【凶賊盗賊改方】あの坂の先

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月21日〜11月26日

リプレイ公開日:2006年11月30日

●オープニング

 その日、既に日も高く上がったとある日の昼下がり。
「おやくめにかかわることかも知れぬゆえ、おいそれと話せないのです。もうしわけありませぬ!」
 入り口のほうで上がる元気な声と、同僚の苦笑気味な声に顔を上げたギルド受付の青年は、その同僚が此方を指差し六歳ぐらいの男の子がぺこりと頭を下げるのを見て、何とはなしに釣られて頭を下げます。
「あらため方かんれんのおしごとをたんとうされるうけつけどのさんですか?」
「はぁ、その、受付殿という名でもないんですけどね‥‥」
「うけつけどのさんではないのですか?」
「‥‥‥‥良いです、受付殿さんで‥‥」
 じーっと円らな目で見上げながら心配そうに首をかくんと傾げる少年になんだか微妙に泣き笑いにも見えそうな笑顔で席を勧めてお茶と菓子を出せば、ぺこり頭を下げてからお茶を一つ啜ってほぅと溜息をつく少年。
「そのう、お名前をお伺いしても‥‥?」
「もうしおくれました、おぎたいちのじょうともうします!」
「あー‥‥その、ご丁寧にどうも‥‥」
 お茶を気に入っている様子の少年に頬を掻く受付の青年と、遠巻きに何だか笑いながら見ている同僚たち。
 のんびりゆっくりお茶を啜っていた少年ですが、やがてどこか物憂げに溜息をつくと、困ったように恐る恐ると受付の青年は口を開きました。
「それで、その、一之丞様は本日はまた、どうしてギルドに?」
「む‥‥それは、おやくめにかかわることかも知れぬゆえに‥‥」
「あ、いや、そう言っているとそもそもお仕事を冒険者の方に頼めないのですよ?」
「そうなのですか?」
「そうなのです」
「‥‥」
「‥‥」
「むぅ、それは気づきませんで、すみません」
 ついしっかりと見詰め合った後で卓に突っ伏す受付の青年、一之丞君は眉を寄せて一生懸命言うことを纏めようとしているようで。
「じつはですね、ぼくの父上はきょうぞくとうぞくあらため方のどうしんなのです」
「はぁ、まぁ、存じております」
 難しい顔で真面目に話し始める一之丞君に釣られて丁寧な応対をする受付の青年。
「それでですね、ひみつなのですが、みっていさんという大へんなおしごとをされている方がいるのですが、そのまごじさんという方が、今日会ったらへんなのです」
「‥‥‥孫次さんが変? それは‥‥」
 怪訝そうな表情を浮かべて尋ねる受付の青年に話し始める一之丞君、一之丞君は今日は町人の子供たちと河原で石合戦とのことで襷がけして張り切って出かけてきたそうで、朝一に河原へ向かう途中、孫次が舟で流していたそうで。
「かっせんじょうまで舟でのりつけるというおのことしてとてもほこらしいような‥‥」
「あー、はい、とりあえずその話は後に‥‥孫次さんのことを」
「もうしわけありません。それで、そのときはごくふつうの、いつものまごじさんでした」
 そういうと首を傾げる一之丞君。
 石合戦でといっても幼い子供たちがきゃいきゃい河原で遊ぶ程度のもので怪我らしい怪我もなく帰ろうとしたとき、一之丞君の耳に孫次之声が聞こえてきたそうで。
「『あの坂の先に‥‥冗談じゃねぇ、なんであっしがお前ぇさんの手伝いなんぞ‥‥』とだれかと話していたのです」
「手伝い‥‥」
「なんだかこわそうな声がして、ろーにんさんのおじさんがたちさったあと、まごじさん、あたまをかかえて『見殺しにはできねぇ‥‥でも‥‥あぁ、おしまいだ‥‥』と」
「‥‥一之丞様、記憶力が宜しいと言いますか、芸達者ですね」
「は‥‥きょうしゅくです」
「で、それをお父様‥‥荻田さんには?」
「まっすぐその足でここに来たです‥‥まごじさんおしまいだって言ってたですし、どうしたら良いのかわからなくて、ぼうけんしゃさんに何がおきていてどうすればいいのかそうだんにのっていただきたくて‥‥」
 困ったように目を伏せてしまう一之丞君、お家では父親がきっと優しいけど怖い方だとか色々と上司のことを話していたのでしょう、孫次は時折遊んでくれるお兄さんというふうに懐いている様で子供なりに考えた上でのこととか。
「おねがいです、まごじさんをたすけてあげてください」
 そういって懐あたりに縫い付けてあった布の糸を解いて剥がして、その中からお小遣いを引っ張り出して差し出す一之丞君。
 それを見て受付の青年は悟ります。
 私も今月の小遣いはこれで終わりだな、と‥‥。

