せんせいをおこらせてしまいました

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月11日〜03月16日

リプレイ公開日:2007年03月21日

●オープニング

 その日、ギルドにぞろぞろと連れ立ってやって来たのは、4人の少年達。
「本当に入って大丈夫なのか?」
「うむ、弘兄も言っていた、安心するが良い」
 その少年達の中心になって居るらしき少年は、何やら偉そうにふんと踏ん反り返ってからギルド内を見渡すと、少し心配そうな表情を浮かべて。
「む、可笑しい、どこからどう見てもお人好しという若い男を捕まえれば良いはずなのだが、見あたらぬ」
「‥‥‥おい、お前の客だぞ」
「‥‥へ?」
 丁度用で奥にいた受付の青年は、出て来るなり同僚に言われ目を瞬かせると、丁度それに気が付いた少年もそれまでのきょろきょろとしたさまをやめ鷹揚に頷いて。
「うむ、仕事を持ってきて遣ったぞ」
「‥‥はぁ」
 何でいきなり自分を指名されたかもよく分かっていない受付の青年は、取り敢えず少年達を席に勧めると、茶と茶菓子を出しながら話を聞くことに。
「で、今日はどうされたのですか?」
「ぼくたちね、せんせいをおこらせちゃったんです」
「‥‥は?」
 ちっこい子供が言うのに目を瞬かせる受付の青年、どうやら今の子供は近くの農村の子供でしょうか。
「あのねあのね、おねえちゃんもおおせんせいのりょこーについてったら、せんせい御飯いつもしんばっかりのたべてるの」
 くいっと首を傾げるのはなかなか仕立ての良い物を着ている様から、それなりの商家の子供のよう、そして中心になっている少年は、立派な身形の武家の子供。
「振棒は真面目にやっておるのだが、如何せんそればかりでは詰まらぬので、道場の掃除中の兵庫に様々な罠を仕掛けて待ち構えていたら、そのうちの一つが良い具合に当たってな。奴はかんかんになって今日は道場を返されてしまった」
「兵庫君はきっと最近ろくな物を食べていないので気が立っているのですよ、殆ど白湯なお味噌汁を啜って顔を顰めておりましたし」
「まはらがおらんだけ、まだ手荒に扱っていないつもりなのだがな」
 もう一人、大人しそうなにこにこ笑った、あまり良いとは言えない身形の武家の子供が言うのに、偉そうな少年は頷いて。
「まはらって、あのまはらちゃん?」
「うむ、風邪を引いて雛祭りが出来なかったというので、其方の方で暫く道場を休んでおる。因みに自分は高由という」
「へーたでーす」
「よしたろうっていうの」
「八紘と申します」
「これにまはら。今道場に通っているのはこの5人‥‥といっても、月謝を払っているのは俺とまはらだけだけどな」
「わたくし達は現物で支払っておりますよ」
 わいわいと話す子供達を前に、確かに大変そうだなぁ、先生は、などと呟いていた受付の青年はふと首を傾げて。
「あれ? さっき兵庫君って‥‥」
「はい、申しましたよ」
 御家人の息子とのことな八紘は頷くと掻い摘んで話してくれた内容は、今行っている道場の大先生は常に弟子と共に旅行がちで、江戸から離れられない事情がある彦坂兵庫が子供達の稽古を見てあげているそう。
 今までは大先生の娘さんが家事の方を分担して遣っていたので、道場の掃除と稽古だけで済んだのですが、娘さんも物見遊山してみたいと今度はついて行ってしまったため、子供達の世話と稽古、そして日常の家事まで遣らなければならなくなったそう。
 そして、お目付役のちょっと怒りん坊なお姉ちゃんが居なくなれば、後はもうある意味子供達の天下、今日はとうとう木刀を使った罠で掃除中の兵庫を襲撃してしまったため、怒って追い出されてしまったと言うこと。
「心の狭い奴だ」
「木刀は危なかったですねー失敗してしまいました」
「いや、基準違うから」
「それでですね、もしかしたら兵庫君、生活疲れで怒りっぽくなっているんじゃないかと思いまして‥‥兵庫君に最低限の家事を教えてあげたり、色々とお手伝いをしてあげて欲しいんですよ」
「‥‥‥」
 君達が良い子にしていればいいのではないか、そんな言葉を言いかけて飲み込むと、受付の青年は依頼書を取り出すのでした。

