【白銀に沈む村】狙われた物資
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月20日〜01月25日
リプレイ公開日:2007年01月25日
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●オープニング
その日、すっかりと吐く息も白く、年を越して漸く落ち着いてきたと有る冬の昼下がり。
難波屋の看板娘・おきたがギルドを訪ねてくると告げた言葉に、受付の青年は驚いた表情でおきたを見ます。
「じゃあ、あの少年はもう良くなったんですか?」
「いえ‥‥大分良くはなりましたが、それも錯乱状態に比べればと言うところで‥‥ですが、治療自体はきちんとおこなったそうで、後は故郷でゆっくりと療養させて回復させていくしかないと、涼雲先生が‥‥」
その少年というのは狐医者と呼ばれる医者の元で療養中の、過去の依頼の依頼人。
村を異国人の2人組に焼き払われ、ギルドに仕事を持ってきた頃には心を閉ざしてしまっていました。
少年の村では既に復興が始まっており、冬が来る前に外側を作り、冬の間に内装やらなにやらに手を加えると行った様子で、何とか人々は暮らしていって居るよう。
火を怯える様子はありますが、だいぶ良くなってきた様子の少年、やはり生まれ育った村に戻りたい様子で、行ったこともあるとのことでおきたが付き添いで行くことになったそう。
「お仕事大丈夫なんですか?」
「ええ、御店の方は大丈夫です。元々旦那様のご親戚がいらっしゃる村なので、誰かが行かないと‥‥私なら前にも行ったので頼むと言われまして」
少年のことや村の人達のことも気になりますし、とにっこり笑って言うおきた。
「じゃあ冒険者を一組‥‥」
「あ、いえ、彼を村へと送るための護衛もそうですが、その時に一緒に物資も送ることになって居るんです。それで二組お願いしたいと思いまして‥‥」
「あ、そうなんですか。分かりました、では詳しい話をお願いします」
受付の青年が言えば、おきたは頷いて話を続けるのでした。
「護衛と、あと一組は物資輸送でしたっけ?」
「ええ、実はこちらの方も問題が起きていて、その、目的の村の近くにある村へと送られた荷が襲われたそうなんです」
「襲われた?」
聞き返す受付の青年に頷くおきた。
おきたの話では、地下後の江戸から1日ほど行ったその村の付近で出没していた山賊が、あの辺りの村への物資を狙って襲いかかってくるそうで。
「護衛の方が1人、弓の当たり所が悪くて亡くなっています。逃げれば追ってまでというわけではないのでしょうけれど‥‥復興中の村にとって、荷が届かないのは致命的で‥‥」
困ったような痛ましいような表情で目を伏せるおきた、どうやら荷物をそっくり頂くのが目的のようで、荷が狙われたときに狙われるのは護衛のみのよう。
「とは言っても、荷を引いて逃げようとしたら人足さんの方にも向かってきたらしいですし、護衛は危ないお仕事とは言え‥‥」
そう眉を寄せて言うおきたに頷きながら筆を走らせる受付の青年。
「物資はどんな物が?」
「お米を始めとする食料と、後は炭に灯り用の油です。荷を引く人足さんもお願いするつもりではあるますけれど、万が一足手纏いになると言うのでしたら、荷を運ぶのもお願いすることになるかも知れません」
お願いします、と頭を下げるおきたに頷いて、受付の青年は依頼書へと目を落とすのでした。
●リプレイ本文
●警戒
一行が人足達に荷を運んで貰いながら進めば、肌寒く曇り空ではありますが雨や雪の降る様子でもなく。
ルナ・フィリースに出発の支度を手伝ってもらったこともあり、特に何か忘れたこともないようで、調子良く進んでいく旅路。
「それぞれの村へと道が分かれる手前辺りに陣取っているようだが、待ち構えているのを張っているのだろうな、襲撃を受けた場所から判断するならばだが」
