【白銀に沈む村】故郷へ‥‥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月20日〜01月25日

リプレイ公開日:2007年01月21日

●オープニング

 その日、すっかりと吐く息も白く、年を越して漸く落ち着いてきたと有る冬の昼下がり。
 難波屋の看板娘・おきたがギルドを訪ねてくると告げた言葉に、受付の青年は驚いた表情でおきたを見ます。
「じゃあ、あの少年はもう良くなったんですか?」
「いえ‥‥大分良くはなりましたが、それも錯乱状態に比べればと言うところで‥‥ですが、治療自体はきちんとおこなったそうで、後は故郷でゆっくりと療養させて回復させていくしかないと、涼雲先生が‥‥」
 その少年というのは狐医者と呼ばれる医者の元で療養中の、過去の依頼の依頼人。
 村を異国人の2人組に焼き払われ、ギルドに仕事を持ってきた頃には心を閉ざしてしまっていました。
 少年の村では既に復興が始まっており、冬が来る前に外側を作り、冬の間に内装やらなにやらに手を加えると行った様子で、何とか人々は暮らしていって居るよう。
 火を怯える様子はありますが、だいぶ良くなってきた様子の少年、やはり生まれ育った村に戻りたい様子で、行ったこともあるとのことでおきたが付き添いで行くことになったそう。
「お仕事大丈夫なんですか?」
「ええ、御店の方は大丈夫です。元々旦那様のご親戚がいらっしゃる村なので、誰かが行かないと‥‥私なら前にも行ったので頼むと言われまして」
 少年のことや村の人達のことも気になりますし、とにっこり笑って言うおきた。
「じゃあ冒険者を一組‥‥」
「あ、いえ、彼を村へと送るための護衛もそうですが、その時に一緒に物資も送ることになって居るんです。それで二組お願いしたいと思いまして‥‥」
「あ、そうなんですか。分かりました、では詳しい話をお願いします」
 受付の青年が言えば、おきたは頷いて話を続けるのでした。

「まず一組には真っ直ぐ彼を村へと連れて行くための護衛をお願いしたいんです。少し険しい道の上に、近頃困った話がありまして‥‥」
 小さく溜息をついて言うおきた、荷車の乗り入れられない細い道があり、せいぜい馬が通れるぐらいのそこを通って少年を最短距離で送ると云うことなのですが、近頃その辺りで狼を見かけることが多いとか。
「どうも、違うところから流れてきたようで、10頭前後、村にはまだ乗り込んできては居ないようですし、猟をしていた人が言うには集団の頭を追い払いさえすれば自然と群れも居なくなるんじゃないかと‥‥」
 雪で本来の縄張りから出てきてしまったのかも、と言うおきた。
「何にせよ、あまり彼に動物とはいえ争いを見せたくないんです。まだ山賊も付近からいなくなっていないようですし‥‥」
 おきたの言葉になるほど、と頷いて、受付の青年は依頼書に護衛の募集と書き付けていくのでした。

●今回の参加者

 ea9564 ティア・プレスコット(20歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb5858 雷瀬 龍(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb9825 ラーダ・ゲルツェン(27歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ec0244 大蔵 南洋(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec0755 エレナ・フォルトゥーナ(15歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ルミリア・ザナックス(ea5298)/ テラー・アスモレス(eb3668)/ 瀬名 騎竜(eb5857

●リプレイ本文

●いざ故郷へ
 すっぽりと防寒具を被せられてどこかまだ虚ろとも取れる表情を浮かべた少年の手をおきたが引いてやってくれば、少年の身の回りの物を包んだ荷を受け取り自信の驢馬へと積む李連琥(eb2872)。
「彼には悲しい思い出を乗り越えて欲しいものだが‥‥」
「本当に‥‥」
 出発までちょんと腰を下ろして一点を見つめている少年に僅かに目を伏せて連琥が呟けば、悲しそうな目をして少年を見て小さく頷くおきた。
「‥‥これまでの事情はサッパリだが‥‥今はとにかく無事に送り届けることに専念することとしよう」
「任せよ、わしの頭の皿が湿ってるうちは狼は近づかせぬ」
 すと大蔵南洋(ec0244)がおきたへ寄り声をかければ雷瀬龍(eb5858)も笑みを浮かべて力強く頷いてみせ。
 と。
「だっしゃあ――!」
 突如聞こえてくる声、耳を疑うような派手な打音‥‥とまでは行きませんが、突撃してきた瀬名騎竜が龍の頬を張り飛ばしたかと思うと、何やら熱くなっているようで。
「思いっきっていけ! 獣相手には気合だ! 気合いだ!! 気合いだ!!!」
「試合ではないんだから‥‥」
「‥‥なんですか、あれは?」
 エレナ・フォルトゥーナ(ec0755)が小さく息を吐けば、道行きの配置を確認していたティア・プレスコット(ea9564)も首を傾げ。
「これで大丈夫かな? ‥‥うん、ぴったり♪」
 ラーダ・ゲルツェン(eb9825)が大切なお友達であるゴーレムのグラニートに法衣を掛けてやり、すっぽりと姿が隠れるのを確認してにっこり。
 そんなこんなで出発の支度が出来たよう、そんな中、おきたの手伝いに来たルミリア・ザナックスは、少年の前で屈み込んでその顔をそうっと覗き込むとじっとその目を見つめて声をかけています。
「良いか、女性を大切にするのが良い男になる条件だ。おきた殿をおぬしが護るくらいの気概を持って頑張るのだぞ」
 少年は虚ろな表情で何を答えるでもないですが、ルミリアには少年が本当に微かに頷いたように見え。
「とにかく、狼は群れをなして襲ってくるとの事でござる。単独行動はせぬようにご注意を」
「忝ない、重々に気を付けよう」
 テラー・アスモレスの助言を胸に、瀬名のシャイ! シャイ! とのかけ声と拍手に送られ、何やら賑やかに一行は江戸から街道へと旅立ったのでした。
「祖国では着ている物も見ての通り違いますし、それに他にも‥‥」
「少年、名をなんというのかな? 私は海を隔てた華国というところから来たのだが‥‥」
 エレナが沖田と少年へ話しかければ、連琥も驢馬に乗せた少年へと声をかけ、自身の国の話をしてやったり。
 一行はすっかりと寒い街道を、村へと向けて進んでいくのでした。