●今回の参加者

 eb0924 鷹瀬 亘理(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9508 小鳥遊 郭之丞(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb9825 ラーダ・ゲルツェン(27歳・♀・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec0804 澤田 桔梗(24歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec0997 志摩 千歳(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

伊勢 誠一(eb9659

●リプレイ本文

●せんせいのおてつだいに
 その日、件の道場には子供達より先に一行が着いていまして。
「うちの生徒達がご迷惑をお掛けし、申し訳ございません」
 挨拶をするのは、子供達の先生、つまり今の道場の師範代として留守を預かっている旗本の三男坊・彦坂兵庫章伴という、すらり鼻筋が通った若侍で、女性のような風貌の、ぱっと見余り強そうになく気の良さそうな細身のお兄さん。
「澤田桔梗や。好きなように呼んでくれてかまへんで」
「これは申し遅れました、わたくし彦坂兵庫と申します。道場主は現在、兄弟子やお嬢さんと一緒に他行中でして」
 澤田桔梗(ec0804)がにこにこして声をかければ、瀬崎鐶(ec0097)もこっくりと頷いて。
「‥‥初めまして、瀬崎鐶だよ。よろしく」
「はい、宜しくお願いいたします。本日子供らは昼頃にやってくる予定ですので、その間に道場内部について簡単にご説明いたしますね」
 子供達は家のことや手習いを済ませてから来るそうで、簡単に道場の内部を説明すれば、見た目は余り大きくなく立派とも言えない道場ですが、手入れが行き届いており落ち着いた雰囲気の良い建物です。
「お掃除は随分と慣れているようですわね」
「こちらに入門いたしましてより随分と鍛えられまして」
 志摩千歳(ec0997)の言葉に頷いて応える兵庫。
「ところで兵庫殿、暫く兵庫殿が家事習得に専念できるよう、私が子供達の稽古を見ようと思うのだが」
「それはいけません、わたくしも月謝を頂き教えている身故、仕事は仕事‥‥ただ、少しやんちゃな盛りの子供達ですから、見るのを手伝っていただけると助かります」
 小鳥遊郭之丞(eb9508)の提案に答える兵庫、立派な家の三男坊とはいえお坊ちゃん育ちだった兵庫にとって、住み込みの弟子お金を受け取り剣を教えると言うことは思った以上に大きいことのようで。
「ねぇ、兵庫さん、ゴーレムって子供達怖がっちゃうかな?」
「? あぁ、あの冒険者が持つ色々な生き物の一つですね? 子供達に危害を与えそうな生き物でなければ、色々面白い物が見られますし、問題ないですよ」
 軽く首を傾げて尋ねるラーダ・ゲルツェン(eb9825)には、そんな物で怖がるほど柔な子供達じゃありませんよ、と笑って。
 やがてお昼近く、子供達が賑やかにやってくるのが聞こえてきます。
「高由さんお久しぶりですね。幼馴染みの御兄弟は息災で?」
「おお、久しいな。弘兄も幸満も元気にしておる」
