●リプレイ本文
●再会を祝いながら
「紅葉かや――っ♪ 久しいのじゃ、今年も一緒に祝いなのじゃ♪」
「みゃぅうん」
火乃瀬紅葉(ea8917)は元気にかけられる声にぱっと顔を明るくして飛びついてくる元気な少女、まはらを受け止めると、黒猫の青龍も嬉しそうに尻尾をぴんと立てて紅葉に摺りついて。
「まはらちゃん、今年も一緒にお雛祭りを祝えて、紅葉嬉しゅうございまする」
「まはらも嬉しいのじゃ」
はしゃぎながら、ぎゅーっと紅葉に掴まるまはら、その様子に既にまはらと会ったことのある嵐山虎彦(ea3269)やケイン・クロード(eb0062)も思わず笑みを浮かべて。
「まはらの嬢ちゃん、相変わらず元気が良いなぁ」
「まはらちゃん、お久しぶりだね。今年も、楽しんで貰えるように腕を振るって美味しいものを作るからね」
「ケインも嵐山も久しいのじゃ。元気だたかや?」
一年前よりちょっぴり大きくなったまはらは久々の再会に嬉しそうににこにこ。
「お雪ちゃんにございまするか?」
まはらをだっこしたままだった紅葉は、ふと比良屋のお雪がはにかんだように笑みながら見ているのに気が付いてまはらを降ろすとにこりと笑いかけて。
「紅葉と申しまする、まはらちゃんには仲良うして頂いておりますゆえ、宜しくお願いいたしまする」
「あ‥‥よ、よろしくおねがいします」
ちょこんと頭を下げるお雪に、嵐山はにかっと笑ってぐりぐりお雪の頭を撫でてやり。
「あらしやまのおじさんも、けいんお兄ちゃんもいらっしゃいませ」
「おお、すっかりと看板娘だなぁ、お雪ちゃん」
嵐山がお雪に声をかければ、ふと首を傾げて。
「ところで、比良屋の旦那はどうしたい?」
「おきたかのお兄ちゃんとなにかおはなしして、それですぐもどるって‥‥」
「沖鷹さんと? 何だろう‥‥」
軽く首を傾げるケインに、お雪は比良屋が上機嫌で出かけていったと聞いて悪いことではないようだけどと呟いて。
中へと移動しながら話す一行、どうやら今回は残念ながら来られなかった方もいるそうで、具合を悪くしたのかと心配知る様子の2人の少女。
「そうです、まはらちゃん、風邪を引かれたとか‥‥」
「もうすっかりと直ったのじゃ。心配かけたかや?」
後で渡すものがいっぱいありまする、そういう紅葉に嬉しそうに笑うまはらですが、何やら聞こえてきた歌に目をぱちくりさせてきょろきょろ辺りを見渡し。
「春じゃないか♪♪ ひな人形じゃないか♪♪ よいよいよいよい♪♪」
見ればベル・ベル(ea0946)がとても楽しそうに歌いながらふよふよ飛んでおり、不思議そうにベルを見るまはらとお雪。
「お友達の病気の回復を待ってたとは優しいお雪ちゃんらしいでござるの」
声をかける沖鷹又三郎(ea5927)に、まはらとお雪は、何やら不思議そうに顔を上げて、再びベルの方へ目を戻す2人。
ベルが飛んでいる下には、沖鷹のお手伝いに来ていた2人――籠に入った色とりどりの端布を持って微笑する神哭月凛と、部屋の中でふんわり薄桃で可愛らしく咲いた花を持つウォル・レヴィンがいて。
「おう、わりぃなぁ、端布貰ってきてくれたのか」
嵐山が言う声に被ってぱたぱた走る足音がし奥の障子が開けはなたれれば、お茶菓子をお盆にのっけた天堂朔耶(eb5534)が、愛犬・総司朗と共に元気な笑顔を覗かせて。
「お雪ちゃん、やっほー♪ まはらちゃんとははじめまして! ですね、よろしくねー♪」
「わん!」
朔耶の元気な挨拶に総司朗も千切れんばかりに尻尾を振ってご挨拶、黒猫の青龍は吃驚したように床の間で目を覚まして総司朗の方を見つめたり。