●狼の群れ
「‥‥む‥‥」
 龍がそれを見咎めたのは、徐々に分け入っていった山道が白く染まり始めそろそろ日もかげり夜営のことを考え始めようという頃のことでした。
 出来るだけ早くに村へとは言っても冬の日は短く、暗くなって動くよりはとの事もあり、エレナと連琥が灯りを持ち、それぞれが当たりに警戒をしながら進んでいると、小さな犬の唸り声。
 僅かに血のような物といくつもの足跡に龍の愛犬・赤丸と黒丸が気が付き小さく唸り、それによって道を少しはずれたそれに気が付くと大蔵へと目を向ける龍。
「そろそろ危険であろうな」
「ではそれを中衛へ‥‥回り込まれないように其方へとまわってくれ」
「わかった。‥‥それにしても、狼は元々はこの辺りにいなかったみたいだし、上手く追い払えれば‥‥
 大蔵の言葉にグラニードを動かしながら少し考えるように言うラーダ。
 先行する龍と大蔵、その後をグラニードがてくてく、そしてラーダにティア、エレナがおきたと驢馬に揺られている少年に張り付き、後ろからの物を警戒して周囲に気を配る連琥。
 かさかさ、さくさく、本当に小さな物音ですが、雪を踏み荒らす複数の足音に龍が大蔵へと目配せをすれば小さく頷いてつらと刀を抜き放ち、大蔵はじっと薄暗い木々の間に浮かび上がる小さな幾つもの光を見据えて。
「きゃんっ!!」
 不意に上がる鳴き声と共に飛びかかってきた一頭のオオカミが跳ね飛ばされて雪に沈み。
 噛みつかれる前に距離を詰めた狼を、刀を振り抜き吹き飛ばした大蔵と、爪を構えもみあげも鋭く眼光で威圧を試みる龍、そして詠唱に入るティアに、スモールストーンゴーレムのグラニートへ目を向けるラーダ。
「グラニート!! 『待機しつつ噛み付く相手にパンチ』」
「これ以上近寄らせないよっ!」
 グラニートへの指示が飛ぶのとほぼ同時に上がる声、今にも飛びかからんとしていた一頭に向かい、瞬時に編み上げられたかと思えば一直線に狼へと襲いかかる雷撃。
「群れのリーダーが居るはずですっ!」
 言いながら唸り声を上げて虎視眈々と狙う狼へと水を作り出し撃ち付け声を上げるティア。
 おきたはぎゅっと防寒具の法衣の上から少年を庇うように抱きしめており、グラニートが飛びかかられて腕で薙ぎ払うその横を摺り抜けた狼の前に立ちはだかる連琥。
 ぎりぎりの均衡を保ち乱戦を避け襲い来る狼たちを受け流し続ける一行、それぞれが危うく返していきながら突破口を探っていれば、やがて視界に入るのは、立派な毛並みの一回りは他の狼よりも大きいであろう一頭。
「そこかっ!!」
 辛うじて一頭の牙を受け流し、手薄になりそうなところへと指示を出していた大蔵が駆け寄り様鋭い一撃を繰り出せば、ぎりぎりでかわし反撃に転じる群れを率いている狼。
「いくよー!! 貫きの雷撃! ライトニングサンダーボルト!!」
 そこに響き渡る声、ラーダの放つ雷撃が大蔵のすぐ脇を掠め延びれば、その一撃にはじき飛ばされ転がる狼。
「ぐるぅぅぅうっ!!」
「ぐるぁああああっ!」
 起き上がり唸る声を上げると、率いていた狼へと威嚇で返す龍、一瞬見えた狼の引くような仕草に畳み掛けたよう。
 不意に高く上げられる狼の声とともに、じり、じりと離れ消えてゆく目の光。
 不意に現れたときと同じように起こる沢山の雪を踏み駆け去る音、そうして、漸く辺りから狼の気配は消えたのでした。

