郊外へ‥‥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月16日〜04月19日

リプレイ公開日:2007年04月20日

●オープニング

「お願いでございます、まはらを‥‥この子達を郊外の大伯母様の元へ連れて行っていただきたいのです」
 その日、少し難しい顔をした年若い武家の奥方が子供たち4人をつれてギルドへとやってきたのは、満開は過ぎてもまだちらほらと可愛らしい花が舞い散る、そんな春の日の昼下がりの事でした。
「子供たちだけを、ですか? 高由君に八紘君は先日会ったね。幸満君はお久しぶり」
 受付の青年が声をかければ、幸光はにこぉっと笑みを浮かべてこっくりと頷いて。
「でも、子供たちだけでとは‥‥何かあったのですか?」
「いえ、夫の言い付けですので‥‥大叔母の所への送るだけで十分ですので、お願いできますでしょうか?」
「そりゃまぁ、お仕事ですし問題はありませんが‥‥」
 首を傾げる受付の青年は子供たちに話を聞いてみると、暫くこの4人でまはらの大伯母の下で暫くお世話になるそうで、道場などの送り迎えは農家の子供・平太の親御さんが舟を出してくれるとの事。
 そして何やら心配事でもある様子のまはらの母親に、子供たちは敏感、何かを察しているのかいつもの軽口もあまり覇気がなく、そんな様子にまはらがぶんぶんと手を振って声を上げます。
「大伯母上の家でいっぱい遊ぶのじゃ! 暗い顔するでないっ!」
「はいはい。ちょうどこの時期の街道は綺麗ですし、大人が付いて居れば心配も無いのでのんびりと景色を楽しむことが出来そうですね」
 そう微笑を浮かべてまはらに続いて口を開いた八紘が言えば、幸満を抱っこしながら高由も頷いて。
「ま、半日もあれば着く場所だ、ゆきも心配するな」
「‥‥うん」
 なんともいえない雰囲気に首を傾げながらも、受付の青年はまはらの母親の言うとおりに依頼書に筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea2480 グラス・ライン(13歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●ぼちぼち出発?
 ぽかぽか陽気の暖かい春の朝方、立派な武家屋敷に集まってきた子供達と一行。
「ええい、泣くな幸。ほれ荷を持ってやるゆえ寄越せ。っと、そちらは大丈夫か?」
「うち? 重い物は志姫が持ってくれとるからええよええよ〜」
 早くもちょっぴり元気のない幼い少年へ高由が声をかければ、グラス・ライン(ea2480)へも目を向けて。
 グラスはにっこり笑って上空を指し示せば、そこに見えるのは大きな影。
「ほー‥‥大きな鳥のようだな」
 確実に目測でおおよその大きさを理解していないのは確かですが、後で見せたるわ言われて興味深げに見上げる高由。
「おう、まはらの嬢ちゃんは久し振りだねぃっと。それに兵庫のとこの弟子たちか。幸満も久し振りだなぁ」
 わっしわっしと手近な幸満と八紘の頭を撫でる嵐山虎彦(ea3269)に、吃驚したように目をぱちくりさせる幸満は、見覚えがあるのに気が付いてちょんと小さな手で撫でる手に手を触れさせてはにかむように笑いかけて。
「お、そうそう、まはらの嬢ちゃん、青龍は今回はついてこねぇのかぃ?」
「青龍ならここにおるぞ。な、青龍!」
「うなぁ〜ん♪」
 見ればぴんと黒く長い尻尾をまっすぐに立てながら荷の間から顔を出すまはらの愛猫・黒猫の青龍が、すっかり見知ったジャイアントの巨体にていっと飛びついてよじよじよじ登ります。
 子供達とグラス・嵐山が談笑しているその頃、お屋敷の中では沖鷹又三郎(ea5927)とジェームス・モンド(ea3731)がお出かけ前の大事な準備をしているところで。
「春の味覚の山菜‥‥この山菜御飯は稲荷寿司にしてみるでござるか」
「ほほう、それは旨そうな」
 お重を手早く用意しながらモンドが笑えば、油揚げを手に取りながら山菜御飯の具合を確認している沖鷹。
「こんな事もあろうかと重箱を用意しておいた、弁当箱ん中にも綺麗な桜吹雪を咲かせてみせるから任せてくれ」