紅葉がまはらにお守りを上げたりと、しばしの時間、ご挨拶や再会の喜びで、のんびりとした時間は過ぎてゆくのでした。
●祝いの支度
「お祝いは、楽しく祝ってあげたいですからね」
飛麗華(eb2545)はそう言いながら材料を前に暫しの思案。
麗華は離れた場所から聞こえる楽しげな笑い声に、知らず微笑を浮かべて。
「後でご馳走が出るからお菓子はほどほどにするでござるよ」
「わかったのじゃ! ‥‥むぐむぐ‥‥や、旨やのう」
早速沖鷹の出した蓬餅をぱくつくまはらに、お雪も雛あられを一口食べて嬉しそうに笑い、その様子に笑みを浮かべる沖鷹。
見れば沖鷹が比良屋の主人に提案したとおり、彦坂の家に養子に行った清之輔も養父の彦坂昭衛と共にやって来ていてぺこり頭を下げて。
戻った沖鷹、早速卵を手に食材を眺めれば、幾つか希望していた食材も入っており笑みを浮かべて。
「今年は去年のをもっと華やかにしようと思いまして」
言って一年前にも作った押し寿司を洋菓子のように華やかに愛くるしく飾っていくケイン、それを見て朔耶はぱっと表情を輝かせて。
「さてさて、お料理の得意な人たちがいっぱいいますけど、一緒にお手伝いさせてもらいますねー♪」
「くぅん」
大丈夫かな? そんな様子で朔耶を見る総司朗ですが、色々と危険な気配に小さく居心地悪そうに座り直します。
「そんなに心配しなくても大丈夫! お料理は腕じゃなくって愛情だってお兄ちゃんが言ってたから!」
お鍋を一つ借りて中に入れた材料が、気がつけば何やらどす黒くぶくぶくと不吉に泡立っていましたり。
「うわー‥‥天堂さん、何を混ぜたのかなぁ‥‥」
「見事な黒でござるな‥‥」
「きゅーんきゅーん」
何やらがくがく震える総司朗に、沖鷹とケインが手を止めてみれば、不吉な黒い何かを楽しそうに煮立てている朔耶に目を瞬かせ。
「総司朗、お味見する?」
「きゃんきゃんっ!」
かけられた声に文字通り尻尾を巻いて隅っこの隙間に入りがくがく震える総司朗。
この料理は愛情以外にも、ちょっと何かが必要そうです、具体的には鉄の胃袋とか。
「春らしい色合いに仕上がったでござる」
ちょんちょんと海老に切り目を入れて飾り付けると満足そうに笑む沖鷹、ケインは押し寿司を済ませて海老や菜の花などを痛めて見た目にも華やかな色合いをお皿へと飾り付けていき。
「やはり蛤のお吸い物ははずせないですね」
麗華が満足げに笑って、取り分けるためのお椀を手に取り。
「天麩羅はあとで揚げて作りたてを出したいでござるからの」
材料を並べてそう言うと、おにぎりと握り始める沖鷹は、ちょんちょんと卵や海老で着物を形作り目と鼻をちょんと付けて、海苔で髪と冠を作るところ。
祝い事だからと横で焼ける鯛の匂いも香ばしく、また比良屋が好きだと言う田螺も笊にいっぱい。
甘酒を作る荘吉も、見事なものですねぇ、としみじみ感心をするほど、まるで料亭の台所にいるような光景に楽しそうにお手伝いしています。
そして、いつの間にか総司朗にぐいぐい裾を引っ張られて部屋を出て行った朔耶。
お祝いの席までの時間は、まだあと僅か。
3人は楽しげに語らいながら料理を作り上げていくのでした。
●雛祭りのお祝い
「おう、好きな色の端布は選んだかい? 最初は下地、そして襟んところを重ねていくからな、いろんな色で楽しむのも良いが、まぁ重ねて綺麗に思えたもんを選ぶと確実だぁな」
嵐山の言葉に何枚かは切れを重ねてみる子供達に笑って。
