蒼蠅
|
■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月09日〜08月14日
リプレイ公開日:2004年08月17日
|
●オープニング
「あのう、済みません、僕の言うこと、貴方なら信じて下さるでしょうか?」
気弱そうな青年がやってきて、そうギルドの人間に聞いたのは、泣きたくなるような土砂降りの日の夕刻でした。
「僕は3男坊で、家を継ぐことも出来ず、親の反対がある為町人になることも出来ず、兄に厄介者として扱われている身です。ですのでとある方に、婿養子にと声をかけて頂けて、ほんの数日前までは、本当に幸せでした」
そう言う青年は、不安げに歪めた顔を更に歪めて溜息をつきます。
「僕を見初めてくれたのは父の知人で、家より身分も家柄も上で、本当に申し分ないような素敵なお嬢様でした。優しくてたおやかで本当に素敵なお嬢様でしたので、僕も両親も喜んでくれて、近いうちに結納を、とトントン拍子に進んだのですが‥‥」
そう言うと、青年は目を落として深々と溜息をつき、肩をがっくりと下ろします。
「本当でしたら、今日が結納でした。しかし、ここ暫く、僕に対して悪い噂が流れていると耳にしたらしく、先方の方で、疑いが晴れるまで延期と、突然言われまして‥‥」
噂の内容は良くあるものです。女にだらしがない、酒を飲んでは暴力を振るう、金に汚い、など。
実際に青年を前にしてみれば、何の冗談だと笑ってしまいそうなものばかりですが、自体は思ったより深刻です。先方が世間の目を気にして、嫌がるお嬢様を別の男とめあわせようとしているらしいのです。
「もし、お嬢様に嫌われてならば僕も諦めがつきます。良い夢を見たのだ、と。でも、無理にお屋敷を抜け出したお嬢様は『蒼蠅の所に嫁ぐなど嫌です。いっそ連れて逃げて下さい』と‥‥」
蒼蠅と言われているのは、今しきりにお嬢様に婚姻を申し込んでいる男だそうで、この男の都合の悪い人間は何らかの形で失脚させられることが多い事で、そう呼ばれているようです。
「先方のお母上様は、とても身体の弱い方。また、お嬢様もご両親と別れるのは、どんなに辛いことか‥‥それしか手段がないのでしたら、僕も覚悟を決めて、どこまでも逃げるつもりです。ただ、もし‥‥もし、噂の元を立つことが出来るのでしたらそれに越したことは有りません」
そう言うと、青年は顔を上げて必死の様子で頼み込み始めます。
「ここでこうして話しているうちに、なんだか覚悟は幾らでも決まりましたっ! お願いです、どうか、どうかその蒼蠅とか呼ばれる男のしていることを調べ上げて、狩り出すのを手伝って下さいっ!!」
噂の元を断って欲しいというだけだった依頼が、一転してその上相手を倒す依頼に切り替わってしまったようですが、青年の様子は真剣そのものです。
その様子に、ギルドで応対ししていた人間は頭を角ながら軽く首を傾げました。
「えっと‥‥つまり、助っ人を雇いたいわけですね?」
青年は、その問いにこっくりと頷きました。
●リプレイ本文
●噂の元
「ふっ‥‥今回は美しくもない蝿を潰せばいいんだね? まぁこの薔薇雄と愉快な仲間たちに任せておきたまえ」
無駄に髪を輝かせながら虎杖薔薇雄(ea3865)の言う言葉に、依頼人の青年を除いた一同は聞かなかったことにしたようです。
「噂というのは面白いものだな」
依頼人を見て可笑しそうにそう言うと、デュラン・ハイアット(ea0042)は失敬、と笑いを噛み殺してます。
「確かに、噂から想像される人物とは思えません」
「しかしまあ、あれだな‥‥依頼人と話の進んでいたお嬢様にその蒼蝿が結婚申し込んでる時点で、噂自体が怪しいと思わないものなんだな、世間は‥‥ま、不条理はきっちり正してやらんとな」
闇目幻十郎(ea0548)がそう同意を込めていうと、龍深城我斬(ea0031)が続ける言葉に、依頼人の青年は縋る子犬のような目を我斬へと向けます。
「俺らが出ている間、暇だって言うなら、奉仕活動とか頑張ってれば? 身の潔白は言葉ではなく態度で示せ、ていうかやれ」
うむもいわせずきっぱりという無天焔威(ea0073)の言葉に弾かれるように立ち上がって部屋を出る依頼人に、苦笑しつつ鷲尾天斗(ea2445)がついて部屋を出て行きます。無天は足手纏いは消えたから仕事しよーか、と笑いながら言っています。