九竜鋼斗(ea2127)が言えば、くいっと首を傾げて考える様子を見せるのは加賀美祐基(eb5402)。
「どうした?」
「いや、おきたさんから聞いた話だと洞窟を根城にしてるんじゃって、村の人とかが言ってたんだよな?」
「それが?」
この寒い中どこに潜んで張ってるんだろうなぁ、などと言いながらも念の為と後ろに愛馬・橘さんの轡を引きつつ周囲を警戒している加賀美。
ふと見れば、先行して周囲を警戒している相棒の天堂蒼紫(eb5401)がちらりと本隊に目配せをしてから森へと入って聞くのを確認し、緩く息を吐き。
「とあのときの少年が‥‥彼が回復しているのは嬉しいな」
「あぁ、秋人は依頼人の言う少年と面識があるのか」
「ああ。あの時、村の様子は目を覆うほどだったが‥‥復興に向けて村人皆が必死に生きているのならば、手を貸して化してやりたいと思ってな」
僅かに目を細めた柚衛秋人(eb5106)の言葉に、そうか、と短く頷く猪神乱雪(eb5421)。
空には秋人の鷲・志波姫が旋回し、付近を警戒していて。
「へえぇ、土の人形が動いてるんでっさ、そりゃ驚きもしやすが‥‥冒険者の人は不思議な生きもんいっぱい連れているって聞きやしたからねぇ」
「それは一部だと思うのですけれど‥‥この子達は命令がない限り勝手に動くこともありませんので、心配ありませんわ」
刈萱菫(eb5761)が荷台の上で荷物と一緒にぴこぴこ上下に不思議に揺れている葛城丸を人足へと説明していれば、考えるように小さく息をつくのは上杉藤政(eb3701)。
「しかし‥‥あの時倒さなかった山賊がこうも強くなってしまったか。これは是非成敗せねばな」
「逆に、そのときには情報がなかったというのもあるのじゃないかしら。強くなってしまったのではなく、当時からそれぐらいの力はあったのかもしれないものね」
その可能性もある、上杉は頷いてぐるりと道の両脇へと伸びる木々に目を向けます。
「‥‥‥近いな‥‥」
森の中では踏み荒らされた様子の木の根元や雪を確認しながら進む天堂、そこに真新しいと思われる足跡を確認すると天堂は、一行に警告を伝えるためにそっと足跡のそばを離れるのでした。
●迎撃
さくさくきゅっきゅ、歩くごとに踏みしめられる雪音の中を、慎重に進む一行。
先程から先行して周囲を警戒しているのは柚衛と天堂で、荷の前には菫と加賀美、そして九竜と乱雪が人足を守るように歩き、後ろを警戒しながら守る上杉。
ふと、小さな音共に柚衛が戻ると人足達を待機させるように告げます。
まだ回り込まれているわけでもなく、天堂の確認で待ち構えている男たちの気配を察知したこともあり、危険を少しでも減らすためです。
「‥‥村を火で焼かれた人たちへの物資を狙うとはな、悪党の中でも最悪だ」
吐き捨てるように柚衛は言えば、得物へとちらりと目を落とし。
ひゅ、小さな音と友に突き立てられる矢は柚衛の持つ盾が防ぎきり、その間に一気に距離を詰めて弓使いに駆け寄る天堂。
弓の援護を受けていると思ってか10人ほどの男たちが獲物を抜き放ち飛び出してきて。
「貴様ら、荷はどこだっ!!」
「悪いが貴様らにくれてやる荷物は無い‥‥代わりに俺の刃をくれてやる」
山賊の言葉にそう答えれば、迎え撃つ形で刀に手を掛けすと目を細める九竜。
先行して斧や短刀を手に殺到する男たち、手斧の一撃を僅かに体をひねり様に刀を抜き打ち斬り払う乱雪、あがる血飛沫と共に倒れる男。
「くっ、とりあえず金目のもんをなんか‥‥」
「あ、あの奇妙な人形、動いている、あれはどうだ!?」
後ろから上がる声、九竜と加賀美が薙ぎ倒す仲間たちの姿に半ば自棄っぱちに埴輪の葛城丸へと縄をもって挑みかかる男たちは、逆にていっとばかりに葛城丸に殴られて吹き飛び、菫の両刃剣にざっくりと倒されてみたり。
「何をしている、さっさと荷を探しにいかんかっ!」
「何をしている、さっさとこの者たちを片付けんかっ!」