●白銀に沈む村
 白い中に僅かに木の陰で雪の薄い場所を見つけると、夜営の支度をし、火を熾して落ち着いたのは、狼を撃退して間もなくのことでした。
 灯り程度の火を、と龍は思いましたが、狼だけでなく、何が襲ってくるかも分からない以上、火を絶やさないようにするのは当然のこと。
 火とは別の方向を向き膝を抱えて座る少年に毛布を掛けてやり、支度を調えて食事を振る舞うおきたに、連琥はいろいろと手を貸して手伝っているようです。
「むぅ‥‥これは旨い‥‥!」
 もみあげで丸を象る龍の口に、おきたの用意した夕食はとてもあったよう、一戦終えた後の、つまり一仕事終えた後の食事となれば、格別というのも頷けます。
「村へは後どれぐらいだ?」
「そうですね、一刻‥‥もう少しはかかるかと思います」
 大蔵の問いに答えるおきたと、それを確認して頷くと、見張りについての確認をしていく大蔵。
「ワシと李殿と手分けして常にどちらか付いていられるようにせねばな」
 夜目が利くことを踏まえての龍の言葉に頷く連琥。
 警戒と火を絶やさなかったこともあり、動物の気配らしきものを感じることはあっても、何事もなく夜は更け、そして朝になりました。
 さくさく、雪の積もった道を吹き越えていけば、木々が切れたそこから見渡せる、一面白い雪化粧に覆われた、建物もとても少なく、まだ作りかけという様子の小さな村。
 それはとても静かでゆっくりとしたときが流れているのを感じられる、そんな村へとなだらかな坂を下りてゆけば、やがて何やら作業中の村人達の姿を見つけることが出来、彼等もこちらに気が付いたのか、驚いたようにぱたぱたと駆け寄ってきます。
「これはこれは‥‥夜盗に狼と色々あったので、心配しておりましたが‥‥ご無事のようで何よりで‥‥」
 老年にさしかかった村長がそう告げれば、後発の物資輸送の人々が到着するのはまだかかりそうなようで。
「何はともあれ、ゆっくりと休んで行かれてくだされ。お主も、よくぞ無事に戻って‥‥」
 無言のままの少年を囲んで泣いたり喜んだり、そして改めて悲しみを思い出して面を伏せる者も居たり‥‥久々の再開を見ながら、おきたは村長に医者である出原涼雲の意向を伝え。
 荷に積んでいた物を幾つか渡したり、用事が済むと、めいめいが村で山賊相手の守備を待ちながらの休息です。
「気に入ってもらえるといいのだが‥‥」
 念のための警戒で、ちょうど自身の休みの間に、連琥はおきたを見かけると、何やら暫く手の中で弄っていた物があったのですが、一つ息を吐くと声をかけて。
「おきた殿、宜しければこれを‥‥」
「あら、可愛い簪ですね、嬉しいです。でも、宜しいのですか?」
 気にしないでくれ、そう言う連琥は何やら困ったように目を彷徨わせて。
「あ、いや別に下心とか無いのだが、こう献身的に働くおきたどのは素敵だなと‥‥あぁ、いや‥‥」
 どこかしどろもどろになって言う連琥の言葉にきょとんと小さく首を傾げるおきたですが、にこりと微笑を浮かべて、改めてお礼を言うのでした。
 その日の夜、後発隊と物資が届けば、村の入口付近で膝を抱えて座っていたグラニートと菫の埴輪・葛城丸が何となく見つめ合うような形で立っていたり、村人達にとって不思議な光景が繰り広げられたり。
 荷の積み卸しをグラニートに手伝わせながら、いたラーダに何となくエレナがぴったりくっついてついて回っていたり。
 村人達も、村を冒険者が身を危険に晒して奪還してくれていたこともあり、猛獣でもないので驚きこそすれ、そこまで怖がるという様子もありません。
 物資にも余裕も出来、本当にささやかではありますが、一同は村で精一杯のおもてなしを受けるのでした。

●去りゆく獣
「‥‥付近に狼が居るような痕跡は見あたらないですね」
 ティアとラーダが、龍と大蔵に付き合って貰い辺りを調べれば、既に狼たちは流れていったのでしょうか、少し離れた位置まで確認しに行ってもそれらしい痕跡は見あたらず、村の猟師もそれらしいものと遭遇する事はなかったとのこと。
「念のための確認だが‥‥問題がないようで何よりだ」
「山賊の方もどうやら片付いたらしいですし、ようやく村の人々は落ち着いた暮らしに戻れそうですね」
 ティアが言えば頷く一同。
 一同は愁いを残すこともなく、村人達に温かく迎えられて囲まれた少年を見届けてから、江戸への旅路へとつくのでした。