●今回の参加者

 ea0264 田崎 蘭(44歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb4902 ネム・シルファ(27歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ジャンヌ・バルザック(eb3346)/ 海龍院 桜(eb3352)/ 早瀬 さより(eb5456

●リプレイ本文

●役宅長屋の一之丞君
「む、荻田殿のご子息でござるか。幼いながら立派なもののふでござるなあ」
 磐山岩乃丈(eb3605)は荻田同心の一人息子・荻田一之丞君を前に、微笑ましげに目を細めて呟いて。
 一之丞君に会いに行くと、吃驚した様子で出迎えた荻田同心のおっとりした雰囲気の奥方は一之丞君が依頼を出しに行っていたことを知ってさらに驚いたようですが、御礼を言いながらお茶を用意して。
「一之丞殿、お初にお目にかかるでござる。我が輩、いわやま がんのじょう と申すでござるよ」
「おぎたいちのじょうです! おしごとを引きうけてくださってありがたくおもいます!」
 元気に言いながらぺこりと頭を下げる一之丞に笑みを零してみる一同。
「久しぶりだな、元気そうでなによりだ。宜しければこれを‥‥。その浪人について色々と教えて貰えると助かる」
 時永貴由(ea2702)が土産として持ってきた甘い焼き菓子にぱっと顔を輝かせつつも、まずはお仕事をしてからと、むむ、と我慢をして礼儀正しく頭を下げて受け取ったようで。
「はっきりとは見えませなんだが、みょうにひくくかすれた声で‥‥」
「どんな些細な事でも良い。その男は孫次より背が高いか低いか、体型はどうだったかとか‥‥」
「まごじさんよりはせがたかかったと思います。ひょろりとしていたかんじで‥‥あ、なんだかお花のようながらのいんろうをつけていました!」
 言ってぐりぐりと手習い長を引っ張り出して筆で書き付ける一之丞、見れば五枚の花びらを五角形の枠に囲まれたどこぞの家紋のよう。
「どこかのお武家でしょうか?」
「恐らくはそうだろう。しかし、『あの坂の先に‥‥冗談じゃねぇ、なんであっしがお前ぇさんの手伝いなんぞ』‥‥これだけ聞くと、小間物屋へ盗みに入るように聞こえるが。武家だとすれば‥‥?」
 ネム・シルファ(eb4902)が首を傾げて一之丞君が描いた絵を見ると鷹司龍嗣(eb3582)は怪訝そうな表情で眉を寄せて。
「それに小さい盗賊に狙われるような店ではないようであるし‥‥小間物屋の娘を盾に、他の店へ盗みに入るよう強請られているのだろうか?」
「とすればどのような関係であるかを知るためにも、孫次に話を聞かねばならぬでござるな」
 磐山が言えば頷く一同。
「一之丞殿、よぉく知らせて下さったでござるな。我等にお任せあれ!」
 磐山はにと笑って言うと、こっそり一之丞君に自分は報酬は要らぬでござるよ、と笑って受付の青年に出したお小遣いをその小さな手に握らせるのでした。

