魔法の丸薬

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2004年08月17日

●オープニング

 なにやら難しい顔の男性がギルドへとやって来たのは、じりじりと日が照り、異様な陽気の昼下がりでした。
「非常に頼むのが気が引けるような、ばかばかしい依頼なのだが‥‥」
 そう言いながら男性は溜息混じりに出された茶を啜っています。暫く悩んだ様子でしたが、やがて肩を竦めて口を開きます。
「ここのところ巷で噂の、その、なんだ‥‥魔法の丸薬を知っているだろうか‥‥」
 そう言いにくそうな様子で言っています。最近巷で噂になっている、異国から取り寄せた材料で作られたと言う魔法の丸薬。これは女性の胸を大きくすると言われ、その名も豊柔丸と言います。しかし、実際の所、その効果がはっきりと確かめられている訳ではなく、あくまで売っている女性の話術と、見本だと言われるその豊かな胸を見て、つい信じて買ってしまうようです。
「私には妹が居て‥‥既に嫁いで居るのだが、その妹と妹婿が、その薬をすっかり信じ込んで買ったそうだが、全くと言っていいほど効果がないのだそうだ」
 そう言う男性の表情か硬く引きつっています。
「こんな話をするのは身内の恥を晒すような者だ。しかし、私は妹が可愛い‥‥その妹が泣いて悔しがるのだ。何とかして、この悔しさをはらしたい、あの自分を騙した人間を思い知らせてやらないことには、悔しくて死んでしまいそうだ、などと言って、私に泣き付いてくるのだ」
 そう言うと、男性は深々と頭を下げます。
「騙された私の妹夫婦が悪いというのは重々承知している。しかし、ここまで言われては私も黙っていられない。何とか妹夫婦の為に恨みを晴らしたいと思う。どうか、豊柔丸を売っている者達を思い知らせて、このような騙される人間が減るように、何とかして貰えないだろうか」

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0416 漸 皇燕(37歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0853 陣内 風音(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2160 夜神 十夜(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2497 丙 荊姫(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2517 秋月 雨雀(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3741 レオーネ・アズリアエル(37歳・♀・侍・人間・エジプト)
 ea4364 天薙 綾女(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●貧乳の悩み
 一行は依頼人に連れられて、件の妹の所へ向かいました。会ってみると確かに、まな板も真っ青なほど着物越しから見てもぺったんこです。
「これがその丸薬です」
 そう言いながら丁寧に包まれた丸薬数粒を見せますと、人の小指の爪ほどの深緑の丸薬が乗っかっています。
「知り合いの薬師に見て貰ったところ、薬効もせいぜい有って疲労回復とか‥‥」
 そう依頼人が溜息をつきます。
「私は、こういう身体的な悩みを利用して、ということが大嫌いなんだ。人には人それぞれの悩みがある。それを利用して自分の利にしようなど言語道断」
 天螺月律吏(ea0085)が不快そうにそう言うのに、秋月雨雀(ea2517)は小さく肩を竦めてその丸薬に目を落とします。
「胸が大きくなる薬ね‥‥華国三千年の漢方とか‥‥訳わからない感じで売ってるのかね」
「触れ込みは、月道を通って伝えられた薬草などをふんだんに使った夢のような薬、と言われているのですが、実際にそのような物が渡ってきたら、どんなに高価なものになるかと思うと、眉唾物ですな」
 漸皇燕(ea0416)の言葉にそう答える依頼人。それを聞いて、妹はがっくりと肩を落とします。どこか、兄へと恨めしげな視線を送りつつ、です。
「乳は大きさじゃない! 形や張り、全てが合わさってこその素晴らしさがあるんだ! 君は貧乳だが素晴らしい乳をしている! 悩む事などなかろうっ!」
「お前の乳談義は聞き飽きたわ! さっさと仕事しろ!!」
 なにやら力説しつつ、ちゃっかり胸を揉む夜神十夜(ea2160)に、雨雀は蹴りを入れようとしますが、座ったままが禍してかひょいと避けられてしまいます。揉まれた当人も、依頼人も展開の速さにどこかあっけに取られた様子で2人を見ています。
「個人的に騙される方が悪いと思うんだけどね‥‥まぁ、詐欺師も俺らに目付けられたのが運の尽きって事で」
 夜神を蹴り倒すのを諦めた秋月は、そう言うと立ち上がりました。
 思ったよりも丸薬が残っていたため、囮に行かなくて済んだ丙荊姫(ea2497)は、依頼人の妹が自分よりも胸がないのにほんのちょこっと自信を取り戻したりしていました。
「では、私はあれね、押し込み班に入ればいい訳ね」
 そう言って確認すると、返却班の4人が立ち上がりました。