 鷹瀬亘理(eb0924)が高由を見つけ声をかければどこか嬉しそうに笑ってこっくり頷き。
「弘兄は今学問を頑張っておる故、自分がこちらをと‥‥真面目にやっておるぞ?」
 言って荷を置く高由、側では大根を抱えた平太に手を貸していた八紘は、自身の荷と共に入り口に平太の荷を置くと、ぺこりと道場の上座、神棚の方へと頭を下げてから改めて荷を抱え直し。
「道場は神聖な場所ございますから、きちんと挨拶は何があっても忘れてはいけないのですよ」
 にこにこ笑顔で言う八紘は、つい眉を寄せて複雑そうな表情の兵庫にも会釈をすると、上座に荷を置いて。
「せんせい、おこってる?」
「怒ってない怒ってないですっ!」
 くいくいと袴を引く平太に引っ張るなと袴から平太を引っぺがしていたり、何やら微妙な雰囲気に、ちょっと首を傾げる千歳。
「八紘さん? 一つお伺いしたいのですが、兵庫さんはあまり怒ると言うことが無さそうな雰囲気の方なのですが、どうしてあそこまで?」
「はぁ‥‥結構ぱっと煮えてしまう方なのですが、その、お芝居などである訓練のための飛び交う木の枝をばっさばっさというのを再現して欲しいと吉太郎君にせがまれまして、木刀で代用しましたら、うっかり兵庫君に‥‥」
 流石先生です、そう言う八紘にもう少しだけ詳しく聞けば、木刀を握れるだけ両手に握ってしまっていたため、遅れて降ってきた木刀をまともに受けたそうで。
「まぁ‥‥こほん。皆さん、ちょっとこちらにいらっしゃい」
 千歳の言葉に呼ばれた子供達はきょとんとして集まってくると、腰を下ろした千歳は自身の前に並んで正座をさせて。
「宜しいですか? まだ何処までが危険で何処までが大丈夫か、分かっていないのは仕方がないことです。けれど、知らないうちに取り返しのつかないことが起きてしまう、そう言うこともあるのですよ?」
 きつく叱りつけるのではなく諭すような言葉が、余計に子供達には効いたようで。
「まぁ、面白がってやることではありませんでしたね」
「うむ、平太や吉太郎に間違って当たっては困っていたな」
 頷く年長2人に、ちょっと違うのですけれどと小さく呟きながら千歳が笑みを浮かべたその時。
「んみゅ‥‥ごめんなさい、おばちゃん」
 ぴき。
 平太の言葉に、一瞬どこからかひび割れるような音が聞こえ。
「‥‥今、何かおっしゃりましたか?」
 只ならぬ気配に困った笑顔を浮かべる八紘に額に手を当てる高由。
「いけませんよ、いくらおば様と同じくらいだからといっておばさん呼ばわりは」
「‥‥よく聞こえませんでしたので、もう一度言って下さいます?」
「そうだぞ、おばさんだなんて、駄目であろう。思っていても、女性はとりあえずお姉さんと呼ばねば。間違ってもおばさんというと逆上するものぞ」
「ふ‥‥ふふふ‥‥家事のさしすせそには、躾もありますものね‥‥」
 ゆらり、何やらずっしりと重い雰囲気を漂わせて微笑む千歳、気がついた吉太郎はじりじりと退って側にいた亘理の後ろに隠れ。
「理解できるまで、きっちりと教えて差し上げますわ」
「あ、う、動きませんよ!?」
 ぴたりと止まる八紘、高由や平太も続けて動きを封じられるとその後悪戯についてよりもみっちりとお説教を受けたようで。
「‥‥今日はとりあえず、稽古は後回しだな」
 あれは仕方がない、そんな様子を滲ませて、郭之丞は溜息を吐くのでした。

