●リプレイ本文
●脱落一人
その日、依頼を受けた一行で難波屋に集まりいろいろと情報の確認を行っていました。
「‥‥浮気も嫌ですけど、トラブルに巻き込まれていないと良いですね」
心配そうに言うネム・シルファ(eb4902)に頷くのは鷹城空魔(ea0276)。
「おっちゃんに限ってまさかなことはねぇだろうと思うぞ?」
過去に物資輸送などで実際に難波屋主人を知っていると言うのもありますし、何より人の良いと言うよりは気の小さい難波屋が、浮気などと大それた事は出来ないだろうとも思えてきて。
「浮気しているかは分かりませんが、心配は結果を出してからした方がいいですよ」
夫の浮気の常連さんであるらしい大宗院真莉(ea5979)は、経験者らしく助言を言いますが、女将さんの気持ちが晴れると言うわけでもなく。
「でもほんと、難波屋のおっちゃん‥‥何してんだろ? 女将さんもおきたちゃんも、おっちゃんがいつ頃からこうなったか分からないかな?」
「いつ頃‥‥そうだねぇ、あたしが可笑しいと思うようになったのは半月ほど前だね」
「よく出かけられるようになったのは、ちょうどその辺りですね」
鷹城が聞けば顔を見合わせて話す女将さんにおきた。
「ようく考えてみれば、おきたの姿絵を描いて貰っている絵師さんの所に行ってからおかしかったかもねぇ、なんとなく様子が‥‥」
「そうだったんですか? 私はその辺り気が付かなかったのですが‥‥」
「伊達に長年連れ添っちゃ居ないよ」
ちょっぴり得意げに言う女将さん、そこまで自信があるのなら疑わなきゃいいのに、こっそりと女将さんに聞こえない声で呟く鷹城。
「きっと先生んとこに来てた若い女に目が眩んだろうさ! あぁ、あたしだっていつまでも若くは無いよっ!」
自分の所でも自分よりも若い綺麗な女性を揃えているだけに、余計にちょっと最近年が気になる女将さんをまぁまぁと宥めるおきた。
ふと上杉藤政(eb3701)は気になる事があったのか口を開いて。
「ちとその絵師の所に顔を出したいと思っているのだが‥‥この難波屋とその絵師の付き合いはどういう類のものなのだ?」
仕事上だけの付き合いから親しくしている場合もあるため確認してみると、難波屋と絵師本人の仲は良好、時折碁を打ったりしてのんびり話すこともある仲だとか。
「それまでで、いつもと変わった行動は有りました?」
「そうですね‥‥最近ちょっと評判のお芝居を帰りに寄ってくると言っていた様な気もしますけど‥‥」
ネムの質問に答えるおきた、その日は難波屋と入れ替わりで店にやってきたようで、おきたはその時にちらりと難波屋からそう耳にしたとか。
「ふぅむ‥‥では、お、おきた殿が耳にしたと言うその芝居小屋のほうに私は回ってみることにしよう」
李連琥(eb2872)が僅かに顔を赤くしながらいうのに、芝居小屋の場所を切り絵図でおきたが説明して。
「あぁ、上杉さん、絵師さんのところに行くんだったらご一緒してもいいですか? ‥‥その、迷いますので」
困ったようにいう剣真(eb7311)に、用意してもらった切り絵図を渡すネムと、了承したと頷く上杉。
ではそれぞれ手分けして、と立ち上がりばらばらに難波屋を出て行く一行。
さて、おきたが外に出たときの事です。
「おきた、主人について色々と聞いたおきたいことがあるので、少々付き合ってもらえないか」
「はぁ‥‥」
大宗院謙(ea5980)に呼び止められて首を傾げるおきたですが、依頼に関係ある事かと付いていくと、なぜか連れ込み茶屋に入っていこうとする謙。
「あ、あの‥‥」
「今回の件にかかわることだ、早期解決のために協力してくれるんだろう?」
「で、でも‥‥」
嫌がるおきたを茶屋へと連れ込もうとする謙ですが、そこにぬっと現れたのは幾つかの影。
「どぞ」
すちゃっと真が差し出す錦のハリセンを受け取り、今にも氷の嵐を引き起こしそうな般若な笑顔の真莉、そして真莉の後ろでも鉄扇を握り締めている連琥の姿まであります。
真莉のお仕置きをそのままに、酷く傷ついた様子のおきたと共に難波屋へと戻る一行。
即日、謙は難波屋出入り禁止となるのでした。
●友人知人の証言
