽気な笑い声が寄場中に満ちていて。
「‥‥海の傍での仕事は冬は厳しいが皆元気で頑張ろうぜ」
「おう、新年早々こいつは幸先がいいからな、もちろん、今年も頑張るぜ」
人足達の言葉にレンティスは笑みを浮かべて頷き返すのでした。
●綾藤での新年会
宴が始まり、レーラの手品が賑やかに行われたり、モンドの百面相に大いに沸いたり。
「なるほど、良い酒だな」
そんな中でレイナス・フォルスティン(ea9885)が盃を軽く揺らして笑みを浮かべれば、沢山ありますので、とお藤が笑いながら徳利の首を摘みます。
新年会は綾藤の料理は勿論、お酒の差し入れや料理の差し入れ、そしてその日搗いたばかりのお餅まで出てきており、賑やかで華やかな宴の席。
「新年明けましておめでとうございます」
平蔵と昭衛の前へと道指ついて丁寧な挨拶は羽澄で、平蔵は笑みを浮かべ頷き、昭衛も改めて宜しくと答えており。
「昨年は色々と合ったが、今年も宜しくな」
その後も人足寄場や改方のことなど、色々と言葉を交わした後、羽澄は貴由達の方へと足を向け、入れ替わりにやってくるのは嵐山。
「そういや昭衛の旦那、清之輔坊は近頃どうですかぃ?」
「清之輔か? このところ特に勉学や剣の修行に力の入る様子だが、まだ子供。相変わらず比良屋でのんびりとしており事が多いが、そちらはお主の方が詳しかろうて」
笑う昭衛に確かになと笑って徳利に手を伸ばす嵐山。
「ま、御頭も昭衛の旦那も一献」
言いながら酒を注ぎ、盃をすすめる3人、昭衛だけは飲む酒量を引き摺られないように必死に注がれるのを抵抗していたようです。
「それにしても、そちらの方はどう?」
「取り調べに書面の仕事が山積みだ」
リーゼが誠志郎に聞けば、少々疲れた様子でお節を突くのは誠志郎。
暫くはまだ忙しそうなことを聞けば、まぁ今日ぐらいはゆっくりしていきなさいなと笑うリーゼに酌をして貰い。
「貴女も、サラ。最近はそう?」
「んー、最近はちょっと、ごろごろしてた、カナ?」
ちょっぴり目を逸らし気味なのはきっと気のせい、サラはぼちぼちやっているよと答え、そこに鶴吉と美名が顔を出せば、リーゼの矛先は逸れたようで、お菓子を紙にとって渡してあげるリーゼ。
「ま、無理はしないでね、2人とも」
リーゼが笑いながら誠志郎と更に言えば、2人は頷くのでした。
「そういえば、あの細工師って、今どうしてるんだ?」
レンティスが船頭仲間達と酒を酌み交わしていればふと出た疑問に、孫次が軽く思い出すように額に手を置いてから頷きます。
「あー、あの方ですかい。あの方ぁ今寄場にまだいやすよ」
「寄場に?」
特に本人が何したわけでもないのですが、盗賊達に利用されそうになって自ら寄場に入った細工師は、愁いの種が消えてもまだ寄場にいると言います。
「あぁ、あの男には細工を出来るようになりたいという人足で適性やらなにやらを考えた数人に、その細工の技を教えて貰っておる」
事情を話す昭衛、作品を問屋に卸すのは寄場の荷の遣り取りの時に運んで貰えばいいとなれば、細工師にとって寄場は存外に安全な場所であったと言うことでしょう、今では生き生きと立ち働いています。
「あれ、餅搗きの時にいたか?」
「あぁ、ちと少し前から風邪を引いていたようで寝ておったわ。薬も飲んで暖こうしておった故、今頃はすっかりと良くなっていることであろう」
「そっか‥‥後で顔を出してみっかな」
軽く首を傾げるレンティスに、それが良いだろうと頷くレイナス。
「そうそう、長谷川さん彦坂さん、江戸もまだまだ何かと事件が多い。何かあれば手を貸すんで気軽に言ってくれ」
にと笑うレンティスはにやりと笑って続け。
「舟が要るようなら特に、な」
「心得た。必要な時は真っ先に思い浮かべることとしよう」
「この町ぁ船が有ればこれほど重宝することぁねえ。宜しく頼む」
昭衛と平蔵が頷けば、レンティスも笑って盃を軽く掲げてみせるのでした。
●宴のあと‥‥
「そちらの若い衆は元気ねぇ」
リーゼが声をかければ笑う氷川、ちょうど神社での待ち合わせだったようで、あちらこちらに見た顔と会釈をしつつ氷川と合流するリーゼ。
「今年も1年、また忙しいのかねぇ」
「ま、大人しくしてる謂われはねぇわな」
「そっちの心配が先だったわね」
笑う氷川につられたようにくすくすと笑みを零すリーゼは、氷川や白鐘の若い衆と共に初詣です。
見ればレイナスが怪訝な表情を浮かべて参拝方法を書き付けて有るのに時折首を傾げ、見よう見まねで参拝をしているのが見受けられます。
「清之輔、やっぱ剣の修行してぇなら、新陰流が良いぜ〜、これぞ男だぞ♪」
「こら、誘導しない」
見かけた嵐山が清之輔相手に新陰流へと勧めているのをていっとはたいて止めてみたり。
「あら、綾藤の方は今どうしているの?」
「あぁ、まだ数人残って呑んで居るみたいね」
「‥‥‥父上はあのお二人に挟まれて、断り切れずに今頃隣室で唸っているかと‥‥」
羽澄がリーゼ達を見かけて声をかければ、リーゼが答えるのに清之輔が頬を掻いて付け足します。
「うちの親分やらそっちの親分やらと呑んだんじゃ、そりゃ下手すりゃ明日も起きあがれねぇな」
面白そうに笑う氷川に、今から戻ろうかと呟きつつ考える嵐山。
「あら、後でお見舞いが必要かしら?」
「こういったのぁ、迎え酒が一番だな。うし、清之輔坊、ちゃっちゃと戻るぜ〜」
「あ、は、はい」
にやりと笑って歩き出す嵐山に、羽澄やリーゼ達に頭を下げてからぱたぱたついていく清之輔、2人を見送りながら、流石に昭衛は大丈夫だろうかと一同の顔に心配する色が浮かぶのでした。
「これは‥‥よく来て下さいました。もうすっかり元気に‥‥先日のお餅は、そりゃあ美味しく頂きまして、あれですっかりと」
石川島・人足寄場ではレンティスが訪ねてきたのに細工師が嬉しげに出迎えていました。
「お陰様で、人並み以上の安全と、又色々と気遣って下さる皆様に囲まれ、毎日が充実しております」
「そりゃ良かった。教えながらも自分のものは‥‥?」
「ええ、ええ。寄場に入る前よりも日々が充実して居るお陰で、前よりもずっと自身でももっとこうできるんじゃないかと精進しようという気になれるように‥‥」
にこにこという細工師に幾つか見繕って欲しいと告げれば、いそいそと幾つかの品を並べて貰い、前から腕の良い細工師ではありましたが、その腕に磨きがかかり、丁寧で繊細な仕事をしているのが分かります。
「なんでしたら、言って下されば新しく作りますよ。今は本当にこうして、こんな良いところに置いて貰い、好きな仕事に精を出せる。本当に皆様にも、こちらの方々にも感謝しております」
何度も礼を言う細工師に、レンティスも笑みを浮かべて、繊細に輝く簪を手にとっては眺めているのでした。