●役宅の平蔵
「帰ってきたら一緒にでかけるじゃん? だから良い子で待っててくれるかな?」
 レーラ・ガブリエーレ(ea6982)が言うと、一之丞君は元気良くまっています! と言い見送り。
レーラは田崎蘭(ea0264)と合流して何処かへと向かうようで。
 さて、2人が向かったのは改方役宅。
「お、レーラどうした? 女連れで」
「鬼平さんに用事じゃん? 早田の兄ぃはー?」
「不穏な話が絶えないからなー、見回りだよ、見回り」
「おつとめごくろーさま〜」
 ぶんぶん手を振って入れ違いに役宅に入ると、くっくっと笑う蘭。
「それじゃあ出入りミテェじゃねぇか」
 そんなことを言いながら詰所にいた与力・浅間真蔵にレーラが挨拶をすれば、直ぐに奥へと取り次ぐ浅間与力。
 折り良く平蔵は役宅に戻っており、居間で2人を迎え入れます。
「鬼平さん、こっちは蘭さんじゃん。こっそり大事な話があるんじゃん」
「ほう、其方も冒険者の‥‥?」
「田崎蘭ってぇ渡世人さね。ちょいと話しておきたいことがあってね」
 蘭が口を利けば、平蔵の奥方が茶と菓子を運び、置いて出て行くと、平蔵は頷いて促します。
「ここの同心の荻田ってぇのの息子・一之丞がとある仕事を持ってきてな。それについて、内密にして貰いてぇんだが‥‥」
 そう言って切り出す蘭は、依頼書で書かれていた内容を話し、続けます。
「多分、孫次の様子がおかしいってのはソッチでもつかんでるだろうし‥‥」
「なにやらよそよそしいという事や、どこぞの小間物屋に出張っていたり郊外の旅籠に張り込んでいたりする事を指すってぇんならな」
「ま、子供に見つかるようじゃ、な」
 言ってにやりと笑う平蔵と蘭。
「あれ? じゃあ孫次さん、もしかして‥‥」
「一応様子を見ているのがいるな」
「その事なんだがな‥‥もし、事件にまでなる前に私らが孫次確保してことが起こる前になにかをつかみゃ、何もシテネェ孫次お咎めなし、ってことにできねぇか?」
 蘭の言葉に煙管盆を引き寄せて葉を詰め、火を入れる平蔵。
「‥‥孫次は何かの探りでも、入れているのであろうよ」
 緩く煙を立ち上らせながら笑みを浮かべる平蔵に、頷いて返す蘭。
「そだ、その事で、何か心当たりとか無いかなぁ?」
「‥‥津村が孫次が探っていた様子の旅籠を見ていてな、全く同じ条件の旅籠が、改方が発足する前にではあるが、押し込みを受けて皆殺しにされたところと、色々と重なって見えるようでな。何なら武兵衛に聞いてみるが良い」
 平蔵の言葉に礼を言って、蘭とレーラは出かけていくのでした。
 少し後、役宅に貴由の姿がありました。
「先ほどレーラ殿にも話したのだが‥‥」
 そんなことを言いながら気になる浪人の話を聞いていれば、顔を出したのは平蔵。
「何だ、お前ぇも一枚噛んでいたのか」
「は‥‥では既にお耳に?」
 笑う平蔵に頷いて問いかければ、『孫次は今、なにやら探りをかけているらしい』そう言いながらもにと笑う姿に微笑を浮かべる貴由。
「もしその浪人者たちについて分かる事があれば‥‥万一の場合捕り手をお出し頂けますでしょうか?」
「当然だ。しかし‥‥重々に気をつけられよ」
「凶悪な奴らだ、無理はするなよ」
「はい‥‥」
 貴由は頷くと役宅の裏から外へと出て行くのでした。

