意趣返し

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月23日〜02月28日

リプレイ公開日:2007年03月05日

●オープニング

「とにかく、必ず誰かがついて回ってくるので、あたしも1人になれなくって困ってるんですぅ」
 上目遣いに見る三十路手前のその女性を前にして、受付の青年はどこか引きつった表情を浮かべながら困ったように視線を彷徨わせ。
 そこはギルドの受付で、少し派手な様子のその女性に身体を乗り出し近付かれて、ちょっと仰け反った体勢を維持している受付の青年、ちょっと腰の具合が心配です。
「ですからぁ、お仕事をお願いしたいと思いましてぇ」
「‥‥えっと、つまり、貴女は駒崎屋の主人がしつこく妾にと言い寄るのを、どうしても嫌でこっぴどく振ったら、仕返しに嫌がらせを受けている、そう言うことですか?」
「そうなんですぅ」
 いちだんと乗り出す女性に、更に仰け反って何やら顔色がちょっぴり青く変わった受付の青年は、一通り説明を聞いて帰っていった女性を見送ってから、反動のように受付の卓に突っ伏します。
「どうした?」
「こ‥‥腰に来た‥‥しかもこの依頼、胡散くせー」
 何だかいつもよりもずっと投げやりな受付の青年、同僚に声をかけられて顔だけ上げて見返しながら答えると、首を傾げる同僚にぼやくように続ける受付の青年。
「だって、どう思う? 駒崎屋さんって何度か顔を合わせたこと有るけれど、凄く良い人で、なんて言うか‥‥苦労人? 愛妻家で子煩悩、何が悲しくてああいう人を選ぶんだかって感じで‥‥」
 美人ではあるけどさ、そう溜息をついて言う受付の青年は、どこか困ったように眉を寄せて。
「悪女の魅力って言うのもあるかも知れないぞ?」
「分かりたくもないわ」
 そんな会話をしつつ手元の依頼書を身体を起こしてみる受付の青年は、やはり怪訝そうに首を傾げます。
「取り敢えず駒崎屋さんが実際に問題有るにしろ無いにしろ、嫌な予感がするし、それもあわせて調べて貰おうかなと‥‥」
 小さく溜息をついて腰をさすると、依頼書を持って受付の青年は立ち上がるのでした。

●今回の参加者

 eb3383 御簾丸 月桂(45歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4640 星崎 研(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb9825 ラーダ・ゲルツェン(27歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ec1354 モモジ・ラント(23歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●女性
「なんだかギルドのお仕事って大変みたいね」
「いや、まぁ、たまにこういう事もありますからねぇ」
 依頼人の女性と引き合わせて貰うためにギルドで待っていたラーダ・ゲルツェン(eb9825)がちょっと心配そうに受付の青年を見れば、困ったような笑顔を浮かべながら受付の青年は卓にだれんともたれ掛かって居ます。
 どうも腰が痛いようで時折さすりながら情けない顔をしている受付の青年に
「雨水、この2人をきちんと守るのですよ」
 星崎研(eb4640)の言葉を聞くと、うなぁんと鳴きながら尻尾をピンと立てる猫の雨水に、それなら安心だね、とラーダも笑みを浮かべて。
「とりあえず、まずは駒崎屋と鹿目屋の場所を教えて貰えないかな」
 御簾丸月桂(eb3383)に言われる言葉に頷くと切り絵図を出して受付の青年は場所を指し示して。
「まずは評判とか‥‥色々と確認しておかないとな」
 少し考える様子を見せて、御簾丸は言うのでした。
「私はああいう人、どうしても好きになれないな〜‥‥」
 暫く後、女性の護衛としてついてギルドを出てきたラーダは、依頼人に聞こえないような小さな声で呟きます。
 女性のラーダへの対応は、ちらりと見てふんと鼻を鳴らし、受付の青年や御簾丸へと擦り寄らんばかりに出される甘えた声を出して見向きもしなかった、と言うことです。
 とは言え女性の家で直接護衛に当たるのはラーダとそのお友達のグラニートとディエーリヴァ‥‥スモールストーンゴーレムとウッドゴーレムなので、女性の家へと移動し男性陣が居なくなると、漸くにラーダを無視するのは控えたようで。
「で、その木偶人形と石の塊があたしを守ってくれるって話だけど、大丈夫だろうね?」
「私のお友達は丈夫だし素直だし、大丈夫だよ。ね、グラちゃん、ディエちゃん♪」
 返事はしませんが、ラーダが声をかけて上げるのにじろじろと不躾な視線を向ける女性。
「ところで、視線を感じるって、どんな感じなのかな?」
「あぁ、それさね、酷いんだよ。前に道を歩いていたときに見知らぬ男が掴み掛からんばかりに怒鳴りつけてきてねぇ、それ以降ずっと視線を感じるのさ。アレは絶対に駒崎屋の主人の差し金だよ」
「何で絶対って言えるの?」
「そりゃ、簡単だよ。後で見たら、駒崎屋の奉公人だったんだから」
 こともなげに言う女性、自分がこんな目にあった、自分ばかりが、と言う話をずっと続ける様に、ラーダは困ったように星崎の愛猫・雨水を撫でながら小さく溜息をつくのでした。