「はぁ、余りよくこのところの難波屋さんについては知らない、とのことですか?」
真莉が聞くのに安和屋の主人は 頷いて。
真莉は難波屋の女将さんより聞いてきたのですが、謙のこともあり始めは友人を教えたがらなかったようで渋々教えてくれたのですが、最近安和屋の方には来ていないそうで。
「そう言えば、元々忙しいお人ではあったようですが、ここのところとみに顔を見ていません。残念なことですな」
年明けの挨拶から始まり、少し前までは交流は絶えなかったそうなのですが、ある日ぷっつりと顔を見せなくなったとのことで。
「そうですか‥‥ありがとうございます」
「いえいえ、そのうち顔を出さないと寂しいと伝えておいてくれませんか」
安和屋の主人の言葉に真莉は頷いてその場を後にするのでした。
「な、ななななな難波屋さんですか? ええお世話になっていますよ日頃からおきたさんを書かせていただいていて名もそこそこ売れてきたのは難波屋さんのお陰といいますかいきなり押しかけてきて何を聞きたいんですか貴方方は私は何も隠しちゃいませんし‥‥」
「少しは落ち着かれよ」
かくかくと青い顔をして怪しい動作の絵師の切れ目無い言葉を遮ってぴしゃりと言う上杉に、ぐっと言葉を詰まらせる絵師。
「えっと、自分たちは貴方を疑ったりしているわけではないので‥‥」
「近頃の難波屋の不審な言動に対して、何か知っているのならば教えて貰いたいだけだ」
「あー‥‥うー‥‥」
真と上杉が言えばきょろきょろと挙動不審に辺りを見渡していた絵師はどこか不安げに顔を寄せて声を潜めて口を開いて。
「その、へ、へんな小男が話を聞いているかの知れないので‥‥そうなったらどんな目に遭うかが分からず‥‥」
「変な小男、ですか?」
この後調べに行こうとしていた事柄に上杉を見る真、上杉は絵師に先を促します。
「その、うちにいらっしゃるときに私は用事で少し出ていまして、時間潰しも兼ねて、先に芝居を見てこられた難波屋さんなんですが‥‥」
辺りを窺うようにして声を潜めて言う絵師、どうも難波屋はそこで直ぐ隣に着いた女性が気さくに話しかけてくるので幾つか言葉を返しながらお芝居を楽しげに観覧していたようなのですが。
「その女性と別れて難波屋さんがうちに来られまして、次の絵の話や一手どうですかと話していたときに、突然小柄な男が現れまして、非常に丁寧に『命を買うためのお足を用意していただきますよ』と‥‥」
突然現れたこともそうですが、中に入り込み戸を内側から開けたようで、雪崩れ込んできた風体の宜しくない男達に刀を突きつけられ。
「いつも見張られているようで、生きた心地もなく、あれから難波屋さんは何度も呼び出されているようで、何処にも顔を出せないと‥‥」
「その小男というのは‥‥」
「はい、すばしっこくて小柄で‥‥こういっちゃ失礼かも知れないですが、貴方様によく似た姿形の方で‥‥もちろんお顔は違いましたよ?」
絵師の言葉に頷くと、その男達のとお金の受け渡し場所や、何処に行けば会えるかなどを絵師から確認して、2人は絵師の元から退出するのでした。
●芝居小屋と男達
「この辺りですね」
「む‥‥恐らくあそこであろう、賑わっている小屋がある」
ネムが切り絵図を確認しながら言うのに連琥はその芝居小屋を見つけると指して見せます。
「結構混雑していますね。出来てそんなに時間が経っていない様な話でしたけど‥‥」
「おきた殿に聞いたところ、この辺りには良く芝居小屋が入れ替わりにやってくるそうで、当然つまらなければそんなことも無いであろうが、人出が常に多く面白いと評判が上がればあの様になるらしい」
芝居小屋を眺めてみればそこではちょっとした騒ぎが起きまして。
「李さん、あそこ‥‥」
「む‥‥?」
ネムが気がついて連琥に声をかければ、そちらを見る連琥はちょうど脅しつけられている様子の若い商人が通りの向こう側、角を引きずられるように連れて行かれる姿を目にします。
駆けつければ、べそを掻いた商人が1人取り残されていまして。
「何があった?」
「大丈夫ですか?」
「は、はい‥‥ですが、なけなしの小遣いの入った巾着をそのまま‥‥」