「宜しくお願いするでござるよ。それにしても、奥方が心配されていたでござるし、改め方とかそちらの仕事でござろうか?」
 首を傾げながら稲荷寿司を更に並べて、筍を手に取る沖鷹に、モンドは考えるような表情を浮かべて首を振り。
「改方では見かけておらぬし、恐らくは城勤めなのではないかな」
 言いながら稲荷寿司をお重に詰めていくモンド。
「ではこちらにはローストビーフを挟んだパンを‥‥それに魚のフライが有れば見た目も腹も膨れることであろう」
「照り焼きにした残りの鰆を使われてはいかがでござるか?」
 食欲をそそる、見た目にもお腹にも嬉しいお弁当が出来上がるのには、もう少しだけ時間が掛かるようなのでした。

●長閑な道行きで
 てこてこ春の街道を歩いていけば、直ぐに道沿いに並ぶ桜の明るい色彩が飛び込んできていて、ちょっと元気が無さそうだった子供達も、一瞬抱えている不安を忘れた様子で。
「うちな、とーいとぉ−いインドーラって国から1人で旅して来たんよ」
「1人で? 凄いですね、その行動力は見習わねば‥‥」
「いや、流石に海の向こう側の国まで出かけるのを見習うのは行動力とは違う気がするぞ」
 えっへんと胸を張るグラスの言葉にむと興味を持った様子の八紘と、規模が違うだろうと突っ込みを入れる高由。
「えへへ‥‥実を言うとな迷子の連続で辿り着いたのがこの国やったんや」
 すごいやろ? ぺろっと舌を出して微笑むグラスに、どの辺りにある国なんだと目を白黒させる高由、八紘はそう言うこともあるんですねぇ、などと妙に納得したようで。
 幸満はてくてく道行く中を沖鷹の服の裾をぎゅっと握ってついてきており、まはらは青龍と共に嵐山の頭によじ登りつつ、モンドの持つ包みからする良い匂いに身を乗り出して落っこちそうになってひょいと着物の襟を摘まれてみたり。
「おいおい、落ちたら怪我すんぞ?」
「旨そうな匂いなのじゃ♪」
「みゃうん♪」
「はっはっは、お弁当は逃げぬよ」
 言って笑えば、娘達もこんな時期があったなぁとしみじみ頷くモンド。
「途中で休むには良いところを教わったでござる。一面の桜の下で食べるお弁当は美味しいでござるよ」
 周囲へと気を配りながらもその様子を目の端で見ていた沖鷹は笑って、着物の裾を掴んでいる幸満の手を開かせてぎゅっと握り笑いかけて言います。
「ゆき、さくら、だいすき‥‥」
 嬉しそうに頷いて言う幸満に、沖鷹も嬉しそうに笑い。
「そうや、今はちょうど人もおらんし‥‥」
 のんびり和やかな街道はどうも今日はあまり人がいないよう、グラスが何かを思いついたように空へと呼びかければ、ばっさばっさと聞こえてくる羽音も思った以上にどんどん大きくなり。
「へ‥‥」
 驚いたような目を向ける高由は、目の前に現れた巨体に一瞬言葉を無くし、ぎゅうっと沖鷹の足にしがみつく幸満。
「人里近くやと恐がられるからな用がないときは上空で警戒して貰うんよ」
 ぎゅっとヒポグリフと言う名の魔獣・志姫に抱きついたグラスが言えば、八紘は目を輝かせて右に左に移動しながらその姿をくまなく見ようとでもしているようで。
「凄い! これは‥‥失礼、この子はどのように生まれ育った生き物なのですか!?」
 そして、興奮している子供はもう1人。
「凄や! 青龍もあの様に大きゅうなるのじゃぞ!」
「まはらの嬢ちゃん‥‥そりゃ青龍にはちと酷な話だねぃ‥‥」
 言われる当の青龍は嵐山の肩から既に逃げてモンドの腕まで駆け上って腕の間に頭を突っ込んで隠れているつもりのようで。
「後で一緒に空飛ぶんも良いなぁ」
「是非! 是非にお願い致します!」
「あー‥‥いかん、八紘に珍しい物を見せるとこうなるのであった‥‥ほれほれ行くぞ、向こうに着いたらゆっくり見せて貰え」
 嬉しそうに興奮しながらグラスに頼む八紘の首へと腕をかけてずりずり引きずりながら歩き出す高由。
「あの子の分もあるのかや?」
「‥‥うむ、もちろん、おじさんは持ってきているとも」
 色々と残りの食材やら何やらを頭の中で考えてから、まはらににっこり笑って頷くモンドと、食べないでーとばかりに尻尾を丸めてぷるぷる震える青龍など、ちょっとした出来事もこういう道行きには楽しいもので。