●評判
「駒崎屋の旦那さんはしっかりした人ですよ。大層お優しくて、奥様もお子さんも大切になさっている、大店の主人ですのに偉ぶる様子もなく‥‥」
「なるほど‥‥」
 駒崎屋の近くの茶店で主人に茶を貰いながら訪ねると、にこにこした様子で返ってくる答えに頷いてお茶を啜る御簾丸。
 先程から聞いてまわっても、駒崎屋に恨みがあるというのは大店に婿に入ったことに対する妬みを言う者ぐらいで、誰に聞いても商売に精を出す気立ての優しい男性であると答えます。
「あぁ、でもちょっと前におかしな事があったねぇ」
「おかしな事?」
「あぁ、変な女が乗り込んできて、女将さんに掴み掛かって大変だったんだよ」
 御簾丸は茶屋のおじさんの言葉に思わず目を白黒させるのでした。
「はぁ‥‥恐らくは、またあれが不始末をやらかして‥‥お客さん、いつ頃のことか分かりますでしょうか?」
 鹿目屋へと場所を移した御簾丸は、幾つか駒崎屋の主人のことを聞いていると、女主人の方が詳しいと聞かされ、仕事の合間を縫って顔を出して貰うことにしていました。
「最近、駒崎屋の主人が怒って帰ったことがあると聞いたのだが‥‥その時のことなどを少し聞いてみたい」
「ええ、身内の恥を申すようで、誠にお恥ずかしいのですけれど‥‥あの子がどうも、駒崎屋さんの身代が立派なもので、その、他の娘が応対していたのに、自分に変わったと嘘を申して取り入ろうとしたようで‥‥」
 駒崎屋は参拝のあと茶やお銚子一本、お酒を楽しんで帰るのが常だったそうで、主にまだ見習いである娘が親へ孝行するかのように応対していたそう。
「私どもの所では、まぁ、お足を貰って一緒に出かけるという者もおりますので、そう言った気遣いのない大人しい娘が酒の相手になって色々と話を聞かせるのがまた気楽だったのでしょうが‥‥」
 いつもは駒崎屋の主人と顔を遭わせることがなかったそうなのですが、ある日女主人が少し用事で出ていたときに、駒崎屋の相手をしていたはずの見習いの少女が酷い様子で裏で泣いていたそうで。
「自分の客である酔っぱらいに無理矢理押しつけて、自分は駒崎屋の主人の所に『あの子は具合が悪くてお暇を貰ったので今後自分が‥‥』となったようで‥‥幸いなことに乱暴される前に内の若いのがそのお客をおん出したのですが」
 次の時には少女は御店に来ておらず、その時に出ると言った女はなにかと駒崎屋に金品をせがみ、うんざりした駒崎屋が他の人にして欲しいと言われて凄い形相で睨んでいたそうですが。
「‥‥駒崎屋に、直接乗り込んだ?」
「ええ、奥様に迎えてくれる約束だったのにと言って、乗り込んで有ること無いこと言ったらしく‥‥誓って、駒崎屋さんと関係はございませんでしたわ」
「‥‥前にもこんな事が?」
 流石に沈痛な面持ちで額に手を当てて言う御簾丸に、小さく溜息をつく女主人は流石にここまではないと答え。
「なので暇を取らせようとしたら、元の自分の客で質の悪い男が押しかけてきましてねぇ‥‥今まではここまで大事にはならなかったので、一部のお客には人気がありましたしおいていたんですが‥‥」
 小さく溜息をつく女主人に首を傾げると小さく呟く御簾丸。
「これは依頼人の自意識過剰が原因なだけなのか、他からも恨みを買っていたのか、それとも何らかの事情が当て駒崎屋の主人が見張らせているのか‥‥」
「駒崎屋さんにはご迷惑をお掛けしてしまって‥‥奥様に誤解を解きに一度出向いたのですが」
 何となしに目を見合わせる女主人と御簾丸は、妾の件についても初耳だったと改めて確認すると深く溜息をつくのでした。