●吉賀屋裏付近の孫次
「さぁ‥‥ごめんなさい、お役に立てませんで‥‥」
「いえ、気にしないでくださいね」
 ネムは付近の聞き込みで、その小間物屋が何年も前からあること、そして老婆はその頃からずっと寝付いていて、娘さん一人で頑張って切り盛りしていたという事などを耳にし、実際に小間物屋へと入って話を聞いてみていました。
「その方はどのような方なのでしょう? もしやするとお顔は知っているかもしれませんし‥‥」
 そう首をかしげる娘さんに、少し悩むと孫次の顔かたちが書かれた人相書きを取り出して見せるネム。
「あ、この方は一度お客様としていらっしゃいましたよ。懐紙が切れたとおっしゃってお買い求めだったのですけれど、奥で母が寝ているのを知って、お見舞いまで包んでいただいたので、良く覚えています」
 話を聞くと、一之丞君が話を聞いた直後に一度来ていたらしく、世間話のついでに何とはなしに昔話などもしたそうで。
「まるで死に別れたという話の兄さんのようで、私も色々と‥‥」
「死に別れた、ですか?」
「あ、はい。私が生まれてまもなく川に流されたとか‥‥田舎の村でしたし、父も母も必死に探したのですけれど見つからなかったとかで‥‥」
「まぁ‥‥ごめんなさい、哀しい事を思い出させてしまって」
「良いんですよぅ、こうして母と2人でそれなりに平穏に暮らせているのも、父や兄が見守ってくれているんだって、あたし思うんですよ」
 にこにこと笑って言う娘さんに礼を言って、ネムはお店を後にするのでした。
「む‥‥舟、で‥‥上流に‥‥そちらには例の旅籠が‥‥」
 スクロールをしまいながら、鷹司は目を向ければ、ちょうど磐山が何かを追って川沿いの道を歩いていく姿が見え。
「‥‥あれは‥‥」
 見れば人相書きで渡されていた一之丞が見たという男と背格好がよく似た男で。
 鷹司も磐山を追って後を付ければ、やがて立派な旅籠が並ぶ一帯、どこから現れたのかそれまで見あたらなかった孫次が苦虫を噛み潰したような顔で男を見ますが、孫次の顔は血の気が引いて青くなっており。
 2人ですと河原に降りて話し始めるのに、鷹司も磐山に合流して河原にある小屋の陰に隠れながら耳を澄ませれば、激しく言い争っているようで。
 やがてぴたりとやむ言い争いに様子を盗み見ていれば、悔しそうに顔を歪めている孫次と、蔑んだような目で孫次を見ている浪人の男。
 男は孫次が項垂れれば、それを尻目にすと離れて歩き出していき、それを確認して男の後を追う磐山。
「‥‥あぁ、あっしは‥‥」
「‥‥孫次」
「‥‥‥へ‥‥?」
 ふらふらと座り込んだ孫次へと歩み寄って声をかける鷹司。
「ぁ‥‥こりゃ、鷹司様‥‥なんで‥‥」
 それだけ言って孫次は呆然とした様子で鷹司を見上げるのでした。
「水臭いでござるぞ。困った事があらば我が輩等に相談せい!」
 綾藤の一室、磐山が言えば項垂れた孫次は迷うように目を彷徨わせますが、やがて口を開きます。
「へぇ‥‥あっしはちぃせえ頃、どこぞの田舎からひっ攫われて、旅芸人の一座にあちらこちらと連れ回されて‥‥数年で耐えられなくなって逃げ出したんでやすが、そのきっかけってぇのが‥‥」
「攫われてくる前の家の話、か‥‥」
 貴由が聞けば頷く孫次。
「必死で逃げて逃げて‥‥話と微かに覚えていた記憶を頼りに行けば、既に親父は死んで、お袋と妹は居なくなっていて‥‥途方に暮れていた餓鬼のあっしを拾ってくだすったのが杜父魚の稲吉お頭だったので‥‥」
「じゃあ、あの小間物屋の娘さんとそのお母さんは‥‥」
 ネムの言葉に頷いてぽつりと呟く孫次。
「‥‥へぇ、あっしの母親と妹でさぁ。もっとも、伝九郎に言われるまで、同じ江戸に居ようとぁ思いもよらねぇで」
「まぁ、それなら盾に強請られりゃあ放ってもおけねェわな」
 蘭の言葉に孫次が目を上げれば、一之丞が心配していたことを伝える鷹司。
「依頼主は一之丞でな」
 そう伝えれば、孫次は驚いたように目を見開いて見返すのでした。

●廃屋の伝九郎
 磐山が後を追って突き止めていた浪人達のねぐらを改方の同心や小者たち捕り手達とともに取り囲んだのは、既にとっぷりと夜も更けた頃。
 戸板を踏み抜いて押し入れば、奥で酒を飲んで寝ていた男達が一斉に身体を起こし刀を手に刃向かいますが、寝込みを襲われたこと、そしてまだ仕事の時期が先であったことなどからたいした抵抗を受けるでもなく。
 貴由と磐山がスタンアタックで男達の意識を刈り取れば、ネムのスリープで眠りに誘われて倒れ込む男達。
 コアギュレイトでレーラが動きを止めた男には、蘭が問答無用に殴り倒してみたり。
 そして‥‥。
「さて、いかぬよ」
 小間物屋の裏手、張っていた男を見つけ出して捕らえたのは、護衛に付いた鷹司。
 万一に備えたのが功を奏したのか、小間物屋も無事に被害を出すこともなく。
「やっぱりあそこの旅籠を狙っていた盗賊が、孫次さんに引き込みとして入り込ませたかったんじゃん」
 捕り物を終えた孫次は平蔵の元へと行って全てを話したそうですが、探りをかけていただけだろうと返されて男泣きに泣いたとか。
「孫次、お前は優しい奴だな。無事で済んでよかったよ」
 微笑を浮かべて言う貴由にとんでもねぇ、と首を振る孫次。
「みなさま、ありがとうございました!」
 孫次が助かったと聞いて礼を言う一之丞に笑みを浮かべる面々。
「あ、受付員さん。これでいい人と美味しい物を食べる足しにしとくれ」
 紙に包んだ報酬分、そのままそっくりと受付の青年にき由が渡せばきょとんと見返す受けの青年。
「また何か起これば、悩む前に我が輩達に相談するでござるよ」
「へぇ‥‥もう、なんと礼を言って良いか‥‥本当に、有り難うございやした」
 孫次はそう言うと、何度も何度も一同に頭を下げるのでした。