 気が付けば行きの行程はあっという間に半ば、そして道沿いの桜並木を挟んで向こう側には広くはありませんが野原が広がり、その先に河原と川が有る場所へとさしかかって。
「では、そろそろお弁当にするでござるよー」
 沖鷹の言葉に元気よく返事をする子供達、直ぐに茣蓙を敷いてお弁当を広げての、楽しい食事となるのでした。

●不安の訳
「‥‥なるほど、皆の父上達が‥‥」
 モンドが言えば、山菜稲荷寿司に筍の炊き込みおにぎり、ローストビーフを挟んだパンなど思い思いの物を手に取りながらこっくり頷く子供達。
「まはらの父上はあちこちの国に出かけて回る仕事らしいの。侍じゃがいつも留守にしておる」
「うちは城の中に勤めておる。どうも金勘定が得意とのこと故、それに即したお役目についている」
「ゆきのおうち、みんなあっちこっちでかけているので、わからないの」
 それぞれが理由を言うのですが、3人が心配そうに目を向けるのは八紘。
「父上は御家人ですもので、大事が有れば先陣を切って戦うことになるかと‥‥これも大事なお役目です」
 少し焦臭い様子が伺えた江戸、だからこそのことなのですがそれはそれと少し誇らしげに言う八紘に、嵐山はぽんと頭に手を置いてわしゃわしゃ撫でます。
「つまりは江戸が危ないからみんなで避難するっちゅうことなんやね」
「何か起きたとき、居れば足手纏いになってしまう故な‥‥歯痒いことではあるが」
 眉を寄せる高由に、まはらもむ〜っと眉を寄せて。
「‥‥母上が心配なのじゃ‥‥」
 ぽつりと漏らしたまはらをひょいとだっこして膝に乗せるとモンドがその頭をぽんぽんと撫で笑いかければ、まはらは空いている方の手でぐしぐしと目元を擦ると、ローズとビーフの挟んであるパンにかぶりつき。
「大丈夫なのじゃ! 父上達も強いし、冒険者達だって強いのじゃ! 心配などしておらん!」
 意地っ張りな子供らしい様子に懐かしさからか目を細めると気を取り直して御飯にしようとなり、改めて食べ始めれば皆次々と手が伸びて。
「もちもちしていて良い味やな〜美味しい♪」
「この筍と蕗の、至福と申しましょうか‥‥宜しければ先方で味付けの加減などを教えていただけますと大変有り難いのですが‥‥」
「勿論でござるよ。八紘殿は料理は好きでござるか?」
 グラスがお稲荷さんをむぐむぐ食べてにっこり尊敬の眼差しを沖鷹に向けて笑えば、煮物を食べてその味に喜んだかと思えば沖鷹に頼み込む八紘。
「うちは父と2人ですので料理はわたくしの担当で‥‥性に合っているのでしょうか、楽しいのですよ」
「それは良いことでござる、では向こうに着いたら色々とお教えするでござるよ」
 楽しげに語らいながら料理を食べる3人、嵐山はおにぎりを口の中に放り込みつつも、時折じっと見上げる幸満に、箸であさりの佃煮やだし巻き卵を摘んで持って行ってやれば、ぱくりと食べて嬉しそうににこぉっと笑いかけられ。
「子供ってなぁ良いなぁ」
「そうであろう、それにこの時期は特に可愛い頃だからな」
 経験者は語る、何やら幸満のその様子に妙に嬉しげに言う嵐山にモンドが言えば、頬に御飯粒をくっつけたまはらがモンドの膝の上でぶんぶん手を振り回し。
「むー、まはらは十分大きいのじゃーっ!」
「これ暴れるな、落とす落とすっ!」
 あわあわとまはらの振り回した腕を避けようとして墜としかけたおにぎりをおてたまして受け止める高由は、しっかりとお重の真ん中にあった桜色のお餅を取り皿に確保していたり。
「途中でお団子とお茶の美味しい茶店があると綾藤の料理人殿に聞いたでござるよ」
「それは楽しみだ」
 沖鷹がそう言えばにんまり笑っておにぎりを頬張る高由。
 賑やかに和やかに、子供達は不安に思っていることを話して帰ってすっきりしたようにも見受けられて。
 すっかりとお弁当を食べ尽くしてお茶を一服、やがて再び出発しますと、てくてく半時ほど立って目的の茶屋へたどり着けば、やはり川沿いに並ぶ桜を見ながらみんなでお茶とお団子、そして桜餅。
「桜の下でこういうん食べてのんびりするんも、ええなぁ‥‥」
「うむ、良い茶には良い菓子‥‥ふむ、満足」