●困った女性
「どうにも不慣れなようですね‥‥」
 星崎が呟くと、視線の先には若い男が。
 どうも駒崎屋の手拭いを帯に差し尻っぱしょりで女の家を見張っているところを見ると、素人、それも駒崎屋の関係者のようで。
「それにしても‥‥目立ちますね」
 星崎がちらりと依頼人の家へ目を向ければ、長屋の入口、二体のゴーレムがちょこんと玄関先に座っており、近所のおばさん方に混じってラーダが洗濯の仕方を教わっているようで。
 ゴーレムもそうですし、ラーダ自身もそうですが、どうやら女性は先程覗いたとき同様、中でお酒を飲んでいるようで。
「お嬢ちゃんも、大変ねぇ‥‥」
「いえいえ、お仕事ですから♪」
 真面目に働いているラーダの姿を見て、女の住む長屋を張っていた男が悔しそうに地団駄を踏んでいるのを見て、困ったなぁとばかりに苦笑する星崎。
 やがて背を向けて歩いていく男を付ければ、辿り着くのは駒崎屋で、見れば駒崎屋主人の元へと真っ直ぐ駆け寄ると、何やら報告をしています。
『‥‥‥きっと、人を雇ってたかりをしようってんですよ、あのアマ‥‥それがあっしにゃ悔しくて悔しくて‥‥』
「‥‥これはまずいですね‥‥」
 どうやら依頼人が人を頼んだことにより、人の力を使ってごり押しをするつもりであるのと勘違いされている様子に、少し考え込む様子を見せる星崎。
「早くこの事をを相談しませんと‥‥」
 小さく呟くと、星崎はもう一度だけ振り返って駒崎屋を確認すると、急ぎその場を後にしたのでした。
「‥‥というわけで、今後のことについては、ようく本人と話し合って頂きたいと」
 鹿目屋の女主人は溜息を付くと、然るべき方に相談して女性の身柄を引き取って貰う、つまり江戸から離れた親族に引き取りに着て貰うつもりであることを述べます。
「駒崎屋さんに、そんなご迷惑をなおかけているとは‥‥ただただ申し訳ありませんわ」
 もう一度ご挨拶に伺ってお詫びを言わなければいけませんね、そう言う女主人に、それが良いだろうなと御簾丸も困ったような笑顔で頷きます。
「依頼人に手を出すようならば捕まえたのですが、ラーダさんのゴーレムに恐れをなして荒事にならなかったのは助かりましたね」
 色々と手が足りなかったこともあり、間違いがなかったことに頷く星崎。
 3人は情報を付き合わせた後、星崎と御簾丸で誤解を駒崎屋に解きに赴き、主人も剛健者が強請のために雇われたわけではないことを知ってほっとしたようで。
 依頼人が報酬をださないとごねた事に対しても、きちんと調べていただいたのでと駒崎屋さんの方から払われることになったようです。
「‥‥これで懲りてくれると良いんだがね」
 御簾丸はそう呟くと小さく溜息をつくのでした。

●お仕置き
 さて、御簾丸が溜息をついていた頃、女性とラーダはどうしていたかと言いますと‥‥。
「グラちゃん、ディエちゃん やっておしまいなさ〜い♪」
「ひ、ひぃぃっ!!」
 まさかゴーレムがのそのそと自分に向かってくるとは思わないでいた依頼人、ラーダの言葉にむんずと掴み掛かる二体のゴーレムにあわあわと逃げまどおうとして、腰を抜かしてしまったよう。
 こっそり長屋の皆さんも何事かと覗きに来たのですが、自業自得とばかりに珍しいことだからと見物に洒落込んでしまったりして助けに入る人は居ないようで。
「ことあるごとに、勘違いしてる女性って虚しいよね〜って、私がさっき言ったのは、貴女のことっ! 貴女の勘違いで駒崎屋さんに鹿目屋の女将さんに女の子、その他諸々が迷惑したんだよっ!」
 ゴーレムに掴まれて震えながらラーダを見る女性にびしっと指を突きつけるラーダ。
「次にこんな事またやったら‥‥」
 むと腕を腰に当てて女性を見るラーダはふんとばかりに怒ったように眉を寄せて。
「また他の人に迷惑かけたら退治しちゃうわよ?」
 そう言ってからゴーレムと一緒に帰っていくラーダを呆然と見送った女性。
 彼女はきっと、江戸から離れた親族の家で、少しは大人しく暮らすことでしょう。
 何はともあれ、女性の迷惑な勘違いから広がっていた騒ぎは、こうして無事に幕を閉じるのでした。