みんなが小さく柄も顔も書かれていない芥子を前に奮闘しているのを見ていろいろと助言をしながら作っている嵐山は、掛け軸に雛人形を書き込んだものをお雪とまはらの2人に既に贈っています。
やがて料理の手も明いた様子のケインが、天堂と共に加わって作り始めて小さな芥子人形に色や柄をあわせて選んでいきます。
「ケインは彼女さんにお土産に小さな芥子雛でももってくかね?」
「あ、ええ、そのつもりで‥‥」
赤くなって照れ笑いを浮かべるケインに良きかなと笑う嵐山は、銀色の布を渡します。
「飾りつけはお任せですよ〜ん☆」
ぱたぱた飛んで織物を天井から吊るすベルは、お手伝いできてくれているルルー・コアントローに飾りのを下で持っていて貰って、ちょこちょことお雛様を飾る予定の台を可愛らしく飾っていきます。
「まはらちゃん、ここはこう止めて‥‥お雪ちゃんはお裁縫がお上手にございまする」
「むー‥‥ここを押さえるのかや?」
糊で端布を止めるまはらに、ちくちくと芥子の着物を縫うお雪、お雪は褒められるとはにかみながら、ぼうけんしゃのおねえちゃんにおそわったの、と嬉しそうに言い。
「ほれ、清之輔もお内裏様作ってやんな。そうそう、清之輔坊は手先が器用だなぁ。で、昭衛の旦那は‥‥‥‥図面は得意だってぇのになぁ」
「やかましい」
端布を形取り切り抜くのは上手くいっても、それを形にするのがどうにも出来ない昭衛に、無謀にも上手くいったお雛様を見せびらかして見るまはら。
「お兄ちゃんたち、急なお仕事で来られなくなっちゃったから、お兄ちゃんたちそっくりのお人形を作ろうー♪」
きっとお兄さん方もお人形にして貰えたと後で知れば喜ぶ事でしょう。
「蒼紫お兄ちゃんが右大臣様で‥‥加賀美さんは左大臣!」
「わふん!?」
‥‥きっと、お兄さんは特に涙を流して。
御爺さんですか、と言わんばかりの表情豊かな総司朗君には、きっとその情景が見えているのかもしれません。
「青龍にも着せてやるかや?」
「まはらちゃん、青龍に着せるんだったら糊でくっつけちゃ可哀想だよ」
紅葉に貰った熨斗付き鰹節で幸せいっぱいにぐるぐると摺り付いて抱えて眠っていた青龍を見てにまっと笑って言ったまはらに、小さく笑っていうケインの手の中には、銀髪碧眼の可愛らしいお雛様が。
「や、けいんの雛はえすなかや?」
「えすなお姉ちゃん?」
ひょっこり覗き込む子供たちについつい赤くなるケイン。
ケインは茶髪碧眼のお内裏様を作って用意した台に並べておくと、その前には朔耶の作った右大臣に左大臣が置かれ。
「お内裏様には紅葉を作ったぞ」
得意げに見せるまはらを見れば、その手には髪を高く結ったにこにこ顔のお内裏様がちょんと乗っていて。
「こんな事もあろうかと、紅葉もちゃんと用意してございます‥‥お雪ちゃんの話を聞いてから、もう一組作るのは修羅場にございましたが」
「や、かわゆやのう」
「くれはお姉ちゃん、ありがとうです‥‥」
まはらお雛様と紅葉お内裏様を渡すまはらに嬉しげに受け取った紅葉は、荷に大事に包んでしまって持ってきた藁とお花で作った可愛らしいお内裏様とお雛様のお人形が二組。
今年もと紅葉が用意した衣装を身に着ければ、気分は本当にお内裏様とお雛様。
嬉しそうに笑う子供たち、そこへ沖鷹が料理のお膳を持ってきて、可愛らしく飾り付けられたお部屋で、雛祭りのお祝いです。
「美味いのじゃー♪」
まはらは早速ご満悦で沖鷹がよそってくれる散らし寿司に下鼓、にぱっと笑うまはらに勧められて紅葉も散らし寿司を口にしてはにっこりと笑って。