「ジャパンのことわざでは『火の無いところに男が立たない』と言ったかな? 違うような気もするが、まずは噂の元を探るのが大事だな」
デュランの言葉に一同立ち上がり、部屋を出て行きました。
無天と我斬、それにナバール・エッジ(ea4517)とルーン・エイシェント(ea3394)は、酒場や賭場の辺りへと行くと、手分けして聞き込みに行きます。
デュランは遊郭へと足を運びます。依頼人の名を出して派手に遊んでいるだろう、等と言うと、随分と綺麗な様子の女性が笑いながら遊郭ではなくもっと安い場で遊んでいるのではないか、と答えてくれます。
「あら、可愛い」
「来たばかりで街の事をよく知りたいんだ。だからこれからお届けする場所がどんな所かを知りたいんだよ」
ルーンが天真爛漫を装った笑顔で言うのに、お姉さん方は溜息をつきます。どうやら、その家の縁談話がこじれているという話で、お姉さんなどはその噂されている浪人の兄が馴染みらしく、同情している所でした。
「蒼蠅は陰険で嫌な奴よ。あの子もお嬢さんも可哀想に。金をばらまかれて根も葉もない噂をばらまいている奴は、大抵あちらの酒場で馬鹿騒ぎしているわ」
お姉さんは、そう溜息混じりに言いました。
「良い所のお嬢さんと結婚が決まっていた浪人がここら辺でひと悶着起こしたそうですが、何か知りませんか」
幻十郎は花街へと行き、依頼人を見たと言われるところとルーンの聞き込んだ場所へ足を向て、依頼人の風体で聞き込むと、程なくそれらしい人物の話を聞くことが出来ます。ただ、どう考えても武家の人間とは思えない不作法な様子で、どこのヤクザ者かと思っていたそうです。
ナバールと我斬は酒場で飲んだくれている男達を中心に調べていきます。我斬は客の中で、飲んだくれている青年似の男を捜してみます。何件目かでそれらしい人間を見つけたとき、その輪にはナバールが紛れ込んでいます。ナバールは噂を流している人間を捜しているうちにこの男達と会ったらしく、多少酒を奢りつつ、異国と貿易をしている商人と関わりがあるから、などと言った言葉で惑わしているようで、上手く入り込んだ様子です。
上手く煽てると、設け話をちらつかせて人気のないところへと誘導していきます。そこに我斬が呼んでおいた仲間達が待ち構えており、連れてこられた男達の顔色がさっと青ざめます。
「洗いざらい吐いて貰うぞ。あぁ、なに、大丈夫だ‥‥何せお前達は大事な証人だからな‥‥くっくっく‥‥」
どこか尋常でない笑みを浮かべて、我斬がそう言い放ちました。
●噂の男
「あぁ、この美しさが障害になるとはね。情報収集は仲間達に任せよう。‥‥しかし、ただ待つだけでは暇だしね、やはり何気ない仕草で情報を聞いてみようか」
いつの間にかすっかり馴染みとなってしまった茶屋では、相変わらず金髪をたなびかせながら、薔薇雄がお茶を啜っています。店の人間は、もう諦め気味で、薔薇雄が来ると長引くと思って居るのか雇っている人にその日は休みをあげて気長に待っているようです。
「あ〜キミたち、最近ここら辺で噂になっている最低な男の話について何か知ってないかい? ‥‥む、やはりあまりの美しさに逃げてしまったか‥‥あぁなんと罪深き美しさか」
茶屋に連れだって入ってくる少女達に、髪を掻き上げていう薔薇雄に、慌てた様子で引きつった笑みを浮かべながら回れ右をして出て行くのに、陶酔した様子で薔薇雄は仲間達が戻るのを待つか、と言っていました。
出て行った少女達はひそひそと『あれが噂の薔薇の人ね』と囁いていたのは、秘密だったりします。
さて、依頼人というと、奉仕活動と言われても浪人とはいえ武家の家の息子である依頼人が何かをさせて貰えるはずもなく、落ち込んだ様子で鷲尾と共に、茶店の隅っこでお茶を飲んでいました。視界には、何故かきらきらと輝く御仁がいますが、あえて気にすることはなく、2人で暫く話し込んでいるようでした。
話がお嬢様との出会いになると、途端に嬉しそうに花見の席で偶然に絡まれているお嬢様を助けたとのことや、それから度々会っては出かけたことなどを嬉しそうに話します。