頭目らしき男の怒声が立て続けに上がり、まごまごする下っ端達、姿を消した上杉の声色とは思いもせず、その場は大混乱へと陥ります。
「くっ‥‥」
「どうした、その程度か‥‥?」
にたり、嫌な笑いを浮かべた浪人風体の男と斬り結ぶ加賀美、そして旨く間合いが取れずに睨みあう乱雪ともう一人の浪人。
「逝ねっ!!」
「こちらを忘れられては困るな‥‥」
背後から乱雪に斬りつけてきた男、振り向きもしない乱雪とその男の間に割って入ったのは柚衛です。
弓の使い手を沈黙させて立ち戻れば、背を守る柚衛に口元に笑みを浮かべて刀を鞘に戻し腰を低く落とす乱雪。
「ふん‥‥女だてらに使うようだが、守られねば戦えぬか」
「はっ、山賊風情がっ!」
ぎっと鋭く睨め付ければその振りきられる腕に、間合いを掴もうと乱雪は二歩、三歩とじりじりさがります。
と、ぴたり止まってから、どちらからともなく踏み出したと同時に、抜き打ち、振り斬り‥‥薄く乱雪の頬を掠めた刃と、その身体を真っ向から捕らえる乱雪の刃。
ぐらりと揺れた浪人が倒れ込むのとほぼ同時に。
「が‥‥ば、か‥‥な‥‥」
その隣では刃が断ち切られた刀を振り上げ受け止めようとしたまま、ずるりと崩れ落ちるもう1人の浪人、そして、肩で息をし大上段から振り切ったらしい加賀美の、白い地に突き立てられた炎を纏う刀をしっかりと握る姿があります。
そして、先程から頭目らしき男の重量を乗せた一撃をかろうじて交わし続けていた九竜。
「鬼道衆が一人、【抜刀孤狼】九竜鋼斗‥‥行くぞ!」
高らかに上がる名乗り、居合いの一刀を受け流されたかに見えたその瞬間、踏み込んだかに見えた足を軽く引くと、さらに深く踏み込まれる九竜のその足、そして‥‥。
とさり、小さな音とともに赤く染まった雪の上へ、頭目だったものはそのまま崩れ落ち。
「抜刀術・双閃刃は受け流せても、瞬閃刃を見切ることは出来なかったようだな」
緩く息を吐くと、九竜は小太刀の血糊を懐紙で拭って頭目だったものへと告げるのでした。
●殲滅
先行していた少年とおきたの護衛と合流したのは、二日目の夜のこと。
荷を運ぶこともそうですが、山賊たちの持っていたものに村などから略奪したものがある可能性も踏まえて持ち物を回収していたり、後始末に近くの宿場の役所へと走る者がいたり。
両脇の木々が少し離れたかと思うと、その切れ間に広がるのは、復興が完全ではないためか少ない家々が白銀の雪を纏って建つ、本当にのんびりした様子の村。
「あら?」
菫が見れば、ぽつねんと村の入り口に膝を抱えて座っている法衣の影があり、念のため葛城丸を引き連れて近づいてみれば、それは先発隊・ラーダの友達であるスモールストーンゴーレムのグラニート。
「先発隊も問題なく着いたみたいだな」
にと笑いながら加賀美が言えば、人足達が荷を引いて村の広間へとえっちらおっちら運び込み、すぐに村人や先行隊の者たちと合流する一行。
「加賀美、行くぞ」
「お、りょーかいりょーかい。ちょっと待ってろ、橘さん預けてくっから」
荷の積み下ろしを手伝っている者の中にいた加賀美に声をかける天堂、見れば乱雪と柚衛も武器の状態を確認し、村人たちに洞窟の位置を確認しています。
「よし、向かおう」
先程から何やら拾っていた様子の上杉が言えば、数人で分かれて村の警備と山賊殲滅に分かれて動き始め、程なく猟のときに使うという洞窟へと辿り着けば、残る足跡、見張りらしき男も立っています。
姿を隠してそっと近づく上杉は、何やらぱらぱらと雪の上へとばら撒いており、それを避けて近づいた天堂が見張りをおとすと、合図に全員が洞窟前へ。
「さーて、と‥‥アジト襲‥‥てオイ! それは‥‥」
加賀美が声を上げるのに柚衛が静かにと注意すれば、天堂はもくもくと、何やら物騒な笑みを口元に浮かべて村で余っていたものを貰ってきた藁の束を、まんま入り口へと積み上げると、油をぱしゃぱしゃ。