隣の席になった女性と歓談していたところ、あの浪人達に絡まれて引きずり出されたそうで。
「人の連れにどういう了見だと言って‥‥でも誓って何もしていません。ですが、身内に累が及ぶと‥‥」
そう脅されてどうしたものかと泣いていたようで。
「あの、その人達について、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
ネムの言葉に、若い商人は頷いて場所を移すと知っていることを話してくれるのでした。
「おっちゃん、このまんまだとどうにもなんないよ?」
鷹城の言葉にびくっと小さく身体を震わせて振り返るのは難波屋主人。
先程から地上げか美人局か、いろんな可能性を考えていた鷹城ですが、漸く1人になった難波屋にそっと近付いて声をかければ凄く驚いたようで。
「な、なんのことでしょうね?」
「うん、今のまんまだと浮気疑われて女将さんかんかんだし、おきたちゃんは巻き沿いで疑われて大変なことになってるよ」
その言葉に青くなる難波屋、鷹城が詳しい事情を聞こうとするのに項垂れながら近くの茶屋で口を開いて。
「他に累が及ぶよりかは早く片付けてしまえばと、そう思って‥‥」
「どうやらそやつらは簡単に離れては暮れないようであるがな」
難波屋の言葉に返す言葉を発したのは上杉。
見ればそれぞれが情報を集めているうちに辿り着いた芝居小屋付近の男達、それを追っていつの間にか合流していたようで。
「駄目ですよ、そう言う方々は払ったが最後、しゃぶり尽くすまで離れないんですからね」
真の言葉に改めて、難波屋は真っ青な顔で震えだして。
「やっぱり浮気じゃなかったと。でもまぁ、このまんまほおっておくわけにも行かないしな」
鷹城が言えば、李も頷いて鉄扇を握り直し。
「他にも被害が出ている。放っておけばもっと酷い目に遭う者も出るだろう」
一行は難波屋から出来うる限りの情報を聞き出すと、話に聞いた男達の塒へと向かうのでした。
●浪人退治
「っと、逃がさないよー」
いち早く何かを察したようにその小屋から飛び出した男を押さえるのは鷹城。
身体を捻って逃げようとするのは少し力のある様子であるその小男、いわゆるパラの男性を括り上げてから、一行は中へと入り込んで。
ネムが飛び出してきた男を眠りへと誘えば、他の浪人の鼻っ柱を峰で叩き伏せる真莉に、刀を受けて流して投げ飛ばす力業の連琥。
「殺しはせん。‥‥が、骨の数本は覚悟しておけ」
言葉通り、かなり痛い目を見ていそう。
「うわ、な、なんだっ!?」
有りもしないところから聞こえてくる声で恐慌状態に陥った男は、真が自信たっぷりな様子で投稿を申し出ながらその手に持った刀を叩き壊します。
そして、悲鳴を上げて逃げ出しかけた女性と対面した、小男を括って戻ってきた鷹城がスタンアタックで女性の意識を刈り取れば、強請り集りを働いていた一団は御用となるのでした。
●難波屋でのんびりと
「おっちゃんも、素直に話せば良かったのに」
「いつも見張られている気がして出来なかったんですよ」
困ったように笑って言う鷹城の言葉に頭を掻く難波屋主人、女将さんは浮気ではなく揉め事も解決してご満悦で、一行に御馳走を用意して歓迎してくれていて。
「でも本当に良かったですね、大事が無くて」
「今まで被害に遭われた方も皆さん、いつもあの人たちに見張られている気がして言い出せなかったそうですね」
真がのんびりとお茶を頂きながら言えばネムが他の者達の事にも笑みを浮かべて頷きます。
真莉が安和屋が顔うぃだしてもライ違っていた子を戸難波屋に伝えたりとのんびりと時間が過ぎていく中。
その部屋の一角。
「そ、その‥‥お、おきた殿。私は無骨者ゆえ作法は分からぬが‥‥その、このかんざしは貴殿に似合うかと思うのだが‥‥」
「まぁ‥‥綺麗な簪‥‥でも、宜しいんですか?」
真珠のかんざしを挿しだして真っ赤になりながら言う連琥に、ありがとうございます、と笑って受け取るおきた。
おきたとの歓談が報酬に勝るという様子の連琥、どうやらお友達から始めるようで。
何はともあれ、無事に浮気疑惑も晴れた難波屋主人は、女将さんに叱られつつも本当にほっとしたような笑みを浮かべてお茶を啜っているのでした。