 何とはなしにのんびり菓子を横の更においたまま、のんびりお茶を飲んで桜を見上げるグラスと高由に、ひらひら落ちてくる花びらを青龍と一緒にとてとて追っかける幸満。
「食べるのじゃ♪」
 そしてすっかりモンドに懐いて自分で食べられるであろうモンドにお団子の串を持って差し出すまはら。
 子供に取ってはそれを食べた方が喜ぶのを良く知っているためか、ちょっぴり無理な体勢ですが玉の一つをぱっくり口にしてからまはらに礼を言うモンド。
「この道行きはとりあえず安全のようでござるな」
「あぁ、まぁ子供だけでの度ならともかく、護衛がついてるってのがわかりゃそう手は出してこねぇだろう」
「‥‥なるほど、勉強になります‥‥」
 むぐむぐと桜餅を食べながらも沖鷹と嵐山の会話を聞いて、冒険者のお仕事とはと妙に感心した様子で眺める八紘。
 何はともあれ、沢山の楽しい寄り道をこえて、辺りが夕焼けに染まる頃、大きくて立派な郊外のお屋敷に一行は辿り着くのでした。

●平和な一時を
「おじちゃん、みつけたの」
 くいっと首を傾げる幸満にはっと我に返ったモンドは、ついつい大蛇に姿を変えて木の陰に潜むのと同じ感覚で木の陰に隠れていたことに気が付きます。
 まはらの大叔母が歓迎したため最終日に変えることになった一行は、のんびりとした一日を子供達と過ごしていました。
『隠れんぼか、こう見えて隠れるのは得意でな‥‥上手くおじさんを見つけられるかな』
 少し前にまはらと幸満相手にそう豪語していたのですが、最近はちょっぴりお仕事の都合でかくれんぼのこつを忘れていたよう。
「しまった、最近は魔法に頼りすぎていて、感覚が」
「まほう?」
「お、そうだな、お詫びに今日はおじさんが得意の芸を見せてあげよう‥‥」
 言って幸満が目をぱちくりさせてみるのに、手で顔を描くし、ひょいと手をのければその顔はお面にあるひょっとこに。
「わ‥‥ほんとうのおめんみたい‥‥」
 おそるおそる手で触れて吃驚したように言う幸満、ひょいと再び顔を隠して出てきたのは土偶で。
「何をしておるのじゃ?」
 探しに来ない幸満についつい出てきてしまったまはら、次に犬の顔を出してみせるモンドにぱっと顔を輝かせて。
「まはら、馬が見たや〜」
「おうまさん?」
「ほれほれ、お馬さんだぞーひひーん」
「わー、凄やのう♪」
 楽しそうに声を上げる2人に、縁側におはぎを置きながらおやつの時間でござるよーと沖鷹が呼べば、庭の隅の方でもその声に反応があり。
「おし、そんな調子だな。おやつが終わったら釣りにでもいくかい? 相手の出方を待つにゃ胆力が必要さね。そうそう、あの鬼平の旦那もあの胆力があるからこその剣の冴えがあるわけだ」
 嵐山は高由と八紘の稽古を見てやっていたようで、その様子が不思議なのか興味深そうにグラスは見ていました。
「剣術できるん? 凄いなー、うちは戦闘力は皆無やからな」
 これも志姫に助けて貰ってるんよ、と笑いながら言うグラス。
「それにしても昨夜の山菜の一品、手際が良いと直ぐに出来るものなのですねぇ‥‥作り方を教えて頂きたいのですが」
「では後で釣りに行くついでに、一緒に山菜を採るでござるか? 自分で採った山菜を調理して食べるのは旨いでござるよ」
「了解しました」
 すっかりと沖鷹にグラスに並んで尊敬の眼差しを向けている八紘に、小さく溜息を吐いて縁側へ常代降ろす高由は。
「‥‥まずは甘い物を覚えてくれれば良いに‥‥」
 みんなで集まってお茶とお菓子。
「俺ぁ若いころからな放蕩もんでな‥‥ま、色々あって江戸に流れ着いたが、そこで出会ったのが鬼平の旦那。こいつが又、男が惚れるような気っ風の良い、男気溢れる御方でなぁ」
 嵐山はそんな高由に近頃あった大捕物を身振り手振りを加え迫力満点に聞かせていまして。
 澄んだ空に庭にも吹き込む桜吹雪。
「何か食べたい物があったら遠慮無く言うでござるよ」
「むむ、どれも旨かったのじゃ、沖鷹は何を作ってもきっと旨いのじゃ!」
「みゅ〜ん♪」
 青龍と共におはぎを食べつつ満面の笑みを浮かべて言うまはら。
「丸呑みしてはいけないぞ?」
 おはぎを小さく竹楊枝で切って幸満に食べさせてやりながら笑いかけるモンド。
 穏やかな春の日差しの中で、一行の長閑な時間は今暫く続くのでした。