●しんじゃないごはん
 子供達が千歳にみっちりお説教を受けたあと、振棒を始めると、兵庫と共に一行は夕餉の支度を始めることに。
「お、お米を研ぐって、目の細かい笊でこうするんじゃなくて‥‥お水につけて洗うんだったんですか?」
「今まで一体どうしていたんですか?」
「こう、目の細かい笊にかけて表面を削ってからお釜に移して炊いていました」
「‥‥」
 思わず笑顔で顔を見合わせる亘理と千歳。
「‥‥気を取り直して、ご飯の基本から行きましょう」
 亘理が言えば、郭之丞も教えられる水加減などをとても真面目な顔で聞いていたりしています。
『ご飯を炊くこつは、はじめちょろちょろ中ぱっぱ、一握りの藁燃やし赤子泣いても蓋とるな。蓋は絶対に取ってはいけません』
 綺麗に言葉が重なって、思わず亘理と千歳を見る兵庫ですが、それは亘理と千歳にとっても同じ事。
「ふむ‥‥2人が同じ事を言うほど基本なのだな、よく覚えて置かねば‥‥」
 そして真剣に覚えようと書き記している郭之丞、とにもかくにも、ご飯の炊き方はしっかりと確認し、後は繰り返し感覚を掴もうとのこと。
「次はお味噌汁やおつゆですが‥‥お湯をお鍋で沸かすのは分かっているとの事ですが、だしをとるために煮干の頭と腸を‥‥」
「‥‥煮干を使うのか?」
「‥‥もしかして、お味噌とお湯だけで作っていましたか?」
「‥‥それに、その、見真似でわかめや豆腐を入れて煮て‥‥」
「‥‥」
 予想外の答えだったのか少し考えると、亘理は頷いて入れる順番、だしを入れないと、お味噌の量はどれぐらい、と順番に一緒にやってみながら説明をしていき。
「匙で溶くのがコツですの」
 掬ったお味噌を端で溶かして見せながら言えば、感心したようにその手元を見入っている兵庫。
「お味見してみます?」
「是非に! ‥‥‥‥はぁ‥‥」
「む? どうした?」
「いえ、御味噌の味も出汁の味もして、なんだか久方ぶりにお味噌汁を頂いたなとついほろりと」
「‥‥なんや、壮絶な食生活しとったんやなぁ」
「‥‥‥‥味のしない生煮えのお味噌汁‥‥美味しくなさそう、だね」
 振り棒を終えた子供たちとお茶を頂きながら眺めていた鐶と桔梗、ラーダはお友達であるゴーレムに平太が挨拶をしてよじ登るのを面白そうに見ていましたが、2人の会話を聞いて竈の前にいる人々を見て。
「ふんふん、道場の経営も大変だけど、なんだか家事も大変だね」
「せんせー、ここのおねーちゃんがいたときにはうちのだいこんがだいこうぶつだったんだよ。おやしきにおさめられていただいこんよりも、ずっとおいしいって」
 えっへん、とばかりに肩によじ登っていた平太が言えば、へーっと感心したように見る3人。
「お、なんや、釜の蓋に手ぇ伸ばして叩かれてるなぁ」
「‥‥蓋は‥‥取っちゃ駄目、だから」
「うーん、その場合基本は最初に言われているんだろうにねぇ」
 他にもお魚を焼いていたりお漬け物の方法を習ったりと悪戦苦闘しながら、何故か郭之丞と悪戦苦闘をしながら作り上げるお夕食。
「わー‥‥兵庫君、ご飯になってますよ」
「味噌汁に、ちゃんと色が付いて居るぞ」
「おさかなさん、すみになってないです」
「おつけものまであるー」
「なんや、寂しい食卓やったんやなぁ」
 珍しくお夕食を頂いてから帰ると言い出した子供達の言葉に笑う桔梗、お手伝いでお掃除と片付けを頑張った伊勢誠一も、千歳と並んでご相伴に預かるようで。
「‥‥うう、心が痛いです」
 結構散々な言われようにちょっとしょんぼりしている兵庫ですが、出来上がった御飯は立派に夕餉の膳と呼べるもの。
「どうなるかと思ったが、なかなか美味くできたようだな」
「うう、御飯が芯じゃありません‥‥」
 満足げな郭之丞に、久し振りのまともな御飯で、嬉しいのか悲しいのかが分からない様子の兵庫。
 残り期間、亘理と千歳に色々と料理の手順を習い見て貰いながら、兵庫と郭之丞で食事を頑張って作ることになるのでした。