「悪人相手とはいえ、サラッと外道な事やるな‥‥そんなに朔耶ちゃんと年越し出来なかったのが悔しいか‥‥」
言った言葉が聞こえたか聞こえなかったか、ぎろりと天堂に見られて言葉を途切れさせる加賀美、どうやら天堂は妹さんと年越しが出来なかったことで鬱憤が溜まっていた様子。
やがて立ち上る火と共に大量の煙を問答無用に洞窟へと流し込む天堂、やがて、激しく咳き込む声と共に、どたどたと出てくる男たちを前に、立ちはだかる一行。
「空に輝くお天道様が全てを照らし出すように‥‥俺は全ての悪を見つけ出す」
「いや、まぁ、見つけ出したというか、燻り出したというか‥‥」
「フ‥‥、やるなら徹底的にやらないとな」
加賀美の突っ込みも受け流し、物騒な笑顔で見据える天堂。
不利と見た下っ端たちがあわあわと何とか逃げようとすれば、踏みつけた何かに悶絶して雪の上を転がり、転がることでさらに何かを、と‥‥。
「逃がすわけにはいかないのでな‥‥」
上杉の言葉と共に、悶絶した男が見れば、足や体に刺さっているのは尖った沢山の石。
「‥‥これで全部か‥‥残りは中で、だろうな」
「念の為だ、念入りに煙を送っておこう」
「鬼だな、お前‥‥」
付近を確認した乱雪と柚衛に、ぱたぱたとさらに煙を流し込む天堂。
一刻ほど後、中の煙を仰いで出せば、3人ほどの男が中に転がってお他界されているほかには、戦利品ともいえる色々な物資などが積んであり、村に声をかけて人足達に運んで貰うのでした。
●白銀に沈む村
付近の村へと使いを出して来て貰えば、それぞれ自分たちのところのものを引き取り、としばらく忙しくなるのですが、それも落ち着けば、ようやく村で一息つくことが出来て。
「あ、そだ。良かったらこれ、足しにしてくれ」
そう言って沢山の保存食を提供している加賀美へ、何度も礼を言って、大切に島われる保存食、村人たちにとっては何よりの差し入れとなったよう。
「そうそう、このあたりの物は、我々が持っていても、なんにもならん物ですが、皆さんにはお役に立つやも知れません、宜しければ、お持ちくだされ。いらぬとしても、この村では金に換える手立ては当分ありませんから、お売りするなり、自由にしていただいてかまいませんで」
村長の言葉とともに、幾つかの物は一同へと配られたのでした。
「皆さんお元気そうで何よりです。おきたさんも、無事に着いていて良かったわ」
菫の言葉に村の女たちも、物資を運んでもらったときのことを覚えていて嬉しげに声をかけてきます。
そんな中、この村がどのような状況からここまで持ち直したかを乱雪に説明しながら、目的の場所へと足を運ぶのは柚衛。
「そうか、この墓が‥‥」
「ああ、あの少年の姉の墓だ」
言って、屈んで江戸で手に入れていた簪を手向ける柚衛。
「あぁ、村を開放していただいたばかりか、また‥‥ほんにありがとうございます」
そこへ少年を伴って墓へとやってきた村人たち。
「久しぶりだ。少しだがようやく手助けすることができた気がする」
「少しだなんて‥‥これで、まったく元通りとは行かなくても、いえ、だからこそ位置からやり直してもっと良くしていこうと‥‥ですから、皆、感謝しております」
頭を下げる村人に小さく頷くと、柚衛は屈んで少年へと声を掛け。
「あのとき言えなかったが、お前さんの勇気、俺は一生忘れん。ありがとうな」
告げられる声、一瞬、少年の目と自身の目が合った気がして、小さく笑む柚衛。
「良ければ名前を教えてもらいたい」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ぃ‥‥さ・や‥‥」
消え入りそうな小さな声、しっかりと声を出すことがまだ出来ないようではありますが、その言葉に頷いて見せて。
「いさや、か‥‥?」
微かに頷いたように見える少年の頭を、柚衛はそっと撫でてやると、改めて村を見渡せるところにある姉の墓を、そして、白銀に沈む小さな村を見下ろすのでした。