●返却希望‥‥のち押し込み?
 夕刻、そろそろ丸薬の店も終わりになりそうな時間帯、律吏は珍しく普段着などで年相応な娘の姿形をして、陣内風音(ea0853)・レオーネ・アズリアエル(ea3741)・天薙綾女(ea4364)の3人と連れだって、預かった丸薬を持って言われた長屋へと向かいます。他の者は、押し込みの時のためにこっそりと隠れています。具体的に言えば長屋の陰に皇燕と秋月、長屋裏に夜神、屋根の上に荊姫といった具合です。
「済みません、豊乳丸についてお話しが‥‥」
 そう綾女が声をかけるのに、程なくしてとりあえずつい胸に目がいきそうな程の爆乳な女が戸を開けて首を傾げます。
「あら、お客さん? でも、豊乳丸じゃなくて、豊柔丸よ」
 そう言いながら軽く髪を掻き上げます。
「購入した友人が、全くといって効果がないと言っていた。これは明らかな詐欺ではないのか? そして、売るときに効き目がなければ返金する、とも言っていたな」
 律吏が言うのに、レオーネも目に何事か物騒な様子の光を宿しつつ微笑みます。
「効果もないような物を売りつけるなんて感心しませんわ。もちろん返金していただきますわよ。責任者の方のきちっとした説明もしていただきませんとね。責任者は貴女かしら?」
 2人の言葉に、むっとした表情を女が浮かべてみます。
「貴女は本当にこの薬でその胸を手に入れたのか? いや‥‥ひょっとすると作り物なのでは? それとも、その胸は生まれつきのもので、この薬に縋ろうとした者を内心嘲って楽しんでいたのではないか? まったく酷い女もいたものだ」
 さらに反論する隙を与えずに律吏が言い募る言葉に、女の顔がひくひくと引きつっていきます。
「返金だぁ? 縋ってこっちがお情けで売ってやっているってのに、こんどぁ難癖かい? 帰ってもおらおうか」
 声の雰囲気ががらっと変わる女。なにやら律吏と睨み合っている様は、なかなかに物凄い物があります。
「おいっ、お客がお帰りだよ、丁重にお送りしなっ!」
 女が押し殺した声で言うのに、長屋の中からぞろぞろと厳ついお兄さん方が現れて4人を取り囲む様に立とうとしました。
「やれやれ君たちも恐ろしい女に手を出したものだね‥‥俺らは用心棒だぜ」
 そう言って現れるのは皇燕と秋月です。
 男達が攻撃をしかけようとした瞬間、1人が真上へと身体を浮き上がらせると、その場で昏倒しました。同時に上がるきゃーきゃーという女性の声。
 その声の主は風音です。大騒ぎをしながらどこか楽しそうではありますが‥‥自分たちを取り囲む男達へと拳を叩き込んでいきます。レオーネに斬りかかる男に、秋月が打ち掛かります。
 その横で、レオーネがダガーを握り、律吏も掴みかかる男の手を捻り上げています。戦闘が始まったのを見て、女は長屋が中へと駆け込むのに皇燕と綾女が後を追います。
「主犯格は貴女だろ、逃がしはせんよ‥‥お前さんが体を売ってくれると言ってもね」
 長屋の中では、すっかりと荷造りが負えた荷物が置かれていて、その脇を裏口へとすり抜ける女に後を追う皇燕がそう言うと、きっと睨みつつも裏口の戸を開けて外に出ようとしたときでした。
 むにゅ、という小さな音と共に、しっかりと胸を鷲掴みされているのに、女が声にならない声を上げています。
「ふっ、所詮は乳を騙る者…この程度の乳か。お前が裏口から逃げるだろうって言うことぐらい、計算済みだ」
 そう言う夜神に女が金切り声を上げて引っ掻こうとしますが、すぐに叩き込まれた刀の柄で、女は昏倒します。
「姓は夜神、名は十夜。乳愛好家の名の下に、悪しき乳を騙る全てを断つ者也っ!」
 そう言いながら女を抱えて長屋内へと入ってくる夜神に、女の後に続こうとした、かろうじて無事だった男達は、あっけに取られた様子で夜神を見ているのでした。

●さ・ら・し・も・の‥‥そしてこっそり‥‥
 一行に捕まった者達は、ひっくくられて、街の目立つところへと、夜のうちに運ばれました。
 どこかにこやかに『‥‥死ぬよりムゴイ目にあってもらいましょうか、ね♪』といって率先して詐欺を働いた者達を剥くレオーネの姿に、女を怒らせると怖いなどと男性陣は思ったかもしれません。何にせよ、流石に全裸は不味いと思ったか、夜神などが適当に手に入れてきた花をあしらうのに、余計に情けない姿になって晒されている者達は、なかなかに哀れです。
「醜いわね‥‥」
 隠し損なった者が居たのか、荊姫が僅かに眉を顰めると、白薔薇でそのお粗末な物を隠すようにして放ります。
 綾女に手を借りて看板を当てたレオーネ。そこには黒々と『この者、偽薬による詐欺犯』と書かれており、その看板の下には、豊柔丸の入った入れ物をごろごろと積み上げておきました。
 次の日、あちこちで晒し者になった者達の噂を耳にすることが出来ます。依頼人に礼の意味で酒や食事を振る舞われながら、夜神はこっそりと懐にしまってある、豊柔丸の入った小箱を指でなぞります。こっそりと、貧乳な奥様のためにお土産として持ち帰っていたようです。
 そして、数日後‥‥。
「これ、魔法の丸薬なんだけど、どう?」
 有る意味話題となった豊柔丸をこっそりと売りに行く、秋月の姿がとある質屋で見かけられたというのは、また別の話でしょう。