●まいにちがおちゃびより
「かかり稽古などはさせていないのか?」
「身体が整うまでは振棒をさせています。その後は、木太刀を構えてあのように‥‥」
 兵庫が言うのを郭之丞が見ると、ラーダがお友達であるゴーレムを立たせて、ゴーレムが持つ木太刀をぽんぽん打ち込んでいます。
 始めはウッドゴーレムのディエーリヴァに打ち込んで、人型に斬り掛かるときの‥‥となるはずが、くいっと首を傾げた吉太郎がてちてちと歩み寄ってディエーリヴァの足を撫で撫でとしてから一言。
「でぃえーちゃん、うたれたらかわいそうです‥‥」
 それによって木太刀を持たせて打ち込ませるという方向になったようなのですが。
「振棒をした後にしては切れも良いし、肩・足腰が同じぐらいの年に子供に比べて大分良いな」
「ええ。ただ、余り幼い頃からきつく遣らせるのは身体に良くないと、師から良く言い聞かされていますし、また兄にもきつく申しつけられていますので、様子を見ながらですが」
 言いながらも、幾つか稽古の事について話す2人。
「そうそう、後でかかり稽古をしてみたいのだが‥‥」
「あー‥‥子供の体力はこういう事には底なしですから、その、頑張ってください」
 にっこり困ったように眉を寄せながら言う兵庫、その言葉にちょっとだけ郭之丞が後悔するのは、もう少し後の事でした。
「し、死ぬほどきつかった‥‥」
「かかり稽古は相手よりも何倍もの技量と体力がいりますからねぇ‥‥技量があっても、体力は、子供は際限ありませんから‥‥」
 ようやく稽古を終えた郭之丞と兵庫、そして子供達は、縁側で見学や笛の練習をしたりしていた鐶がかすかに微笑ににみえなくもない表情でお茶を出すのに、わっと喜んで群がる子供たち。
「汗をかいた後の茶は美味であろう」
「おいしー♪」
「おいしいねー」
 きゃっきゃと喜ぶ子供たちに、しみじみと言ったようにお茶を啜る八紘と、手を見ながら握ったり開いたりとしている高由、お茶を頂いていると、桔梗が舞をという話となり、扇を手に立ち上がって。
 きちんと拭き清められた道場内で扇を手にゆったりと舞う様子を、真剣な面持ちで見つめる鐶と、舞などといったことが結構好きな様子で楽しげに見る兵庫。
 千歳に甘えるように隣にぽてっと腰を下ろしている吉太郎に、平太はどうやらゴーレムがお気に入りのようで、よじよじとよじ上りながらラーダと笑い合っており八紘は郭之丞にきちんと兵庫のことも先生と呼ばないとと言われて頬を掻き。
「高由さんもやってみますか?」
「む‥‥では手を洗ってから‥‥む、これは、丸めるで良いのか?」
「ええ、こうして‥‥」
 楽しそうな時間が各自流れる中、そろそろ夕食の下拵えにと兵庫は席を立ち、踊り終えた桔梗にお茶を出す鐶。
「‥‥梗ちゃん、お疲れ様‥‥」
「おおきに。はー‥‥やっぱり鐶の入れるお茶が一番やな〜」
 にこにこと初々しいと言うよりも微笑ましい2人。
 その横では、ラーダが子供たちにどんな罠を仕掛けてるのかとか若先生についてどう思うのかとか、色々と聞いているようで。
「ささ、おねーさん秘密にしておくから、言ってみ?」
 ラーダの様子に過去に若先生が道場のお嬢さんと一緒に道場で篭城した話しなどを出して、あれを目標に、とちょっととんでもない罠を考えていたり、年の離れたお兄さんとしてみているなどを聞き出し。
「悪戯は時に先生だけではなく、高由さん達にも怪我が及びます。皆さんに怪我があれば大変です。周りの方や私も心配します‥‥どうか、程ほどに」
 亘理が優しい微笑に心配な色を滲ませていうと、素直に返事をする2人に、程ほどに善処しますと答える八紘、そして高由は照れたようにそっぽは向きますが、小さく気をつける、と答えるのでした。
「せんせーきょうはさくらもちなのー」
 稽古後のお茶の席で受け取った御餅を手に、汗を拭ってきた郭之丞に差し出す平太。
「む、すまんな。うむ、美味い」
 和気藹々とした雰囲気中、先程から兵庫は千歳と亘理に習いながら魚を捌いているようで。
「刀を使われますからね、包丁捌きは堂に入っていますわね」
 褒めて伸ばすを実践中の千歳ですが、実際覚えが悪いわけではなく、兵庫は家事について物知らずなだけと分かると、良く覚えていく様子に満足げ。
 下拵えも終わると、何やらお茶を飲むところに戻った兵庫に『子供達に己の尊厳を示して見せよ』と郭之丞が申し入れ。
 木太刀を構えての対峙ですが、素早い太刀筋で斬りつける郭之丞の木太刀を悉く軽くいなす兵庫、逃げ続けているとも見えていたその一瞬。
「‥‥‥参った」
 郭之丞は、打ち込んだ一撃を受けると共に返す刃で目の前にぴたり突きつけられた切っ先に、緩く息を吐いて言って。
 子供たちも兵庫が使えるのは知っていたよう。
 最後の日の夕餉は色々と教わりながら兵庫の作った夕食で、付け焼刃ではありますが、いっぱしの家庭料理を並べ、みんなでご飯。
 最終日の夕食の時間は、いま少しだけ、のんびりまったりと過ぎてゆくのでした。