「美味しいですよーん☆ 熱々でほかほかで幸せなのですよ〜〜♪」
はふはふと食べるベルの前に置かれたお膳を見れば、なんだか一人ご馳走に埋もれていると言った風情で。
「ほれほれ青龍〜 この魚の旨そうなトコやるから俺にも構ってくれぃ?」
「うにゃ〜〜ん♪」
嵐山が少し覚ました鯛の身を小皿にとってあげれば、食べて早々幸せそうにおなかを見せて撫でてとせがむ青龍。
「女の子のお祝い事は華やかで良いでござるの」
「本当に‥‥」
沖鷹が言えば麗華も頷いて微笑ましげに子供たちを見つつ菜の花の白和えを味わっていて。
「くずれちゃったらもったいないです」
「食べないともっともったいないよ」
ケインの押し寿司が可愛らしいのにお雪がきらきらとした目で見ると、どうにも崩してしまうのがもったいないようで困ったように眉を寄せますが、そんな様子に思わずケインは笑みを浮かべて。
「総司朗も貰って良かったねー♪」
「ばうっ♪」
総司朗も鹿の燻製を裂いた物を持ったお皿を用意されて嬉しそうにはむはむと食べては尻尾を振り。
満腹で幸せそうなベルがお雛様の横でふわふわ、着物でお洒落をして飛んでいるのを興味深げに見ている清之輔など、比良屋の雛祭りは賑やかに続くのでした。
●お祝いの予感
ご飯を食べて、遊戯で盛り上がって、おしゃべりをして、贈り物を貰って。
子供たちも日が暮れて、そろそろお疲れ。
静かにお菓子とお茶を貰いながら語る一時に、ケインは比良屋の主人へと口を開きます。
「今月中に一度、故郷へ帰ります。夏までには戻って来られると思いますので、その時はまた遊びに来ますね」
「ほうほう、里帰りですか。たしか、イギリスでしたね?」
「ええ」
「ケイン殿が暫く居ないとなると、寂しくなるでござるな」
沖鷹が言う言葉に、うとうととしていたお雪が目を覚まして目を瞬かせ、ケインを見ます。
「私はちょっとだけ江戸を離れるけど‥‥お姉ちゃんと一緒に帰ってくるから、また一緒に遊んでね」
「‥‥お兄ちゃんも、いっちゃうの?」
じんわりとした表情で作ったお雛様をぎゅっと握るお雪、兄の清之輔がその様子を見て心配そうにおろおろするのですが、そこへぴ、とお雪の鼻を軽くつまんだ小さな手。
「大丈夫じゃ、帰ってくると言っている。泣くでないぞ、雪」
まはらの言葉に泣き出しそうだったお雪はこっくりと頷いて。
「うん‥‥ゆき、まってる‥‥」
目元を拭って小さく笑むお雪に、軽く顔を下げてお雪と目を合わせるとケインは続けます。
「それと‥‥帰って来たらね、お兄ちゃんとお姉ちゃん、結婚するつもりなんだ。その時は、お雪ちゃんにもお祝いしてほしいな」
ケインの言葉に目を真ん丸くしてみるお雪は、こっくりと頷き。
「戻られたらいつでも寄って下さい。自分のうちだと思って‥‥もちろん、皆様もです」
にこにこと笑って言うと、お雪とまはらの頭を撫でる比良屋。
「じゃあ、ケイン殿の無事の帰国と再会を祈って‥‥」
子供たちにはお茶、大人たちはお酒や甘酒など、杯が回って沖鷹が声をかけると、皆で杯を掲げて乾杯です。
「ケインさんが留守の間、比良屋さんの様子は私がばっちり報告するから心配しないでくださいね♪」
「わんわん!」
「うん、頼みました。お土産の干し肉はちゃんと持って帰りますから」
総司朗の言葉が分かるのか干し肉をお土産に持ち帰ると約束しながら微笑を浮かべるケイン。
やがて夜になり、舟を漕ぎ始めたお雪とまはらを清之輔と紅葉でお布団へ運んで寝かしつけると、大人たちは静かにゆったりと、別れと再会を祈っての宴を続けるのでした。