「お前さんは幸せ者だな。そんなに両想いなんだからな」
「そうですね、僕は幸せ者です。あんな素敵な方に想われて‥‥」
「まぁ、今回の事は大丈夫、俺達に任せな」
鷲尾がそう言って慰めるのに、依頼人は嬉しそうにこっくりと頷きました。
数刻の後、縛り上げられた遠目から見れば依頼人に似ていなくもない青年を引き立てて、仲間達が帰ってきます。
話を聞くと、その替え玉を人質に逆に蒼蠅の悪評をばらまくように指示して戻ってきたそうです。
「後は、頼んどいた蠅を誘き寄せるためのお嬢さんの偽手紙と、あと、信頼できそうな奉公人とか、そんなんで良いから、お嬢さんちから連れてこられないかな」
「それでしたら、一番良いのは父に、お嬢様のお父上様を呼んで貰えば確実かと‥‥父とはそれなりに付き合いがありますし、話せば分かって下さる方ですから。手紙はこちらに‥‥」
デュランの言葉に手紙を出しつつ依頼人が答えます。
「さぁて、蠅退治と行こうかね」
立ち上がる鷲尾に依頼人は頷きました。
●蒼蠅退治
人気のない神社の境内で、依頼人と共に一行は待ち構えていました。お嬢様とその父親が境内側に身を隠していて、事の成り行きを見守っています。抜け出したお嬢様に多少の説教があったのですが、それは親として当然の範疇でしょう。またちょっとばかり掴まった替え玉をルーンが魔法で散々脅かして真実を言うようにとしていたりも、当たり前の裏付けでしょう。
蒼蠅と呼ばれる目つきが卑しい侍が、家人数名を連れて現れたのは、俺から暫く後でした。
「ふん、小僧が。まだ懲りていなかったか。花街で遊び惚けて相手の家から切られたというのにな」
「みんなお前が流した噂じゃないかっ!」
依頼人の言葉に馬鹿にしきった笑い声を洩らすと、蒼蠅は一緒にいたという鷲尾を馬鹿にするように鼻で笑います。
「てめぇ、誰に向かって戯言を抜かしていやがる。俺は侍、貴様みたいな屑と違って士道を歩む以上つまらない事はしない。もしお前の言う通りなら腹を切ろう」
鷲尾の言葉を雇われて嘘をついたな、と言う蒼蠅に、すぐにきっと鋭い眼光で睨み付けながら鷲尾はそう言い、我斬が引き立てるように替え玉の青年を蒼蠅に見えるように目の前に転がします。
「だが、もし無実ならお前、自分の背中が見えるようになってもらうぞ」
替え玉を見て、一瞬だけ眉を上げた蒼蠅に鷲尾はそう低い声で言い放ちます。
「ふん、そこの小僧が消えれば同じ事。貴様ら雇われ者風情が、噛み付いてくるとは良い度胸だな。目撃者も消せばいい、あの娘が駄目でも女は幾らでもいるしな」
そう言うと、蒼蠅の替わりに取り巻いていた者達が刀を抜きます。
「屑が‥‥」
蒼蠅の言葉に、我斬が吐き捨てるように短く言い刀に手をかけます。それが合図となったのか、即乱戦となりました。
余程不快だったのか情報収集で鬱憤が溜まっていたのか、ナバールが容赦なくロングソードで手近な者を斬り伏せ、我斬がザコ一掃、とばかりに斬り込み。薔薇雄がザコを逆上させながら戦っている横で、依頼人がお嬢様達を守ろうと移動します。
「祝い直前に血で汚れるな」
鷲尾の言葉に頷き峰打ちに持ち直す依頼人。その様子に蒼蠅が刀を抜いて斬りつけようとします。
「刃狩りの焔威‥‥参上。なんてね♪」
蒼蠅へと無天が叩き込んだディザームで刀を取り落とすのに、お嬢様達を連れて近づいてきた依頼人がぐっと睨み付けて刀を構えます。
「やめておけ。この屑はお前が斬るに値しない」
鷲尾の言葉に悔しそうに唇を噛みながらも依頼人は刀を収めます。
「む、やはり美しくない。全く何故そうも美しくもないのか‥‥仕方ない、美の伝道師たる私が美を少し分けてあげよう」
括られている蒼蠅の服を薔薇雄が切り刻んで、人には言えない所へと薔薇を突き立ててそう言いました。
●大団円?
「お前さんは愛する人の為に出来る限りの事を精一杯やった、誇って良い、もっと自信を持て」
我斬の言葉に有り難うございます、と頭を下げる依頼人。その横で鷲尾が『お嬢さん! お礼に結婚でも〜!』と言って、依頼人に無言の蹴りを受けたり、お祝いと称して薔薇雄が薔薇を2人に贈ったりしている光景が繰り広げられています。
「悪人も退治した。うーん、爽快爽快♪」
デュランはそんな光景を眺めながら1人楽しそうにそう呟いていました。